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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
4章 レイリア魔法大会編
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第119話 七賢人

 薄暗い部屋の中、円卓を囲む七賢人たちは、部屋に入ってきた二人の客人の相手をしていた。


 しかし彼らの顔は二種類に分かれている。


 片方は客人に対して興味無さげにしているのだが、もう片方は客人二人の、というより、メイド姿の女性の後ろに控える金髪の少年を見て、驚愕の表情を浮かべていた。


 メレナの後ろに控えているセイヤのことを見て驚愕の表情を浮かべているのは、アルフレード、コンラード、エラディオ、ガルデルの四人。


 とくにアルフレードとコンラードの表情は、とても聖教会を仕切る者の顔には見えないとセイヤは思った。


 「失礼します、皆様」

 「失礼します」


 メレナに続き、セイヤも七賢人たちに向けて挨拶をする。セイヤのことを見ても何も感じていないイバン、ケビン、マルクの三人は普通に挨拶を返すが、残る四人は二人に対して挨拶を返すことができなかった。


 そんな年上たちの様子を見たマルクが、不思議に思い聞く。


 「どうしたのですか? 何かおかしい事でも、アルフレード殿?」

 「いや、すまない。ちょっとな」


 いまいちパッとしない態度で返事をするアルフレード。彼の顔は会話をしている相手であるマルクには向いておらず、ずっとセイヤに向かっていた。それは他の三人も同じである。


 セイヤは部屋に入った直後から四人の七賢人たちの視線を感じ、居心地が悪かった。自分のことを見てくる七賢人たちの顔を見たセイヤだったが、セイヤは彼らには会ったことがないことを確信する。


 一体なぜあんなにも驚愕の表情を浮かべながら自、分のことを見てくるのか、セイヤは気になり聞いてみた。


 「あの、どうかしましたか?」


 セイヤが七賢人たちにそう聞くと、彼らはお互いに目を合わせてながら、何かを確認して答えた。答えたのは驚愕している四人の中で最年長のアルフレードだ。


 「すまない、初めて来た者だったからついのう。ところでお主の名前はなんと言うのじゃ?」

 「俺ですか? 俺の名前はキリスナ=セイヤです」

 「キリスナ=セイヤ、キリスナ、キリスナ……」

 「あの、どうかしました?」

 「いや、ちょっと昔の知り合いに似ておってのう。気分を悪くしたらすまない」

 「いえ」


 七賢人最年長のアルフレードの予想外の丁寧な態度に驚くセイヤ。セイヤの中では七賢人たちは頭の固いお偉いさんばかりだと思っており、アルフレードの態度は意外すぎた。


 一方、セイヤの名前を聞いたアルフレードたち四人は、セイヤが昔の知り合いとは関係ないと確信する。


 顔こそ彼らの知るある人物とそっくりだが、名前が違っているし、なにより纏っている雰囲気が全く違っているため、おそらく似ているだけの人物なのであろうと結論付けた。


 そう結論付けた四人は、先ほどまでの態度が嘘のようにいつもの姿に戻る。いつもの姿に戻った年上四人をみたイバンたちは安心して、セイヤとメレナの対応を始めた。


 「ところで要件というのは何のことだ?」

 「ライガー様に届いた書状のことです、ケビン様」


 ケビンは二人に対してまるで突き放すかのように質問する。二人が訪ねてきた理由など聞かずともわかっていることなのだが、一応体裁だけでも取っておこうというケビンの善意である。


 本当ならこの部屋に通す前に、セレナたちは返さないと通達して追い返したかったのだが、特級魔法師の使いにそのような態度をとるのも気が引けるため、仕方なく対応するしかなかった。


 ケビンのぶっきら棒な質問に答えたのは、例のようにメレナだ。この聖教会ではセイヤよりもメレナの方が顔も知られており、交渉も上手いため、セイヤが事前に頼んでおいたのである。


 「そのことか」


 七賢人たちはわかってはいたものの、いざその話になると気が滅入る。先ほどこれからの方針を決めたばかりだというのに、再びそのことを蒸し返して話す気などなかった。なので、ケビンは率直に結論を伝える。


 「セレナ=フェニックスとアイシィ=アブソーナの二名を解放することは不可能だ。あきらめて帰れ」


 諦めて帰れと言われて、素直に帰るくらいなら二人はわざわざ聖教会などには来たりはしない。メレナがセイヤのことをチラッと見ると、セイヤは頷き、胸ポケットにしまってある書状のうち、片方を取り出して七賢人たちに差し出す。


 「これは?」

 「我が学園、アルセニア魔法学園の学園長から承りました書状です」

 「やはりそう来たか」


 七賢人たちは予想通りの展開にため息をつく。セイヤが部屋に入ってきた瞬間、七賢人たちはセイヤが着ていたアルセニア魔法学園の制服を見て、こうなることを確信していた。


 ケビンがライガーからの書状を読み終えると、内容が他の七賢人たちににも伝えられる。


 「アクエリスタン地方モルの街にあるアルセニア魔法学園学園長代理ライガー=アルーニャ殿が、当校の生徒であるセレナ=フェニックスとアイシィ=アブソーナを、今年のレイリア魔法大会にアルセニア魔法学園代表として参加させたいため、二人の解放を望むという事です」


 それは予想通りの内容だ。


 「やはりそう来たか。残念だがいくら魔法学園の学園長だからといっても、その頼みは聞けない」

 「なぜでしょうか、イバン様。二人はべつに法を破ったわけではありません。だというのに、どうして拘束されなくてはならないのでしょうか?」

 「それは……」


 メレナの質問に口ごもるイバン。本来なら無断で暗黒領に出ることはいけないことなのだが、今回の場合、バジルが臨時で許可を出したため法には抵触しない。


 それは七賢人たちも知っていることで、わかっている。問題なのは、セレナとアイシィが外の世界、つまりダクリアの存在を知ってしまったことだ。


 七賢人たちはそう説明したいのは山々だが、説明できるわけがない。


 メレナはライガーの側近のためダクリアについて知っていてもおかしくないが、アルセニア魔法学園の制服を着たセイヤはダクリアのことに関しては知らないので、本当の理由を話すのは無理だ、と七賢人たちは思っていた。


 七賢人たちはセレナたちの他にもダクリアに行った魔法師がいることを知ってはいたが、その魔法師たちの名前までは知らなかったため、セイヤをただの魔法学園の生徒だと思っていた。


 なので、七賢人たちは説明に困る。メレナはそうなることを見越したうえで、この質問をしたのだ。


 しかしそこで意外な人物が声を出す。


 「少し厳しくはないかねメレナよ。お主もわかっているはずじゃ、もし話を続けるというのであれば、今度はおぬしを捕まえなくてはならなくなるぞ」

 「アルフレード様……」


 説明できず口籠っているイバンに助け舟を出したのは、意外にもアルフレードだった。彼はセレナたちを解放するべきだと主張していたにもかかわらず、今の言葉は全く逆のことを言っている。


 これには他の七賢人たちも驚いたが、アルフレードは気にする様子はない。


 アルフレードの言っていることはある意味では脅しに近いのだが、そこにはしっかりとした合法性がある。レイリア王国ではほとんど知られていないため、その存在を知る者は少ないが、ダクリアに関しての法律が存在している。


 内容はダクリアに関しての情報を無暗に人に教えないこと、拡散しないこと、もし広がり始めた場合は、すぐにその情報を止めることなど様々だ。


 今回の場合、セイヤがダクリアに関して知らない人だと認識されているため、セイヤにダクリアのことが知られてしまったら、メレナは罪に問われる。


 もし仮にセイヤがこの場でダクリアのことを前から知っていると言った場合、この法律が適用されず、メレナはもう少し踏み込んで質問することができる。


 しかしそうなると、この場にダクリアについて知らない者がいなくなるので、七賢人たちは建前でなく本音を言うことが可能になり、どちらにしてもセレナたちは解放されないだろう。


 つまり、一枚目の書状ではセレナたちを解放させることができないということだ。


 メレナはすかさずセイヤのことを見る。セイヤはメレナに対して頷き、残っているもう一つの書状を胸ポケットから取り出して、七賢人たちに差し出す。


 二通目の書状を読んだのはケビンではなくマルクだった。マルクは書状を読み終えると、他の七賢人たちに書状の内容を伝える。


 「意見状、特級魔法師ライガー=アルーニャの名の下において、セレナ=フェニックスとアイシィ=アブソーナの解放を要求する。今回の拘束は不当であり、問題が多数存在するため、場合によっては、アルセニア魔法学園学園長と連名で特級魔法師協会に訴える。だそうです」

 「今度はそう来たか」

 「厄介だな」

 「考えおる」


 七賢人たちは予想していなかった方法に感心する。ライガーの言い分は、二人を解放しないのなら、協会に訴え出ると言っているのだ。


 協会は特級魔法師たちによって運営される機関であり、聖教会からは独立している。そのため聖教会もそう簡単には協会に手を出すことができない。


 協会には聖教会の行き過ぎた行動を抑制するための権限などが存在し、訴えれば協会は動くことができる。


 その条件として、訴えることができる人は各地の教会のトップと魔法学園長以上の立場の人だ。そしてその人の訴えに一人以上の特級魔法師から賛成を得られれば、可能になる。


 しかし事前に聖教会に同様の訴えを送り、それが拒否された場合に限る。


 今回の場合だと、アルセニア魔法学園長であるライガー=アルーニャが訴えを起こし、特級魔法師ライガー=アルーニャが賛成すれば成立する。


 最初にセイヤが七賢人たちに渡した書状は、アルセニア魔法学園長のものであり、すでに拒否されているため、訴えるための条件はそろっていた。


 あとはライガーの一言で協会は動くことになるだろう。


 「面倒なことになったのう。こちらとしてはこの時期にそんなことをしたくないのじゃが……」

 「どうしますか? これはかなり厄介ですぞ?」

 「そもそもこれは成立するのか? 二人が同一人物など」

 「前例がないため何とも言えないですな」


 前例がないため、何とも言えない七賢人たち。しかしそれは彼らにとって好都合でもあった。コンラードが強気な発言をする。


 「受ける必要はない。前例がないのだ、特級魔法師だってそう簡単には動かないだろう」

 「確かにそうかもしれませんが、コンラード殿……」

 「それに例え奴らが動いたとしても、おそらくレイリア魔法大会の後だろう。奴らもこの時期に動くほど馬鹿ではない」

 「そうだったとしてもその後が……」

 「その時はこちらの持っている情報を渡せばいい」


 コンラードはなにか確証があって言っているように思えた。なので、他の七賢人たちも、次第にライガーの要求は受ける必要はないという考えへと変わっていく。


 「たしかにコンラード殿の言う通りかもしれない」

 「私たちは恐れすぎていたようだ」

 「ですな」

 「確かに」

 「なら決定ですね」

 「そうじゃのう」


 次々と頷いていく七賢人たち。


 「という事だ。今日はお引き取りいただこうか」


 コンラードがセイヤとメレナに向けて言い放つ。すでに交渉の余地はもうない、セイヤたちに残されたのは二人の強奪という最悪の結末を迎えるであろう選択だけ。


 (くそ、どうすればいい……)


 セイヤは体内で闇属性の魔力を錬成して、いつでも腕に巻かれた魔封石の腕輪を消滅させる準備をしながらも、まだ迷っていた。長期的に見れば、協会が動いてくれるかもしれないが、二人が解放される可能性は低い。


 今この瞬間にも、闇属性魔法を使って、セレナたちを助け出すことは可能だが、その場合はもう後戻りはできない。


 迷っているセイヤに足してコンラードが言う。


 「早く出ていけ。もうお前らの話など聞く気はない」

 「待ってください」

 「うるさいぞ、小僧。ただの一魔法学園の生徒が七賢人に口答えをしていいと思っているのか?」


 七賢人たちからすれば、セレナたちに関する話し合いはもう終わっている。彼らには他にもやらなくてはいけない仕事が溜まっているため、すぐに移動しなくてはならない。


 話は終わったとばかりに次々と席を立ち始める七賢人たち。彼らは次の仕事へと向かうため部屋から出ていこうとする。


 セイヤは迷う。ここで魔法を使うべきか、それとも対話をするべきか。結論はすぐに出た。


 「待ってください」


 セイヤの選んだ道は魔法を使わずに交渉をすることだった。しかしすでにその交渉は無意味なことだ。七賢人たちはセイヤの言葉を無視してそのまま部屋から出ていこうとするが、誰も動かない。いや、誰も動けなかった。


 「これは……」

 「まさか……」

 「どういうことだ!?」

 「これはあの時と……」

 「一体どうしたんだ……」

 「体が……」

 「動かない……」


 次の瞬間、七賢人たちのことを何かが拘束した。


 いつも読んでいただきありがとうございます。


 それでは次もよろしくお願いします。

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