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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
4章 レイリア魔法大会編
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第113話 ゴンラ村の村人たち

 本日三話目です。 

 「ふぁ~っ」


 朝日が部屋の中に差し込む中、セイヤはそんな間抜けな声ととみに、目を覚ました。すでに季節は夏だというのに、部屋に入り込む風はどこか肌寒く、自分が森の中の木の上にいることを、遅れて思い出す。


 「起きたか、セイヤ」

 「ああ」


 セイヤが布団から出ると、すでにリビングにはいつも通りのメイド服姿のメレナが、やさしそうな老婆と一緒に朝食を作っていた。


 「おはよう、セイヤくん。よく眠れた?」

 「はい、おかげさまで」


 メレナと一緒に朝食を作っていた老婆が笑顔でセイヤ挨拶をする。


 彼女はこの家の主であるゴンラ村長ダダの妻であり、「ゴンラ村女性の会」会長であるグレハ。結局、セイヤとメレナはダダの家に泊まることになり、二人は同じ部屋で一夜を過ごした。


 「はぁ~」

 「まだ眠いですかセイヤ殿? 昨日はすぐに寝たというのに」


 セイヤが盛大なあくびをかますと、ダダが笑いながら部屋の中へと入ってくる。ダダの雰囲気はコアラだったが、その顔はどこか赤い。


 「おかえりあんた、ずいぶん遅かったわね」

 「うっ……ちょっと盛り上がって……」


 妻であるグレハに睨まれ、目をそらすダダ。どうやらちょうど今帰ってきたらしい。ダダは何事もなかったかのように、家に入ろうとしたが失敗したようだ。


 実は昨日、ガルベントの脅威がなくなり、新たな村の傭兵であるベルたちが入ったことで、ゴンラ村は一晩中お祭り騒ぎだった。


 強力な魔法を前に、一度はあきらめかけたゴンラ村の存続、それがまさかの存続で、村中の人は大喜びをしてどんちゃん騒ぎだ。


 そこには当然、村を守った英雄であるセイヤも呼ばれたのだが、怒ったセイヤの纏っていた雰囲気と、その容赦ない仕打ちに、村人は恐怖してほとんどセイヤに近づかなかった。


 祭り中、セイヤに近づいてきたのは旅の同行人のメレナと村長のダダ、そしてあの黒髪のイケメンのヌフだけだ。


 そのことにいち早く気付いたセイヤは、タイミング見計らって村長の家へと戻り、先に安んでいた。


 祭りの主役が途中から消えたことに、最初こそ村人もどうしたものかと考えたが、セイヤがいなくなったことにより、どこかリラックスして祭りを楽しんだ。


 「まあ、いいです。朝食ができていますよ」

 「おう、ちょうど腹が減っていたころじゃ」

 「さあ、セイヤくんとメレナちゃんも」

 「はい、いただきます」

 「いただきます」


 二人はその後、朝食をとり今後について話し合う。


 「セイヤ、朝食を食べたらすぐに出発するよ」

 「ああ、急がないといけないな」

 「あら、もう行っちゃうの?」

 「ええ、私たちは一刻も早く聖教会に向かわなければいけないので」


 二人がすぐに出発すると聞き、寂しそうにするグレハ。そのとき彼女は、何も思ったのか、もう少し待っているようにと二人に言い残し、どこかへ行ってしまった。


 「セイヤ殿、改めてこの村を守っていただき、ありがとうございます」

 「いや、俺は……」


 急に席を立ちセイヤに向かって深々と頭を下げるダダ。その姿からはセイヤに対する心からの感謝がわかり、セイヤは戸惑う。


 確かにセイヤはゴンラ村のことを救ったことになるが、セイヤの中では自分の怒りが限界に達して、つい衝動的に行ってしまったことで、感謝されるようなことをしたとは考えていない。


 「いえ、私たちゴンラ村の今を救ってもらっただけでなく、未来まで救ってもらい本当に何と言っていいことか。本当にありがとうございます」

 「頭を上げてください。別に俺はそんなに頭を下げられるほどのようなことはしていませんから。言ってしまえば、あれはあいつらの態度が気に食わなくてやっただけで、決してこの村を守ったとかじゃなくて……」

 「それでもですよ」


 今までにこんなに感謝されたことのないセイヤは、どうしていいかわからない。そんなセイヤの様子を見たメレナが、仕方ないと言わんばかりにダダに言葉をかける。


 「その辺でやめてあげてください。セイヤも困っていますから」

 「おっ、これは失礼。こんな老いぼれに頭を下げられても困りますな。ハッハッハ」

 「いっ、いえ」


 メレナに言われ、ダダは慌ててセイヤに謝罪する。その際、ダダの照れ隠しが意外とかわいかったことに、セイヤは若干引いたが、言葉には出さない。


 そんなことをしながら、セイヤとメレナは朝食を食べ終え、ゴンラ村を発つ準備をして、下に待機させてある魔装馬へと向かう。下に降りると、あたりは朝だというのに物静過ぎて、少し不気味だった。


 「みんなハッチャけて、今頃は寝ているのですよ」

 「なるほど」


 昨晩の騒ぎ具合を考えると、今頃、全員が寝ていてもおかしくはない。


 「すみません、見送りが私一人で……」

 「いえ、大丈夫です」

 「そうですよ。それにこの村が平和なことは私もうれしいことですから」


 二人は森の中を見渡しながらそう言った。


 「じゃあ行くか」

 「そうね。村長、お世話になりました。グレハさんにもよろしくお伝えください」

 「はい、お二人もお気をつけて。本当にありがとうございました」

 「では」


 二人はそのまま魔装馬を鞭でたたき、聖教会のある中央王国に向かおうとした。だがその時、大きな声が森の中に響く。


 「ちょっと待って!!!」


 二人は驚きながら後ろを振り向くと、そこには手を振りながら駆け寄ってくるグレハの姿があった。朝食の際に消えたグレハは手にバスケットのようなものをもって、二人に駆け寄る。


 「ハァハァ、間に合った。これ持って行って」

 「これは?」


 メレナはグレハから大きなバスケットを受け取る。重さはかなり重く、中にはたくさんのものが詰まっているようだ。


 「ふぅ~、これは二人のお弁当よ。昨日のお祭りの余りものだけど、途中でおなかがすいたらいけないでしょ? だからもっていって」

 「あっ、ありがとうございます」

 「いいのよ、こっちは村を助けてもらったんだから」


 グレハは二人がすぐに発つと聞いて、お弁当を作ろうと考えた。しかしあの時点で作るとしたら、当然だが二人の出発には間に合わない。だからグレハはいろいろな家を回り、昨日の残りでもいいから二人のために食料を集めていたのだ。


 ここから先はさらに険しい道のりが続き、もしかしたら食料を十分に確保できるか不安だった二人にはありがたいものだった。


 二人がグレハからバスケットを受け取ると、村の奥からたくさんの人が姿を現し始める。いったい何人いるのかと思うほどの数に、セイヤとメレナは驚く。


 たくさんの人の中には、ヌフの姿や昨日見た門番の姿もある。


 「どうやら皆起きたようですね」


 ダダはたくさんの村人を見てそういう。


 そう、今セイヤたちの目の前にいるのはゴンラ村の全村民であり、全員がセイヤとメレナの見送りに来ていたのだ。グレハがお弁当を集める際に起きた人々の間で、英雄たちがすぐ発つと噂になり、なら全員で見送りに行こうという運動が広がっていったのだ。


 「ありがとな、セイヤ!」

 「村を救ってくれてありがとう!」

 「助かった! 本当にありがとう」

 「またいつでもこの村に来いよ!」

 「いつでも歓迎するぞ」

 「また会おうぜ!」

 「待っているからな~」


 村人たちからの心からの感謝、中にはまだセイヤのことを怖いと思っている者もいたが、それでも感謝はしている。


 セイヤがゴンラ村と村人たちを守ったのは事実であり、さらに強力な傭兵までつけてくれた。怖いと思っていても、それ以上に感謝の心が強かった。


 「みんなセイヤくんに感謝しているのね」

 「今度はみんなと一緒に飲みましょう、セイヤ殿」

 「ああ、ありがとな」


 セイヤは自分たちを見送るゴンラ村の人をみて、うれしそうな笑みを浮かべながらダダにそういった。メレナはそんなセイヤの様子を生暖かい目で見守りながら言う。


 「さあ、今度は本当に行こうか」

 「ああ、そうだな」

 「お気をつけて」

 「また来てね」

 「ええ」

 「ああ、また来る」


 二人は魔装馬を鞭でたたき今度こそ本当にゴンラ村を出発する。


 「「「「「「「「「「ありがとう! セイヤ!」」」」」」」」」」


 そんな声を背中に受けつつ二人は中央王国を目指してゴンラ村の門を出て、再び山の中へと向かおうとした、その時だった。


 セイヤは門の傍に見覚えのある姿を見つけて、魔装馬を止める。


 「どうしたの、セイヤ?」

 「お前は……」

 「おっ、どうも」


 セイヤの目の前にいたのは、つい昨日までこの村を襲っていた傭兵たちのリーダー格であるベルだった。その後ろには二人の傭兵がおり、どうやら門の警備をしているらしい。


 ベルたちはセイヤを見て、昨日の恐怖心が出たのか足が震えだす。


 「ちゃんと仕事はしているんだな」

 「はっ、はい、もちろんですよ。こちらは命がかかっていますから……」

 「そうか」


 セイヤはベルたちに対して無関心な態度で接する。セイヤの怒りは傭兵たちを雇っていたガルベントに向いていたが、それでも実行をしていたのはベルたち傭兵であり、少なからず思うところはあった。


 セイヤはその感情を必死に抑えつけながらベルと話していたため、はたから見たら無関心のように見えたのだ。


 「セイヤさんは、もう行くのですか?」

 「ああ、それがどうした?」

 「いえ、よかったらまた来てほしいと思いまして」

 「なに?」


 ベルの口から出た予想外の言葉にセイヤは驚く。セイヤはベルたちに対して憎まれることはしても、また会いたいと言われるようなことはしていない。


 言われるなら、むしろもう会いたくないというほうが普通だろう。と言っても、仮にベルたちがそう思っていたとしても、言えるはずはないが。


 「俺らはセイヤさんに感謝しているんです。俺らが今までやってきたことは、いくら金が積まれていたからと言っていいことではなかった。それを昨日、死の恐怖にぶつかったときの思ったのです。

  ああ、自分の人生はなんて悪人だったのだろう、って。でもセイヤはさんはそんな俺たちにもう一度チャンスをくれた。だから今度はこの村のために尽くすと決めたんです」


 ベルの言葉に、部下たちも答える。


 「自分もです。自分も金のためでなく人のために働きたい。そう思ったんです」

 「僕もです。僕も誰かのために戦いたい。昨日の戦いでそう思ったんです。そしてそれは仲間も同じでした」

 「だから、もし今度セイヤさんがこの村に来た時、俺らに仕事ぶりを見て満足したら、俺らに稽古をつけてください。お願いします」

 「「お願いします」」


 セイヤに向かって頭を下げるベルと二人の傭兵。どうやらセイヤの威圧が傭兵たち全員を改心させたらしく、セイヤは驚く。


 「ああ、わかった。今度来た時にな」

 「「「ありがとうございます!」」」

 「ああ……」


 セイヤはまさか自分が誰かに教えを請われるなどと思ってもいなかったため、照れ隠ししながら答える。ベルたちはセイヤに向かって敬礼をして感謝した。


 「では、いってらっしゃいませ! セイヤ教官!」

 「「いってらっしゃいませ! セイヤ教官!」」

 「おっ、おう」


 セイヤはすぐに魔装馬を走らせて、その場を立ち去ろうとする。それが照れていることは誰が見てもわかった。メレナは教官と呼ばれる恥ずかしさを味わえ~と思っていた、かもしれない。


 二人は今度こそ、聖教会のある中央王国を目指して山道を進むのであった。


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