第121話 異端認定
聖教会の最上階の会議室。レイリア王国のトップを務める七賢人たちは、二つの意見に割れていた。
セイヤを異端魔法師として認定するというアルフレードに同意するコンラード、エラディオ、ガルデルの三人。
セイヤのことを異端魔法師として認定する意味が分からず、反対するイバン、ケビン、マルクの三人。
聖教会の制度上、七人のうちの過半数、つまり四人以上が賛成すれば、その提案は通る。そして今、セイヤのことを異端認定するという事がまさに通ろうとしていた。
「なぜですかアルフレード殿? 一体なぜ、彼を異端認定にするのですか?」
反対派最年長のイバンがアルフレードに問う。
確かにセイヤが先ほど謎の力で七賢人たちを拘束したことには驚いたが、それにしたって異端認定は馬鹿げていると、イバンは思っている。それは反対派のケビンとマルクも同じだ。
「いくらなんでも、横暴ではないでしょか?」
「身勝手すぎます」
反対派のケビンやマルクもイバンの意見に賛成する。彼らが七賢人になって以降、これほど横暴で身勝手な事案は存在せず、彼らにとってはアルフレードたちの暴走にしか思えなかった。
そんな反対派の三人に対して、口を開いたのはコンラードだった。
「これは横暴でも身勝手でもない。あの少年をすぐにでも排除しなくては、この国が滅びるのだ」
「何を言っているのですか? そんなわけ……」
そんなわけないと言おうとしたイバンだったが、そこでふと気づく。コンラードは今、セイヤのことを「あの少年」と呼んだ。
普段から口の悪いコンラードは、他人を呼ぶとき、「奴ら」、「お前」など比較的に相手を見下したような言い方をする。
しかし今はどうだろう。コンラードがセイヤのことを呼ぶとき、少なからず敬意が含まれているように、イバンには感じられた。それは一体どういう変化か、イバンにはわからない。
「あの少年は危険だ」
「エラディオ殿の言う通り」
エラディオとガルデルまでもが、セイヤのことを危険と言う。しかしイバンたちには何が危険なのか、理由を言って貰わないことには何とも言えない。
「説明を要求します」
「このままでは納得できません」
「納得できるようにお願いします」
説明を要求するイバンたちに対して、アルフレードたちが説明をする義務はない。すでに七賢人のうちの過半数が賛成していることなので、もう決まったことだ。
いつもならアルフレードたちも説明はしないだろうが、今回は訳が違う。
反対する三人に対して、アルフレードが説明を始める。
「お主たちは会ったことがないだろうが、私たち四人は女神リーナ=マリアに会ったことがある」
「はあ……」
いきなり女神の話が始まり、どうしていいかわからないイバンたち。仕方がなく黙ってアルフレードの話を聞く。
「ガルデルは違うが、コンラードとエラディオは私と同じく、女神と仕事もしたことがある」
アルフレードは一度話をそこで切り、昔を懐かしむように再び話し出す。
「あの当時は今のように七賢人に力はなく、あくまでも女神の相談役と言ったところだった。最終的に決めるのは女神であり、私たち七賢人は暴走した際に女神を止めるぐらいしかできなかった。
と言っても、私たちが全員反対して女神の意見を止めるという事はほとんどなかったのじゃが」
女神リーナ=マリアがいた頃の聖教会は、基本的に女神が仕切り、女神が暴走した際に七賢人たち全員の反対で、女神のことを強制的に止めることができた。
それ以外は基本的に七賢人たちは女神に意見をして、より良い国づくりに徹するだけだ。
「そんな女神には少し特別な力があってのう。それは魔法ではなく、生まれながらにして女神が持つ素質とでもいえばよいのか、その名を『聖なる声』というのじゃ」
「『聖なる声』……ですか?」
イバンは聞いたことのない名前に首をかしげる。それは女神と会ったことがあるはずのガルデルも同じであった。
その名を知っているのは、女神がいた当時に七賢人を務めていたアルフレード、コンラード、エラディオの三人だけ。
アルフレードは『聖なる声』について説明を続ける。
「その力は、生まれながらにして他者の上に立つ者が持つ覇者の素質でもある。その声の前では、たとえどんな者であろうと、跪き、従わなければならない、特別な力」
「まさか!?」
「そうだ」
やっと理解したイバンに答えたのは、今まで黙っていたコンラードだ。コンラードがアルフレードに代わり、説明を続ける。
「あの少年が私たちにしたことだ。あれは紛れもなく『聖なる声』、女神だけが持つことが許された力」
「しかし……そんなことが……」
イバンは驚きのあまり言葉が出ていない。そんなイバンに対して、ガルデルが言う。
「間違いない。私は一度だけその『聖なる声』を受けたことがあるが、先ほど全く変わらなかった。そしてあの少年の容姿は……」
「そこは言わなくていいぞ、ガルデル」
「アルフレード殿!?」
セイヤの容姿について言おうとしたガルデルのことを、アルフレードが止める。それはもう説明しなくていいという合図であり、これ以上はまだ話すべきではないという、アルフレードの判断だった。
「ではアルフレード殿たちは、あの少年、キリスナ=セイヤが女神の素質を持つというのですね?」
「そうじゃ。そしてあの少年の前で私たちは無力。もしあの少年が本気を出すようであれば、このレイリア王国も終わりを迎えるだろう」
「では一体どうすると?」
例えセイヤにそんな力があったとしても、今の時点ではどうすることもできない。だからこその、異端認定だった。
「異端魔法師として認定し、十三使徒を使って拘束するしかないだろうな」
「そんなことを!?」
コンラードの言葉に驚いたのは、今まで黙っていたケビン。彼はあまりの衝撃に、先ほどまで固まっていたが、やっと思考が回復したのだ。
「そんなことをすればライガーが、特級魔法師協会が動くに決まっています」
「だろうな。だからすぐにではない」
「と言いますと?」
コンラードは自分の考えを七賢人たちに伝える。
「拘束するのはレイリア魔法大会の後だ。それまでに、ライガーを除く特級魔法師たちに事情を説明して同意してもらう。幸いライガーはアルセニア魔法学園の付き添いでオルナの街に向かっているはずだから、動きを感づかれることはないだろう」
「本当にそんなことを……」
コンラードの言っていることは、法に乗っ取っていない暴走に近い。しかし彼らに残された手段は、これぐらいしかないのだ。
「ですが、いったい誰に拘束させるのですか? 相手は『聖なる声』を持つ相手に特級魔法師ですよ。生半可な戦力では……」
「セカンド、サードとファイブらへんを呼べば問題ないだろう。あとはいかにしてエイトを抑え込むか、だ。
あやつは独断で『フェニックスの焔』を取り戻すために、アルセニア魔法学園と関わっている。その際にできたルートから情報を流されるのは防ぎたい」
「それなら大丈夫であろう。エイトは今、自宅謹慎中だ。そう簡単に情報が入ることはない」
アルフレードの言う通り、エイトことバジル=エイトは、今回のモカ=フェニックス救出の際に独断で動いたことで自宅謹慎の罰を受けている。
結果的に犠牲になった魔法師はいなかったものの、バジルの判断は正常とは言えず、今は自宅で魔封石を付けながら、おとなしく生活していた。
そのため、セイヤが念話石を使ってもバジルと連絡が取れなかったのだ。
「エイトがいないなら問題はないだろう。本当なら聖騎士を呼びたいところだが、無理だろうな」
「さすがに聖騎士を呼ぶのは、やりすぎです。彼女は十三使徒序列一位、まさしくレイリア最強の魔法師、そして現在はダクリア帝国の中心にいます」
聖騎士という言葉に、全員の表情が引き締まる。
「そうです。セカンドにサード、そしてファイブがいれば十分でしょう」
「そうだな。あとはその三人がこちらの言う通りに動いてくれるかだが、まあ大丈夫であろう」
「それではコンラード殿の作戦に賛成の方は、挙手をお願いします」
マルクが採決をとると、七賢人たちは全員が挙手して満場一致で決まる。
「それでは、魔法師キリスナ=セイヤを異端魔法師として認定し、レイリア魔法大会後に拘束という事で」
このとき、七賢人たちしか知らない作戦が決まった。
しかしこの作戦を聞いていたのは七人ではなく八人。会議室の扉の前にいた白い鎧をまとった金髪の少年が、ニヤリと笑いながら会議室を後にする。そしてその少年の存在に気づいた七賢人たちは一人もいなかった。
いつも読んでいただきありがとうございます。ついに今回セイヤが異端認定を受けて、かつてのタイトルでもある異端魔法師のキリスナとなりました。
さて、次の話ですが、新しいキャラが出てくるのでお楽しみに。(新しいキャラと言ってもすでに出ているのですが……)新しいキャラが気になるという方は一章番外編の不穏な街をお読みください。そこに出てきます。
それと誤字脱字修正ですが、一章は番外編を含みすべて終わったはずです。(多分)もしまだ誤字脱字があるようでしたら教えてもらえると嬉しいです。




