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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
4章 レイリア魔法大会編
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第175話 雷神の娘ユア

 水のない乾燥した砂漠エリアでは、激しい戦いが繰り広げられていた。


 その場にいるのは六人の魔法師。全員が若い。


 そして、六人の魔法師たちは三組に分かれて戦っていた。


 白い髪に紅い瞳をした少女、ユアが戦っているのは、緑色の髪をした女性。女性の仲間たちは、彼女のことをフィーと呼んでいたことから、彼女の名前がフィーだということが分かる。


 「『闇斬』」

 「『光弾』」


 フィーが闇属性の魔法を使い、ユアのことを消滅させようとする。しかしユアがすぐに光属性の魔法を行使して、闇属性の魔法を相殺した。


 「あなた、やっぱり闇属性の特性を知っているのね」

 「そっちも……光属性を知っている……」


 睨みあう両者。ここまで二人の戦いは互角だった。


 ユアがユリエルで攻撃を仕掛ければ、フィーが右手に握る剣でユリエルを防ぎ、フィーが闇属性の魔法を使えば、ユアが光属性の魔法で相殺。


 二人の戦いは均衡状態にあった。


 しかし二人はまだ本気を出していない。実力者である二人は、まずは相手の実力を伺おうとしている状態であり、均衡状態になるのは当然だった。


 むしろ戦いはこれからだ。


 お互いの実力を大体理解した二人は、勝負を決めに行くため、そろそろ戦い方を変える。


 ユアは体に光属性の魔法を流し込んでいき、脚力を上昇させ、地面を一気に蹴る。そして一瞬でフィーに迫り、右手に握るユリエルでフィーの喉元を貫こうとした。


 「『闇斬』」


 フィーが慌てて闇属性の魔法でユアに攻撃を仕掛けるが、ユアは足に流し込んでいた光属性の魔力をそのまま前に発散し、闇属性の魔法を相殺する。


 そして無防備になっているフィーのことを仕留めようとした。


 「終わり……」


 しかし、いざフィーのことを貫こうとした瞬間、突然ユアの視界からフィーの姿が消える。


 「!?」

 「遅いわね」


 次の瞬間、フィーが立っていた場所はユアの後方。まるで瞬間移動したかのように、フィーがユアの後ろに立っていたのだ。それも剣を振り下ろしながら。


 「くっ……」


 ユアはとっさに再度足に光属性の魔力を流し込み、どうにかしてフィーから距離をとる。けれどもその際、ユアの背中には浅い切り傷ができてしまう。


 「いまのは……」


 背中にできた浅い切り傷をすぐに聖属性で治療したユアはフィーのことを見据えた。


 まるで瞬間移動したかのように突然視界から消えたフィー、その動きはセイヤの『纏光(けいこう)』にそっくりだった。


 何か言いたげなユアに対し、フィーが言う。


 「あまり驚かないのね」

 「今のは光属性……違う……あれは……」


 ユアはフィーがどのような手段であの動きをしたのかを理解する。


 「火属性……」

 「正解ね。あなたの言う通りよ」

 「やっぱり……」


 どうにか平静を装っているユアだが、内心ではかなり驚いていた。


 フィーの使っていた魔法は、プロセスこそ『纏光(けいこう)』と同じだが、それを火属性で再現することが異常だった。


 火属性の活性化は光属性の上昇よりも上昇率が激しく、コントロールが難しい。


 それはユアがよく使う対象を体内から弾けさせるという技術が、光属性では不可能に近いが、火属性だと容易になることからもわかる。


 つまり、ただ身体能力を上昇させるだけだと、光属性よりも火属性のほうが簡単なのだ。


 しかし、簡単に上昇する分、コントロールが難しい。下手をすれば、光属性よりも簡単に自壊させてしまう諸刃の剣だ。


 そんなことをフィーはしていたのだ。


 「危険すぎる……」

 「それなら大丈夫。闇属性があるから」


 フィーはずいぶん闇属性を信頼しているようだが、セイヤの『纏光(けいこう)』の事例とは勝手が違いすぎる。


 セイヤの場合、光属性と闇属性という、相反する属性でコントロールをしているが、フィーの場合は火属性と闇属性だ。相反するどころか、闇属性のほうが勝っている。


 そして闇属性で一気に活性化を消してしまえば、再び元の身体能力に戻す際にかなりの勢いで活性化を使う。それが戦闘中なら尚更。


 しかし一気に活性化を使うにしても、加減を間違えたら一貫の終わりだ。闇属性は魔力を消せるだけで、起きてしまった事象を消すことはできない。


 つまり、もしフィーが力加減を間違えて自壊してしまうと、どうしようもないということだ。


 冷静に考えれば、フィーの行っていることは危険すぎだ。光属性を使うセイヤでさえも細心の注意を払っているのに対し、フィーはまったくと言っていいほど危機感がない。


 このままでは自壊するのも時間の問題だとユアは思った。


 「集中しなくていいの?」


 突然、フィーの活性化を考えていたユアの背後からそんな声がする。もちろん声の主はフィーだ。


 ユアの背後に移動していたフィーが、ユアに向かって剣を振り下ろす。


 「『単光(たんこう)』」


 とっさに足に光属性の魔力を流し込み、フィーの攻撃を回避するユア。しかしフィーの攻撃はそれで終わりではなかった。


 「『闇風』」


 脚力を上昇させて回避したユアに、鋭い風が襲いかかる。


 「『光壁(シャイニングウォール)』」


 ユアはとっさに防御魔法を行使して、フィーの攻撃を防いだ。だが、その時すでにフィーの姿はユアの視界から消えていた。


 「もらった!」


 いつの間にかユアの背後に移動していたフィーが、無防備になっているユアの背中を剣で切り付けよとする。


 避けられない、瞬間的にそう悟ったユアは、回避することを諦め、防御に専念する。しかし時間的に考えて、ユアと剣の間に魔法を行使する時間はない。


 だからユアは身にまとっている制服に魔法を行使した。


 「『風装』」


 次の瞬間、フィーの剣がユアの背中に振り下ろされるが、ユアの背中が斬られることはない。硬化したユアの制服が、ユアのことを守ったのだ。


 「へえ、やるね」

 「負けない……」


 ユアがユリエルでフィーに反撃しようとしたが、フィーはユアから距離を取る。


 しかしフィーの顔は余裕そうだった。それに対し、ユアの顔はどこか厳しい。


 いくらユアがフィーの連続攻撃を防いだからと言って、有利なのは俄然フィーの方だった。


 そのことを理解しているフィーが言う。


 「諦めたら? あなたの速さでは私に追いつけない」

 「それは……」


 フィーの言う通り、今のユアのスピードではフィーに追いつくことはできない。それはユアからフィーに攻撃を仕掛けることが不可能であり、ユアが攻撃するにはフィーの攻撃を避けて、カウンターを狙うしかないということだ。


 それは紛れもない事実。


 だからこそ、フィーは余裕ぶっていた。


 しかしユアは諦めてはいない。なぜなら、彼女には特訓した成果があるから。


 それはダクリア二区で暗黒騎士との実力差を目の当たりにした時に感じた悔しさから習得を決心した魔法。そして、本来彼女が纏うべきものだ。


 「負けない……」


 ユアは己の体に光属性の魔力を纏わせていく。それは『纏光(けいこう)』に近いが、ユアの目的は『纏光(けいこう)』ではない。


 光属性の魔力を纏ったユアは、脳の機能を上昇させていく。


 そして同時に、体内で新しい魔力の錬成を始めた。赤い魔力と緑色の魔力がユアの中を駆け巡る。


 イメージするのは稲妻。


 ユアの体内で、次第に火属性と風属性の魔力が合成していき、緑色の魔力が生まれる。そしてユアは、その緑色の魔力を体中へと流し、纏う。そして魔法名をつぶやいた。


 「『雷神』」


 バチバチ、そんな音を立てて、ユアの体に雷が纏われていく。その姿は、まさに雷神。これこそ、雷神の娘であるユアが纏うべき、本当の姿。


 派生魔法ではなく、複合魔法の雷属性の習得を目指していたユアだったが、なかなか上手くはいかなかった。しかしそんな時、彼女にアドバイスをくれた女性がいた。


 そう、メレナだ。雷神の異名を持つライガーに使える彼女には、ユアの欠点が分かっていた。だからメレナはユアにコツを教えた。それはユアにしかできないコツ。


 ユアは最初から雷属性を纏おうと頑張っていたが、普段から雷属性を使っていないユアでは到底無理だ。雷属性にも慣れていないというのに、雷を纏おうとしたところで、到底、処理能力が足りない。それが雷属性なら尚更。


 普段から光属性を使っていたユアに、いきなり魔力を合成しながら、しかもそれを体中に纏えというのは酷な話だ。できるわけがない。


 まずは雷属性の魔力を作り、複合魔法に慣れる必要がある。そして複合魔法に慣れてから、はじめて雷を纏う訓練を始めるべきである。しかしユアにそんな時間はなかった。


 だからこそ、メレナはユアの特徴を生かしたのだ。


 メレナがユアに言ったこと。それは単純、処理能力がないのであれば、処理能力を上げればいい。というものだ。


 ユアは普段から光属性を使っているため、複合魔法を処理する能力がない。それなら、光属性を使って処理能力を上昇させればいい。


 そして一度でも雷を纏ってしまえば、あとは火属性の活性化で処理能力が活性化し、勝手に魔力の循環もしてくれる。


 つまり、止まっている振り子を動かそうとするとき、何も手を加えなければ動かない。しかし一度手を加えてしまえば、あとは勝手に動いてくれる。ということだ。


 そしてユアは雷神の娘。雷さえ纏うことができれば、使い方は遺伝している。


 「終わり……」

 「ふうん、なんかちょっと強くなっ……」


 雷を纏ったユアを見ても余裕そうな態度をとっていたフィー。だが次の瞬間、ユリエルによってフィーの体は貫かれていた。


 「そんな……」


 活性化したフィーでも、ユアの動きを捉えることはできなかった。フィーがそのことに驚きを隠せなかったが、次の瞬間にはフィーの体は肉塊へと変わる。


 「化け物め……」


 命を失う直前、フィーが最後に言った言葉は、そんな言葉だった。


 いつも読んでいただきありがとうございます。今回はユアのお話になりましたが、少し駆け足になってしまった感があります。時間があれば最後のほうを書き直したい……


 それと報告です。2章の一部を改変したので、暇な時にでも。詳しいことは活動報告に書かせていただいたので、そちらをご覧ください。別に見なくても、何ら問題はありません。


 それでは次もよろしくお願いします。次は月曜日の21時ごろの予定です。

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