第122話 思わぬ再会
場所は変わり聖教会近くの大通り。
そこには金髪の少年と、その少年に詰め寄る赤髪の少女と水色の髪の少女、そしてそんな三人を少し離れたところから無表情で見守る、緑の髪のメイド姿の女性がいた。
「そんな近づくな、歩きにくい」
「えっ? あっ、ごめん……」
金髪の少年にそう言われ、自分の顔が少年の近くにあることに気づくと、赤髪の少女は顔を赤くして離れる。しかし水色の髪の少女は赤髪の少女とは違い、質問を続ける。
「どうして先輩がここに来られたのですか?」
水色の髪の少女、アイシィが言っていることは、どうしてセイヤが自分たちを迎えに来られたのかだ。
セイヤからライガーの新しい立場や二人を助けた手段を聞いたが、アイシィは納得していなかった。
二人が捕らわれている間の対応を見る限り、聖教会は二人のことを外に出す気はなく、それはたとえ特級魔法師の要求でもできないと考えていた。
しかし現実には、二人は聖教会から解放されて、このようにセイヤと歩いている。セイヤは事情を説明しようにも、自分でも何が起きたのか理解していないため、説明ができなかった。
「だからライガーの書状で脅したって、言っているだろ」
「たとえそうだとしても、おかしいです」
「何がだよ?」
「なんで先輩が来たかです」
「はっ?」
セイヤはアイシィの言っていることが理解できずに、そんな阿保らしい声を出してしまう。セイヤは意味が分からず、アイシィに聞く
「どういうことだ?」
「簡単なことです。なぜ先輩がこの時期にここにいるのかです。先輩はアルセニア魔法学園の代表ですよ? ここにいていい訳がないです」
「そういう事か」
セイヤはアイシィの言いたいことをやっと理解する。
彼女はアルセニア魔法学園の代表として、レイリア魔法大会に出場するセイヤが、なぜここにいるのかと聞いているのだ。
アイシィからしてみれば、代表であるセイヤは今頃、他の代表たちといっしょに連携などを確認しておく必要がある。つまりここにいていいわけがない。
アイシィの言いたいことがわかったセイヤは、笑いながら答えた。
「なぜ俺がここにいるかって? それは代表メンバーのスカウトに来たからだ」
「それってもしかして……」
「そうだ、アイシィ。ユアたちと話し合った結果、アイシィにアルセニア魔法学園の代表として一緒にレイリア魔法大会に出場してほしい。もちろんセレナも一緒にだ」
「えっ!?」
驚きの声を上げたのは、顔を赤くしてセイヤから離れていたセレナ。アイシィは言われたことがよく分かっていないようで、首をかしげている。
「あれ、嫌だったか? ちなみにモーナは出場してくれるらしいぞ」
「いえ、ちょっと驚いただけです。もちろん喜んで受けます」
「そうか、よかった。セレナはどうだ?」
「私!?」
急に聞かれて、すぐに答えられないセレナ。
以前までの彼女であったら喜んで参加と即答していたであろうが、ダクリアを経験した今は違う。思い出されるダクリア二区でのザッドマンとの戦い。
セレナたちはなんとか勝ったものの、命と命のやり取りをする本当の戦いを経験した。
それを経験してしまったセレナは、戦いに対する恐怖心と大切な人を失う恐怖心を身をもって体験した。恐怖心に怯える自分が出てもいいのか、そんな考えがセレナの頭をよぎる。
そんな彼女の手が誰かに握られる。
「アイシィ?」
「出ましょう、先輩。きっとそこに答えがあるはずです」
セレナの手を握っていたのはアイシィ。そんな彼女を見てセレナは思い出す。
アイシィも同じ相手と戦い、セレナよりもつらい死の恐怖を体験したはずだ。しかし彼女の目に迷いはなく、レイリア魔法大会に出場することを決めている。
セレナは確信する。
自分が追い求めるのは誰かを守れる強さだと。そしてその強さは、具体的には分からないものの、レイリア魔法大会に出場すれば答えがわかるかもしれない。
セレナは静かに息を吸うと、力強く答えた。
「出るわ、レイリア魔法大会に」
「そうか。これで代表六人が揃ったな」
セイヤはセレナの答えを聞いて、安心したように笑みを浮かべる。これでレイリア魔法大会に出場するアルセニア魔法学園の代表六人が決定した。
あとは先にオルナの街に入っているであろうユアたちとの合流だ。
セイヤは後ろに着いて来ているメレナに聞く。
「合宿地は分かったか?」
「ああ、いつでもいけるよ」
「そうか。なら今日は一日休んで、明日出発だ」
「合宿地?」
セイヤとメレナの会話に首をかしげるセレナとアイシィ。セイヤは二人に説明をする。
「まだ言ってなかったな。俺たちはこれからラインッツで一泊した後、アクエリスタンには戻らず、今年のレイリア魔法大会の開催地、セナビア魔法学園があるウィンディスタン地方オルナの街に向かう。そしてそこで直前強化合宿だ」
セイヤの説明を聞き、二人が顔を輝かせる。
「直前強化合宿……」
「いいわね、ノッてきたわ!」
「そうか、なら今日は宿で休むから宿に向かうぞ」
合宿と聞いてどこか嬉しそうにするセレナとアイシィ。
四人はその後、今晩泊まる宿へと向かうことになった。セイヤたちが事前にとっておいた宿だ。
日が沈みかけ、今日はこのまま何もないと思われていたセイヤたちだったが、宿に向かう途中、あることに気づく。
「つけられてるな」
「はい」
「ええ」
「二人といったところだね」
セイヤたちは歩きながら、自分たちが何者かにつけられていることに気づく。
どうやら相手は尾行していることを隠す気がなく、気配を丸出しにしていた。
四人は大通りから一本裏の路地裏に入り、ちょっとした広場に出る。周りは民家に囲まれており、広場には日が当たっていないため薄暗い。
セイヤは自分の近くにいたメレナ言う。
「ここは俺が食い止めておくから、メレナは二人を連れて先に宿に戻ってくれ」
「わかった。気を付けて」
メレナはセイヤに言われた通り、二人を連れて行こうとしたが、セレナとアイシィは立ち止まる。
「私も戦うわ」
「私も戦います」
二人は戦闘態勢に入るが、いつもの武器は手にしていない。二人の魔晶石は、未だ聖教会から返されていないため、二人は詠唱なしで戦うことができない。
セイヤはそんな二人に言う。
「ここは俺一人で十分だ。二人はメレナに着いていけ」
「でも……」
「魔晶石はないですが、戦えます」
なかなかいう事を聞かない二人に対して、セイヤは少々きつめに言う。
「やっと解放されたのにまた問題を起こして捕まる気か? ここは俺に任せて早く行け」
「それは……」
「…………わかりました。セレナ先輩行きましょう」
「で、でも……」
「それでいい」
物わかりのいいアイシィは、セレナの腕を引っ張り、メレナに着いて行く。
セレナはどこか不安げな表情でセイヤのことを見ていたが、セイヤは腕を振り心配ないとアピールする。
メレナたちの気配が完全に消えると、セイヤは隠れている気配に言う。気配が移動してないことから、どうやら狙いはセイヤらしい。
「隠れてないで出てきたらどうだ? 狙いは俺だろ」
「はは、まさか一人になってくれるとはな。俺も舐められたものだ」
そう言いながら姿を見せたのは、セイヤと同じくらいの髪の長さをした、金髪に緑色の目をした白い鎧をまとう少年。
背中には赤いマントがヒラヒラしており、腰には剣がさされている。
「お前は……」
セイヤはその少年に見覚えがあった。
「久しぶりだな、アンノーン。いや、今は異端魔法師のキリスナと呼んだ方がいいかな」
「レアル……クリストファー……」
セイヤの前に姿を現したのは、かつてのセイヤのクラスメイト、レアル=クリストファーであった。
いつも読んでいただきありがとうございます。さて、新キャラことレアル=クリストファーさんが出ました。彼はいったい何者なのか? ちなみにレアルは名前だけ一章番外編に出てきたりしています。
そして、ついに四章レイリア魔法大会編(聖教会訪問編)も大詰めです。ここまでいろいろありましたが、もうそろそろ終わります。よかったら最後までよろしくお願いします。




