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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
4章 レイリア魔法大会編
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第128話 それぞれの課題(下)

 「ここからが問題だな。俺はお前ら生徒会メンバーの実力を詳しくは知らない。もし俺の言うメニューに不満があるなら、先に言っておいてくれ」


 ライガーはそう前置きをしたが、特級魔法師であるライガーの言葉に文句を言えるほど生徒会メンバーは強気でもない。三人は苦笑いしながら、頷くしかなかった。


 「まずはモーナだが、お前は新しい武器があるだろ?」

 「はい、魔晶石が七個付いた」


 そう言ってモーナが取り出したのは、セイヤがブロードの魔王の館で見つけた魔晶石が七個付いた大きな杖。


 「保存する魔法は決まったか?」

 「はい、一応」

 「そうか、なら今日からは七つの魔晶石をうまく使えるように、実践に移ってもらう」

 「はい」


 ライガーは力強くうなずいたモーナを見て、ニヤリと笑う。


 「相手だが、モーナの練習相手は俺だ」

 「はい。…………はい!?」


 つい頷いてしまったモーナだが、すぐに驚きの表情になる。無理もない、なぜならモーナの練習相手は普段相手にもすることができないこの国に十二人しかいない特級魔法師の一人なのだから。


 いくらレイリア魔法大会の練習相手だからといって、特級魔法師を使うなどおこがましいにも程がある。


 「そんな、私ごときが特級魔法師の相手なんて……」

 「気にするな。今の俺は特級魔法師ではなく、アルセニア魔法学園の学園長だ」

 「でも……」


 どう答えていいかわからず、口籠ってしまうモーナ。いくらライガーがアルセニア魔法学園の学園長代理だからと言っても、特級魔法師には違いない。なので、やはり相手をするとなると気が引けてしまう。


 「でもじゃない。お前は今まで強敵相手の時はサポートに徹してきたが、レイリア魔法大会では完全にサバイバルだ。

  もし味方に会えなかったとき、自分で自分の身を守る必要がある。それに今は昔と違い魔、晶石が七個付いているんだ。強力な攻撃魔法も保存できるだろ」

 「確かにそうですが……」

 「それに俺はこの国でもトップクラスのスピードを誇る。そんな相手を倒せるようになったらレイリア魔法大会に出てくる魔法師程度簡単に見切れる」


 たしかにライガーの言うことは正しいが、モーナはいまいち気が引けてしまう。


 「特級魔法師とやれる機会など、そうそうないぞ」

 「うぅ~、わかりました。やりますわ」

 「それでいい。なら空いているスペースで待っていろ」

 「はい」


 モーナは自棄になりながら、空いているスペースへと向かう。


 「じゃあ次はセレナだ」

 「はい」

 「お前の場合はまだ迷っていてな……どっちがいいか選んでくれ」

 「はっ、はい」

 「最初は、魔力の質を高めた弾を撃てるようになるか、そしてもう一つは『フェニックスの焔』を使えるようになるかだ」


 ライガーの言葉に息をのむセレナ。一つ目の選択肢は事前に予想していたものだが、二つ目の選択肢は全く持って予想していなかった選択肢。


 今の時点で、『フェニックスの焔』が必要かと聞かれれば答えはノーだ。


 レイリア魔法大会は特別な結界が張ってあるため選手が死ぬことはない。だからレイリア魔法大会で『フェニックスの焔』を使うことはほぼない。


 昔までのセレナだったら、即答で前者を選んでいただろう。しかし今のセレナは暗黒領を経験し、友人の死も体験した。もし次に同じようなことが起きたとき、近くにまたセイヤがいるとは限らない。


 今は必要ないかもしれないが、後々必要になってくるかもしれない。


 だからこそ、セレナは答える。


 「私は、『フェニックスの焔』を使えるようになりたいです」

 「わかった。なら特別講師を呼んである」

 「特別講師ですか?」


 セレナの質問に視線を向けて答えるライガー。ライガーの視線の先にいたのは、


 「お母さん!?」

 「そうよ、セレナちゃん」


 レイリア魔法大会の応援の為に駆けつけてきたモカだった。モカは三日前にセレナと再会してから、すぐに体調がよくなり、絶好調と言ってもいいくらい元気になっている。


 「やはり『フェニックスの焔』を使えるようになるには、『フェニックスの焔』の使い手に頼むのが一番だ」

 「じゃあお母さんが教えてくれるの?」

 「そうよ。本気を出したお母さんは厳しいから覚悟しておくことね」

 「わかったわ」


 二人はそのまま空いているスペースに移動して『フェニックスの焔』の修業を始める。


 残ったのはセイヤとアイシィ。


 ライガーが次に呼んだ名前はセイヤだった。


 「セイヤ、お前は何かしたいことがあるか?」

 「俺か?」

 「ああ、そうだ。お前に関してはどの練習をすべきか、俺にはわからない」


 ライガーはセイヤに何をさせるべきか決めかねていた。


 セイヤはかつて落ちこぼれ魔法師であったため、どのようにすれば勝てるかなどを必死に考え研究してきた。


 その結果、異端の力を取り戻してからも基本的に考えて戦っており、自分の課題などもよく分かっている。


 なので、ライガーにもわからない課題がセイヤにはわかっていたりするため、ライガーが言うより、セイヤが自分で取り組んだ方がいいという事になったのだ。


 「俺は別にないな」


 セイヤの言葉は嘘だ。


 セイヤには試したいことや、やらなくてはいけないことがたくさんある。しかしそれはこの国で行うにはあまりにも危険すぎるため、やるなら暗黒領に出る必要があった。だから今できることは特にない。


 その答えを聞いたライガーが再びニヤリと笑みを浮かべて言う。


 「なら、アイシィの練習相手になってくれ」

 「俺が?」

 「そうだ」


 不思議そうに聞くセイヤに、ライガーが説明をする。


 「アイシィ、お前には大きな課題がある。何かわかるか?」

 「大きな課題ですか?」


 課題と言われれば、たくさんあるが、大きな課題と言われると、わからないアイシィ。


 「アイシィの大きな課題は中途半端なことだ」

 「中途半端ですか?」

 「なるほどな」


 わからないと首をかしげるアイシィと、何かを納得したようなセイヤ。分かっていないアイシィに対して、セイヤが説明をする。


 「アイシィはいつも、どんな武器を使う?」

 「武器ですか? 剣とか槍とか弓を状況に応じて使い分けます」

 「ああ、そうだ。ならどの武器が、一番自信がある?」

 「自信ですか? しいて言うなら、剣です」

 「そこだよ」


 セイヤの言葉にハッとしながら、理解するアイシィ。


 「今のアイシィはよく言えば、状況に対応できるいい魔法師だが、悪く言えば自分の形を持っていない中途半端な魔法師だ。

 もし相手が何かしらの武器を極めていた時、今のアイシィでは対等に戦うことができない。対等に戦うためには、アイシィも自信を持って得意と言えるような武器が必要だ」


 それこそがアイシィの課題だった。


 「セイヤの言う通り、今のアイシィには個性が見えない。だからこそ、個性を確立するんだ」

 「なるほど」

 「そこでアイシィにはセイヤと戦って、しいて言うなら得意な剣を、自信を持って得意な剣に変えてほしい」

 「わかりました」


 アイシィは力強くうなずき、セイヤの方を見る。


 「セイヤ先輩、お願いします」

 「こっちこそ頼む」


 二人はそういうと最後のスペースに向かって練習を始める。


 こうしてアルセニア魔法学園の代表たちの新たな練習が始まった。


 剣とレイピアをぶつけ合うアルナとユア。

 母親のモカから『フェニックスの焔』を教わるセレナ。

 高速で移動するライガーに攻撃を当てようとがんばるモーナ。

 双剣ホリンズを使うセイヤと互角な戦いを繰り広げるアイシィ。


 それぞれが自分の課題に撃ち込んでいる中、一人だけ座りながら瞑想する少女がいた。リリィだ。


 リリィは割り振られスペースの中心で、座禅を組んで静かに目を閉じている。彼女の周りには少量だが水が浮遊していた。

 

 この時、リリィは自分の深層心理にいた。


 まるで水の中に居るような感覚だが、不思議と息は苦しくない空間。意識だけが入ることの許された空間に、リリィはいた。


 しかしそこには美幼女のリリィだけでなくもう一人のリリィの姿もあった。


 大人バージョンのリリィは美幼女のリリィが来るのを見ると、いつも通り妖艶な雰囲気を纏いながら聞いた。


 「あら、珍しいわね。あなたの方から私に話しかけてくるなんて」


 大人バージョンのリリィは妖艶雰囲気を纏いながら、面白そうにそう言った。美幼女のリリィは、そんな大人バージョンのリリィに対して、いつもとは違うしっかりとした感じで言う。


 「リリィは思い出したよ。お姉ちゃんが本当はリリィじゃないことを。水の妖精ウンディーネは元々リリィ一人で、お姉ちゃんは外からきた存在って」


 語られる衝撃の事実。


 「そうね、確かに私は元々水の妖精ウンディーネではないわ。でもそんなことはセイヤ君から創魔記の話を聞いた時から気づいていたでしょ? なのになぜ、今になってその話を持ち出したの?」


 大人バージョンのリリィが言う通り、美幼女のリリィはモカ救出の際に暗黒領でセイヤが話した創魔記を聞いた瞬間にすべてを思い出していた。


 大人バージョンのリリィは本当はリリィではなく、別の存在だと。


 しかし美幼女のリリィは、そのことについて触れることはなかった。


 「今までは別にお姉ちゃんが誰であろうと、関係なかった」

 「なら今は違うのかしら?」

 「うん! 今は違うよ。だってお姉ちゃんはリリィじゃないのに、リリィの力をうまく使っている」

 「なるほどね」


 今の受け答えで、大人バージョンのリリィは美幼女のリリィが何を求めているのかを理解する。


 「つまりこの体に住んでいる分、家賃を払えってことよね?」

 「そう!」


 自分の指導者が見つからない美幼女のリリィは考えた。自分よりもウンディーネに詳しく、その力を上手く使える者の存在を。


 答えはすぐ近くにいた。


 水の妖精ウンディーネではないにも関わらず、水の妖精ウンディーネの力を本当のウンディーネである美幼女のリリィよりも、うまく使う存在。


 まさにその存在は教えを乞うにはもってこいの存在だ。


 今のリリィにとって、大人バージョンのリリィが何者かなんて関係ない。いま必要なのは、セイヤと一緒に戦うための力であり、そのためには誰であろうと利用してやると考えていた。


 「わかったわ。私の修業は厳しいわよ?」

 「大丈夫! セイヤのためだから!」

 「その意気込みがどこまで続くか楽しみにね」


 大人バージョンのリリィはそう言いながら、楽しそうに笑う。美幼女のリリィは初めて誰かのために強くなろうと決心して、修業を始めるのであった。


いつも読んでいただきありがとうございます。 次は久しぶりにセナビア魔法学園の生徒が出てきてセイヤと再会したりする予定です。はたして一体どの生徒が出てきてセイヤと再開するのか?(暇な時にでも予想してみてください。すでに作中に出てきています)


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