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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
4章 レイリア魔法大会編
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第165話 ダクリアの反撃

 ダクリアの乱入により、中止を余儀なくされた今年のレイリア魔法大会。誰もが一時はどうなるかと心の底から不安になっていたが、ふたを開けてみれば優秀なレイリア王国の魔法師たちの活躍により、それほど被害はなかった。


 しかし誰もが優秀な魔法師というわけではない。


 水の妖精ウンディーネとともに行動をするジンとカイルド、異端の力を持つセイヤと行動を共にするディオン、『フェニックスの焔』を使うセレナと一緒にいるラーニャとリュカ、聖属性を使うことが出来るユアと一緒に行動しているレアルやヂル。


 彼らは共通して、暗黒領の、それもダクリアでの戦闘を経験している魔法師たちと行動を共にしているからこそ、不測の事態にもかかわらずパニックに陥ることは無かった。


 もしダクリアでの実践経験がある魔法師たちと共に行動をしていなかったら、例え実力があろうとも、そう簡単には落ち着いて戦闘に移れなかったであろう。


 そういう面でいえば、彼らは運が良かった。


 しかし全員が全員、ダクリアでの戦闘を経験している魔法師たちと行動を共にできているわけではない。


 現在、このラピス島に残っている学生魔法師の数は全部で二十人。その内、ダクリアとの実戦経験がある魔法師の数はアルセニア魔法学園の代表選手たちである六人だけだ。


 海エリア付近ではリリィとアイシィがおり、そこにジンとカイルドもいる。


 密林エリアではセイヤがおり、ディオンが行動を共にしている。


 岩山エリアにはセレナがおり、ラーニャ、そしてリュカと共に行動をしている。


 砂漠エリアにはユアがいて、そこにレアルとヂルがいた。


 この時点で十二人の魔法師が確認できる。


 そしてカマエリーナ魔法学園の二人は今もモーナの魔法によって動けない。


 ここまでで十四人の学生魔法師。


 残る魔法師の数は六人。そしてその中にはダクリアでの戦闘を経験しているモーナが含まれているが、モーナが他の五人全員と合流できているかと聞かれれば、答えは否だ。


 モーナはこの時点で二人の魔法師と行動を共にしていた。


 一人はヂルと同じサラディティウス魔法学園の制服を着ている赤黒い髪の少年で、名前をアダンという。アダンは強風エリアでモーナと戦っていた時に異変に気付き、それ以降モーナと行動を共にしている。


 そしてもう一人は中央王国にあるセントルシフェール魔法学園の制服を着た茶髪の少女。彼女の名前はハルナといい、年はモーナの二歳下で、アダムの一歳下、つまりアイシィやディオンと同い年である。


 ハルナは強風エリアを移動中にモーナとアダムに遭遇し、異常が起きていることを聞いて、二人と一緒に行動していた。


 ここまでで十七人の魔法師の生存が確認できた。


 そして残る学生魔法師の数は三人。


 そのうちの二人が地図上で中心に位置している都市エリアでダクリアの魔法師と戦闘を繰り広げていた。






 「ハァハァ、どうすればいいの」


 息を切らしながら走る少女の瞳には大粒の涙が光っていた。突然訪れた信じられない光景、そしてどうしていいかわからない状況。


 少女は既に冷静さを失っていた。


 何とか物陰に隠れながら仲間の様態をうかがう少女。


 「大丈夫?」

 「ああ、なんとかな。わるい」

 「気にしないで」


 少女の前に横たわる少年の顔は青白く、一目で体調がすぐれないことが分かる。しかし少女にはどうすることもできない。


 少女に出来る事といったら、少年の腹部にある刺し傷を、布で抑えつけて出血を防ぐことだろう。


 だから少女は必死に手に握る布で少年の傷口を抑える。


 「がんばって、もう少しで助けが来るから」

 「ああ」


 少女はとにかく少年のことを励ます。本当にあと少しで助けが来るのか、そんなこと、少女にはわからない。ただ、今は少年の意識を保たせるのに必死だった。


 「頑張って。もう少しだから……」

 「あぁ」


 少年の声が次第に掠れていく。しかし無理もないことだろう。なぜなら少年は腹部を刺された状態で、すでに一時間以上走り続け、その上、出血も多量だ。


 もう限界だった。


 「もう少しだから……もう少しだから……」

 「ぁ……」


 今にも意識を失いそうな少年。


 「しっかり、しっかりして!」

 「…………」


 少女が必死に呼びかける中、少年は意識を失い、静かに息を引き取った。少女は少年の亡骸を必死に揺すりながら呼びかけるが、少年が目を覚ますことは永遠にない。


 彼が今回のダクリア侵攻でのレイリア側の最初の犠牲者になるのだった。


 「そんな……」


 信じられない事実に言葉を失う少女。少女は少年の亡骸に縋り付くように泣き始める。ここまで一緒にやってきた大切な仲間を失うのはつらかった。


 だがこの時点で、少女は少年のことを置いて、再び移動を開始するべきだった。


 これはもう戦争だ。


 相手側が仲間の死に浸る時間をくれるはずなんてない。


 「見つけたぜ。おっと、そっちはもう死んだか」


 楽しげな声で現れたのは大きな大剣を担ぐように持つ白い髪をした焼けた肌の若い男。彼の名前はデトデリオン=ベルゼブブ、ダクリアにいる七人の魔王のうちの一人であり、今回のレイリア侵攻の黒幕だ。


 そして彼こそが少年の命を奪った張本人である。


 少年の敵を前に、当然ながら少女が冷静さを取り戻すことはできない。少女はデトデリオンを睨むと、レイピアを召喚して攻撃を仕掛ける。


 「お前が、お前がぁぁぁぁぁぁ」


 鬼気にも迫る表情でデトデリオンに斬りかかる少女。その動きは斬ってくださいと言っているかのように単純で、魔王であるデトデリオンが逃すはずもなかった。


 「雑魚が」


 デトデリオンが迫り来る少女に向かって腕を振る。しかしその腕は大剣が握られている右腕ではなく、何も握られていない左腕。


 無駄な動きなく振られたデトデリオンの左腕が、まっすぐ迫り来る少女の心臓を一突きする。


 「うっ……」


 少女の胸に深々と刺さったデトデリオンの左腕。指先からはゆっくりと少女の血液が伝わり、一滴ずつ地面に落ちて行く。


 「つまらん」


 デトデリオンがつまらなそうな表情で、少女の胸から手を抜いた。


 ドサッ、と音を立てて地面に倒れ込む少女。その瞳にはすでに光が宿っておらず、胸の傷口からはおびただしい量の血液が流れ出る。


 この時すでに少女の命は途切れていた。心臓を一突きされたのだから、当然といえば当然だろう。


 少女のことを刺したデトデリオンは、二人の亡骸に一瞥もくれず、静かにその場から離脱する。今回の侵攻の目的は、レイリアの魔法師の金の卵を少しでも減らし、功績を上げることだ。


 いちいち立ち止まっているわけにはいかない。


 デトデリオンは新たな金の卵を求めて、都市エリアを歩き出すのであった。





 海エリアの近くで激戦を終えたアイシィたち四人は、ほんのひと時の休憩をとっていた。


 そんな中、先ほどから大人バージョンになっているリリィが、完全契約の副産物である念話を使用して、密林エリアに居るセイヤに連絡を試みていた。


 (…………リィ………………リリィ、リリィか?)

 (やっと繋がったわ)


 いつもよりも離れた距離に居るため、繋がりにくかった念話だが、なんとかセイヤとの念話接続に成功したリリィ。


 セイヤに方も、仲間の安否を確認するために、移動を止め、念話に集中する。


 (リリィ、無事か?)

 (ええ、無事よ)

 (そのしゃべり方……切り替わっているのか?)

 (まあね)


 セイヤはリリィの口調から、リリィが大人バージョンであると認識したが、そこに驚きなどはない。今は緊急事態のため、いちいち秘密を保持している暇がなかったから。


 (セイヤ君の方は大丈夫?)

 (ああ、今のところはな)

 (そう、よかったわ)


 セイヤの無事を聞き、一安心をするリリィ。


 それから二人はお互いの情報を共有し始める。


 (リリィはこの一座標だと……海エリアってところか)

 (ええ、そうよ。セイヤ君は密林エリアね)

 (ああ)


 まずはお互いの位置情報を確かめ合い、次に行動を共にしている者たちの共有を行う。


 (こっちは今、ホルキナールの魔法師一人と行動しているが、そっちはどうだ?)

 (こっちはアイシィちゃんと、あとはセナビア魔法学園の二人ね)

 (セナビアか。誰だ?)


 セナビア魔法学園と聞き、一瞬セイヤの顔強張る。すでにザックたちと顔を合わしているセイヤは、ついつい昔のことを主出してしまったのだ。


 しかし今のセイヤは昔とは違う。すぐにセイヤは切り替えた。


 (えっと、ジンとカイルドって子よ)

 (ジンとカイルドか。その二人なら問題ないな)


 セイヤはジンとカイルドの名前を聞き、二人なら今回の襲撃でも戦力になると判断する。セナビア魔法学園の出場メンバー知らないセイヤだが、ある程度は予想できた。


 ジンとカイルドという名を聞き、おそらく昨年とほとんど変わっていないメンバーで臨んでいるのであろうと考えるセイヤ。


しかしいくらセイヤでも、まさかレアルが出場しているとは思っていない。もしレアルがいると知れば、セイヤは今回の問題をすべてレアルに押し付けたであろう。


 だがセイヤはレアルが出場していることを知らない。だからこそ、闇属性を使っても早期解決を目論んでいたのだ。


 (それで、これからどうするの?)


 リリィの質問はこれから合流するのか、それとも別行動で移動するのかといった質問だ。


 水の妖精であるリリィと闇属性を使えるセイヤが合流すれば、かなりの戦力になり、そう簡単には苦戦することは無いだろう。しかしそれは同時に他の人たちを危険にさらすということだ。


 通常なら唯一この状況下の中で念話を使えるセイヤたちは、合流するのではなく、別行動して少しでも多くの生き残りを回収したほうがいいだろう。しかし今回の相手はダクリアであり、何をしてくるかわからない。


あそう考えたときに、二人が一緒に居た方が対処しやすいのもまた事実。


 これはどちらにせよデメリットがある選択だ。


 そんな二択に対するセイヤに答えはすぐに決まった。


 (別行動で行く)

 (わかったわ。それで合流地は?)

 (砂漠エリアだ。それまでにリリィたちは森エリアと強風エリアで生き残りの回収と、敵の殲滅を行ってくれ)

 (了解したわ)


 二人の頭の中にはすぐに合流した時のビジョンが浮かぶ。


 (砂漠エリアに着いたら連絡するわ)

 (ああ。気を付けろよ)

 (セイヤ君もね)


 そう言って、二人の念話は途切れた。


 リリィはアイシィたちに、セイヤはディオンにこれからの方針を伝える。


 「ディオン、これから砂漠エリアを目指すぞ」

 「砂漠エリアですか?」


 砂漠エリアという言葉に対して疑問を浮かべるディオン。しかし念話の内容を知らないのだから、当然といえば当然であろう。


 だからセイヤは説明する。


 「砂漠エリアで仲間たちと合流する」

 「わ、わかりました」


 セイヤの説明に対して完全に納得できたわけではないが、ディオンはセイヤに着いて行けば大丈夫だと勝手に思っていた。だからこそ、ディオンはセイヤに黙ってついていくことにする。


 「なら、まずは岩山エリアだ」


 セイヤとディオンは、岩山エリアを目指して歩みを進めるのであった。


いつも読んでいただきありがとうございます。

次は火曜日の21時頃の予定です。

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