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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
4章 レイリア魔法大会編
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第154話 動き出す運命

 「さあ、作戦開始だ」

 「「「ウォォォォォォォォォォォォォォォォ」」」


 静かに放たれたリーダーの一言に千人近い人々が雄叫びを上げる。


 それはこれから始まるであろう疑獄絵図を前に己の気持ちを高める者、早く人をこの手で殺めたいと待ちきれない者、国のために働くことへ喜びを示す者など、様々だ。


 けれども彼らの目的は一つ。レイリア魔法大会に介入し、未来の魔法師の卵を一人でも消すこと。


 「いくぞ。転送、ラピス島」


 リーダーの声と共に転送魔法の魔法陣が展開され、千人近い魔法師たちを一斉にレイリア魔法大会の開催地であるラピス島へと転送された。


 これが後世にも語り継がれるレイリア魔法大会史上最悪の事件の始まりだった。







 スクリーンに映し出されているのは腹部から大量の血を流して倒れ込んでいる赤髪ツインテールの少女、セレナとセナビア魔法学園の生徒の二人、ラーニャとリュカだ。


 ラーニャは自分がやってしまったことの重大さにただ茫然自失としている。


 リュカは倒れ込んでいるセレナに回復魔法を行使していたが、一向に血が止まる様子がない。そもそも回復魔法を得意としていないリュカではこれほどの傷を治すのが不可能だった。


 「止まって、止まって、お願いだから止まって」


 リュカは必死にセレナに対して回復魔法を行使するが、血は止まるどころか益々あふれてきていた。その光景を見たラーニャは自分がなんていうことをしてしまったのだと、その場に跪く。


 「そんな……私はただリュカを……」


 守ろうとしただけ……けれども結果的にセレナは重傷を負ってしまった。それも命にかかわるような。


 「しっかりしてラーニャちゃん」

 「リュカ……?」

 「まだ、まだだよ。まだ生きているから」

 「でも、もう……」


 どうにかしてラーニャのことを立ち直らせようとするリュカだったが、ラーニャは分かっている。もうセレナが助からないと。


 本当ならセレナは致死相当のダメージを受けてラピス島からリタイヤするはずだった。しかし実際はリタイヤするどころか体に傷を負って今にも死にそうになっている。


 これは明らかに異常事態だ。


 こんな事例は過去に聞いたことがない。おそらくレイリア魔法大会史上初の出来事だろう。なら今すぐ中止にされて、セナビア魔法学園に転送されてもおかしくはない。


 だが、一向に転送されることもなければ、事情説明のアナウンスもない。


 「どうして……」


 ラーニャはセレナのことを刺した右手を握りしめながら下唇を噛む。


 自分は人を殺した。それも同い年の魔法師を。いくらセレナが卑劣な手を使ったからといって殺すのはやりすぎだ。


 刀を握るようになってから、いつかは迎えるだろうと覚悟していたが、不意に訪れた体験は心を折るには十分だ。もしこのままセレナが絶命したらラーニャはもう剣士として、魔法師として再起不能になってしまう。


 リュカは思う。そんなことは嫌だ。ラーニャは刀を握っている姿が一番かっこいい。だからこそ、絶対に自分がセレナのことを助ける。


 リュカはそんな覚悟のもとにセレナに回復魔法を行使し続けた。






 観客たち同様、レイリア魔法大会中である選手たちも異変に気付き始めていた。


 アルセニア魔法学園とセナビア魔法学園の選手たちが戦っていた海エリアでも、すぐに非常事態だと全員が気づく。


 「大丈夫か?」

 「はい、問題ありません」


 セナビア魔法学園の魔法師、カイルドが怪我をしたアイシィのことを気に掛ける。彼女の体の所々にあった傷はカイルドの行使した治癒促進魔法によって、すべて治っていた。


 「わるい」

 「大丈夫です」


 アイシィに傷を負わせたジンが謝り、アイシィが気にしていないという表情で答える。


 しかし彼らの表情はどこか固い。


 「一時休戦という事で、いいんだよな?」

 「はい、問題ありません」

 「リリィも!」


 カイルドが確認したのは、この非常事態が直るまでは戦わないという事だ。


 当然、リリィとアイシィは問題がないため、すぐに答えた。


 「それじゃあ、これからどうするかだが」

 「アナウンスがないのはおかしい」

 「ジンの言う通りだな。つまり結構やばいという事か?」

 「だと思う」


 ジンは三人の顔を見てから、自分の考えを話し始める。


 「おそらく魔法や道具のトラブルじゃないと思う」

 「というと?」


 魔法や道具のトラブルではないのなら、一体何かとアイシィは思った。それはカイルドやリリィも同じだった。


 「おそらく何者かによる妨害」

 「妨害ですか?」

 「そう、それもかなり大きな組織」

 「なるほどな、でも一体どこが?」


 レイリア魔法大会はレイリア王国でも有名な行事だ。そんな行事を妨害するなんて馬鹿がやる事であるとカイルドは思っていた。それはジンも同じであったが、状況から見て、それしか考えられない。


 「どこかはわからない。でもこれは事故ではない」


 そんなジンの考えを聞き、リリィとアイシィは黙ってしまう。なぜならレイリア魔法大会に妨害をしてきてもおかしくない組織を二人は知っていたから。それもつい最近戦った相手である。


 (まさかダクリアが……)


 アイシィは心の中で自分があり得ないことを考えている自覚はあったが、ジンの言う通りであるならばダクリアしか考えられない。それも高確率で。


 (言ったほうが……)


 ダクリアの可能性が高いと言うべきか、アイシィは迷う。本来存在しないものとして扱われているダクリアのことをジンとカイルドは知らない。自分だってついこの間までは知らなかったのだから、ジンたちも知る由はないだろう。


 そんな二人にダクリアの存在を教えてもいいのか。安全第一で考えるのなら、ダクリアのことを知らせるべきであろう。しかしそれは同時にこの大会が終わった瞬間、二人が聖教会に拘束されてしまうかもしれない。


 聖教会はダクリアの存在を隠しがっている。それはアイシィ自身が身にしみてわかっている。


 そして一度捕まってしまえばそう簡単には解放されない。アイシィの場合はセイヤが特級魔法師一族であるライガーの手を借りてなんとか解放されたが、もう一度同じ手が通用するとは思えない。


 となると、まだ言うべきではない。アイシィは決めた。


 もし言うとしても、その時は闇属性のことだけを話し、闇属性は固有魔法だとごまかせばいい。たとえ信じられなくとも、固有魔法で貫き通せばいい。それなら二人の身の安全も保障できる。


 「おい、あれ」

 「あれは……」


 アイシィがこの先のことを考えていると、急にカイルドがある光景を見つけて大声を出した。そしてカイルドに続き、ジンもその光景を見て言葉を失う。


 「きたよ!」

 「やっぱり」


 ジンに続き、リリィとアイシィもその光景を視界に捉える。


 森エリアの方からアイシィたちの方に迫り来る謎の大群。全員が統一された黒い戦闘服のようなものを身に纏い、左胸には何かのエンブレムがに縫い付けられている。


 大群の数はざっと三百といったところだろうか。その数はレイリア魔法大会の参加者総数の五倍にあたり、すぐにレイリア魔法大会の参加者ではないという事がわかった。


 「あいつらは一体……」

 「多分敵」


 カイルドとジンもその異様な光景を見て、すぐに理解した。彼らが味方ではないという事を。


 「聞いてください。彼らは問答無用でこちらの命を狙ってきます」

 「それは本当なのか?」


 アイシィの説明に信じられないといった表情をするカイルド。魔法技能を競う祭りが一変、命の掛かった戦いと言われたのだから当然であろう。しかしアイシィの言っていることは事実だ。


 「はい、私たちも一度戦闘しています」

 「まじかよ」

 「彼らも同じだと?」


 アイシィが説明をするが、どこかまだ信じられないと言った表情のカイルド。それはジンも同じだった。


 心のどこかでは敵ではないのではと思っている二人。


 しかし次の瞬間、彼らは自分の考えが甘かったことを思い知る。


 「危ない!」


 リリィが話し合っていた三人に危険を知らせた。


 振り向けばそこには大きく三人のことを守るように展開されている水の壁。そしてその水の壁に容赦なく襲い掛かる数々の魔法があった。


 もし水の壁が無かったらば、大群から放たれた魔法たちは無警戒だったアイシィたちに被弾していたであろう。しかも肉体的ダメージを防ぐ結界がない中で。


 「どうやら本当みたいだな」

 「うん」


 カイルドとジンも理解する。目の前の大群が本当に敵であることを。


 「反撃する際は躊躇わないでください」


 アイシィの言葉は自分の体験談から生まれたアドバイスだ。


 戦闘時に相手に情けをかけて自分を危険に貶めるぐらいなら、最初から情けは無用。殺す覚悟があるのなら、当然そこには殺されるかもしれないという覚悟が必要になる。


 アイシィはそのことをダクリアで嫌というほど学んだ。


 死――――それは人間が本当的に忌避するものだ。


 死ぬのも嫌だが、誰かが死ぬのも嫌だ。出来る事ならみんなで生きて終わりたい。そんなものはただの幻想にしか過ぎない。


 アイシィは、リリィはちゃんと理解している。


 しかしカイルドとジンは心の中で、まだそんな甘い考えがある。


 だからこそアイシィはもう一度言った。


 「躊躇いは禁物です。せめて一撃で仕留めるのが相手への敬意です」


 その言葉はとても冷酷なはずなのだが、どこか温かい感じがすると二人は感じた。


 そして二人は同時に改めて思う。


 自分たちがこれからどういう戦いに足を踏み入れなければならないのかと。


 「わかった」

 「覚悟は決める」


 二人はゆっくりと迫り来る大軍を見つめながら、覚悟を決めるのであった。


 いつも読んでいただきありがとうございます。


 まずは謝罪から……本来なら昨日に更新予定でした今話ですが、昨日は作者の体調不良のため更新することができませんでした。お楽しみにしてくださった方、誠に申し訳ございません。


 今度からはこのようなことがないように気を付けますので、どうかこれからも「落ちこぼれ魔法師が異端の力を手に入れて世界最強になっちゃった」をよろしくお願いします。

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