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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
4章 レイリア魔法大会編
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第116話 首都ラインッツ

 セイヤとメレナが魔装馬専用道路を使い大急ぎで首都ラインッツまで向かっている頃、二人の目的地である聖教会では、トップたちの七賢人による会議が行われていた。


 現在の七賢人のメンバーは、女神リーナ=マリアがいた時代とあまり変わっていない。


 アルフレード=ベンハミン  74歳  魔法師

 コンラード=ディエゴ    71歳  魔法師

 エラディオ=フローレス   68歳  非魔法師

 ガルデル=ヒエロニムス   60歳  非魔法師

 イバン=ハラメ       52歳  非魔法師

 ケビン=ルイス       50歳  魔法師

 マルク=ネストール     50歳  魔法師


 以上、七名が現在七賢人として聖教会を率いる者たちである。七賢人にはこの国を平和に治めて欲しいという願いが込められており、魔法師と非魔法師の共生を掲げ、約半分が非魔法師の人たちが務めている。


 そしてこの中で女神リーナ=マリアがいた時代から七賢人を務めているのは、アルフレード、コンラード、エラディオの三人だけで、唯一ガルデルが、七賢人ではなかったが女神リーナ=マリアと関わりがある人物である。


 つまり上の四人はリーナ=マリアと会ったことがあり、下の三人は実際には会ったことがないということである。


 さて、七賢人が何について会議をしているかというと、それは開幕を目前に控えたレイリア魔法大会についてだ。


 レイリア魔法大会は一応学生の意識を高めるために行われている祭りのようなものとされているが、その実態はレイリア王国の魔法師の金の卵を見つけ、スカウトをするためだ。


 レイリア魔法大会に代表として出てくる学生魔法師は、誰もがその魔法学園の中のトップクラスでだ。そしてそのトップクラスの魔法師たちが競う大会は、聖教会からしてみれば未来の戦力たちが詰まった宝箱のようなものだった。


 「さて、今年も始まるのう」

 「そうですな、今年はどんな金の卵が出てくるのか」

 「たしかに、去年は豊作でしたからね」

 「といっても、あやつだけは別格だったが」

 「あやつに負けた悔しさを糧に、どれだけ成長したか」

 「今年も楽しめそうですな」

 「いい素材がいればいいですな」


 薄暗い部屋に置かれた円卓を囲む七人の男たち、彼らの頭の中には学生魔法師の戦いに対する興味はない。


 あるのはどの学生魔法師が勝ち残り、そしてどの学生魔法師がこれからのレイリアを守っていくのかということだけ。レイリア魔法大会は金の卵発掘の場であって、祭りではない。


 「そういえば、あの二人も去年大会に出ていましたね」

 「そうだったな」


 ケビンがふと気づいたように言うと、マルクもすぐに気づいたように同意した。


 「確かにあの二人も出ていたが、さすがに今年は出すわけにはいかないだろ」

 「そうじゃのう、出してやりたいのは山々なのじゃが……」

 「外の世界の存在を知ってしまいましたからね」


 七賢人たちの話の話題は、今年のレイリア魔法大会から聖教会で拘束しているセレナとアイシィに移り変わっていく。二人は去年のレイリア魔法大会にも出場していたため、七賢人たちは二人のことを知っていた。


 「今年は出さないにしても、これからどうするんですか?」

 「たしかにあの二人がダクリアの地に足を踏み入れたのは事実だが、去年の大会であの二人が活躍したのも事実……」

 「とくにフェニックスの娘はあやつといいところまで行っておる。素材としては申し分ない」

 「確かにのう。じゃが、あやつが去年の大会で本気を出していたかというと、それもまた違ってくるわい」


 学生魔法師としての実力としては申し分ないセレナとアイシィ、それだけに七賢人たちはどのようにすればいいのか判断に迷っていた。


 「どうしますか? どうなるにせよ、そろそろ方向性だけでも決めておかないとこれからに支障が出ますぞ」

 「そうだな。まずは方向性だけでも決めておくべきだと私は考える」

 「確かに。なら方向性だけでも決めておきましょうか」


 七賢人たちが忙しくなるのはこれからだ。レイリア魔法大会が始まり、各学園の学生魔法師が躍動する姿を見て、誰を聖教会にスカウトするか。


 レイリア魔法大会が始まってしまえば、七賢人が全員集まってゆっくりと話し合う機会もなくなってしまうため、できるだけ方向性だけでも決めておきたかった。


 「それなら多数決としましょう」

 「そうだな」

 「よかろう」

 「それでいい」


 次々と同意していく七賢人たち。会議を仕切っているのは最年少のケビンとマルクの二人だ。


 「まず第一選択肢は、二人を解放してライガーのところに預ける。これは情報漏えいの心配がありますが一番平和的です。しかしその分リスクが高すぎるのでお勧めできませんね」

 「次は二人をこの聖教会で雇い、時間をかけて忠誠心を植え付けていく。これは情報漏えいの心配も少なく、将来的にはこのレイリア王国の貴重な戦力になってくれるでしょう。特に『フェニックスの焔』を持っていて損はないですし」

 「そして最後は永久に拘束しておくことですね。これは情報漏えいのリスクが全くなく安心できる手段かと。ですが同時に戦力増強は不可能になりますが」


 選択肢は全部で三つ。多数決はすぐにとられた。


 「わしは最初のライガーに預けるに一票じゃ。魔法師としての自立性を高めてもらってから、この国の防衛に関わってほしいと思う」


 そういったのは、七賢人の中で最年長のアルフレードだ。彼は一見するとやさしそうなおじいちゃんだが、その瞳にはいまだ鋭さが残っている。


 「私は聖教会で面倒を見るに一票。いくらなんでもお咎めなしで帰すのはリスクが高すぎる。かといって、ずっと拘束しておくにはもったいない素材だ」

 「私もコンラード殿に賛成です」

 「私も」


 二人を聖教会で育てながら忠誠心を植え付けるという案に賛成したのはコンラード、エラディオ、マルクの三人。


 そして残った三人が。


 「私はまだ現段階では拘束するべきだと思います。外で何を教えられたのかわからない今は、まだ放すべきではない」

 「私も同意見です」

 「私も」


 意見は見事に割れた。アルフレードを除く六人がちょうど三人に分かれてしまったため、どうするかはまだ決まらない。だが方向性は決まった。


 「それでは二人については、まだこちらで面倒を見るということでいいですね」

 「ああ」

 「ああ、問題ない」

 「大丈夫だ」

 「それでいい」

 「問題ない」

 「ほう、仕方ないのう」


 二人についての議論は一度ここで終わった。そして七賢人たちは次なる議題へとうつる。


 「次は躍動するダクリアについてです」


 彼らの会議はまだ終わらない。そして彼らはまだ知らない、この後、とんでもないものがこの会議に乗り込んでくることを。






 七賢人が現在、自分たちのことについて会議しているなど露知らず、セレナとアイシィは相変わらずホテルのような部屋で拘束されていた。


 しかし二人の間に流れる空気はこの前とは違って、どこか違和感を感じるくらいおかしい。


 原因はわかっている。セレナがセイヤのことを好きだと認め、許されるのなら愛人でもいいと言ったことだ。


 アイシィはその言葉を聞いて、なぜか涙を流してしまった。だがなぜ自分が涙を流してしまったのか、アイシィは自分でもわかっていない。


 一つ言えることは、セレナの言葉を聞いた瞬間、アイシィの心の中が急に寂しくなってしまったのだ。アイシィ自身しっかりと理解はしていないものの、あの気持ちはおそらくセレナの気持ちと同じなのだろうと考えていた。


 理由は分からないが、アイシィにはセレナの心の中の葛藤がわかってしまい、セレナのたどり着いた答えを聞いた瞬間、まるで心の中が空っぽになったかのように悲しくなってしまったのだ。


 アイシィがなぜ急に涙を流してしまったのか、自分でも理解していないことをセレナがわかるはずもなく、セレナはそのことにずっと悩んでいる。


 なぜアイシィは急に泣き始めてしまったのか、いったい何がそんなに彼女を苦しめてしまっているのか。


 セレナがそのことを理解するのはもっと先のことであり、その理由を知ってしまったとき、彼女は新たな覚悟を決めることになるのだ。






 太陽がちょうど一日で一番高いところを通り過ぎようとしている頃、ついにセイヤとメレナは聖教会のある首都ラインッツの到着し、今は街に入るための手続きをしているところだ。


 いくら二人が特級魔法師の使いだからと言っても、聖教会のある首都ラインッツでは他の人たちと同じように手続きをしなければならない。


 手続きをする場所から見える首都ラインッツは、セイヤが想像していたよりもはるかに栄えており、セイヤは本日二度目の衝撃を受けていた。


 「ここがラインッツか」

 「そう、そしてあの真ん中に見えるのが聖教会」

 「あれが聖教会……」


 街の端からも見えるその建物、首都ラインッツの中心にそびえ立つ、まるで大きな城。その城は、誰が見てもこの街の中心だということがわかるくらい、威厳を放っている。


 街に入る際の手続きを終え、街中をゆっくりと進むセイヤとメレナ。


 魔装馬は街に入る際に強制的に預けるため、街中での移動手段は徒歩かタクシーのような馬車だけしかない。二人は最初に宿をとるため、徒歩で目的地へと向かう。


 街を少し歩き、セイヤはあることに気づく。それはこの街、首都ラインッツが、中心にそびえ立つ聖教会から、街の外の塀まで均等に伸びる五本の大きな道で分かれており、さらにその五つのブロックの中もしっかりと均等に分かれていることだ。


 聖教会を中心に円状に広がる街、そしてその円を中心から五等分にするように伸びる大きな道。


 街全体を五等分にする大きな道に、直行する形で円を描くように伸びる中くらいの道。それらは空から見ると、聖教会を中心に広がる水の波紋のように見える。


 「すごいな……」

 「怖気づいた?」

 「まさか、これから乗り込むっていうのに怖気づいてどうするんだ」


 二人はその後、宿をとって部屋に荷物を置く。そして必要なものだけを最低限持ち、街の中心へと向かった。予定より一日早いが、早いに越したことはない。


 今日も平和な喧騒に包まれる首都ラインッツの街中を、セイヤとメレナはゆっくりと進み、セレナとアイシィが捕らわれている聖教会へと向かうのであった。


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