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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
4章 レイリア魔法大会編
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第159話 目覚めた不死鳥

 「ここは……」


 セレナが目を開くと、そこは知らない場所だった。否、そもそもそこがどこなのかを認識することができなかった。


 まるで金縛りにあったみたいに動かない身体、思考を始めようとしてもぼんやりとして働かない頭、心なしか停滞しているやる気。


 それは理解こそできないものの、自分が生きることを止めようとしているのだとセレナは感じた。


 体を襲う激しい脱力感の中、セレナは必死に何があったのかを思い出そうとする。しかし思い出そうにも頭が働かず、すべてがどうでもよくなってきた。


 「うっ……」


 何が起きたのか、必死に思い出そうとすると、今度は頭を鈍痛が襲う。まるで頭の中で何か固いものが膨らみ、頭を破裂させようとする痛み。


 セレナは頭を襲う鈍痛に耐えられず、つい考えることを止めてしまった。


 考えることをやめると、不思議なことに頭を襲っていた鈍痛はまるで嘘のようになくなり、再び脱力感が体を支配し始める。


 「はぁ……」


 セレナは思う。このまま何も考えなければ、激しい鈍痛に襲われることなく楽に過ごせると。


 しかし、いざ思考しようとする意志を手放そうとすると、なぜか心の底に引っかかるものがあり、簡単に手放すことができない。


 まるでもう一人の自分が必死に思考を捨てようとする自分を止めようとしているような感覚。


 すっきりとしない心にセレナは気持ち悪さを覚える。


 「なんだろう、これ……」


 心に残っている何かが自分のことを必死に止めている。しかしそれが何かは分からない。


 気持ち悪い。気持ち悪い。すっきりしない自分の心が気持ち悪い。すぐにこの気持ち悪さを無くして楽になりたい。


 セレナはそう思い、この気持ち悪さを消すために再び思考を開始した。


 「うっ……」


 思考を開始して記憶を遡ろうとすると、やはり鈍痛が頭を襲う。そして考えれば考えるほど、セレナ意思に比例していくように激しくなる鈍痛。


 「痛い……」


 頭を襲う激しい鈍痛にセレナは再び思考をやめたいと思うが、あの気持ち悪さを解消したいと思ったセレナは鈍痛に屈さず、さらに思い出そうと思考を深めていく。


 「うう……」


 考えれば考えるほど激しくなる鈍痛。このままでは自分の頭が内側から弾けてしまうのではと思ったセレナだったが、絶対に思考を止めはしない。


 それは一種の執念といってもいい。


 あの気持ち悪さを無くしたいという思いが、いつの間にか絶対に何があったのかと思い出してやるという覚悟に変わっていたことをセレナは知らない。しかし自分の思いが強くなっていることは分かっていた。


 「負けない……」


 最後の力を振り絞って思い出そうとするセレナ。


 そしてついに、セレナは頭を襲う激しい鈍痛に勝って、何があったのかを思い出した。


 「そうだ……私……」


 ぼんやりとする意識の中、セレナは次第に何が起きたのかを思い出していく。


 自分が一体どこにいたのか、自分は何をしていたのか、自分はどうしてこんなところにいたのか。記憶を遡っていくうちに、何が起きたのかを鮮明に思い出していく。


 「あの刀で刺されて」


 自分がやっとラーニャの風刃丸によって貫かれたことを思い出すセレナ。自分はレイリア魔法大会に出場して、セナビア魔法学園の代表だったラーニャとリュカとぶつかり、そしてラーニャによって腹部を刺された。


 しかしそれでは違和感がある。


 それは今の自分が一体どういう状態にあるのかという事だ。


 今セレナがいる場所はとてもレイリア魔法大会の会場であるラピス島とは思えない。そしてリタイヤした際に転送される会場の魔法学園の医務室でもなければ、現実とも思えなかった。


 レイリア魔法大会では肉体的ダメージを受けることは無い。例え致死相当の肉体的ダメージを受けた場合でも、その分のダメージが精神ダメージとなり、選手の意識を刈り取ってリタイヤとなる。


 絶対に肉体は傷つかない上、痛みを感じることもない。


 しかし今の状態はレイリア魔法大会でも、リタイヤした後の感覚でもない、初めての感覚だとセレナは感じていた。


 違和感を覚えたセレナはさらに何があったのかを思い出す。


 「そういえば……」


 セレナはふと気づき、自分の腹部に意識を集中させる。


 そこはラーニャによって貫かれた場所だ。おかしいことに、セレナはあの時、腹部を貫かれた痛みと大量に流れだす自分の血液の感覚があった。そんなこと、本来はありえないというのに。


 あれは絶対に本当に貫かれた感覚であり、血が流れ出た感覚だ。幻術などで錯覚させられたとしても、あまりにリアルすぎる感覚。


 つまり今のセレナに腹部にはラーニャの風刃丸で貫かれた傷跡と、大量に流れ出た血の跡があるはずだ。


 しかしセレナはそのどちらの感覚も感じることができなかった。


 「あれ?」


 セレナが腹部に意識を集中させると、確かに腹部には違和感があった。しかしそれは、まるで腹部にはポッカリと穴が開いているような感覚、けれども不思議と血が流れ出るような感覚や痛みはない。


 それはまるで昔から自分の腹部には穴が開いていたかのような感覚。


 ぼんやりとした意識の中、セレナは思う。


 「ここってもしかして!?」


 ぼんやりとする意識、傷があるというのに痛みを感じない身体、そして周りに広がる非現実的な景色。そこがどこなのかセレナは知っていた。いや、体験していた。


 ここがどこなのか、セレナはやっと理解をする。


 「ここは私の深層心理」


 セレナの言う通り、ここはセレナの深層心理、つまりセレナの意識の中だったのだ。


 深層心理————それは人間の誰しもが持っている領域であり、簡単には見つめることのできない空間。


 今の自分が深層心理にあると確信すると、セレナの意識は次第にはっきりと鮮明になっていく。それは一種の危機を感じたときの防衛本能によるのもだ。


 「でもなんで……」


 自分の居場所がやっと分かったセレナ。しかし同時になぜ、今、自分はここに居るのかが理解できない。普通に考えてレイリア魔法大会中に深層心理に来ることはまずない。それも戦闘中になど尚更。


 しかし落ち着いて考えてみれば答えはすぐにわかった。


 セレナは戦闘中だからこそ、深層心理に来ていたのだ。


 「私って今、危険な状態なんだ……」


 セレナが深層心理で意識を覚醒させるときは決まっている。それは自分の身が危険であり、かつすぐに蘇生措置が必要な時だ。


 母親であるモカとの訓練で何回か意識をして深層心理に来ていたセレナだったが、無意識で深層心理に来たのはこれが初めてである。


 このような体験は初めてだったため、最初こそ理解できなかったセレナだが、時が経つにつれ、すべてを理解していく。そして自分が何をしなければならないかも。


 「やらなきゃ」


 深層心理でもあの魔法を使えることができる。というより、あの魔法を使うためにセレナの意識は深層心理にあったといっても過言ではない。


 セレナは自分に言い聞かせるように覚悟を決めて、例の魔法の詠唱を始めた。


 「空前の灯の前に遣わし焔の方々、我の呼びかけに答えて汝の力を我が手に、不死鳥の剣となって我が心に、顕現せよ不死鳥の魂。『フェニックスの焔』」


 モカとの特訓では、成功率は六割五分といったところだろう。しかしセレナには絶対に成功するという確信があった。なぜなら自分の命が懸かっているから。


 人間はできないと思っていた事でも、窮地に立たせれば、なぜかできないことも簡単にできてしまう。


 それは窮地に立つことで普段から無意識のうちにセーブしている力が解放されるから。


 そして今回も然り。


 長い詠唱のあと、セレナの身体を金色の焔が優しく包み始める。


 その光景はダクリア二区でセイヤとセレナがアイシィを蘇生させるときに似ているが、今回はセレナ一人でそれを行っている。


 「成功した」


 セレナは金色の焔に包まれながら静かに呟く。


 そこには魔法が成功したことによる、確かな喜びがあった。


 いつも読んでいただきありがとうございます。


 本当なら海エリアの方を更新しようと思っていたのですが、そろそろこの人を復活させないと本当に死んじゃいそうだったので、こちらが先になりました。


 一応明日も岩山エリアの方からお送りする予定です。


 それで次もよろしくお願いします。次も明日の21時頃です。

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