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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
4章 レイリア魔法大会編
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第125話 思わぬ結末

 突如として現れたバジル隊の小隊長、グリスとエリエラによって、セイヤとレアルは拘束されてしまった。


 セイヤは自分の体に巻きつく『火鎖(ひぐさり)』を解こうとしたが、計算されたかのように巻きついているため、解けない。


 それはレアルも同じようで、彼もまた、自力で解こうとするが解けず、『火鎖(ひぐさり)』に対して魔法を行使する。しかしレアルの魔法は一向に発動しない。


 「魔封石か……」


 レアルの言う通り、エリエラの行使した『火鎖ひぐさり』には魔封石が混じっており、拘束した対象に魔法を使わすことを許さないものだった。


 下手をすれば自分自身の魔法に対して干渉してしまうかもしれない魔封石を、見事に使うエリエラはさすがバジル隊の小隊長というところか。


 そんな二人に対して、グリスが近づく。


 「レアル殿、一体何をお考えですか?」

 「何をとは?」


 グリスの質問の意味がよく分かっていないレアル。普段のレアルならわかっていることだが、今の彼は、長年求め続けた好敵手(ライバル)の出現で冷静さを失っていた。


 そんなレアルの様子を見たグリスがため息をつきながら言う。年齢的にはグリスの方が年上だが、立場的にはレアルのほうが年上のため、敬語を使うのはグリス。


 「何って、どうしてこんな街中で魔法使ったのか、それも本気の戦いをしているのかを聞いているのです。十三使徒はそう簡単に戦うことは許されていません。ましてや相手がレイリアの魔法師なら尚更です。一体どう説明するのですか?」


 十三使徒はそう簡単に己の力を他人に見せびらかしてはいけない。これは義務ではないが、十三使徒内での暗黙の了解であると同時に、十三使徒の威厳を保つためだ。


 十三使徒が力を使っていいのは、大事件や凶悪な事件の時だけ。平常時に力を、それも本気を使うことは褒められることではない。グリスはレアルに対してそう言いたいのだ。


 グリスに注意されたレアルだが、彼にも立派な言い分がある。


 「そこにいる男はつい先ほど七賢人から異端認定を受けた魔法師だ。十三使徒として戦わない理由はない」

 「それは本当ですか?」

 「ああ」


 レアルの言葉を聞き、セイヤのことをまじまじと見るグリス。グリスの目にはセイヤが異端認定を受けるような魔法師には見えず、むしろ先ほどの戦いを見る限り、この国の貴重な戦力になるのではと考えていた。


 だがレアルが嘘をついているわけはないので、セイヤが異端認定を受けているのは本当であることを理解するグリス。確かにセイヤが異端認定を受けているなら、レアルが戦う理由にはなるが、それでも容認することはできない。


 なぜならそんな命令は七賢人たちからレアルに対して下っていないからだ。


 「それで、レアル殿に対して七賢人からの命令は出ているのですか?」

 「それは……」

 「出ていないのなら、立派な違反になります」


 グリスの言う通り、例えセイヤが異端認定を受けていようとも、七賢人からレアルに対してセイヤの捕縛、または討伐命令が出ていない限り、レアルはセイヤと戦うことはできない。


 グリスに指摘されて口ごもるレアル。


 「確かに命令は出ていないが、いずれ戦うなら早いに越したことはないだろう」

 「そんなことでは秩序が乱れます」


 レアルにそういったのはグリスではなくエリエラ。彼女の手にはセイヤとレアルを拘束する『火鎖(ひぐさり)』の先端が握られている。


 レアルの暴走が十三使徒の、聖教会の秩序を乱すことなど、レアルにもわかっていた。けれども、レアルの早くセイヤと戦いたいという欲望が彼の自制心を鈍らせていく。


 「だが……」

 「そこまでです」

 「ミコ?」


 言い訳をしようとするレアルを止めたのは、つい先ほどまで離れてところにいたミコカブレラ。彼は一瞬で二十メートルほどの距離を詰め、それと同時にレアルのことを拘束していた魔封石付きの『火鎖(ひぐさり)』を、一瞬で断ち切った。


 あまりの速さと効率の良さに、『纏光(けいこう)』を限界突破(オーバーリミット)状態で行使しているセイヤも、視認することができなかった。


 神速に対応する視界でも捉えられなかったミコカブレラの動きに、セイヤは驚愕する。


 「ミコカブレラ殿、あなたもレアル殿の教育係なら止めてください。いくらなんでもやりすぎです」

 「すいません、レアルが成長できるかもしれない貴重な機会だったもので」

 「それにしてもです。今回は被害がなかったからいいものの、ここら一帯の空間が軋んでいましたよ」

 「それは失礼。ここは私の顔に免じて、見逃してくれませんかね?」


 ミコカブレラはそう言いながら、注意してくるエリエラの目を見つめる。その目にはとても深い闇のようなものが感じられ、エリエラは飲み込まれそうになる。


 「わかりました。今回の件に関して俺たちは何も見なかったことにしますので、もうこんなことはやめてください」

 「ありがとうございます。レアル、帰りますよ」


 ミコカブレラは深々と一礼すると、体の向きを変え、路地裏に広場から出ようとする。レアルは名残惜しそうにセイヤのことを睨んでいたが、すぐにミコカブレラの後を追って広場から出る。


 「大丈夫か、エリエラ?」

 「ええ、ありがとう。助かったわ」

 「ああ、あいつは油断ならないからな」


 グリスに礼を言うエリエラ。


 そんな二人に対して、いまだエリエラの『火鎖(ひぐさり)』に拘束されているセイヤが言う。


 「俺のこと忘れていないか?」

 「あっ、悪い。忘れていた」

 「まって、今拘束を解く」


 エリエラはそう言って、セイヤのことを拘束していた『火鎖(ひぐさり)』を解く。やっと拘束を解かれたセイヤが、突如として現れた二人のことを見据える。


 「あんたらは一体……」

 「おっと、自己紹介がまだだったな。俺はグリス=グレイリア、聖教会に所属する魔法師で、十三使徒バジル=エイトが指揮する部隊の小隊長を務めている」

 「私も同じくバジル隊の小隊長を務めているエリエラボージュラル。さっきはいきなり拘束なんかして、ごめんなさい」


 バジル隊と聞き、セイヤはまず一安心をする。


 レアルと敵対していたことから、少なくともレアルの増援ではないことはわかっていた。だが、味方とも限らなかったため、完全には警戒を解かないセイヤ。


 「俺はアルセニア魔法学園所属の……」

 「キリスナ=セイヤだろ? 話はバジル隊長から聞いている。俺らは隊長の命令でお前のことを助けに来た」

 「助けに来た?」


 ここ最近バジルと連絡が取れていなかったセイヤは疑問に思う。なぜバジルはセイヤが聖教会に来ていて、先ほどのようなことに遭うことを想定していたのかと。


 「ええ、隊長は今アクエリスタンの自宅で謹慎中なの。それであなたが聖教会に行くという情報をライガー殿に聞いて、自分は動けないから私たちにあなたの手助けをするようにと命令したわけ」

 「そして来てみたら、まさかの十三使徒と戦っていたわけだ」

 「なるほど」


 セイヤは全てを理解した。


 自宅謹慎という言葉からバジルが現在、魔法を使用できない環境におり、セイヤの念話にも出られないと。そしてライガーが首都ラインッツで味方を手配してくれたのだと。


 「助かった。感謝する」

 「いいって、気にするな。ところでお前は一体何をやらかしたんだ? 十三使徒のそれも序列五位を呼ばせるなんて」

 「隊長から悪いやつではないと言われているけど、場合によっては私たちが捕まえなければならないかもしれないし……」

 「それが自分でもよくわからないんだ。ライガーから預かった書状を七賢人たちに渡して、気づいたら異端認定を受けていたんだ」


 もちろん嘘だ。セイヤは自分がなぜ異端認定を受けたのかを知っている。しかしそれは説明できることでもなく、グリスたちに説明してもいいものではない


 そんなセイヤの様子を見たグリスが、ふざけたように言う。


 「案外その態度で怒った七賢人たちが、不敬罪にでもしたのかな」

 「それはあんたも一緒だろ」

 「まあな~」


 グリスのふざけた態度によって、場は一瞬で和む。


 その後、セイヤはグリスとエリエラに礼を告げて別れた。二人は聖教会へと戻り、セイヤはセレナたちがいる宿へと戻る。太陽はすでに地平線に沈んでおり、あたりには魔晶石が埋め込また街灯が光だしていた。






 一方、グリスとエリエラの介入によって、せっかくの戦いを邪魔されたレアルはミコカブレラと素直に聖教会に引き返していた。


 聖教会へ戻る途中、レアルはセイヤとの戦いを邪魔されてふてくされており、ミコカブレラがレアルのことをなだめる。


 「キリスナ=セイヤ……今度会ったら絶対に倒してやる」

 「レアル、熱くなりすぎだ。君は十三使徒の一人であって、七賢人たちからの命令が無ければ動けない。下手なことをして十三使徒の権利を剥奪されるよりは、素直に命令を待つ方が賢明だと私は考えるよ」

 「でも……」


 ミコカブレラに言葉は的を得ていて正しい。しかしレアルにとって、セイヤは長年求め続けてきた存在であり、ついに見つかった好敵手(ライバル)だ。


 十三使徒といっても、十七歳の少年、力を持っていればその力を試したくなるのは必然。レアルはセイヤと戦いたいという欲望と、十三使徒としての仕事を全うしたいという思いに、葛藤する。


 「ミコ、なんかいい案はないのか?」

 「いい案ね」


 レアルが困ったとき、いつもレアルのことを助けてくれたのは教育係であるミコカブレラだった。


 ミコカブレラはレアルでは思いつかないような方法で、問題の解決を行い、レアルはいつの間にか、彼の考えが最善だと考えるようになっていた。


 「いい案かはわからないけど、十三使徒として、あの少年とレイリア魔法大会が終わる前に戦う方法はあるよ」

 「本当か!?」

 「でもあんまりオススメはしないけどね」


 ミコカブレラの思いついた方法は、違法ではないにせよリスクがあった。


 ミコカブレラ的に考えれば、ここで無理をするより、レイリア魔法大会が終わるのを待って、正式な命令を受けてからセイヤと戦うべきだと考えている。


 しかし教育係としての、彼のポリシーはすべての選択をレアルに選ばせるだ。


 自分はレアルに道を示すだけで、選ぶのはレアル本人。それが例えどのような未来になっても、その選択をしたレアルの責任になるだけ。


 ミコカブレラは常々そう考えてきた。


 しかし今回の案はそんなミコカブレラでも教えることが躊躇われるぐらいリスクが高い。その選択を選び、最悪の場合はレアルだけでなく、聖教会にまで損害が出てしまうかもしれない。


 本音を言えば、レアルには伝えたくはない。


 けれどもミコカブレラの役目は道を照らし、示すだけ。選ぶのはレアル。なので、ミコカブレラはレアルに伝える。彼が一刻も早くセイヤと戦う方法を。


 「レアルが今、命令に従わなければいけない理由は十三使徒だからだ。つまりレアルが十三使徒でなければ、聖教会は命令を出せない。そうだよね?」

 「ああ、そうだけど。もしかしてミコは俺に十三使徒を辞めろというのか?」

 「違うよ」


 レアルの纏う空気が一瞬だけ鋭くなるのを感じたミコカブレラは、にやりと笑みを浮かべながら否定する。


 「十三使徒を辞める必要はない。でも十三使徒でなければ命令を聞く必要がない」

 「どういう意味だ?」


 ミコカブレラの言いたいことをレアルは理解できなかった。彼の言っていることは、一見すると正しいが、ものすごい矛盾が生じている。


 「わからないか、レアル? 君が一時的にも十三使徒でなければいいんだよ」

 「一時的……まさか!?」

 「その通り。そうすれば君は七賢人たちに気を遣わず、堂々とあの少年に戦いを挑むことができる。けれど、それは同時に国民がどのような反応をするかというリスクもあるけどね」

 「ミコ! やっぱりお前は天才だ! 今すぐに準備をするぞ!」


 レアルの態度が急に変わったことを見たミコカブレラが、面白そうに笑う。


 「迷いはないのだね?」

 「もちろんだ。その方法を使わせてもらう」

 「ご自由に」


 二人はそんな話をしながら、夜の街に姿を消していくのであった。


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