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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
4章 レイリア魔法大会編
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第155話 懐刀

 「カナ、これはやはり?」

 「ええ、十中八九ダクリアの干渉でしょうね」


 観客席から立ち上がり、どこかへと向かっていたハリスとカナは周りに人がいないのを確認してから話し合う。


 「これからどうする?」

 「おそらく私の夫たちが犯人を捕まえるために動くでしょう」

 「ライガー殿たちか。なら私たちもそこに?」

 「いえ、おそらくそっちは任せて大丈夫でしょう。それより問題は」


 カナはそう言いながらスクリーンに映るセレナのことを見る。


 セレナは現在大変危険な状態だ。だというのに大会運営委員は一向に選手たちを転送する仕草をいせない上、スタジアムへのアナウンスもない。明らかにおかしい。


 「大会運営委員だな」

 「はい、いくらなんでも対応が遅すぎます。なので、私が行って仕切ろうかと」

 「おお、そうか。なら私も着いて行こう」

 「はい、よろしくお願いします」

 「久しぶりに女神様の懐刀の力が見られるぞい」


 カナとハリスはすぐに大会運営委員のある部屋へと向かった。


 「失礼する」

 「失礼します」

 「誰だ?」


 二人が大会運営委員の部屋に入るやすぐにリーダー格の男がなぜ入ってきたと咎めるように聞いた。その顔はかなり焦っており、冷静さを失っている。


 ハリスはそんな男に言う。


 「申し遅れた。ウィンディスタン教会トップの一人、ハリス=ツベルクリンじゃ」

 「なんと……」


 男はいきなり言われた大物の名前に驚く。それは男の後方で作業をしていた他のスタッフたちも同じだ。


 「これは失礼しました。私は今大会委員の現場指揮を担当しておりますベガと申します」

 「うむ。それで現状は?」

 「それが……」


 現状を聞かれてベガは口籠る。それは自分たちも把握できていないという事を指していた。といっても、ダクリアの存在を知らない彼らがすぐに原因を把握するのは不可能に近く、仕方がないことである。


 「そうか。ならここは私たちに任せてはくれぬか?」

 「は、はぁ……」


 ベガにも現場指揮としてのプライドがある。けれでも、現在は緊急事態の上に、相手はウィンディスタンのトップだ。任せるしかないに決まっている。


 「カナ、あとは好きにやるとよい」

 「ありがとうございます」


 ハリスがカナを呼び、カナは現場指揮の席に座る。その姿はとても落ち着いており、スタッフたちも次第に冷静さを取り戻していく。


 「まずは現状確認から始めます。転送魔法の使用は?」

 「それが、溜めておいた全魔力が無くなっていて……」

 「そうですか」


 カナの質問に答えたのは若い女性だ。若い女性の報告を聞いたカナはすぐに魔力が消えた原因をダクリアの仕業と理解する。そしてすぐに指示を出した。


 「至急聖教会に連絡して十三使徒をあと三名ほど援軍として要請してください。それとウィンディスタン教会支部にも連絡してできるかぎり魔法師を集めてください。転送魔法の充電を行います」

 「はい!」


 か何か言われると若い女性はすぐに行動に出た。念話石を使って連絡をとり始める女性を見て、カナは他のスタッフに聞く。


 「結界が消えているようですが、修復は?」

 「それが原因不明の何かに干渉されていて不可能です」

 「なるほど、では結界の修復はやめて、回復魔法を使える魔法師を集めてください。転送魔法が使用可能になり次第、重傷者から随時転送して治療にあたりましょう」

 「はい!」


 次々と的確な指示を出していくカナに対して、スタッフたちはすぐに信頼を寄せていく。


 そんな光景を見たベガがハリスに聞いた。


 「彼女は一体何者ですか?」


 いきなり出てきた女性。本当ならプライドがあるはずなのだが、カナの手際は素直に称賛に値するもので、自分と比べるのもおこがましいほどだ。


 ハリスはどこか懐かしそうな顔をしてベガに答える。


 「彼女の名前はカナ=アルーニャ、かつて聖教会で女神さまの右腕を務め、天才軍師と言われた者だよ」

 「まさか……彼女が女神様の懐刀だと……」

 「そうじゃ」


 ベガはすぐに理解した。この場は自分がでしゃばるより、カナに任せた方がいいと。


 そんなベガにカナが言う。


 「ベガさん、今から場内アナウンスを行います。できればあなたにお願いしたいのですが」

 「私ですか?」

 「はい。あなたは大会運営委員の現場指揮です。お願いできますか?」

 「わかりました」


 女神様の懐刀に頼まれて断ることなどできない。ベガはそう思い、場内アナウンスを行うために反響魔法が保存してある魔晶石の前に立った。


 しかしそこで気づく。


 「それで私は何を言えば?」


 大会運営委員も状況を把握していないというのに、一体何を言えばいいのか。ベガにはわからなかった。


 「発表するのは第四次警戒態勢です」

 「なんですと!?」


 ベガはいきなりのことに驚きを隠せない。それは他のスタッフたちも同じだった。なぜなら、いくら今の状況が緊急事態だからといって、第四次警戒を発令するには値しないと思ったから。


 レイリア全土を巻き込んだあの事件でさえ、発令されたのは第一次警戒態勢だ。しかしカナが要求したのは、そのはるか上をいく第四次警戒態勢。いくらなんでもやりすぎであるとベガは思った。


 それに、警戒態勢を発令するには各教会、または聖教会からの要請が魔法学園側に必要であるが、今はまだ要請も来ていなければ、承諾もされていない。もしそんな状況で発令すれば、ベガたちはすぐにお尋ね者になるであろう。


 だからこそ、ベガは警戒態勢の発令に戸惑う。


 「しかし教会からの要請もないのにいいのですか?」

 「そうですね。ではハリスさん、お願いしても?」


 カナはどこか楽しそうに、ウィンディスタン教会トップの一人であるハリスに聞いた。当然、ハリスはカナの要請を承諾する。


 「いいじゃろう。ウィンディスタン教会トップの一人、ハリス=ツベルクリンの名の下に第四次警戒態勢の発令を要請する」

 「これでいかかがですか?」


 ベガは躊躇なく要請をしたハリスを信じられないといった眼差しで見る。なぜ要請してしまったのかと。それに、まだ必要な手続きがあった。


 「まだ魔法学園側が了承していません」


 ベガの言う通り、警戒態勢の発令には教会側からの要請と、魔法学園側の承諾が必要になる。そして承諾を出せるのは魔法学園の学園長のみだ。だが、今この場に学園長たちはいない。


 「それなら安心して大丈夫です」

 「なんですと?」

 「現在、アルセニア魔法学園の学園長は代理として特級魔法師ライガー=アルーニャが務めています。しかし彼が特級魔法師協会の仕事に就く際には、一時的に妻である私がアルセニア魔法学園の学園長代理です」

 「なんと……」


 カナの言っていることは事実だ。聖教会からの書状にはライガーが特級魔法師としての公務に就く際は、ライガーの代理としてカナがアルセニア魔法学園の学園長となる。


 そして現在、ダクリアの干渉が高確率で疑われている中でライガーが動いていないわけがない。しかもそれは立派な特級魔法師協会の仕事である。


 つまり一時的だが、現在のアルセニア魔法学園の学園長はカナ=アルーニャだ。


 「アルセニア魔法学園長代理の名の下において、ウィンディスタン教会からの要請を承諾、第四次警戒態勢の発令を宣言します」


 これでもう必要な手続きは済んだ。


 「わかりました。アナウンスをします」


 ベガは諦めたような表情をして魔晶石に魔力を流しこみ、場内アナウンスを始める。


 「大会運営委員からのお知らせです。ただいま発生している問題について、ウィンディスタン教会からの要請により、第四次警戒態勢の発令が宣言されました。繰り返します。第四次警戒態勢の発令が宣言されました」


 突然のアナウンスに観客席がざわつく。


 第四次警戒態勢、まさかそんなものが発令されるとはだれも思っていなかった。


 観客席のざわつきが次第に大きくなっていく。しかしその中にはニヤリと笑みを浮かべる者も少しだが居た。


 「わかっているじゃないか」


 そう言ったのは茶髪の鋭い目をした男性。


 「いったい誰が……」


 そう言ったのは黒い髪をした青年。


 「速すぎないか?」

 「そうね。でも賢明な判断だわ」

 「まあな」


 そんな会話をするのは中のよさそうなカップル。


 「カナか。ありがたい」


 そう言ったのは緑の髪の男。


 しかし理由はともあれ、今の状況は好ましい。だからこそ全員思った。


 「「「なら、俺らも仕事をしなければ」」」


 全員が同時に、自分の役目を果たすことを決意した。



 いつも読んでいただきありがとうございます。今回新たにわかってカナの正体(完璧後付)です。

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