第127話 それぞれの課題(上)
レイリア魔法大会の開幕を一週間後に控えたオルナの街では、数多く人で賑わっていた。
大会を観戦するため観光客、観光客を目当てにした商人たち、違法な商人などを捕まえる教会の職員たちなど様々だ。中には大会に参加する代表選手たちをサポートするために来ている人々もいる。
しかしその人ごみの中に、代表選手たちの姿はない。それもそのはず、なぜなら代表選手たちは今頃、大会に向けてオルナの街やその近くの練習場で、直前強化合宿を行っているから。
レイリア魔法大会の代表選手たちは、他の学園に知らされることはない。それは事前に対戦相手たちの情報を集めることを禁止すると同時に、初対面の相手とどう戦うかといった力を見るためでもある。
代表選手たちを魔法で異空間の特設エリアにランダムで転送するレイリア魔法大会では、いつどこで誰と当たるかわからない。もしかしたら転送先ですぐに仲間と会えるかもしれないが、逆に転送されてすぐに敵とぶつかるかもしれない。
そんな時、初めて戦う魔法師たちとどう渡り合うのか、またどうやって仲間たちと会うのか、などといった戦闘能力以外の状況に適応する力などを見るのも、レイリア魔法大会の醍醐味の一つなのだ。
なので各学園は街に何かを調達しに行く時などは、情報が漏れないように、代表選手以外の人たちを使って調達に行く。それがいわゆる、サポートメンバーたちである。
けれども、中にはあえて代表選手たちを街で目撃させることによって、この選手は大会には出ないと思わせる学園もある。
いくら参加選手の情報が公開されないからと言っても、去年の大会の参加者などはすでに顔を知られていたりするため、各学園もその選手に対しての対策はする。
なので、場合によっては情報戦になったりもするのだ。といっても、そんな情報戦をまるで嘲笑うかのように君臨する選手も、昨年などにはいた。
現在は聖教会で十三使徒の一人をやっているレアルのことだ。彼はその圧倒的な力で、事前に集められた情報を無意味にするほどの力を見せた。
しかしそんな選手は稀なため、各学園は今年も情報収集に力を入れている。
そして去年とメンバーが半分以上違うアルセニア魔法学園。
彼らはオルナの街の中にある野球場ほどのスタジアムで、直前強化合宿を行っていた。すでに大会出場メンバーは全員そろっている。
「さて、今日も合宿を始めるぞ」
アルセニア魔法学園の学園長代理であるライガーが、そう言いながらスタジアムに集まった代表選手たち六人を見回す。
アルセニア魔法学園の代表は
キリスナ=セイヤ 魔法学園二年生
ユア=アルーニャ 魔法学園二年生
リリィ=アルーニャ 魔法学園訓練生
セレナ=フェニックス 魔法学園二年生
モーナ=テンペスター 魔法学園三年生
アイシィ=アブソーナ 魔法学園一年生
の計六名だ。
「それで今日のメニューだが……おいユア、それにリリィ、いい加減人の話を聞くときはセイヤから離れろ」
今日の練習メニューについて説明しようとしたライガーだったが、話を止めて二人のことを注意する。ライガーの前には、セイヤの両腕に離さないとばかりに抱き着くユアとリリィの姿があった。
ライガーもこれがセイヤが帰ってきた日なら何も言わないのだが、もうセイヤが帰って来てから三日も経っている。さすがにそろそろライガーも怒らずにはいられなかった。
しかし当の二人はというと、ライガーの話が聞こえないほど夢中になってセイヤのことを感じている。その様子にはセイヤも苦笑いしかできず、周りで見ている生徒会メンバーたちは、それぞれ違った表情をしていた。
セイヤのことを欲望のままに感じている二人の姿を、羨ましそうに見るセレナ、なぜかセイヤのことを色っぽい目で見て、今にもハァハァと言い出しそうなモーナ、そしてそんなモーナのことを不気味な目で見るアイシィ。
三人は久しぶりに再会し、それぞれの心に変化が訪れていることを理解した。
「お前ら、いい加減にしろ」
「ユア、リリィ、もう練習だから続きは後でな」
ライガーの怒りが絶頂になる前にセイヤが二人のことを注意する。
「わかった……」
「むぅ~後で絶対だからね! 絶対だよ!」
ユアとリリィは不満げな表情をしながらも、渋々セイヤから手を離す。二人は練習の大切さは分かっているため、すぐに表情を切り替えた。
ユアとリリィがセイヤから離れたことを確認すると、ライガーが練習の説明を始める。
「さて、今までは全員の能力を把握するために模擬戦ばかりしていたが、今日からは個別メニューに入る」
ライガーの言う通り、セイヤたちが合流してから三日間は代表選手同士たちの模擬戦を行っていた。
これは代表チームの監督でもあるライガーが、ダクリア二区から帰ってきたユアとリリィや生徒会メンバーの実力を知らないため、実力を把握するために行われていた。
三日間の模擬戦を見て、ライガーは個別のメニューを作ったのだ。
「まずユアだが、お前の課題はわかっているな?」
「雷属性……」
「そうだ」
ユアの課題は雷属性の習得。
それはダクリア二区での暗黒騎士ことシルフォーノ=セカンドとの戦いでわかったこと。今のユアはもう成長するができない。
言ってしまえば、ユアの光属性や聖属性はカンストしてしまい、強くなるにはユアが本当の遺伝を引き継ぐ、雷属性が必要だ。
それも風属性の派生魔法の雷属性ではなく、風属性と火属性の複合魔法での雷属性。
そんなユアのために、ライガーが準備した個別メニューとは、
「入ってくれ」
「はい」
ライガーがスタジアムの端にある扉の方に呼びかけると、セイヤたちが聞いたことのある声が返ってくる。
「やっほーセイヤ君、ユアさん、久しぶり」
元気よく入ってきたのは、オレンジの髪の元気な少女、アルナだった。セイヤは久しぶりに会う教室の隣人に、驚きの表情を浮かべる。
「ユアはこれからずっとアルナと戦ってもらう。しかし光属性の使用は禁止だ。お前が使っていいのは火属性と風属性、あとはその両方を複合させた雷属性の魔法だけだ」
「わかった……よろしく、アルナ……」
「よろしくね、ユアさん」
二人は挨拶を終えると、スタジアムを五つに区切られたスペースの一つに向かい、さっそく戦闘を始める。セイヤはアルナにいろいろ聞きたいことがあったが、それは後でにしようと考え、再びライガーの説明を聞いた。
「さて、次はリリィだ。リリィは説明しなくても、わかっているな?」
「うん! あとは自分で頑張る!」
「なら始めろ」
「わかった!」
リリィはそういうと空いているスペースに移動する。しかしそんな説明ではセイヤが納得できない。
「おいライガー、あんな適当な説明でいいのか?」
「ああ、あいつに魔法を教えることができるやつは、俺の知る限りいないからな。それはリリィ自身もわかっていたことだ」
「だからって……」
「大丈夫だ。事前にリリィから修行の方法は聞いている。あいつが自分でやりたいことがあると言ってきたのだ。だからお前はあいつのことを信じろ」
ライガーの言う通り、妖精ウンディーネであるリリィに魔法を教えられることができる人間は、この世界でもほとんどいない。
それは妖精であるリリィが一番わかっていることで、その解決方法も知っていた。だからリリィは、事前にライガーに自分でやるから大丈夫だと言っていたのだ。
「そうか」
「ああ、愛人なんだから信じてあげろよ。秘密を守るのは信頼関係が必要だぞ」
「それは今、関係ない」
セイヤに突っ込まれたライガーは説明を続けるのであった。
いつも読んでいただきありがとうございます。今回から話の舞台をレイリア魔法大会が行われるオルナの街に移して、いよいよレイリア魔法大会が始まります。考えてみれば四章はレイリア魔法大会編だというのに、ここまで来るのにいったいどれだけかかったことやら……
さて気を取り直して、いよいよレイリア魔法大会が始まります!(開幕はまだちょっと先だったり……)
それでは次もよろしくお願いします。




