第131話 オルナの街のデート
レイリア魔法大会の開幕をすぐそこに控えているオルナの街は、これでもかというぐらい人々の喧騒に包まれていた。特に街の中心部には数々の屋台やレイリア魔法大会仕様になっているレストランなどがあり、かなりの人が賑わっている。
そんな街の中心に、一組の学生たちの姿があった。
きれいな赤い髪をツインテールにしているトパール色の瞳をもつ少女と、きれいな水色の髪をしているどこか無表情な少女、そしてそんな二人の後ろにまるで保護者のように着いて行く金髪碧眼の少年。
三人の姿はまさに観光に来ている学生だった。
なぜセイヤたち三人は特訓をせずにオルナの街を観光しているかというと、単純に今日が休養日だったからだ。
ライガーの計らいによって、与えられた束の間の休養日。当初三人は休養日の時間を自主練に当てようとしたのだが、ライガーによって止められていた。
と言っても今、ユア、リリィ、モーナの三人はコロシアムにて自主練をしている。なぜ三人が自主練を止められて観光なんかをしているかというと、レイリア魔法大会に関する情報の錯乱が狙いだ。
各学園は、昨年のレイリア魔法大会に出ていたセレナやアイシィはもちろん今年も出場すると思っている。
だからこそ、街の中心部でセレナたちを観光させることによって、他の学園はセレナたちよりも強い魔法師がアルセニア魔法学園に入ったのでは? と考え始めたりし、新たな対策を考え始め、時間を割いたりする。
そうすれば、自然とセレナたちに割く時間が少なるという事だ。
ちなみになぜセイヤもかというと、単純にセレナたちの道案内として連れて来られただけだ。
そしてセレナとアイシィは聖教会に捕まっている間に約束をしたデートを今日することにした。
しかし二人はオルナの街に詳しいどころか全く知らない。そこでアイシィがセイヤを連れて行こうと提案したのだ。
セレナは最初、セイヤを連れて行くことに抵抗を示していたのだが、アイシィの無言の圧力に屈してセイヤの同行が決まった。こうして三人は休養日をオルナの街の観光で過ごすことになった。
「さて、まずはどうしたい?」
セイヤは先行する二人に、どこに行きたいかを聞く。アンノーンと蔑まれ友達のいなかったセイヤだが、オルナの街の観光名所ぐらいは知っている。だから有名なところであれば二人を連れて行くことも可能だ。
セイヤに聞かれて、考える二人。
「そんなこと聞かれても……」
「まったくわかりません」
二人はそう答えるしかなかった。オルナの街は、現在セイヤたちの暮らすモルの街のような観光名所もなければ、首都ラインッツのような有名なところもない。
セレナたちがオルナの街と聞いて思いつくのは、セナビア魔法学園ぐらいだ。
「そうか……なら適当に屋台でも回るか?」
「そうね」
「はい」
三人は行動指針を決めると、さっそく大通りや公園などに出ている屋台を回り始める。
三人が最初に訪れたのは、お祭り名物といってもいい射的。レイリア王国の射的は普通のお祭りのように、コルクで出来た弾を撃って景品を落とすゲームだ。
もちろん魔法の使用は禁止で、魔法師は自分の射撃能力で景品を撃ち落とさなければならない。
三人分の料金である900イリアをセイヤが払って、コルクの弾と、射的用の銃を受け取る。
一人に与えられた弾は全部で五発、その五発の弾を使って五メートル先に並んだお菓子や小さなおもちゃなどを撃ち落としていくゲームだ。
「ふふふ、私の銃の腕前を見てなさい。度肝を抜くわよ」
普段から魔装銃を使っているセレナが、自信満々にコルクの弾を銃にセットして、五メートル先の景品に狙いを定める。セレナの射線の先にあるのは小さな熊のぬいぐるみ。
「もらったわ」
セレナがニヤリと笑みを浮かべて銃の引き金を引く。
パァン!
次の瞬間、セレナの撃ちだしたコルクの弾が熊のぬいぐるみをめがけて撃ちだされた。そしてコルクの弾は熊のぬいぐるみの三十センチほど右を通過して、後ろの壁に着弾する。
「うっ、嘘!? 狙いは完璧だったのに」
セレナは自分が狙いを定めた獲物を仕留めることができなかったことに、信じられないといった表情を浮かべている。
パァン!
そんなセレナの隣で、アイシィがコルクの弾をセットした銃の引き金を引く。
アイシィの撃った弾はそのまま一番下の段に立てられていた小さなお菓子に着弾して、小さなお菓子を台から落とす。さらにアイシィの弾は小さなお菓子を倒すとそのまま跳ね返り、一つ上に段にあったお菓子までも倒した。
「嘘!?」
「すごいな。アイシィ」
セレナとセイヤはアイシィの思いもよらぬ射撃スキルに驚く。しかしアイシィはできて当然かと言いたげな表情で言った。
「弾の入射角と風を読めば、普通にできます」
「弾の入射角!? 風を読む!? えっ、どういうこと?」
「それはすごい」
二人はアイシィの言葉に、そう答えるしかできなかった。
アイシィはその後、コルクの弾を五発駆使して八個お菓子を撃ち落とすことになった。
「私もアイシィに負けていられないわ」
セレナはそう言って、再び小さな熊のぬいぐるみに狙いを定め、銃の引き金を引く。
パァン
そんな音と共に撃ちだされたコルクの弾は、熊のぬいぐるみの右、二十センチのところを通過して後ろの壁に着弾した。
「まだよ!」
セレナは再び熊のぬいぐるみに狙いを定めて銃の引き金を引く。すると今度は熊のぬいぐるみの右、十センチのところを通過して後ろの壁に着弾する。
「まだまだ」
セレナは再び熊のぬいぐるみに狙いを定めて銃の引き金を引く。すると今度は熊のぬいぐるみの右、五センチのところを通過して後ろの壁に着弾する。
「これで終わり、次で仕留める」
パァン
セレナの撃ちだした最後の弾は一直線に熊のぬいぐるみに向かって進んでいく。そしてついにコルクの弾は熊のぬいぐるみのお腹付近に着弾した。
「やった!」
自分の弾が熊のぬいぐるみに着弾して喜ぶセレナ。しかし熊のぬいぐるみは少し後ろにずれただけで、台から落ちることはなかった。
「嘘!? 当たったのに」
「意外と重いんだろうな」
「そうですね」
「そんな~」
悔しそうなセレナの様子を見たセイヤは、自分の持っている弾をセレナのところに置く。セレナは突然のセイヤからの贈り物に驚いた表情を浮かべた。
「えっ?」
「あれが欲しいんだろ? だったら俺の弾も使っていいぞ」
「いいの?」
「ああ、別に俺は欲しいのはないからな。それに俺がやっても当たりそうにないし」
急にセイヤから弾を渡されたセレナは顔を赤らめながら「これって初めてのプレゼント……」とか、「もしかしてプロポーズ……」などと呟いていたが、セイヤには聞こえることはなかった。
「ふん、行くわよ!」
気を取り戻したセレナはそう言いながらコルクの弾をセットして再び構えるのであった。




