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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
4章 レイリア魔法大会編
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第163話 ウンディーネの本気

 三人に襲い掛かろうとしていた荒々しい風が、突然打ち消されたことに驚くアイシィたち三人。それは魔法を放った男も同じだった。


 男は自分の攻撃を防いだリリィのことを見て言う。


 「まさかこんなところで会うとは」

 「あら、私のことを知っているの?」


 まるでリリィのことを知っているかのような口調で話す男。しかしリリィの方には男に見覚えがなかった。


 「いえ、あなたのことは存じ上げません。ただ、あなたが何者かはすぐにわかりました」

 「そういうこと」


 男の言葉を聞き、リリィは納得する。男はリリィのことを知っていたのではなく、リリィが何者かを一瞬で見破ったのだ。


 男はリリィが人間ではなく、妖精の類だという事をわかっている。それはつまり、リリィの目の前にいる男は一瞬で妖精か人間かを見破ることが出来る実力を備えているということだ。


 「厄介な男ね」


 リリィは音のことを見据えながら、困ったような表情を浮かべる。


 「リリィ?」

 「何かしら、アイシィちゃん」


 急に姿が変わったリリィに対して、アイシィが困惑した表情を浮かべる。


 アイシィは詳しいところまでは知らないものの、目の前にいる妖艶な雰囲気を纏ったリリィと、いつも見ている元気で無邪気なリリィが同じ存在だという事は知っていた。


 なので、警戒はしないものの、どう接していいかわからなかったのだ。


 そんなアイシィのことを知ってか、知らずか、リリィは優しい声音でいう。


 「あとは任せて」


 その声はアイシィの緊張を一瞬で弛緩させた。まるで優しい何かに包まれたかのような感覚、アイシィはその時初めて年上の包容力というものを感じた。


 「わかった」


 だからアイシィは素直にうなずいた。


 しかしそれでは理解できない存在が約二名いた。ジンとカイルドだ。


 「なあ、あれって誰だ?」

 「あきらかに選手じゃない」


 リリィの纏う雰囲気が到底学生のものではないと思った二人は、一体リリィが何者なのかと思っていた。


 そんな二人に対してアイシィは安心した口調で答える。


 「あれはリリィです。アルセニア魔法学園の学生です」

 「なっ!? もしかしてあの幼女か?」

 「どう見たって成人済み」


 アイシィの言葉を信じられないといった表情で受け止めるジンとカイルド。しかし無理もないことだろう。なぜなら先ほどまで美幼女だったリリィが一瞬で成長して妖艶な雰囲気を纏い、見た目も完全に学生の域を超えている。


 信じろと言う方が無理な話だ。


 だがアイシィの言っていることは事実。リリィが頬を膨らませながら反論する。


 「私はまだピチピチの十四歳よ」


 妖艶な雰囲気を纏ったリリィの子供っぽい態度にギャップを感じてカイルドの顔がやや赤くなる。そして心なしかその視線がリリィの持つ大きな双丘に向かっていた。


 そんなカイルドとは対照的にジンが指摘する。


 「年齢偽装は犯罪」

 「誰が年齢偽造よ! 戸籍上では立派な十四歳です!」


 珍しく取り乱すリリィ。その際、大きく揺れる双丘にカイルドの目は釘づけになっていた。


 思春期まっさかりのカイルドの視線に気づいたリリィは、再び妖艶な雰囲気を纏って、これまた色っぽくカイルドに向かって言う。


 「残念だけど、この体はもう私の恋人のものよ。ボクには触らせないからね」

 「なっ!? べ、別にみ、みてなんか、ないし……」


 慌ててリリィの言葉を否定するカイルド。しかしその慌てようや、表情からはリリィの惚れていることがよくわかる。


 そして心の中では、


 (あの幼女とこのお姉さんが同じって、一本で二度おいしいじゃねーか。くそ、恋人の奴を恨んでやる)


 と思っていた。しかしリリィの恋人という名の愛人がセイヤであることを、カイルドが知るのはもう少し先の話である。


 「ところで、そんな油断していていいんですかね?」


 突然先ほどまで黙っていた男が話し出したと思ったら、すでに男の手には魔法陣が展開されてあり、リリィたちに向かって魔法が放たれていた。


 「無駄だわ」


 男の攻撃に対して、リリィは一瞥もせずに水を操って、男の攻撃を防ぐ。それもピンポイントで。


 「ほう、これは驚きました」

 「不意打ちなんてつまらない男ね」


 リリィが不意打ちをした男のことを侮蔑するかのように睨むが、男は笑いながら次の攻撃をリリィに仕掛ける。


 「かまいたち」

 「無駄よ」


 男が風を操って、リリィに攻撃を仕掛けたが、リリィは再び水を操作して、男の攻撃をピンポイントで撃ち落とす。


 「おかしいです。先ほどまでは魔力不足だったというのに」


 男は楽々と水を操るリリィの姿に違和感を覚える。


 もしアイシィの言っていることが本当だとしたら、妖艶な雰囲気を纏ったリリィも魔力切れを起こしてなければおかしい。だというのに、今のリリィは魔力切れを起こしている様子は全くない。


 むしろ今までで一番洗練されているのではないかと思うくらい、水の操作が細かだった。


 「ふふ、そんなの簡単よ。今はここら一帯、水が多いから」

 「水が多い? ああ、なるほど。そういうことですか」


 男はやっと理解した。なぜリリィが急に魔力を回復したのかを。


 リリィは水の妖精ウンディーネだ。ただの水を操ることに関しては魔力をほとんど必要としない。


 先ほどまでは操る水を生成、つまり海水の塩分濃度を下げてから使わなければならなかったため、いつも以上に魔力を消費していたが、今は違う。


 リリィは塩分濃度を下げるようなことを今はいていない。なぜなら海水を使ってはいないから。


 なら一体、何を使っているのか。


 答えは空気中にある水分。つまり水蒸気だ。


 「まさかここまで計算しているとは、恐ろしいお嬢さんです」


 男はアイシィのことを見据えながら、感嘆する。


 急にリリィが強くなった理由は、アイシィの作戦の結果であった。


 アイシィの作戦では、カイルドが海水を蒸発させ、ジンがその蒸発した水分を風に乗せて蔓延させ、最後のアイシィがその水分たちを凍らせるものだった。しかしこの作戦には続きがあった。


 それこそが、今のリリィの復活だ。


 カイルドの魔法によって蒸発させられた水蒸気には、当然のことだが塩分が含まれていない。それはつまり、空気中に存在している水蒸気は真水ということだ。


 そして真水であればリリィはいとも簡単に操ることが出来る。


 カイルドの『阿修羅』が行使した『六情滅殺(むじょうめっさつ)』は高密度エネルギーの塊だ。そんな塊がすべて海水に向かって行使され、海水は瞬く間に蒸発した。それも止まることを知らずに。


 現在、この近辺の湿度はかなり高くなっており、水を生成することはいたって簡単。


 まさにそこはリリィの領域だった。


 「どうするのかしら? まだやる?」


 それはリリィからの勧告。無駄な抵抗はやめろという事だ。


 しかし抵抗を止めたからといって、リリィが男を見逃すかと言えば、そんなわけはない。ただ抵抗を止めれば楽に死ねるというだけで、リリィに慈悲の心はなかった。


 これこそが本当の戦い。命と命のぶつかり合う戦いだ。


 「まさか、どうせ死ぬのでしたら最後まで抵抗しますよ」


 男は当然ながら抵抗を止めるわけがない。抵抗を止めたところで死ぬのであったら、最後まで抗い続ける。というより、男はそもそもリリィに負けるとは思っていなかった。


 「そう、それじゃあ頑張ってね」


 リリィは冷酷な瞳で男を見据えると、魔法を行使する。


 「ウォーターレーザー」

 「させません。『闇波』」


 男はリリィの攻撃に対して冷静に闇属性の魔法を使い、消滅させる。今回の一連の戦闘で初めて闇属性魔法を防御に使った男を見てリリィは疑問に思う。


 「そういえば、なぜ今まで闇属性を使わなかったの?」


 その疑問はアイシィも思っていたことだ。


 闇属性を使っていたら隙を見せることなく簡単にアイシィたちを倒せたであろう。しかしダクリアの軍勢たちは闇属性を使わず、あえてほかの魔法を使って防御や攻撃をしていた。


 もし仮に最初から相手が闇属性の魔法を使用していたならば、アイシィたちは全く歯が立たなかったはずだ。


 リリィの問いに対する男の答えは何とも外道なものだった。


 「簡単なことですよ。闇属性を見せなければ相手も本気ではかかってきませんから」

 「なるほど、未知なる敵より、近くの敵ってことね」

 「その通りです。しかしあなた方には通じませんでしたが」


 男の言い分はつまりこうだ。


 もし闇属性を最初から使えば、相手側は自分たちを未知の敵として扱い、容赦なく攻撃をしてくる。しかし闇属性を見せなければ、相手側は自分たちのことをレイリアの人間だと思う。するとそこには躊躇いが生まれる。


 もしかしたらこれは新手の訓練ではないか、聖教会が仕組んだ試練ではないか、などといったあらぬ考えが頭をよぎり、魔法師たちの集中力を低下させることが出来る。


 しかも相手はまだ子供。ただでさえ経験が少なく、パニックになりやすいため、普通なら効果は抜群だ。


 しかし男たちが相手にした魔法師たちは普通の魔法師ではなかった。


 四人のうち半数がダクリアでの戦闘を経験している魔法師。それこそがダクリアの軍勢たちの誤算だった。


 「さて、わかったでしょうか? 僕にはまだ闇属性があります」

 「だから?」

 「素直に負けを認めたらいかがですか」


 男は自分が闇属性を使える時点で負けることは無いと確信していた。なぜなら闇属性の特殊効果は消滅、あらゆるものを消滅させることが出来る最強の属性だから。


 唯一、闇属性に対抗できる属性は光属性、しかしアイシィたちの中に光属性を使う魔法師はいない。それはつまり、男に勝てる魔法師はこの場にはいないということを意味している。


 「つまらない男ね」


 リリィはそう吐き捨てて、男に向かって魔法を行使する。


 「ウォーターレーザー」

 「だから無駄ですって。『闇波』」


 男が『闇波』を行使したため、リリィの行使したウォーターレーザーは消滅させるするはずだった。しかし次の瞬間、リリィの行使したウォーターレーザーは消滅することなく、男の心臓を貫く。


 「うっ……なんだと……」


 急に起きた出来事に理解が追い付かない男。そんな男に対してリリィは蔑みの目で言う。


 「あなた、舐めすぎよ。その程度で私の水が消せると思ったの?」

 「なん……だと……」


 リリィの言葉に対して耳を疑う男。


 (どうしてだ……どうして闇属性で消滅させられなかった……)


 男は必死に理由を考えたが、結局わからずに、息を引き取った。


 心臓付近を貫かれた遺体を見たリリィが静かに呟く。


 「大魔王の闇に比べたら、あなたの闇は足下にも及ばないわ」


 しかし、そんなリリィのつぶやきを聞いた者は誰もいなかった。


 いつも読んでいただきありがとうございます。ほぼ毎日更新しますと豪語した結果、一週間もせずに、二日に一回程度の更新になり始めている高巻です。


 やはりできないことは言うべきではないですね……身にしみてわかりました。


 さて、実は今回、何と一章の大幅改変を実行しました!(わーい)


 どこを変えたかというと、ダリス大峡谷あたりの十数話を思いっきり改変しました。しかしそこで問題が生じます……

 それは、セイヤを最強にしようと書き直したはずが、思ったよりも最強にならなくて、結局大して変わっていないという事です。これは完全に高巻の実力不足です。もっと上手くなりたい、もっと上手くなりたい(ry


 テンションおかしいですね……。


 気を取り直して、改変した一章ですが、読み直さなくても今後の展開に影響はありません。なので、よかったら暇な時にでも読んでください。


 それでは次もよろしくお願いします。次は水曜日の21時頃の予定です。

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