第118話 暗黒騎士の正体
時は少しさかのぼり、セイヤたちがまだ受付にいた頃、七賢人たちはダクリア大帝国について話し合っていた。
「ところで、セカンドからの情報はあるのか?」
「はい、ちょうど届きました」
コンラードの質問にエラディオがそう答えた。エラディオの答えに、コンラードだけでなく、他の七賢人たちも興味を示す。
「それでエラディオ殿、彼女は何と?」
「率直に言うと、向こうの魔王が一人殺されたそうだ」
「それは誠ですか?」
「犯人は一体だれじゃ?」
エラディオの言葉に、残りの七賢人たちが一斉に驚く。彼らはダクリア大帝国の統治方法も各地を治める魔王たちの存在も知っており、もちろんその強さも知っている。
直接会ったことはないが、潜入させている聖教会の刺客から、彼らの強さは異常で、その強さは十三使徒と同等かそれ以上だと報告されていた。だからそんな魔王の一人が殺されたということに、彼らは驚きを隠せなかったのだ。
「犯人はわかっていませんが、おそらくダクリアの人間だろうというのがセカンドの予想です」
「セカンドは確か、ダクリア二区に潜入中だったな」
「はい、そしてあの二人が戻って来たのもダクリア二区……」
「ふむ」
偶然にしてはできすぎている。何か拘束している二人と繋がりがあるのではないか、と疑いたくなる七賢人たち。
しかしだからと言って、セレナやアイシィがダクリア二区を治めていたブロード=マモンを倒せることができるかと聞かれたら、答えはノーだ。
彼女たちにはそんな力はない。
「セカンドはダクリアの人間と言ったのじゃな?」
「はい、それは間違いありません、アルフレード殿」
「ところでイバン殿。あの二人はセカンドのことについて何か言っておるのですか?」
「いや、二人が戦ったのはアルセニア魔法学園の教頭を務めていたザッドマンだけだそうだ」
「ケビン、お主はセカンドが虚偽の報告をしているとでも言いたいのか?」
「ちっ、違いますぞ、コンラード殿。ただ私は気になっただけで……」
「今の言葉は誤解を生む発言だ、ケビン。セカンドことシルフォーノ=セカンドは聖教会十三使徒の一人、それも序列二位だぞ。そんな者が聖教会を裏切るわけがないだろ」
「すっ、すまない」
同い年のマルクに注意されて、バツが悪そうな顔をするケビン。十三使徒のそれも序列二位であるシルフォーノが聖教会を裏切るわけがないということは、ケビンもよく知っている。
彼はただ少し気になって思ったことを口にしただけで、本当にそんなことは思っていない。
「それでエラディオ、次の魔王になったのはどんな奴なのじゃ?」
「それが……ブロード=マモンを倒したと名乗る者が出て来ないらしく、現在もマモンの席は空席のままだとか……」
「なんと、それは困ったな。もしそんな状態が続けば……」
「ええ、コンラード殿のお考えのとおり、次期マモンの席を狙った争いが始まるでしょうな」
「そしてその争いに、我らレイリア王国も巻き込まれることになるだろう」
「ええ、セカンドもそう予想しております」
思わぬ事態に顔をしかめる七賢人たち。これから始まるレイリア魔法大会だけでなく、セレナたちの処遇でも忙しいというのに、さらなる問題生まれてしまう。
「まさかと思いますが、ダクリアの人間がレイリア魔法大会に介入してくることなどは……」
「無いとも言い切れんな。奴らからしたら、この国の未来を担うかもしれない魔法師たちが出てくるレイリア魔法大会は格好のアピールの場だ」
「そんな……どうするのですかエラディオ殿?」
「どうすると言われても、警備を強化するしかないだろう。まさかダクリアの人間による襲撃があるかもしれないから、今年は中止だとでもいうのか? そんなのは無理だ」
「その通りじゃ。わしらにできるのは会場の警備を増やすか、やつらの侵入を事前に防ぐだけ。あとは子供たちが自分たちでどうにかするしかない」
「アルフレード殿の言う通り、私たちにはそれぐらいしかできない。だから私は例年以上の警備を実現するために、十三使徒だけでなく、特級魔法師にも協力を要請することを提案する」
エラディオの提案に反対するものはいなかった。ここにいる全員ダクリアの脅威を知っているため、聖教会のプライドなんかを守るより、特級魔法師に頭を下げて協力を要請するほうが大切だとわかっていたから。
「では今日の会議はここで……んっ?」
「どうしたのだ、マルク?」
マルクが会議を終えようとしたちょうどその時、彼の脳内に受付からの念話が飛んできた。受付からの内容を聞いたマルクは、すぐに聞いたことを他の七賢人たちに話す。
「どうやらライガーが来たそうです」
「ほう、予想通りだな。だが速すぎはしないか? 書状を送ったのは一週間前、届いたのが三日前としても早すぎる」
「だな。例え魔装馬を使ったとしても、ライガーには街を出るために必要な手続きがあるはずだ。こんなに早く来られるはずがない」
「それが、ライガーではなく、使いの者が二人来たそうです」
「「「「「「なに?」」」」」」
驚きの声を上げる七賢人たち。彼らはライガーに対して、ちょうど一週間前に普通の馬を使って書状を送った。
七賢人たちは当然、ライガーが乗り込んでくると考え、ライガーが街を出る手続きと魔装馬をとばしてくる時間を計算し、あと五日はかかると踏んでいた。しかしライガーはこの聖教会には来なかった。
来たのはライガーの使いの二人だけ。七賢人たちの知るライガーは、使いに任せて自分は来ないような男ではない、だから不思議に思う。
「その使いというのは一体どんな奴らだ?」
「えっと、一人はいつも来るあの使用人です。あともう一人はアルセニア魔法学園の制服を着た少年とのことです」
「少年だと!? ライガーの野郎、一体何を考えておる」
「どうしますか? 二人は直接の面会を望んでいるそうですが」
「使用人はメレナで間違いないのか?」
「はい」
「そうか、なら二人は本当にライガーの使いなのだろう。控室に通せ」
「わかりました」
マルクはセイヤたちを控室に通すように伝えると、一度受付との念話をやめる。
そして七賢人たちは再び会議を始めることになった。彼らはなぜライガーの使いが来たのか理由を聞かなくとも知っている。十中八九、いや絶対セレナたちのことに関してだ。
「どうしますか? 一応ライガーは来てないようですが」
「そんなの、決まっているだろ。要求を拒否するに決まっている」
「ああ、そうだ。ライガーが来ているのなら話は違うが、来ていないのであれば適当にあしらって帰すまでだ」
「すでに方針は決めっている。いまさらどうこうする問題ではない」
「とりあえず、話を聞いて追い返せばいい」
「メレナは手ごわいかもしれないが、もう一人はこの場に来るのが初めてのはずだ。緊張して何も話せないはずだから、いないと考えて問題ないだろう」
「そうじゃのう、二人には悪いが、今はそうするしかない」
「わかりました。それでは二人を通します」
マルクはそう言うと、再び受付に念話を飛ばして、二人をこの会議室に連れてくるようにと伝えた。
受付に伝えてから五分ほど経ち、外から声がした。
セイヤとメレナが会議室の前に着いたことが分かり、マルクはテーブルに備え付けられていた魔晶石を操って、重厚な会議室の扉を少しだけ開ける。
「入れ」
コンラードが扉の外にそう呼び掛けると、会議室の中に緑の髪のメイド服の女性と金髪碧眼の少年が入ってくる。
七賢人うち若い三人はメレナの背後にいるセイヤを一瞬見ると、すぐに興味を失ったかのように目を離す。しかし三人以外の七賢人たちはセイヤを見た瞬間、驚愕の表情を浮かべて固まってしまう。
驚愕の表情を浮かべながら固まる四人を不思議そうに見る若い三人、彼らはまだ知らない。
目の前にいる金髪碧眼の少年がこれからとんでもない事をしでかすことを。
いつも読んでいただきありがとうございます。
さて、今回再び名前が出てきたシルフォーノさん。彼女は七賢人たちが言ってた通り、聖教会十三使徒の一人で、序列二位の立派な御方なのです! 驚かれましたでしょうか?(誰も驚いていないと悲しいです……)
それと感想でいただいた誤字脱字の指摘ですが、現在一章の十話まで見直して修正しました。一応直っているはずですが、作者の知能不足のためまだおかしい点があるかもしれません。なのでその時は教えてもらえると嬉しいですm(__)m




