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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
4章 レイリア魔法大会編
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第136話 動き出す時計の針

 「嘘だろ……」

 「あれって……」

 「そんな……」

 「なんで……」


 セナビア魔法学園の生徒たちの視界には、ユアやリリィの美貌は映っていない。なぜなら彼らが受けた衝撃は、ユアやリリィの美貌よりも数倍強かったから。


 二か月ほど前に死んだはずの彼。もう絶対に生きていないと決めつけていた事が覆された驚き。


 しかも彼らの知っている彼は、ただ生きていただけでなく、レイリア魔法大会の舞台に立っている。


 彼らが知る限り、彼にそのような実力はない。


 もしかしたら似ているだけ、と思おうとしたが、そんなわけはない。


 纏っている雰囲気こそ少し違っているが、その顔たちや仕草は、彼とそっくりだから。


 一体何がどうなっている。


 驚愕を受けていた者たちは、次第に周りの生徒たちの顔を見た。もしかしたら自分の勘違いではないかと考え、周りを見たのだが、周りも同じような反応をしている。


 「あれって、やっぱり……」

 「ああ」

 「あれは紛れもない」

 「アンノーン……」


 セナビア魔法学園の誰もが知っているその名前。かつて落ちこぼれ魔法師として自分たちが無干渉を貫いてきたその存在。もう絶対に見ることはないと確信していたその存在。


 しかし彼らの視界に映るその少年は、紛れもない、落ちこぼれ魔法師キリスナ=セイヤだった。


 スクリーンに映し出された少年を見て、驚愕の表情を浮かべていたのは生徒だけではない。教師陣もまた、スクリーンに映し出されたセイヤの姿に驚いていた。


 とくにセイヤの担任を務めていたラミアはかなり驚いている。


 かつて自分が担当していたクラスの生徒が生きている。


 教師としては嬉しい限りなのだが、ラミアは心の底から喜ぶことはできなかった。


 なぜか分からないが、今のセイヤから感じるオーラのようなものが、ラミアが知っているセイヤとは異質なものに感じられ、ラミアは心のどこかでセイヤのことを恐れていた。


 それは他の教師陣も同じである。


 生徒たちはあまり分かっていないが、教師陣たちはセナビア魔法学園時代のセイヤの成績を詳しく知っている。その成績はまさに落ちこぼれが似合う成績で、レイリア魔法大会に出れるようなものではなかった。


 しかし現にセイヤはレイリア魔法大会に出場している。それもセナビア魔法学園の代表ではなく、アクエリスタンのアルセニア魔法学園の代表としてだ。


 所属する魔法学園を変更するには、教会への申請が必要になる。しかしセイヤの学籍はいまだにセナビア魔法学園の所属で、レイリア魔法大会に出るためにはセナビア魔法学園の代表になる必要がある。


 だというのに、セイヤはアルセニア魔法学園の代表として飄々としながら待機をしていた。


 一体どうやってレイリア魔法大会に出られるほどの力を付けたのか、そしてどうやって学籍を変えずに他の学園の代表としてレイリア魔法大会に出場するのか。


 少年少女たちよりも、この国の仕組みについて理解している教師陣たちは、ただそう思うのであった。


 セナビア魔法学園の一画だけは、どこか困惑した感じになっているが、それ以外ではセイヤに対する嫉妬などでかなり盛り上がっている。


 そんな中、先ほどまでセイヤたちの愛の表現に固まっていた実況も我を取り戻して、最後の魔法学園を紹介する。


 「さてさて、次が最後の学園になります」


 実況のそんな紹介に観客たちが盛り上がる。


 最後の学園は特級魔法師の子供が所属する学園を差し置いて、トリを務めるほどだ。観客たちもそれを理解しているからこそ、最後の学園に一体どんな大物がいるのかを期待していた。


 実況が長い、長い、タメをつくってから、最後の学園の紹介を始める。


 「最後の学園は今年の開催校でもあり、昨年の優勝校! しかもなんと、今年もリーダーを務めるのはこの男! 聖教会十三使徒、序列五位、レアル=クリストファー! セナビア魔法学園だぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ」

 「マジかよ!?」

 「信じられない!」

 「超ヤベェじゃん!」

 「今年のレイリア魔法大会は最高かよ!」

 「やばい、超ワクワクしているんだけど」


 観客たちがざわめき始める。


 なぜなら魔法学生の大会であるレイリア魔法大会に、十三使徒が出場しているから。


 レアルはまだ十七歳のため、レイリア魔法大会に出場することは可能だが、十三使徒がレイリア魔法大会に出場することは前代未聞の出来事だ。


 しかもレアルは昨年のレイリア魔法大会で圧倒的な強さを見せていた。もし特級魔法師一族であるユアやヂルが出場していなかったら、観客たちは今頃ブーイングの嵐をレアルに向けていたであろう。


 しかし今年は特級魔法師一族が、それも二人も参戦している。


 次世代を担う有望な魔法師たち。世代最強の栄光を手にしているレアルに対して、特級魔法師一族のユアやヂルはどのように戦うのか。


 かつてないほどにタレントの揃った今年のレイリア魔法大会。もしかしたら未来永劫この大会を上回るほどのタレントが集まることは無いのではないか。


 それほどまでに、出場する選手たちが期待できる今年のレイリア魔法大会。観客たちは早く開幕するのを待っていた。


 「ここで全魔法学園の紹介が終了! いよいよ今年のレイリア魔法大会が始まります」


 実況が紹介を終える。あと残っているプログラムは開催校の学園長による開幕宣言。


 全魔法学園の学園長たちが座っているVIPルームで、一人の男性が立ち上がる。


 紺色のスーツを着たちょっとぽっちゃりとしている男性が、反響魔法を駆使したマイクに向かって宣言した。


 「ここにレイリア魔法大会の開幕を宣言する」


 エドワードのその言葉と同時に、待機していた各学園の代表選手たちの体が光り始めて、あっという間にその姿を消す。


 そしてスタジアムに大きなスクリーンには、レイリア魔法大会が行われる会場であるラピス島が映し出され、そこに次々と代表選手たちが転送されていった。


 観客たちの歓声もまた一段と上がる。


 こうして今年もまた、レイリア魔法大会が開幕するのであった。






 ついにレイリア魔法大会が開幕したスタジアムはかなり盛り上がっていた。しかし、そんな盛り上がっている観客たちを背に、廊下の壁に寄り掛かりながら目を閉じている一人の青年の姿があった。


 青年は綺麗な銀髪を持っており、かなりの美形だ。年は二十歳前後、しかしその青年の纏う雰囲気は年相応とはいいがたく、どこか謎めいている。


 青年の名前はミコカブレラ=ディスキアン。聖教会に所属する魔法師であり、十三使徒レアル=ファイブの教育係を務める男だ。


 レアルがレイリア魔法大会に出場しているため、ミコカブレラがこのスタジアムに居てもおかしくはない。それに元々レアルにレイリア魔法大会に出るように提案したのはミコカブレラなのだから。


 ミコカブレラはどうしてもセイヤと戦いたいと言うレアルに対して、ある方法を教えた。


 十三使徒であるレアルが他の魔法師、それも学生魔法師と戦うことは聖教会によって禁じられている。それは十三使徒の品位を守ると同時に十三使徒の価値を下げないためだ。


 勝負事は何が起こるかわからない。それは例え実力の格差があったとしてもだ。


 もし仮にそんなことで十三使徒が学生魔法師に負けることがあれば、大問題である。だから聖教会は最初から無用な戦いを禁止することによって、十三使徒が負けるかもしれないというリスクを最小限に抑えていた。


 しかしそんな大人の事情を知っていても、レアルはセイヤとの対戦を望んだ。


 それは十三使徒でもなければ、セナビア魔法学園の生徒でもなく、単なる一人の少年としての願い。


 自分が心から待ちわびていた好敵手ライバル。レアルはそんな好敵手ライバルとの対戦をどうしてもやりたかった。十三使徒などといったしがらみに捕らわれず。


 そこで教育係であるミコカブレラが提案したのが、レイリア魔法大会への出場だ。


 レアルとセイヤの対戦を見た際、ミコカブレラはセイヤがレイリア魔法大会に出場すると確信した。それならレアルもレイリア魔法大会に出場すれば、おのずと対戦が可能になる。


 聖教会の決まりにも縛られず、合法的にレアルがセイヤと戦うことのできる方法。


 今のレアルは聖教会に所属するレアル=ファイブではなく、セナビア魔法学園の学生魔法師であるレアル=クリストファーだ。いくら聖教会といっても、法を破っていない者をそう簡単に処罰することはできない。


 それにたとえ処罰したとしても、スタジアムの観客の姿を見れば何が起きるかはわかる。


 スタジアムの観客たちはレアルの参戦、そして特級魔法師一族たちとの対戦に心を躍らせている。そんな状況下で、レアルのことを罰すれば、自然と民衆は聖教会を非難し始めるに決まっている。


 そのような事態を聖教会は望んでいない。


 なので、聖教会がこの件に関してレアルを罰することは不可能と言っても過言ではない。


 そんな名案をレアルに提示したミコカブレラだったが、彼は今スクリーンを見てはいなかった。ついに始まるレイリア魔法大会だというのに、ミコカブレラは静かに目を閉じている。


 観客たちはスクリーンに熱中しており、ミコカブレラには気づいていない。


 壁に寄りかかるミコカブレラの前を通った者でさえ、そこに人がいたとは認識できていない。まるで観客たちはミコカブレラのことが見えていないようである。


 観客たちのほとんどから認識されていないミコカブレラの右手には、野球ボールほどの紫色の鉱石が握られていた。


 それはかつて、セイヤがダクリア二区に向かう際に十三使徒であるバジルから受け取った特定の相手と念話する念話石にそっくりである。


 ミコカブレラは静かに右手に握る念話石に魔力を流し込み、ある相手と念話を始める。


 ツ----ン


 そんな特徴的な音と共に、ミコカブレラの脳内には若い男の声が響いた。


 (ミコカブレラか。そっちはどうだ?)


 声から察するに、ミコカブレラの念話の相手はミコカブレラよりも少し年上と言ったところだろう。その声は他者を統率することが慣れているような声だ。


 そんな声の主にミコカブレラは伝える。


 (ちょうど今、レイリア魔法大会が始まったところです)

 (そうか)


 念話の相手は少し何かを考えると、ミコカブレラに聞いた。


 (それで、準備の方は?)

 (完璧です。いつでも行けます)

 (そうか)


 声の主はどこか嬉しそうに答える。


 (こちらはもうそろそろ到着する。到着次第すぐに準備を整えて突入する)

 (わかりました。デトデリオン様)

 (ふん、今回は精鋭たちを集めた。これでレイリアの未来は閉ざされたも同じ)


 二人の念話はそこで終了した。


 念話を終えたミコカブレラは目を開くと、スクリーンに映っているレイリア魔法大会の様子を見る。ちょうど始まったレイリア魔法大会では少ないが、すでに戦闘が始まっている。


 (さて、どうなることやら)


 ミコカブレラは心の中でそう呟くと、小さくだがニヤリと笑った。


 いつも読んでいただきありがとうございます。


 いよいよレイリア魔法大会が始まりますよ! ここまで長かったですね! こんなになるとは高巻も驚きです!


 さて、前回さらっと出て来た三人目の特級魔法師、そして今回出て来た三人目の十三使徒。そしてレアルさん、まさかのレイリア魔法大会参戦。さらにさらに、ミコカブレラさんの不穏な動き。もうどうすればいいのか……


 様々な思惑が入り混じる今年のレイリア魔法大会、果たして結末はいかに。ぜひお楽しみにしておいてください! あと、セイヤとかつてのクラスメイトたちの再会もありますよ!


 それでも次回から、いよいよレイリア魔法大会です。

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