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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
4章 レイリア魔法大会編
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第130話 連絡係

 セイヤとアイシィが再び戦闘に戻った頃、ユアとアルナ、そしてリリィが休憩所で休んでいた。三人はそれぞれレモンジュースを飲みながら、特訓の疲れを癒している。


 「リリィ、調子はどう?」

 「うーん、まだわかんない」

 「大丈夫なの?」

 「多分大丈夫!」


 ナーリは一人だけずっと瞑想しているリリィのことが心配で仕方なかった。


 リリィが水の妖精ウンディーネであることや、深層心理でもう一人のリリィと修行していることなど微塵も思っていないナーリは、自分がリリィに何かできないかを必死に考えていた。


 しかし訓練生であるナーリができることもなく、ただリリィのこと見守るしかできない。そんな自分にむず痒さを覚えながらも、ナーリは代表選手たちをサポートすることに全力を注いでいた。


 一方、ユアとアルナは雷属性について話している。


 「ユアさん、やっぱりまだ実戦で使えそうにない?」

 「うん……使おうとしても集中しないといけないから戦闘中には使えない……」

 「やっぱり慣れなのかな」


 相変わらず雷属性をうまく使えないユアは、どうすれば雷属性を使えるかを必死に考えていた。


 複合魔法は二種類以上の魔法属性を合成するため、どうしても魔力の合成に集中を割かなければならない。


 普段から複合魔法を使っている魔法師にしてみれば、慣れてしまっているため、戦闘中だろうと複合魔法を使えるのだが、普段は光属性しか使わないユアには、それが難しかった。


 おそらく単純な動きをしながらなら、雷属性を複合できるとユアは考えていた。だが、単純な動きで勝てるほどレイリア魔法大会は甘くない。


 だからと言って、戦闘に集中してしまえば雷属性の魔力を合成して作り出すことはできない。


 「やっぱり難しい……」

 「どうすればいいんだろうね~」


 そんな悩む二人に、使用人であるメレナがアドバイスをする。


 「お嬢様、片方だけが難しいのなら、同時に両方やったらどうでしょうか?」

 「同時に両方……?」

 「そうです」


 メレナのアドバイスに首をかしげるユア。メレナの言っていることは確かに道理にかなっているが、今のユアはそれができないから困っているのだ。


 そんなユアに対してメレナは頭を下げて離れていく。どうやらあとはユアに考えさせるようだ。


 「同時に……両方……」

 「ユアさん?」


 ユアが何かを考え始め、アルナが首をかしげる。どうやらユアはメレナのアドバイスの意味を少し理解したらしい。


 そんな時だった。


 「御免ください。セナビア魔法学園から来ましたレイリア魔法大会運営委員のものですが」

 「レイリア魔法大会に出場する選手の確認に来ました」


 コロシアムの一角に姿を現したのは、セナビア魔法学園の制服を着たカオルとナーズ。二人はコロシアムで特訓をしているアルセニア魔法学園の代表たちに大声でそう言った。


 「あっ、連絡係。私が行きます」

 「大丈夫ナーリ……私が行く……」

 「リリィも!」


 ナーリが連絡係の二人のもとに行こうとしたが、ユアがそれを止める。そしてユアとリリィがコロシアムの一角にいるカオルとナーズの下へと歩いていく。


 「えっと、始めまして。私は連絡係のカオル=ナルシャンタです。でこっちが……」

 「……」

 「ナーズ?」

 「えっ!? あっ、すいません。僕がナーズ=グレートレスです」


 カオルに肘で突かれ、慌てて自己紹介をしたナーズ。しかしその顔は赤面しており、どこかモジモジしている。だが無理もない。なぜなら急に目の前に現れたのが絶世の美少女と絶世の美幼女なのだから。


 初対面でユアとリリィが目の前に現れて、いつも通りにできる男子生徒など当然いるはずもない。


 ナーズは二人に見惚れており、先ほどからずーっと見ている。そんな視線には慣れているユアとリリィが自己紹介を始めた。


 「アルセニア魔法学園の代表ユア=アルーニャです……」

 「リリィ=アルーニャです!」

 「ユアさんにリリィさん……」


 ナーズがつい名前を繰り返す。そんなナーズにユアとリリィは名前の確認をされたのかと思い、頷いたが、ナーズはその頷きを勘違いしてしまい、自分に気があるのではないかと思ってしまう。


 心のどこかでそんなことを期待しているナーズを置いて、カオルは話を進める。


 「お二人の名前を確認しました。他の選手たちも全員いますか?」

 「全員いる……」

 「なら呼んでいただいても?」

 「わかった……リリィ、お願い……」

 「わかった!」


 ユアにお願いされたリリィが、他の代表選手たちのことを呼びに行く。その間、ナーズは必死にユアに話しかけていた。


 「ユアさんってもしかしてあの雷神の一族ですか?」

 「そう……」

 「それはすごいですね! もしかして……(ry」


 一分もせず、リリィが他の代表選手を呼んできた。最初に呼んだのは生徒会長であるモーナだ。


 「お久しぶりです、カオルさん」

 「あら、モーナさんお久しぶりです。覚えていただけていたのですね」

 「それはもう、昨年はお世話になりましたから」


 大人の女性の雰囲気を纏ったモーナの登場に、ナーズは一瞬、瞳を奪われる。どちらかというと年下といった感じのユアやリリィとは対称的に、年上といった感じでどこか色気があるモーナ。


 モーナはナーズの視線に気づくとニコリと笑顔で会釈をした。


 ナーズは社交辞令のモーナの挨拶を再び勘違いしてしまい、もしやこの女性も俺のことが!? と思ってしまう。こういうところは思春期の男子というところだろう。


 そんなナーズのことを置いて、カオルがモーナの確認を終えると、リリィが残りの三人を連れてきた。


 リリィに連れられて連絡係のもとに来たセイヤはかつてのクラスメイトであるナーズのことを見て「おっ!」と思ったが、ナーズはセイヤには気づいていない。


 なぜならセイヤと一緒に来たセレナとアイシィに目を奪われていたから。


 「あれ、カオルさん。お久しぶりです」

 「お久しぶりです」

 「あらセレナちゃんにアイシィちゃん。やっぱり今年も代表になったのね」

 「はい、一応」

 「なんとか」


 カオルと面識のあるセレナたちが挨拶をする。しかしセレナたちはナーズには軽く会釈をしただけで、モーナのように笑顔は見せない。そんな様子を見たナーズはというと……


 (なるほど、この二人はツンデレだな。ユアさんやリリィちゃんとは違い、俺に好意はあるが、そんな素振りを見せない。これは攻略し甲斐があるぜ! でもやっぱりモーナさんの色気もいいな……)


 このように、一人で妄想を膨らませながら、五人のことを下心全開で見ていた。


 そんなナーズの視線が嫌だったのか、ユアとリリィはセイヤの袖をつかんで背中に隠れる。そしてその二人と同じように、セレナも心なしかセイヤに近寄っていき、上目遣いでセイヤのことを見ていた。


 (おいおい誰だよ、俺の女に手を出そうとしている輩は……んっ?)


 勝手に妄想を膨らませていたナーズ、はユアたちがセイヤの背後に隠れたことで、やっとセイヤの存在を認識する。


 最初こそ信じられなかったが、ナーズの視界に映るその顔は、かつて自分たちが無能と蔑み、軽蔑していた少年だった。


 「えっと、最後の選手はキリス……」

 「アッ、アンノーン!?」


 選手の確認をしようとしていたカオルの声を遮って、ナーズの驚いた声がコロシアムの響く。セイヤはやっと認識されたかと思いながら、返事をした。


 「久しぶりだな、ナーズ」

 「えっ、えっ、なんでお前がここにいるんだよ!? ここはお前みたいな無能が来ていい場所じゃないぞ。つかお前、二か月前にザックたちといっしょに死んだんじゃ……」


 驚きながらも、セイヤのことを無意識に見下していたナーズの言葉にユアとリリィが睨む。その目にはナーズに対する敵対心と侮蔑のまなざしが含まれていた。


 それはセレナたち生徒会メンバーも同じだ。


 ユアとリリィは、セイヤの横からセイヤは無能じゃないと言いたげな表情でセイヤに抱き着く。その光景を見たナーズは、全く状況が理解できていなかった。


 そんなナーズのことを放置して、カオルが話を進める。


 「あなたがアルセニア魔法学園のリーダーであるキリスナ=セイヤ選手ですね?」

 「そうだ」

 「はっ? アンノーンがアルセニア魔法学園リーダー!? カオル先輩それは一体何の間違いですか。

  アンノーンみたいな無能がアルセニア魔法学園のリーダーとか嘘に決まっているじゃないですか。それにこいつはセナビア魔法学園の生徒ですよ」


 思っていることを次々と口から発するナーズに対して、アルセニア魔法学園の女性陣たちはいい顔をしない。それはカオルも同じだった。


 「ナーズ、いくらなんでも失礼ですよ」

 「でもこいつは俺たちのクラスで落ちこぼれだった魔法師で家柄もない……」

 「家柄ならある……セイヤは私の婚約者……」


 ナーズに対して、そう言ったのはユアだ。


 ユアの発言を聞き、ナーズは驚いて言葉を失う。それはかつて自分たちがアンノーンと蔑んでいた魔法師が、特級魔法師の婚約者になっていることもだが、なにより信じられなかったのは、ユアがセイヤに見せる顔が特別な顔だったことだ。


 ユアはセイヤに惚れている。ナーズは瞬間的に、そのことを理解したが、信じることができない。


 「あっ、ありえない……だってアンノーンは魔法もろくに使えない雑魚だぞ? そんな落ちこぼれがユアさんの婚約者なんて……」

 「セイヤは強いもん!」

 「そうですわ。セイヤ君はアルセニア魔法学園最強と言っても過言じゃないでしょう」

 「そうよ、セイヤは強いんだから」

 「セイヤ先輩は私の師匠です」


 次々と美少女たちにセイヤのことを肯定されて、理解することができないナーズは、まだセイヤの悪口を言おうとした。


 「だってこいつはずっといじめ……」


 セイヤがずっと虐められていたと言おうとしたナーズだったが、次の瞬間、ナーズのことを謎の重力と圧迫感が襲う。


 「いい加減黙れ、ナーズ」

 「ひぃぃ」


 そんな声を上げながら、ナーズは自分のことを睨むセイヤを見た。その姿はナーズの知っている落ちこぼれ魔法師ではなく、歴戦の魔法師のような雰囲気を纏っている。


 「おっ、お前は本当にアンノーンなのか?」


 その言葉は、無意識のうちにナーズから漏れた。


 実を言うと驚いているのはナーズだけではない。ナーズと一緒に来ていたカオルも、セイヤの変化に驚いていた。


 カオルは直接セイヤと面識はないが、セナビア魔法学園に通っている以上、セイヤの噂は聞いていた。


 魔法もろくに使えない上に、自分の出生や一族もわからない無知な魔法師。


 関わることを良しとされない存在、近くにいても無視することが一番いい。セイヤは上級生の間でそのように言われていた。


 しかしカオルの目の前にいるセイヤはどうだろう。魔法がどれくらい使えるかはわからないが、纏っている雰囲気や顔から感じる自信を見る限り、かつて聞いた噂とはかなり違っている。


 それにモーナの言ったアルセニア魔法学園最強という事も嘘ではないだろう。


 もし昔のセイヤのことを良く知っていたなら、自分もナーズのようになってしまうのではないか、と思うカオル。


 そんな二人に対して、セイヤが言う。


 「わかっていると思うが、俺が生きていることは誰にも言ってはいけない」


 それは代表選手たちの情報を守るための守秘義務であり、カオルとナーズは守らなければならない義務。


 「わかっているわ」

 「あっ、ああ」


 素直に答えたカオルと、どこか納得していないナーズ。二人はその後、ちょっとした連絡事項を伝えて、コロシアムを出た。


 そしてセナビア魔法学園に戻る途中。


 「ナーズ、彼のことは口外禁止よ」

 「わっ、わかっていますって。それにしてもなんでアンノーンが……」


 セイヤが生きていることにも驚きだが、なにより性格や纏っている雰囲気が変わっていることに驚いているナーズ。そんなナーズにカオルが言う。


 「これはずっと連絡係を務めている私の勘だけど、今年のレイリア魔法大会は荒れるわ。それもかなり」


 二人はそんな話をしながら、セナビア魔法学園に向かって歩く。


 そしてカオルの勘は思わぬ形で実現することになるのであった。


 いつも読んでいただきありがとうございます。今回ついにオルナの街でかつてのクラスメイトと再会を果たしたセイヤ。その相手はナーズでした! みなさん当たったでしょうか? ちなみにナーズが出てきたのは一章の不穏な街の一文だけです。覚えている人がいたら逆に驚きだったり……(笑)


 さて今回久しぶりに? 出てきたナーズですが、想像以上にイタイ少年になってしまいました。本当ならもっと普通の子だったのに(^^;) まあ、なってしまったものは仕方ない……ということでお願いします。


 そして次はオルナの街でのセレナとアイシィのデートをお送りしたいと思います。レイリア魔法大会までのつかの間の日常です。


 それでは次もよろしくお願いします。


 それと誤字脱字報告をしてくれる方々、いつも本当に助かっております。ありがとうございます(*^▽^*)

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