第149話 レアルの怒り
確かに現在レアルはピンチである。観客たちもレアルが負けるのではないかと、ヒヤヒヤしながら二人の戦いを見ていた。けれでも、当の本人はそんなことを全く思っていない。
心の中で考えていたのはセイヤのことのみ。
「お前が十三使徒をどう思っているかは知らないが……」
「あぁん?」
レアルが急に話し始めたことに対し、興味無さげに耳を傾けるパルナエロ。パルナエロの中ではレアルが世代最強などは関係なく、ただ十三使徒を打ちのめしたかった。
だからこそ、レアルのことを世代最強魔法師、レアル=クリストファーではなく、十三使徒序列五位、レアル=ファイブとして戦ってきた。レアルもそのことは当然わかっていた。自分が選手ではなく十三使徒と見られていることを。
だから許せなかった。
好きなように十三使徒を侮辱する態度をとっているパルナエロが。
「十三使徒を、舐めるなぁぁぁぁぁぁぁ。封印解除」
次の瞬間、レアルの本当の魔力が姿を現す。
そしてパルナエロの左手にあった特殊な魔封石が粉々に砕ける。
「なに!?」
パルナエロは目の前の信じられない光景に目を疑うが、レアルはどこか確信があったように笑う。
パルナエロの魔封石は一定の空間内の魔力を封じる効果がある鉱石だ。その鉱石には当然のことながら許容限界が存在する。しかも魔力を封じるとなれば、かなり大きな許容範囲が必要になるであろう。
だからこそレアルは思った。その大きな許容範囲を上回ってしまえばいい、と。幸い自分には圧倒的な魔力量があり、大会中もその片鱗しか見せていない。
レアルはこの大会中にもあえて魔力を自分で抑えており、その一部しか使わなかった。けれでも、そんなことを知らないパルナエロは、勝手にレアルが本気だと勘違いしてしまっていた。
「悪いが遊びはここまでだ」
「くそ、くそ、ふざけるな! 十三使徒が!」
パルナエロはそう言い捨てると、左手に残っていた魔封石の破片を投げ捨て、レアルを睨む。
(十三使徒が、十三使徒が、また十三使徒が邪魔をした。許せない、許せない、絶対に許さない)
心の中でレアルに対する憎悪は拡大させていくパルナエロ。そしてパルナエロは詠唱を始めた。
「我が炎の神、今こそ我を守護せよ、炎神の魂。『オグン』」
パルナエロが詠唱を終えると、彼の後ろに巨大な炎の番人が姿を現した。これこそパルナエロの一族、グルスベール家の固有魔法だ。
「オグン……そうか、あいつはあの事件の……」
レアルはパルナエロの行使した魔法、『オグン』を見て、やっと彼をどこで見たかを思い出した。
それはいつだっただろうか、レアルが聖教会で見た資料に彼、パルナエロ=グルスベールが載っていた。レアルのクラスメイトだった少年たちが巻き込まれた事件でもあり、セイヤも巻き込まれていた事件だ。
そしてパルナエロの乗っていた資料とは、犯人たちの家族構成。
そう、パルナエロはあの事件の首謀者であるコウル=グルスベールの息子だ。そしてコウルの共犯として疑われていた容疑者でもある。
「なるほどな、お前もあの事件にかかわっていたのか」
「今更気づいたところで遅い。このオグンは父様のよりも強い。お前など一瞬で片付けてやる」
「それは面白い」
レアルは右手に握る剣に魔力を流し込み、頭の上に構える。この構えはレアルが本気を出した時に見せる構えであり、一撃で相手を葬る技でもある。
「悪いがもう終わりだ。俺にお前の相手をしている暇はない」
「そうだ、そうやってあの十三使徒も父様を半殺しにした。ふざけるな、いつもそうだ。十三使徒はその名ばかりなだけの無法集団。
だというのに、自分たちは俺たちに対して法を守っていない、法を守れ、法を破ったから拘束する。ふざけるな、人体実験のどこが悪い?」
それはパルナエロのまがった常識が繰り出す言葉。
「人体実験は人類の進化のためには必要だ。だというのに、お前たちは人体実験を禁止している。進化しない人間など屑にしか過ぎない」
「もう話さなくていい」
レアルは静かに、怒りを必死に抑えつけながら言った。
レアルは人体実験を許せない人間だ。それが例えどんな理由があろうとも。だからこそ、目の前で人体実験を肯定しようとしているパルナエロのことが許せなかった。
「そうだ、そうやってお前たち十三使徒は人の話を……『黙れ!』」
まだ自分の主張をやめようとしないパルナエロに、レアルは怒鳴りつけた。
もう目の前の少年の言葉を聞く必要はない。目の前の少年は人間に道を外れた外道だから。
「消えろ、パルナエロ=グルスベール」
レアルはそう言い残して、頭の上に構えていた剣を振り下ろした。
そしてレアルの剣から圧倒的な魔力量を凝縮した魔力の塊が、三日月状になって放たれる。
「防げ、オグン」
パルナエロは一瞬にしてレアルの攻撃が危険だと判断して、オグンに防ぐように命じた。けれどもそれは無駄なあがきだった。
「無駄だ」
レアルの言う通り、オグンは何もすることができずに魔力の塊によって一瞬で跡形もなく滅んだ。そしてそれはオグンの後ろにいたパルナエロも同じだ。
次の瞬間、パルナエロは光の塵となる姿を見せずにリタイヤした。しかもレアルから放たれた圧倒的な魔力の塊は、火山エリアに大きな地割れを起こし、空気を震え上がらせた。
そんな光景をスクリーンで見た観客たちは思う。やはりレアルは別物だと。他の魔法師とは格が違うと。
「やっぱり化け物だ……」
「本当に同じ人間かよ……」
「あれで私たちと同い年って信じられない……」
「あんな化け物に勝てる存在なんているのかよ……」
それはスクリーンに映し出される圧倒的な光景を前にした学生魔法師たちに言葉。
「でも今年は他にもいる」
「ああ、確かに」
「あの二人だったら……」
観客たちが目を向けた先には、スクリーンの端の方に映し出されている二人の魔法師の姿。
一人は先ほど戦いを終えた茶髪の少年ヂル。特級魔法師一族にして二丁の魔装銃をを操る注目の選手だ。
先ほどの戦いでも、やや注目されている魔法師二人を相手に圧倒的な力の差を見せて快勝。その実力は一目瞭然だ。
「あいつのレーザーなら、あの魔力の障壁でも破れるのでは?」
「確かにあのレーザーは強力だな」
「ああ、でもレアル様にはあの圧倒的な魔力を使った攻撃もあるわ」
「そうだな。あの攻撃をどう防ぐかがポイントだ」
観客たちは望んでいる。特級魔法師一族であるヂルと十三使徒であるレアルの戦いを。
そしてもう一人、観客たちが期待している選手がいた。
それは現在地図の南に位置する砂漠エリアにいる絶世の美少女。今はまだ戦っていないが、その実力が強いことは誰もが知っている。
あの雷神、ライガー=アルーニャの実の娘である特級魔法師一族、ユア=アルーニャ。彼女は上手く戦闘域を避けて行動しているが、その顔や纏うオーラが普通ではないと物語っている。
「やっぱりユアさんにも注目よね」
「ああ、何よりあの美貌は女神だ」
「ちょっと、それを彼女の前で言うかしら」
「イテテテ、悪かったって。お前も可愛いよ」
「ふん、どうかしら。でも確かに美しいわよね」
例えラブラブカップルでさえ惚れさせてしまうユア。
「ああ。それにあの雰囲気は格別だな」
「ええ、そうね。私たちにはない本物の戦いを知っているって顔ね」
カップルの顔が一瞬で真面目になる。彼らもまた、それ相応の実力を身につける魔法師だからこそ、ユアの実力には気づいていた。
「それにあれは殺しているよな?」
「それって魔獣を? それとも人を?」
「わかっているだろ。人をだよ」
「確かにあの雰囲気は実戦で人間と戦って勝ったことのある魔法師ね。レアルやヂルには無い雰囲気」
カップルたちはスクリーンを見ただけで、ユアの実戦経験を見破った。しかしそれはカップルだけではなく、他の観客たちもちらほら気づいていることだ。
対人経験がある魔法師は一味違う。それは魔法師に中でも全員が知る常識。そしてそんな魔法師と当たった時は逃げることが推奨されている。なぜなら彼らには人を殺すときに躊躇いというものがないから。
「それにアルセニア魔法学園の他の魔法師もだ」
「そうね、特にあの真ん中にいた少年、あれはかなり危険よ」
「あのハーレム野郎な。あれは格が違いすぎる。そしてあんな美少女に囲まれて羨ましい」
「はいはい、でも彼らは一体何者なのかしら」
「さあな、去年居たやつらはそこまで変わっていなかったが、あの初めて見る三人は異次元だ」
「ええ、そうね」
ほとんどの観客たちが十三使徒のレアル、特級魔法師一族のヂルとユアに注目しているが、一部の魔法師たちだけはアルセニア魔法学園の異様さに気付いていた。
そしてこれから起こる最悪の事態に、彼らの本当の力が姿を現すのであった。
レイリア魔法大会三日目が終了。
三日目の脱落者、計八名
合計での脱落者、計四十名
そして現在残っている生徒の数は合計で二十名(内二名は戦闘不能)
なお、アルセニア魔法学園は脱落者ゼロ




