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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
4章 レイリア魔法大会編
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第164話 レイリアの希望

 リリィたちがダクリアの部隊と戦っていた頃、地図上で南に位置する砂漠エリアでは、レイリア魔法大会史上の中で最も豪華な顔ぶれが揃っていた。


 観客席にある大きなスクリーンに映る三人の姿。


 一人は綺麗な白い髪をした紅い瞳の少女、その少女を一言で表すのであれば、絶世の美少女が一番似合うだろう。


 少女の名前はユア=アルーニャ。特級魔法師である雷神の娘であり、アルセニア魔法学園の代表選手。ユアの左手には白を基調とした弓が握られていた。


 白髪の美少女の右隣に立つのは金髪碧眼の少年。少年の顔にはどこかあどけなさが残っているようにも思えるが、その顔はいたって真剣。纏う雰囲気からもその真剣さがうかがえる。


 少年の名前はレアル=クリストファー、別名レアル=ファイブ。レイリア王国全土を統治している聖教会に所属し、その中でも貴重な戦力である十三使徒の称号を持つ。そして今はセナビア魔法学園の代表選手。


 十三使徒内でのレアルの序列は第五位、つまり聖教会の中で五番目に強い魔法師という事だ。そしてレアルの右手には光り輝く剣が握られており、その身体の周りには滲み出た魔力が纏わりついていた。


 最後はレアルの右隣に立っている少年。茶色髪の間から覗く鋭い瞳が特徴的で、おそらくほとんどの人の第一印象は目つきが悪いであろう。


 少年の名前はヂル=ネフラ。ユア同様、特級魔法師一族であり、父親に特級魔法師である炎竜イフリール=ネフラを持つ優秀な魔法師だ。現在はサラディティウス魔法学園の代表選手として、このレイリア魔法大会に参加していた。


 ヂルの両手には全体的に赤く、銃身の短い二丁の魔装銃が握られている。


 そしてそんな三人の前に大きく広がる黒い塊。それは、五百人以上はいる黒い戦闘服を着た大軍であった。


 ゆっくりとだが、確かに進軍してくる黒い大軍。そんな大軍に対して、まるで進行させまいと並ぶ三人の姿は観客席を盛り上げるには十分すぎた。


 「いけー」

 「やっちゃえー」

 「がんばれ最強の三人!」

 「そんなやつら蹴散らしてしまえ」


 観客たちはダクリアの存在を知らなければ、目的も知らない。しかし現在進行してくる軍勢が敵だという事は分かっていた。


 すでに所々で繰り広げられている戦闘や、先ほど宣告された第四次警戒態勢が今の状況を物語っている。


 しかし観客席にいる観客の大半は非魔法師や学生魔法師、つまり緊急時に何もできない存在だ。とくに学生魔法師たちは緊急時に何をすればいいかと問えば、おおよその答えは何もしないで待機していてくれだろう。


 下手に動いて事態を悪化させるよりは、静かに指示を待って待機してくれているほうが大人たちにとってもありがたい。だから会場にいた学生魔法師たちのほとんどが観客席に残り、スクリーンに映るラピス島の応援をしていた。


 「あれがダクリアだな?」

 「そう……」

 「思ったより弱そうだな」


 スクリーンに映る三人はダクリアの軍勢を前に至って冷静だった。ヂルに関していえば、すでにダクリアのことを見下している。しかしすかさずそこで、ユアの忠告が入った。


 「油断は禁物……闇属性は危険……」

 「闇属性ね~」


 どこかまだ闇属性の存在を信じられないといった表情を浮かべるヂル。いくら危険だといわれても、実物を見ないことには何とも言えなかった。


 それは十三使徒であるレアルも同じだ。


 ダクリアの存在や闇属性の特殊効果については七賢人から聞いてはいたが、やはりレアルも実物を見ない限り心から警戒することはできなかった。


 「それと……覚悟を決めて……」


 ユアの言葉が意味することは、つまり人を殺す覚悟を決めろという事だ。


 三人はこれから命を懸け戦いをダクリアの軍勢、約五百人と繰り広げなければならない。そんな時、人を殺す覚悟がなければ一瞬で隙を突かれて命を落とす危険がある。


 だからこそ、ユアは改めて忠告したのだ。


 しかしユアの不安は杞憂だった。


 「それに関しては問題ない」

 「ああ、覚悟なら普段から決めている」


 ユアの隣にいる魔法師たちは普通の魔法師ではない。片や聖教会に所属する十三使徒、片や特級魔法師を父に持つ特級魔法師一族、そんじゃそこらの有象無象の魔法師とは過ごしてきた環境が違う。


 人と戦う際の覚悟や技については普通の魔法師よりも心得ている。


 「わかった……」


 ユアは二人の目を見てすぐに大丈夫だと確信した。二人の目からは確かな覚悟が感じられ、人に手をかける際にも躊躇いは生まれないだろう。


 「それじゃあ、やるか」

 「うん……」

 「ああ」


 三人はそれぞれ手にしている武器を迫り来るダクリアの軍勢に向けて一斉に構える。


 ユアは弓のユリアルを、レアルは魔力を纏わせた剣を、ヂルは二丁の魔装銃を、真剣な表情で。


 「俺は真ん中をやる」

 「左……」

 「右だな」


 それぞれの担当を決めた三人は手にする武器に魔力を流し込み始める。


 武器に魔力を流し込み始めた三人の姿はスクリーンに大きく映し出されていたが、観客席は皆、その圧倒的な光景に言葉を失っていた。


 「格が違う……」

 「すごすぎる……」

 「本当に同い年かよ……」

 「ここまで差があると妬むこともできないよ」


 スクリーンに映る三人の周りにはそれぞれ膨大な魔力が纏われている。世代最強の名を持つレアルだけならまだしも、ユアとヂルの纏う魔力量もレアルと遜色はない。


 たった三人しかいないというのに、観客席にいる者たちは例外なく、全員がダクリアの敗北を悟った。


 いくら相手が五百人近くいようとも、この三人に勝つことは不可能だ。それほどまでに三人の魔力量はけた違いであった。


 ダクリアの軍勢もその桁違いの魔力量を察してか、すぐに防御魔法を展開し始める。中には恐怖心の余り作戦を忘れ、闇属性の魔法陣を展開している者までいた。


 だが誰も責めることはできない。いくら作戦だからといって、闇属性の魔法を使わずして負けたら意味がない。作戦には例外が存在する。そして今がその例外に含まれる状況である。


 しかし彼らの抵抗は無意味だった。


 最初に攻撃を仕掛けたのは白い弓を握るユア。


 ユアは空に向かってユリアルを構え、何もない結弦を引く。観客たちは不思議な光景に首をかしげたが、すぐに答えは分かった。


 ユアが結弦を引くと、突如白い矢が出現し、ユリアルに装填される。その矢は神々しいほどの輝きを放ち、一瞬で他の魔法たちと格が違うことが分かった。


 「これは……」

 「ほう」


 ユアの隣で武器を構えていたレアルとヂルもその輝かしい白い矢に少なからず驚きを覚える。


 ユアはそんな二人を気にせずにダクリアの軍勢を見据えて魔法名を呟いた。


 「『聖なる罰』」


 魔法名と共に白い矢を撃ちだすユア。ユアの撃った矢は空に向かって飛んでいき、そして弾ける。


 一瞬、誰もが失敗したかと思ったが、違う。


 次の瞬間、弾けた白い矢の破片が次々と分離、もしくは増殖して、新たな矢を作り出し、ダクリアの軍勢に向かって降り注ぐ。


 「闇属性だ!」


 誰かが叫んだ。


 それは闇属性を使ってすぐにあの矢を消滅させろという指示である。


 「『闇波』」

 「『闇壁』」

 「『闇破』」


 一人が闇属性を使うと、呼応するように次々と闇属性魔法が使われていく。魔法は様々だが、その目的はすべて同じだ。それは空から降り注ぐ矢を消滅させること。


 闇属性の特殊効果は消滅。つまり闇属性を行使すれば大抵の魔法は消滅させることだ。ダクリアの軍勢の皆がそう思っていた。


 しかしダクリアの軍勢から行使された闇属性魔法がユアの魔法を消滅させることはなかった。


 「うわぁぁぁぁぁ」


 闇属性魔法などまるでなかったかのように、ユアの放った矢は次々とダクリアの軍勢に着弾し、その肢体を貫いていく。


 白い矢によって体のどこかは貫かれたダクリアの人間は苦痛に顔をしかめるが、幸いなことに死者は出なかった。ユアの放った矢は死に至らしめるほどの力がなかったのだ。


 「くっ、反撃だ!」


 傷を負ったものの、問題なくに動けたダクリアの軍勢たちは反撃に移ろうとする。


 だがユアの攻撃はそれで終わりではなかった。


 「うっ……うううう」

 「うっ……おおっ……」


 反撃に出ようとした魔法師が突然、奇妙な声を上げ始める。よく見ると、体の内部で風船が膨らんでいるのではないかと思えるくらいに体が膨れていた。


 そして次の瞬間、グシャ、という音を立てて体の内部から破裂し、体中の血液をまき散らす。


 「ひぃぃぃぃ」


 誰かが腰を抜かしながら悲鳴を上げた。しかしそれが誰かはわからない。


 なぜなら、その後も次々とダクリアの人間が体の内部から破裂して、おびただしい量の血液をまき散らせて絶命していったから。そして最後には一帯に鮮紅色の花を咲き、生き残っている者はいなかった。


 「うっ……」

 「嘘だろ……」

 「なんで……」


 あまりの無残な光景に観客席にいた学生魔法師たちが言葉を失う。それは非現実的過ぎる光景に吐き気がした者、ユアの無情な攻撃が理解できない者、信じられない光景に恐怖を覚えるもの者など、様々であったが、その誰もがユアに恐怖を抱いた。


 しかし無残な攻撃はこれで終わりでなかった。


 「やるな、白髪」


 ユアの攻撃を見たヂルがどこか嬉しそうに称えると、ヂルも両手に握る魔装銃をダクリアの軍勢に向けて構える。


 ヂルは両手に握る魔装銃に魔力を流し込み、銃口の先に五重の魔法陣を展開させて魔法を行使する。


 「焼き斬れ。『魔粒子収束砲』」


 ヂルが魔法名と共に引き金を引いた瞬間、ヂルの魔装銃から膨大な火属性の魔力が撃ちだされた。


 膨大な魔力は視認不可のスピードでダクリアの軍勢に向かっていき、ダクリアの軍勢が攻撃に気づかない間に通り抜けて、最後は収束していき、その姿を消す。


 「えっ?」


 ダクリアの軍勢の中にいた一人が体に違和感を覚える。なぜか急に体の左半身の感覚がなくなったのだ。男はゆっくりと自分の左半身を確認したが、そこには本来存在するはずの男の左半身がなかった。


 「うわ、うわっぁぁぁぁ」


 男は自分の左半身が無くなっていくことに気づくと、悲鳴を上げるが、その時にはすでに絶命していた。


 急に体の一部が無くなる。それは男だけではなく、他にも被害者がいた。


 ある者は頭を、ある者は体の中心を、ある者は上半身を、そしてある者は右耳だけを残しそれ以外の身体を、一瞬で失って絶命した。周辺には肉が焦げたような異臭が立ち上がる。


 しかし不思議なことに誰も出血はない。傷口は焦げており、血が出る様子もなかった。まさに一瞬で世界が地獄絵図とかした。


 これこそ特級魔法師一族であるヂルの本気。粒子化した火属性の魔力を亜音速の速さで撃ち出し、一瞬で敵を殲滅する魔法。最終的に魔力の粒子は収束して消えるため、狙った敵だけを仕留めることが出来る。


 「撤退! 撤退だ!」


 未だ生き残っているダクリアの軍勢の中からそんな声が響き渡る。敵前逃亡は褒められたことではないが、仕方のないことだろう。五百人もいた軍勢の半数以上が体の内部から破裂するか、体の一部を失って絶命してしまったのだから。


 「聞いてない、聞いてないぞ。なんだ、なんだ、この化け物たちは」

 「闇属性魔法が通じぬ相手など知らぬぞ」

 「今は逃げろ! 何としてもここから生きて帰るんだ!」


 武器を捨て、無様な姿で撤退を始めるダクリアの生き残り。そこには陣形もなにもない。ただ、全員が必死になって生きるために全力で走っていた。


 その光景は観客席にいた学生魔法師たちでさえ同情するものである。


 しかしこの場にいるのは普通の魔法師ではない。一度実践となればどこまでも非常になれる魔法師たちである。そんな彼らがダクリアの人間を逃がすはずもない。


 「最後は俺か」


 レアルが必死に逃げ惑うダクリアの軍勢に向けて右手を延す。そこには一切の感情は含まれていない。


 「光の神よ、今こそ裁きの鉄槌を、我が魂に答えて顕現せよ」


 力強く発せられるレアルの詠唱と共に、散らばって逃げるダクリアの人間たちの上空にこれでもかというくらいの大きな黄色い魔法陣が展開される。


 まるで太陽がすぐ近くにあるのではないかと思えるくらいに明るい魔法陣。一目で強力な魔法だという事が分かった。


 逃げるダクリアの人間たちを見据えながら、レアルは容赦なく魔法を行使する。


 「『光天使の断罪』」


 次の瞬間、空に展開された大きな魔法陣から光が降り注ぎ、ダクリアの人間を飲み込む。


 超広域攻撃範囲魔法『光天使の断罪』、別名「光属性最上級魔法『レアルの裁き』」


 圧倒的な魔力量を持つレアルにしか使えない超大技であり、行使された逃げられるものはいない。


 展開された魔法陣から降り注ぐ光は摂氏三千度、人間などいとも簡単に蒸発させ、その死体も残さない非情な魔法。まさに一撃必殺。


 観客席では言葉を発するものさえいなかった。


 膨大な光によって映像が乱れていたスクリーンが回復すると、そこに映っていたのは何もない更地。直前までそこに人間がいた痕跡など全くない。


 ユアが作り出した肉塊やヂルの作り出した人間の欠損部位などもまとめて蒸発させられた。


 まさしく「無」である。


 この日、観客たちは知ることになった。世代最強の魔法師レアル=ファイブは最早、自分たちと同じところには立っていないと。そしてそれは特級魔法師一族ユア=アルーニャ、ヂル=ネフラも同じだという事を。


 「化け物だ……」


 何とも言えない雰囲気が観客席を覆うのであった。


いつも読んでいただきありがとうございます。


次は土曜日の18時頃の更新予定です。それでは次もよろしくお願いします。

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