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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
4章 レイリア魔法大会編
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第166話 隠密作戦

 ダクリアの侵攻が続く中、岩山エリアにもダクリアの部隊がいた。


 周りを大きな岩々に囲まれ、蛇行するようにできている細い道がたくさん存在する岩山エリア。その中でもさらに細い道。大の大人が横に四人並べばきついぐらいの道、その道をダクリアの部隊は三列横隊で進んでいる。


 黒い服で武装された五十人近くの魔法師たち、彼らが隠密行動をとっていることは一目でわかった。岩々の間を見つからないように進むダクリアの部隊はかなり周囲のことを警戒している。


 「問題ありません」

 「よし、進むぞ」


 岩と岩の間を進む黒い戦闘集団、しかしその中には黒い戦闘を着ていない魔法師たちもおり、彼らがそこらの雑兵と違っていることは誰にでもわかるくらい目立っている。


 彼らの目的が一体何なのかはわからないが、見つかってはいけないという事は誰にでもわかった。


 誰とも遭遇しないように進むダクリアの部隊、しかしそんな彼らのことを視界に捉える少女の姿が三人分あった。


 少女たちがいるのはダクリアの部隊が進む道の左右にそびえ立つ断崖絶壁の上だ。少女たちはゆっくりと進行しているダクリアの部隊を見下すように立っていた。


 「あれが敵?」


 そう聞いたのは黒い髪をポニーテイルで結ぶ、右手に刀を持った少女。来ている制服はセナビア魔法学園のもので、名前をラーニャという。


 ラーニャはダクリアの部隊が本当に敵なのか、わからなかった。


 ラーニャの実家はレイリア王国でも有名なアルン流魔装剣術という流派を伝承している道場を営んでいる。その道場には当然ながら実戦経験のある魔法師もおり、小さい頃から道場で修行しているラーニャも彼らのことを見て来た。


 初めてラーニャが実戦経験のある魔法師と剣で向き合った時に感じた感覚を、ラーニャは今でも忘れない。


 洗練されたオーラ、無駄のない足運び、相手を一撃で仕留めると感じさせる剣幕、それらはラーニャに格の差を思い知らせるには十分だった。


 これが本当の魔法師。その印象をラーニャが忘れることはこの先もないだろう。


 しかし現在ラーニャたちの眼下を進むダクリアの部隊はどうだろうか。確かにその統率の取れた動きや手にする武器は実戦を想定したものであろう。


 けれども、纏うオーラやその表情からは、彼らが自分たちを殺しに来ている敵とは思うことが出来なかった。


 そんなラーニャの考えを真っ向から否定するものがいた。


 「そう、あれが私たちが倒さなければならない敵よ」


 声の主は赤い髪をツインテールに結ぶ、アルセニア魔法学園の制服を着た少女セレナだ。


 セレナは三人の中で唯一ダクリアとの戦闘経験があり、ダクリアの恐ろしさを知っている魔法師であり、油断したらどうなるかも身に染みてわかっている。


 「でも、お話したら大丈夫じゃないの?」


 そんなことを言うのは、きれいな金髪をしたセナビア魔法学園の魔法師リュカだ。リュカもまた、ラーニャ同様にダクリアの部隊が敵だと思うことが出来なかった。


 「いえ、油断したらいけないわ。これは戦争よ」


 リュカに事を責めるように言ったセレナの表情は厳しい。なぜならダクリアと自分たちとの人数差大きいこともあったが、それ以上にラーニャとリュカの危機感のなさが危険だったからだ。


 おそらくこのまま戦闘に入ったところで、ラーニャとリュカは相手のことを手にかけず、なるべく怪我をさせないで収めようとするだろう。しかし相手はダクリアであり、そんな甘い手が通じるような相手ではない。


 だがそんなことを知らないラーニャは呑気なことを言う。


 「戦争って……でも服装からして乱入者だから捕縛しないとね」

 「でもラーニャちゃん、捕縛ってどうやるの?」

 「うーん、それは魔法で、かな」


 どこか緊張感のない会話を繰り広げる二人に、セレナは厳しい声で言う。


 「捕縛なんて選択肢はないわ」

 「はっ、何言っているの?」

 「そうだよ、捕縛じゃなかったらどうするの?」


 捕縛以上の考えが思いつかない二人を見て、セレナは二人が甘いと思った。しかし彼女たちの考えを否定することはできない。なぜならついこの間まで、セレナ自身もそっち側の人間だったから。


 ダクリア二区に行く前のセレナだったら、この状況でラーニャたちと同じことを言っていたであろう。人を殺めるなんてあり得ない、平和的に解決するのが一番だ。


 セレナにもそんな考えをする時期はあった。


 しかし現実はそんなに甘くはない。ダクリア二区でセレナはその事を嫌というほど思い知らされた。お互いの利益と利益のぶつかり合い、そこには一切に慈悲は存在しない。


 残るものは勝利か敗北、というよりは生きるか死ぬかと言った結果だけ。そこ至るまでの過程など関係ない。


 最終的に生きていたものの勝利。


 そんな血なまぐさい戦闘を経験してしまったセレナに、相手を捕縛するといった考えは生まれなかった。捕縛して不安要素を増やすぐらいなら、自分で手を下して少しでも戦いに集中すべきである。


 セレナはそのことをダクリア二区で教えられた。


 だからこそ、セレナは二人の考えに理解を示しながらも、現実を突き付ける。


 「捕縛は成功すればいいけど、リスクが高すぎる。こっちは三人で相手は五十人、いちいち捕縛している暇なんてないわ。それに相手はこっちのことを殺しに来ているのよ」

 「何を言っているの?」

 「そんな訳……」


 セレナが言っていることを理解できない二人。しかし無理もないことだ。同じ学生魔法師が相手を殺すといっているのだから、理解できないに決まっている。


 そんなことを理解できるほど、ラーニャとリュカは経験を積んではない。


 例え昨年のレイリア魔法大会優勝校のメンバーであっても、所詮は学生魔法師、井の中の蛙にしか過ぎない。


 セレナはそんな二人にはっきりと言う。


 「回りくどい言い方はやめるわ。相手に対する慈悲はいらない。これは生きるか死ぬかの戦いであって、私たちが生きるためには相手に手を下すしかないの」


 残酷な現実を言い渡された二人だが、もちろんセレナの意見を理解することなどできない。二人はセレナのことを信じられないと言った眼差しで見つめる。


 「あなた……おかしいわ……」

 「なんで、そんなことをしか言えないの?」


 まるでセレナのことを精神異常者のように見つめる二人。だがセレナはそんな二人の視線に対してどうも思わない。


 二人の思っていることは、ついこの前の自分でも思う事であり、おそらく二人に自分の考えが理解されることは無い。だったらここは自分一人でどうにかするしかないと思うセレナ。


 覚悟はすぐに決まった。


 「なら、いいわ。ここは私一人でやるから、あなたたちは下がっていて」


 二人のことを突き放すかのように言ったセレナは、懐から二丁の魔装銃を取り出す。


 「あなた……」


 魔装銃を懐から取り出してセレナのことを見て、ラーニャはすぐにセレナが本気だと理解する。セレナの纏う雰囲気が、ラーニャのよく知る道場の実戦経験のある魔法師たちに似ていたから。


 「だったら、私はあなたを止める」

 「わっ、私も」


 セレナに向かって風刃丸を構えるラーニャ。そして少し遅れてリュカもセレナを止めるために構えた。


 「そう」


 セレナは少し笑みを浮かべながら二人の表情を見据える。なぜなら二人の顔には、対象が違うにせよ、自分の決めたことを遂行するための覚悟が感じられるから。そしてその覚悟は実戦経験のある魔法師たちの持つ覚悟に似ているから。


 「でも、遅いわ。火の巫女の深淵、ここに出よ。『アトゥートス』」


 セレナはごく自然な動作で魔装銃を構えて、問答無用で引き金を引く。もちろん、魔装銃の先にあるものはラーニャとリュカではなく、二人のはるか上空だった。


 セレナがあらぬ方向に魔法を行使したため、二人はすぐに反応できない。


 魔装銃から撃ち出された赤いレーザーは、一瞬にして枝分かれして上空に向かって増えていく。そして次の瞬間、無数に増えていった赤いレーザーすべてが屈折していき、断崖絶壁の下を進むダクリアの軍勢に向かって降り注いだ。


 「なっ!?」

 「そんな……」


 遅れてセレナの狙いに気づいた二人だったが、もう遅い。


 数々の赤いレーザーが、ダクリアの部隊の不意を突き、その身を焦がしていく。


 「「「ギャァァァァァァ」」」


 あまりの痛みに悲鳴を上げていくダクリアの魔法師たちだが、次々と降り注ぐ高熱のレーザーを前にしてその生命をからしていく。もはやそこは地獄絵図だった。


 「なんで……」

 「どうして……」


 急に生まれた地獄絵図を前にして言葉を発することが出来ない二人。


 しかしセレナはそんな二人のことを見ていない。セレナの視界に映るのは、『アトゥートス』を防いだ魔法師たちの姿だけだった。


 いつも読んでいただきありがとうございます。


 今回から舞台を岩山エリアに移してお送りする予定です。それでは次もよろしくお願いします。


 次は明日の21時頃です。

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