第152話 仁義なき美少女の戦い(上)
時は少し遡り、ユアがヂルと遭遇した頃。ここ、岩山エリアでも一つの戦いが起こっていた。
アルセニア魔法学園の制服を着た赤い髪ツインテールの少女、セレナとセナビア魔法学園の制服を着た黒髪ポニーテイルの少女、ラーニャによる戦いだ。
「はぁ!」
ラーニャが自分を鼓舞するかのような掛け声とともに愛刀である風刃丸でセレナに斬りかかるが、セレナは風刃丸を紙一重のところで回避する。
「次はこっちの番よ」
風刃丸を回避したセレナはそのまま右手に握る魔装銃でラーニャに狙いを定め、引き金を引いた。
「遅いわ」
セレナが撃ち出した魔力弾をラーニャはわずかに首を傾けて回避し、そのまま地面に振り下ろしていた愛刀の風刃丸を上げるようにセレナの左わきに向かって刀を走らせる。
「甘いわよ」
セレナは自分に向かって振り上げられてくる風刃丸に対して、左手に握る魔装銃の引き金を引いた。セレナの魔装銃から撃ちだされた魔力弾はそのまま風刃丸に被弾して、刀の軌道を大きくずらす。
「くっ」
「隙あり」
風刃丸を思わぬ方向に弾かれたラーニャはバランスを崩して隙が生じる。セレナはその隙を逃さんとばかりに右手に握る魔装銃をラーニャに向けて引き金を引いた。
「これで終わりよ」
「まだだわ。風の契りよ、顕現せよ。『風斥』」
次の瞬間、バランスを崩し隙だらけだったラーニャに被弾すると思われていた魔力弾は、まるで何かに押し出されたかのようにして、あらぬ方向へと飛ばされてしまう。
「今度はこっちの番だわ」
「しまった……」
一瞬あらぬ方向に飛ばされた魔力弾を目で追ってしまったセレナは反応が遅れてしまった。ラーニャは右足を地面につき、体勢を立て直すと、両手で握っている風刃丸に風属性の魔力を纏わせてセレナに斬りかかる。
「なら、これでどう?」
セレナはとっさに両手に握っていた魔装銃の引き金を引く。狙いも定めていない魔装銃から撃ちだされた魔力弾は当然のことながらラーニャには被弾せず、ラーニャの足元近くの地面に被弾した。
「これは!?」
意味のないと思われた攻撃だが、魔力弾が地面に被弾した際に、至近距離から撃ちだされた魔力弾の威力によって地面がえぐれ、大きな砂埃が舞い上がった。そしてその砂埃がラーニャの目に襲い掛かり、視界を奪う。
「やった!」
セレナは自分の策が成功したことに喜びの声を上げるが、それは一時の喜びであった。
「アルン家を舐めるな! アルン流中段弐の型『心眼』」
「うそ!?」
なんと次の瞬間、ラーニャは目を閉じたままにもかかわらず、セレナに向かって風刃丸を突いてきたのだ。それも正確に首付近を狙って。
「こっちも舐めないで。我、火の加護を受けるもの。『火風』」
セレナはとっさに詠唱省略で火属性初級魔法を行使する。セレナの胸付近に展開された魔法陣から目を瞑っているラーニャに熱風が襲い掛かった。
ラーニャは砂埃のせいで目が見えていない。そしてセレナが行使した魔法は質量のない広域に作用する魔法。防ぐには『火風』と同じく広域に作用する防御魔法が必要だ。
だが目のつぶっているラーニャに広域に作用する防御魔法を行使するのは不可能。勝った、セレナはそう思った。だからこそ次の瞬間に起きる光景に驚愕した。
「『光壁』」
突如としてラーニャの正面に大きく展開された光属性中級魔法の『光壁』が熱風からラーニャのことを守ったのだ。
「もう一人いたの!?」
セレナはすぐに周囲に目を向けるが、『光壁』行使したと思える魔法師の姿はない。いったい今の魔法は誰が、そう思ったセレナだったが、すぐにそんなことを考えられなくなる。
「隙あり!」
いつの間にか視界を回復していたラーニャが風刃丸でセレナに迫っていた。
「そんな簡単に隙を作れるわけがないでしょ!」
「なに!?」
セレナはニヤリと笑い、右手に握る魔装銃を自分に迫ってくるラーニャに向ける。そしてひそかに特訓してきた新たな魔法を行使した。
「喰らいなさい」
セレナの魔装銃の銃口に展開されたのは三つの赤い魔法陣。そのどれもが違う紋章をしていることから、三つとも効果が違う魔法だという事がわかる。
セレナは三つの魔法陣が展開されたのを確認すると、魔装銃の引き金を引いた。
魔装銃の銃口に埋め込まれている魔晶石から魔力が撃ちだされ、一つ目の魔法陣を通り抜けると魔力が大きくなる。そして二つ目の魔法陣を通過すると、大きな魔力が細い棒状の形に立っていき、三つめの魔法陣を通り抜けたら、もうそれはレーザーだ。
セレナの魔装銃から撃ちだされたのは赤い魔力のレーザー。それは特級魔法師一族であるヂルのレーザーと酷似している。これこそセレナが密かに特訓を積み重ねていた新たな魔力弾だ。
と言ってもお手本にしたのはヂルではない。なんせセレナはヂルのことを知らないため、ヂルの魔法を真似るのは不可能だ。なら一体誰の魔法を真似たのか、答えはセレナの仲間であり、年下の少女リリィだ。
セレナはリリィの使っていた水のレーザーを真似たのだ。最初はなかなか成功しなかったこの魔法だが、結局三重の魔法陣で行使することに成功した。
「これは……」
ラーニャはセレナから撃ちだされた魔力のレーザーを見て瞬間的に悟る。
避けられないと。
セレナと自分の距離は約七メートル、そして自分はセレナの方向に向かってかなりのスピードで迫っている。セレナから撃ちだされた赤いレーザーは自分よりもさらに速いスピードで自分に向かって迫ってきている。次の瞬間には赤いレーザーは自分のことを貫いているだろう。
ラーニャは刹那の時間に自分の負けを悟った。いまさらどうこうできるものでもない。今から魔法を行使したところで遅いし、自分が使えるアルン流にもこの状況を打開する技はない。
負けた。
ラーニャが流れに身を任せて魔力のレーザーに被弾しようとしたその時、ラーニャのことを呼ぶ声がした。
「ラーニャちゃん!」
そしてラーニャのことを呼ぶ声と共にラーニャの目の前に展開された三重の『光壁』が赤いレーザーとぶつかる。しかし『光壁』はすぐに崩れ去ってしまうが、魔力のレーザーの威力は弱められた。
そうだ、自分には信頼できる仲間がいる。
ラーニャは改めて自分の仲間であるリュカがいることを思い出すと、威力の弱まった魔力のレーザーを回避して、セレナに迫る。
「アルン流初段壱の型『燕返し』」
「そんな!?」
次の瞬間、ラーニャの握る風刃丸が魔力のレーザーを撃ち出したばかりで無防備になっていたセレナの胴体を真二つに斬り、その存在を消した。
「よし!」
ラーニャはセレナを倒したことに喜ぶ。実は昨年のレイリア魔法大会のデータを見てラーニャはセレナのことを知っていた。もちろん、セレナもラーニャのことは知っており、お互い顔見知りと言うわけだ。
そしてラーニャはセレナのことを、セレナはラーニャのことを強敵だと認め合っていた。お互いに強敵だと認め合っていたからこそ、ラーニャはセレナに勝って喜んだ。そして同時にセレナがラーニャにとってレイリア魔法大会で初めて倒した相手であった。
昨年のレイリア魔法大会ではほとんど活躍できていなかったラーニャ、今大会もここまで一人も倒さずに来ていた。だからこそ、ラーニャは選手がどのようにしてリタイヤするのかを知らなかった。
「やっと見つけたわ、リュカ=ティーナモ」
「!?」
ラーニャは自分の後方で『偏光』を行使して姿を消していたリュカの方を見る。
「ごめん……ラーニャちゃん。捕まっちゃった……」
そこにいたのは後頭部に魔装銃を押し付けられているリュカの姿だった。
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