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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
4章 レイリア魔法大会編
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第176話 レアルの甘さ

 ユアがフィーと戦っていた頃、レアルもまた、青年と戦っていた。


 黒い髪をした青年の年齢は、大体二十代前半といったところだろうか。そんな青年、スメルが、剣を手にレアルと戦っていた。


 ジャキーンという甲高い音が響いて、二人の剣がぶつかり合う。


 「なかなかやるね」

 「そちらもな」


 剣をぶつけ合いながら会話をする二人。しかし二人とも、相手に対する殺気をあからさまにはなっていた。


 今まで人を殺めて事のないレアルは、このレイリア魔法大会で初めて人の手を殺めた。それも一気に。


 最初こそ、自分がしたことに対する罪悪感がレアルを襲ったが、今ではもう克服している。そして、自在に殺気を放つまでになっていた。


 「ふう、やはり魔法は効かないね」


 スメルが困ったように口にする。この戦い、スメルは何回もレアルに対して魔法を行使した。しかしそのすべてが、レアルの纏う魔力の障壁に阻まれ、レアルに到達することがない。


 いくら魔法を行使しても、攻略できる気配もない障壁に、スメルは困っていた。


 だがそれはレアルの方も同じだった。いくら魔法を行使しても、スメルの放つ水属性の魔力が沈静化させ、魔法が消える。闇属性ばかりに警戒していたレアルもまた、攻略に苦戦していた。


 そんな二人が、戦い続ければ、どうなるか。


 答えは単純、魔法が通用しないのであれば、武器で戦えばいい。こうして二人は、魔法師にもかかわらず、剣術での戦いを繰り広げていた。


 二人の剣がぶつかり合う度に、ジャキンという甲高い音が響く。その音がもう何度目か、知る者はいない。


 「意外と剣術も筋がいい」

 「それはどうも。生憎、厳しい教育係にしごかれているかな」

 「へえ、いい教育係だね」


 均衡する戦いの中、二人は自然と会話するようになっていた。それはお互いがお互いを認めている証。両者は敵ながら、相手に敬意を払っている。


 「そういうお前も、いい剣術じゃないか」

 「ふうん、わかるんだな」


 スメルは自分の使う剣術を褒められ、少し笑みを浮かべる。


 「この剣術は幼馴染に教えて貰ったんだ」

 「幼馴染?」

 「ああ、俺と同じぐらいの奴で、それは強かった」


 スメルの脳内に、幼馴染の顔が浮かぶ。


 「まるでもう会えないみたいな言い方だな」

 「ああ、もう会えないよ」

 「どういうことだ?」

 「死んだのさ。三年ほど前に」

 「そうか」


 レアルは聞いてはいけないことを聞いてしまったような感じになり、少しだけ心が重くなる。しかし謝罪はしない。


 敵であるスメルに謝罪をしてしまえば、それはもう戦意がないということだ。あくまでもレアルとスメルは敵同士。馴れ合っていい関係ではなかった。


 しかしお互い攻めあぐねているのも事実。均衡している実力では、そう簡単に勝負は動かない。


 「さて、どうするか」


 スメルは剣を構えるレアルのことを見据えながら考える。現在、戦いを優位に進めている方は、少しの差でレアルだ。


 レアルにはスメルにないものがあった。それは無意識に生み出されている魔力の障壁。


 圧倒的な魔力量を誇るレアルは、常時その魔力を垂れ流すことによって、簡単には破られない障壁を持っている。そしてその障壁を壊したところで、すぐに新たな魔力が供給され、再び障壁が生まれる。


 つまり、レアルを倒すには、障壁を破ると同時に、そのまま攻撃を連続して加える必要があるのだ。


 そんなレアルに対し、スメルは水属性の魔力を使うことで、レアルの魔法を防いでいた。しかし、テイスの場合、魔力を使用する際は無意識でない。しっかりとした意思の下で、魔力が操られている。


 魔力をコントロールできていると言えば聞こえはいいが、逆に言えば、不意を突かれてしまったら、魔力を使用できないということだ。


 そして魔力が使用できないとなれば、必然的にレアルの魔法はスメルのことを襲う。


 これがスメルとレアルの間にあるわずかな差だった。


 だが、スメルにも有利な点はある。


 それは戦いにおいての経験だ。スメルが感じた限りでは、レアルは戦いに慣れてはいない。普段からの訓練や、修行によって実戦技能こそあるは事実。


 しかしそれが一度戦場になれば、たとえどんなに技術があろうとも、格下に負けることなど日常茶飯事だ。そこにあるのは実戦に対する経験の差。


 命がかかった戦いにおいて、一番重要なのは、生き残るために最善を尽くすことだ。勝負に勝とうとも、命を失えばそれは敗北だ。逆に勝負で負けても、生き残れば、それは立派な勝利。


 戦場では、いかにして割り切るかが重要であった。


 そして、その点においてはスメルの方が優位だ。


 スメルはレアルのことを見据えながら考える。どうすれば自分がレアルに勝てるかを。だが、最悪の場合は逃げることも考える。答えはすぐに決まった。


 「水の加護より出でき霊、今こそ我が剣に顕現せよ。『水鳥花成(みずどりかせい)』」


 唐突に魔法を行使したスメル。そしてスメルが展開した青い魔方陣から次々と、小鳥が現れた。


 パタパタと羽ばたきながら空中を滑空する小鳥。よく見れば、小鳥の体はすべて水でできていた。しかし水でできた小鳥たちは、ただ空を飛んでいるだけで、レアルに攻撃を加えたりはしない。


 そんな小鳥たちに、レアルは不信感を覚えた。


 「なんのつもりだ?」

 「さあ、なんだろうな」


 スメルの表情からは自信が感じられた。つまり、スメルは何かを企んでいる。レアルはそう思った。


 だがスメルの意図がレアルには全く分からない。いったい何を考えているのか、必死に考えているレアルの周りをいつの間にか水鳥が囲む。


 しかし小鳥は何もしてこないため、レアルは放置する。これこそが、実戦の経験の差だった。


 これが死を間近に感じたことのあるセイヤやユアであったならば、すぐに小鳥に対策をとっただろう。それは相手が行使した魔法である以上、こちらに対するリスクがあるから。


 しかし、実戦経験の少ないレアルは小鳥を無視してしまった。なぜか、それは自分に危害を加えていないから。しかしそれ以上に、小鳥の見た目が脅威に感じられなかったから。


 今なお魔方陣を展開して小鳥を生み出すスメル。次々と生み出された小鳥が、レアルの周りに移動していく。気付けばその数は五百匹近くになっていた。


 そこでスメルが魔方陣を消して、再び剣を握る。


 「どうだ、きれいだろ?」

 「いったいどういうつもりだ」


 スメルの言葉に対して、少しだけ苛立ちを見せるレアル。それは普段のレアルには見ることのできない苛立ちだ。


 「いや、少し気分転換にでもと」

 「ふざけるな!」


 そこで初めて、レアルが声を荒らげる。レアルが声を荒らげることなど、セナビア魔法学園時代には決してなかった。レアルはいつもクールで、冷静さを保っている。たまに勝負で熱くなってしまうところもあるが、それでも怒りを露わにすることは少ない。


 しかしレアルは声を荒らげた。


 これこそがスメルの狙い。空中を滑走する小鳥、この小鳥が幻術作用のある魔法だった。


 いくら魔力の障壁があると言っても、それは攻撃に対してだ。別に視界を守るようなサングラスなどではない。つまり、視界や聴覚から入ってくる魔法を、障壁は防げない。


 スメルはこうしてレアルに微弱な幻術をかけ、冷静さを失わせたのだ。


 そしてスメルの攻撃は、これで終わりではなかった。


 「いまだ、花開け」


 スメルの言葉の直後、レアルの周りで空中を滑走していた小鳥たちが一瞬にして姿を変える。そして現れたのは先端がとがった楕円形の水の塊。


 「いけ」

 「なに!?」


 そして次の瞬間、五百近い水の塊が一斉にレアルへと向かって飛んで行く。


 「くそ、光の加護。『光壁(シャイニングウォール)』」

 「無駄だ」


 レアルはとっさに『光壁(シャイニングウォール)』」を展開しようとしたが、展開した魔法陣が水によって打ち砕かれる。そしてそのまま五百に及ぶ水の塊がレアルに襲い掛かった。


 「くっ……」


 次々とレアルに襲い掛かる水の塊。しかしレアルには傷一つない。それもそのはず、なぜなら魔力の障壁があるから。


 「ふん、どうだ」


 結局、水の塊がレアルに辿り着くことはなかった。水の塊のすべては、レアルの無意識に作り出す魔力の障壁によって阻まれたのだ。


 「甘いな」


 やはり実戦経験が足りないと思ったスメル。なぜならスメルの狙いは最初からこの瞬間だったから。水の塊を防いだ魔力の障壁、しかしダメージは相当のもので、一部分は崩壊している。


 「いくぞ」

 「なんだと!?」


 スメルの一瞬でレアルとの距離を詰めると、崩壊している障壁部分に剣を滑り込ませた。スメルの行動に驚愕の表情を浮かべるレアル。


 しかしスメルは気にしない。スメルはそのまま障壁の中にいるレアルに向かい、幼馴染から教えて貰った剣術を使う。


 これでスメルの勝利が決まるかのように思えた。だが、その直前、レアルが不意に言った言葉がスメルの剣を止めた。


 「これはミコの……」

 「なに!?」


 不意に発せられたミコという言葉。その言葉に、スメルの体が一瞬で硬直した。


 いつも読んでいただきありがとうございます。次は木曜日の21時ごろの予定です。

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