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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
4章 レイリア魔法大会編
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第171話 セレナの思い

 観客席が静寂に包まれる中、岩山エリアではセイヤがちょうど上げていた手を下していた。


 その動作が、戦闘の終わりを告げているのは誰にでもわかる。もうセイヤは先ほどまで濃密な殺気を纏ってはいない。今はセレナが知るいつものセイヤだ。


 だからセレナはセイヤに駆け寄って、名前を呼んだ。


 「セイヤ!」


 セレナのセイヤを呼ぶ声、セレナのことをよく知る人物なら、その声が今までとは全く異なっていることをすぐに理解できただろう。


 まるで恋する乙女みたいな表情をするセレナ。いや、今のセレナは正に恋する乙女だった。


 「大丈夫か?」

 「うっ、うん……」


 セイヤの問いに答えるだけで、顔を赤らめるセレナ。その姿を見れば、たとえセレナのことを知らない人でもセレナがセイヤに恋をしていることは一目瞭然だっただろう。


 その少年は彗星のごとく現れた。まだ新学期が始まったばかりの五月、生徒会が忙しい日々に、彼は突如転入してきた。


 最初の出会いは最低なものであっただろう。


 いきなり幼女を連れまわし、しかもその幼女は彼女ではなく愛人。そして婚約者は幼女の姉。世間的に見なくても、最低な男だ。


 とんでもない奴が入ってきた、とセレナは思った。


 そして同時に、自分はその男のことを認めない。絶対、絶対、絶対に認めない。なにがあっても、最低な男の腐った根性を叩き直してやると心に誓った。


 そんな誓いを胸に、セレナはアルセニア魔法学園のレイリア魔法大会に出場する代表選手を決める予選に出場をする。するとあの男もその予選に出ていた。


 けれども、セレナはそのとき心の中でどうせすぐに負けると思っていた。初対面のときに、セレナはセイヤが実力のある魔法師だとは思わなかった。体は鍛えられているとは思えないし、纏う雰囲気もどこか弱そう。それに弱者のオーラも感じられた。


 絶対に優勝など無理だ。まず予選ブロックを突破するのでさえ厳しいだろう。セレナはそう思っていた。


 そして次にセレナがセイヤにあったのは信じられないことに自宅だった。なぜセイヤが自宅にいるのか、一瞬、強盗かと思ったが、答えはすぐにわかった。


 妹のナーリが連れてきたのだと。


 その時セレナは自分の妹にまで手を出してきたのかと、本気で怒りを覚えた。しかもナーリはセイヤに事をかばう。冷静さを保つことなど不可能であった。


 セレナは心に誓う。いつか自分があの男の腐った根性を叩き直してやると。


 するとそのチャンスは意外にも早くやってきた。これまた信じられないことにセイヤが率いるチームが決勝まで登りつめてきたのだ。


 昨年の代表選手たちが率いるチームを圧倒し、その実力で決勝までやってきた。


 だからセレナは試合開始と同時にセイヤに戦闘を仕掛けた。もともとチームメイトであるモーナとアイシィにはセイヤと一騎打ちをさせてくれと頼んでおいた。


 そしてチームメイトの二人はセレナの意思を尊重して、セイヤとの一騎打ちの場を設けてくれた。


 セレナはチームメイトに感謝して、セイヤに攻撃を仕掛ける。そのセイヤの腐った根性を叩き直すために。妹を魔の手から救い出すために。


 しかしセイヤの実力は並大抵ものではないと、戦ってみてすぐに理解させられた。自分の最強の攻撃魔法『アトゥートス』を防ぎ、その数までを見破った。


 信じられない。いったいこの男は何者なのだ。これほどの実力、どれほどの鍛錬を積めば手にすることができるのか。それに戦闘に慣れている戦い方も気になった。


 結局、セレナの疑問は解決されぬまま、最後の一手も防がれてセレナたちは負けた。


 後々彼はセレナたちの最後の一手が危なかったといっていたが、今ではわかる。自分たちの最後の一手さえ、彼が本気を出せばなんともないことを。


 彼には隠された力がある。それが分かったのは、セレナの母親であるモカがダクリア二区にさらわれた時だ。最初は何がどうなっているのか、まったくわからなかったが、助けてくれたのは目の敵にしていた彼だった。


 セイヤは冷静に教会へ行くことを提案してくれ、そして十三使徒であるバジルに合わせてくれた。するとバジルの口から教えられた情報はセレナの予想を大幅に超えるものであり、どうすればいいのかわからなくなった。


 しかし助けに行きたいという思いは変わらず、セレナは自分も行くと宣言した。


 もちろん、十三使徒であるバジルは反対するに決まっている。仲間である生徒会メンバーが同行するといっても、バジルは許可をしない。


 でも、なぜかセイヤも同行するというと、バジルは渋々だが、セレナたちの出撃を認めた。なぜセイヤがセレナたちに同行するのかと聞くと、一貫してナーリのためだと言っていたが、セレナにはわかっていた。


 たとえナーリのためとは言っていても、そこには少なからず自分のことも含まれているのだと。


 そして同時に思う。生徒会メンバーでは絶対に許可されなかった出撃を、セイヤが加わっただけでバジルは渋々だが認めた。十三使徒もその実力を認めているとは、いったいキリスナ=セイヤとは何者なのか。


 この時からセレナの中でセイヤに対する感情に変化が訪れ、同時に興味がわいてきた。


 彼の力の一端はすぐにわかった。謎の強力魔法。魔獣を一瞬で消し去る力、それは後に『闇波』だということが分かった。そして教えられた衝撃の真実。


 まさかレイリア王国の外にも国があり、レイリア王国同様に人が住んでいる。そしてそこには光属性ではなく、闇属性という魔法がある。


 怒涛の真実に理解が追い付かなかったセレナだが、街に着くと嫌でも認めるしかなかった。今まで自分が信じてきた聖教会が隠してきた真実。


 もう認めるしかなかったのだ。


 そして、その街を統治する魔王のところに母親はいる。セレナたちは情報を集め、その魔王がいる館に乗り込んだ。無謀だとはわかっていたが、それでも母親を救いたいという思いが、セレナたちを動かした。


 そこでの体験は忘れることのできないものであった。人と人との殺し合い、そこに慈悲などはない。生きるか死ぬかの戦い。


 そんな戦いで彼はとても頼りになった。同時に彼に対して恐怖も抱いた。もし自分が彼に敵対したら、彼は容赦なく自分のことを殺すのではないかと。


 しかしそんな懸念はすぐに考えられなくなる。


 アルセニア魔法学園の教頭であったザッドマンによって。


 セレナはアイシィと協力して、ザッドマンを何とか討ち取った。けれども、同時にアイシィのことを失った。アイシィはザッドマンを倒すために命を失った。


 その事実がセレナの心に深い傷を刻み込もうとする。


 だが、そこでもセイヤが現れて、アイシィのことを助けてくれた。『フェニックスの焔』を使うための勇気をくれた。


 この時からセレナは少しずつ、セイヤに好意を寄せ始めていたのだ。


 その後、レイリア王国に戻ると、セレナとアイシィは聖教会に捕まった。理由はいたってシンプル、ダクリアの存在を知ったからだ。


 信じられないと思うのと同時に、こうやって秘密を守ってきたのかとセレナは思った。


 そしてこれから自分たちは何かしらの処分を受けるのだと。もしかしたら殺されるかもしれない。そんな考えが頭を過った時、セレナの中にはセイヤの顔が浮かんだ。


 もう一度会いたい。


 セレナは心の底からそう思ったのだ。それがもう恋だということを、セレナ自身もわかっていた。しかしセイヤには婚約者が、かわいい愛人がいる。それも超美少女。


 女のセレナでさえ躊躇ってしまうほどの美しさ。だからセレナは気持ちを伝えることはなかった。どうせフラれるなら、このままの関係でいいと。


 しかし、その考えは違っていた。テイスに襲われそうになったとき、セレナは告白しておけばよかったと思った。それは激しい後悔、どうせ無理でも、挑戦せずに終わるのはやっぱり嫌だった。


 セレナは怖かったのだ。フラれることが。そして関係がぎこちなくなるのが。


 でもテイスのおかげでわかった。挑戦するべきだったと。


 だが後悔したところで、もう遅い。セレナはこれからテイスによって汚されるのだから。純潔を失うのだから。もうセイヤに会わす顔がない。


 そう思った時だった。またしても、セイヤが助けに来てくれた。もう何度目かわからないセイヤの助け。


 そのときセレナは思った。


 「ああ、この人は私の王子様だ」 と。


 思い返せば、いつもセイヤが助けてくれた。絶対に無理だと諦めそうになった時でも、絶対に助けに来てくれる存在。そんな人、好きにならないわけがない。


 もうセレナは悩まない。


 婚約者がいる? 愛人がいる? 家柄が傷つく? そんなもの関係ない。そんなのはただ逃げるために使っていた言い訳だ。


 もう自分に嘘はつかない。気持ちを伝えずに後悔するぐらいなら、気持ちを伝えて後悔するほうがいい。


 だからセレナは言う。セイヤに向かって、本当の気持ちを。


 「セイヤ……私ね、あなたのことが、ずっと前から好きでした」


 セレナの思いが告げられた。


いつも読んでいただきありがとうございます。


 セレナの思い総集編……的な感じでした。


 次は金曜日の18時頃です。

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