第124話 好敵手
レアルの知るセイヤは、剣術の腕こそあるものの、魔法に関しての技術が皆無、本当に魔法師かと疑いたくなるようなレベルだった。
しかし今のセイヤはどうだろうか。
剣術の腕は分からないが、魔法の行使に要する時間や、行使のタイミング、戦闘に慣れた最適な動きに、無詠唱まで。レアルの知っているセイヤとは全く違っている。
セイヤが無詠唱で魔法を行使したことに、レアルは一瞬、魔晶石はを使ったのではと疑った。しかしセイヤからそのような兆候は感じられなかった。
それに魔晶石を介しての魔法行使の時間にしては短すぎだ。セイヤが本当に無詠唱で魔法を行使したのだと理解するレアル。
「お前は一体何をしたんだ……そんな力を一体どうやって……」
レアルの知る限り、魔法師が考えられないほど急激な変化をする方法は一つしかない。それは禁断の手であると同時に、倫理的にも問題のある人体実験。
「まさか……」
レアルはそこであることを思い出す。それは数か月前に多発した誘拐事件。
犯人は同じ十三使徒であるバジルの手によって解決されたと聞いているが、その中にはいまだ見つかっていない被害者が多数おり、セナビア魔法学園の生徒も含まれていたと聞いている。
聖教会はその被害者たちは全員死亡したと発表し、事件は幕を閉じたが、実際に遺体を確認したわけではない。
もし仮に被害者にセイヤが含まれていたとして、死亡したと発表している被害者が生きていることが全国に知られてしまったら、聖教会の責任問題になってしまうであろう。
そんな事態を防ぎたい聖教会は、事件の被害者であるセイヤを異端認定し、その存在を抹消しようとしているのではないか。
そう思ったレアルの中で、何かがカチッとはまる音がした。
「お前は、あの事件の被害者!?」
「……!?」
セイヤは予想外の言葉に驚く。なぜレアルが、あの事件にセイヤが絡んでいることを知っているのか、セイヤにはわからない。だが知られてしまった以上、闇属性についても嗅ぎ回られてしまうかもしれない。
それだけは防ぎたいセイヤは、今まで躊躇していたが、決心する。
先ほどから興味ありげなまなざしを向けてくるミコカブレラに対して、セイヤはあまり自分の手の内を見せたくなかったのだが、レアルと本気で戦う以上、そんなことは言っていられない。
「悪いが、本気で行くぞ」
「なに!?」
セイヤから放たれる異様なプレッシャーに、レアルは鳥肌を立たせる。セイヤが不当な異端認定を受けていると思ったレアルは、セイヤのことを助けたいと主張しようと思ったが、すぐにその考えを捨てた。
セイヤから放たれる威圧感、それはまさに本物の殺気だ。今まで人を殺めたことにないレアルにとっては、発することのできない殺気。レアルはその殺気を前に、不思議と笑っていた。
それは今まで自分が感じたことのない初めての感覚。
レアルの同世代で、彼に並ぶ強さを持つ魔法師は存在しない。それは昨年のレイリア魔法大会でレアルが突き付けられた現実であり、悲しい現実だ。
レアルといい戦いをする魔法師なら少しはいたが、それでも彼のことを心の底から熱くさせる存在はいなかった。
世代最強――――それは嬉しいようで寂しい称号。
「あいつには負けたくない」、「あいつに追いつきたい」、「あいつに勝ちたい」、そんな風に互いに切磋琢磨できる存在がいない強さなど、持っていても虚しいだけ。目標がなければ、何をすればいいのかわからない。
だからこそ、レアルは求めていた。自分に並ぶ強さを持ち、自分に心の底からの勝利に対する欲求を感じさせてくれる好敵手という存在を。
そして今、その存在がレアルの目の前にはいた。
異端認定を受けた聖教会の敵、聖教会によってその存在を抹消されそうな哀れな魔法師。そんなことなどレアルにとってはもうどうでもいい。
今レアルが望むのは、自分の目の前にいる圧倒的な威圧感を放つセイヤとの、本気のぶつかり合い。ただそれだけだ。
レアルは本気でセイヤとぶつかり合うため、自分で自分にかけた枷を外す。
セイヤは自分の秘密を知るかもしれない危険分子を倒すため、最初から全開出す。
二人の若き魔法師が同時に叫ぶ。
「封印解放」
「『纏光』限界突破」
次の瞬間、二人の姿に変化が訪れる。
剣を右手に握るレアルからは、まるで滲み出るかのように魔力があふれ出す。
それは彼に生まれたときから宿る才能。圧倒的な魔力量。普段は鍛錬の為にと、ミコカブレラに言われて抑え込んでいる魔力だが、その力を解放した時、レアルの持つ魔力量は通常の魔法師の百倍にもなる。
そんな魔力が、レアルからどんどんあふれ出している。
一方、両手に双剣を握るセイヤの体は、光属性の魔力を纏っており、その視界に色はない。
脳の情報処理を少しでも軽くするため、色を捨てたモノクロ世界で、セイヤはレアルから滲み出る魔力をひしひしと感じていた。
互いに睨み合う、圧倒的な魔力を宿す少年、と圧倒的な威圧感を放つ少年。二人はすでに十七歳という枠から外れた化け物同士だった。
二人の立っている路地裏の小さな広場全体が軋むような音を上げる。しかし二人はそんなことを気にしない。
互いの目に映るお互いの姿。二人は集中力を極限まで研ぎ澄ませる。
バチバチと空気が振動する中、先に声を発したのはレアル。
「行くぞ、アンノーン。いや、キリスナ=セイヤ!」
「来い、レアル=ファイブ。いや、レアル=クリストファー!」
次の瞬間、二人はほぼ同時に動き出した。
ほぼ同時に動き出した二人だが、スピードは圧倒的にセイヤの方が速い。神速で斬りかかるセイヤのホリンズに、反応できないと悟ったレアルは剣で防ぐことを止める。
「はぁ!」
「ちっ……」
神速でレアルに斬りかかったホリンズだが、レアルの体に触れる直前、何かによって弾き返される。
それは無秩序に放出されたレアルの魔力。常人よりもはるかに多い魔力量を持つレアルが、無意識に放出している魔力だ。
その魔力はとても濃密で、神速の剣であろうとも弾くことができる魔力の障壁になる。
無秩序に放出された魔力の障壁により、ホリンズを弾かれたセイヤは一瞬だけバランスを崩してしまう。
そんな一瞬の隙を十三使徒であるレアルが見逃すはずもなく、そのまま剣をセイヤに向かって、思いっきり振り下ろす。
「『光壁』」
セイヤはとっさに『光壁』を行使して、レアルの攻撃を防ごうとする。しかし壁を展開するのはレアルの持つ剣の軌道上ではなく、剣を握る腕の手首の軌道上。
剣の軌道上に展開してしまえば、振り下ろされた剣によって、一瞬で砕け散ってしまうが、手首の軌道上に展開すれば砕け散ることはない。
レアルは『光壁』が手首の軌道上に展開されたのを見ると、すぐに剣の軌道を変えて、セイヤに斬りかかろうとする。
しかし剣の軌道を変える時間を、セイヤが待ってくれるわけもなく、セイヤは後ろに跳躍してレアルと距離をとる。
二人の距離が一瞬で十メートルほど開く。
「フフフ、ハッハッハァァァ。これだ、これだよ、俺が求めていたのは! 最高だぞ、キリスナ=セイヤ」
「ちっ、厄介な相手に目を付けられたぜ……」
かつてないほど自分のことを熱くしてくれるセイヤに対し、嬉しそうにするレアル。一方、セイヤはレアルが放つ無秩序に放出された魔力の障壁の対応を考えていた。
生半可な攻撃では、レアルの無秩序に放出された魔力の障壁を打ち破ることはできない。セイヤはそう確信すると、両手に握るホリンズに光属性の魔力を纏わせる。
「次で決めてやる」
「それはこっちのセリフだ」
セイヤがホリンズに光属性の魔力を纏わせたのを見て、レアルは手に握る剣に光属性の魔力を纏わせる。
「死ぬなよ、キリスナ=セイヤ」
「ふん、寝言は寝て言え」
小細工は要らない。レアルはセイヤスピードに着いて行くことができず、セイヤもレアルの無秩序に放出された魔力の障壁を破ることはできない。
なら全力の一手で決めるしかない。二人はそう決意する。
周りの空気が、先ほどよりもさらに軋むが、二人はそんなことを気にしない。
凄まじい集中力の中、二人は同時に動いた。
レアルは光属性の魔力を纏わせた剣をセイヤに向けて思いっきり振り下ろし、セイヤは光属性の魔力を纏わせたホリンズ体の前に突き出して、レアルに向かって神速で突っ込む。
「『光の波動』」
「『神速の突き』」
振り下ろされる膨大な魔力を纏った剣と、神速で敵を貫こうとする双剣。
今まさにその二つがぶつかり合おうとした、その瞬間だった。
「『火炎暴風』」
「『火鎖」
突然、セイヤとレアルの間に巨大な炎の竜巻が出現し、二人の動きを鈍らせる。そして動きが鈍った二人のことを、一瞬で『火鎖』が拘束する。
「こんな街中で戦われたら困ります。レアル殿」
「ミコカブレラさんも見てないで、止めてください」
そう言いながら姿を現したのは、茶色い短髪をした強気そうな男、グリス=グレイリアと赤みがかった髪をした女性、エリエラ=ボージュラルだった。
彼らはどちらも、聖教会に所属するバジル隊の小隊長たちだ。
いつも読んでいただきありがとうございます。四章では、一章で出て来たキャラをバンバン出していくので、よろしくお願いします。




