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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
4章 レイリア魔法大会編
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第112話 ユアの決断

 セイヤがベルたちの相手をしている頃、アクエリスタンの自室にいたライガーは明日に備えて準備をしていた。


 ライガーは明日、ユアたちといっしょに今年のレイリア魔法大会の開催地であるオルナの街に向かうことになっている。本当ならまだ出発は速いのだが、先に現地入りをして直前強化合宿を行うためだ。


 すでにオルナの街に滞在する際の宿や、練習場所は確保してあり、いつ行ってもいいようになっていた。


 コンコン


 その時、ライガーの部屋の扉がノックされる。これは珍しいことだ。ライガーの部屋に訪ねてくるものは、この屋敷でも数えるほどしかいない。


 まずは妻であるカナ、ライガーの側近ともいえる使用人のメレナ、そしてこのライガーの部屋の掃除を任されているダールという男ぐらいだ。


 メレナは現在、セイヤと一緒に聖教会に向かっているため、この屋敷にはいない。カナはおそらく屋敷の中に居るだろうが、リリィの荷造りを手伝っているため違う。


 掃除を頼んでいるダールは決まった時間にしかこの部屋に来ないのだが、今はその決まった時間ではない。となると、普段はこの部屋に近づかないものになる。


 「入れ」


 ライガーは扉に向かってそういうと、扉が静かに開かれて一人の少女が姿を現す。


 「ユアか」


 そこにいたのは、ライガーの一人娘であるユアだった。しかし彼女は普段この部屋には近づかない。ユアがライガーの部屋を訪ねるのは、約五年ぶりと言ってもいいだろう。


 「どうしたユア? 明日はウィンディスタンに向かうから、今日は早めに休んでおくようにと言ったはずだが」

 「わかっている……でもお願いがある……」

 「お願い?」


 ライガーがユアから直接お願いされることは珍しい。普段はメレナなどの使用人を通して、お願いをされることが多いため、ライガーは不思議に思う。


 だが、ユアの顔を見て何となくお願いを察することができた。


 「お父さんお願い……私に雷属性を教えて……」

 「やっぱりか」


 ユアのこのお願いは、いつかされるとライガーは考えていた。そしてその時はあまり歓迎できる時ではない。だからライガーはあまりユアに雷属性を教えたくはなかった。


 「なぜ雷属性を? お前には光属性があるだろ。それに聖属性だってある」

 「たしかに私には光属性と聖属性がある……でもそれではセイヤの背中は守れない……」

 「なぜそう思う?」

 「今の私は無力……このままじゃセイヤの横には立てない……」


 己の無力さを知らされることになった、ダクリア二区での暗黒騎士こと、シルフォーノとの闘い。


 ユアは己の限界以上の力を出したが、彼女に傷一つつけるどころか息を乱すこともできなかった。


 ユアは生きて帰ってきたのではなく、生かされて帰ってきたのであり、それは単に、シルフォーノの気まぐれだったとユアは考えている。


 そしてそれは同時に、光属性と聖属性の限界を示している。ユアはもうこれ以上、光属性と聖属性を操ることができないとわかっていた。


 限界を超えれば、暴走してセイヤたちに迷惑をかけるかもしれず、セイヤの横に立つどころか、敵になってしまうかもしれない。


 そんなことをユアは望まない。もしセイヤの横に立てるというのだったら、今まで積み重ねてきた努力をすべて捨ててもいいとユアは考えている。


 「はあ、お前はセイヤの横に立ちたいのか?」

 「そう……」

 「それは辛い人生になることを意味していることは分かっているのか?」

 「わかっている……私は異端魔法師の妻だから……」


 ライガーはユアが雷属性を求めることを望んではいない。


 それは雷属性が危険だとかそういう意味ではなく、普通に今のユアには不必要なものだから。


 ユアの今の力である光属性は、レイリア王国の基準に当てはめれば、かなりレベルが高いものであり、レイリア王国で普通の魔法師として過ごしていくには申し分ない。


 そんなユアが力を求めるということはつまり、普通の魔法師の生活から逸脱するということを指している。強大すぎる力は周りから疎まれ、自身から普通を取り除く。


 それは特級魔法師として生きるライガーが体験してきたことであり過酷なものだ。そして娘はその道に進もうとしている。


 父親としては、娘にそんな道を通ってほしくはない。だが魔法師の親としては、娘が向上心をもってくれることはうれしい。


 ましてや、今まで強力な光属性魔法を使えたおかげで、それ以上の力を求めることはなかったため、よりうれしい。


 過酷な道の回避か、娘の心か、ライガーは悩む。自分の決断で娘のこれからの人生を大きく変えてしまうのだから。


 「お願い……」

 「はあ、わかったよ」

 「ありがとう……」


 娘の願いを無下にできるほど、ライガーは大人ではなかった。しかしそれは同時に、娘が過酷な人生の道を選んだことになる。そこにはセイヤと一緒に切り抜けてほしいというライガーの、父親としての願いがこもっていた。


 「雷属性を教えるにあたり、初めに言っておくことがある」

 「わかっている……光属性も聖属性も本当は私の力ではない……」

 「そうだ、その二つは後からつけられた属性であり、ユアの本当の適正属性は他にある」

 「うん……」


 衝撃の事実のはずだが、ユアはすでに自分でその答えにたどり着いていた。


 いつも読んでいただきありがとうございます。今回、少しだけユアの秘密が明かされました。それでは次もよろしくお願いします。

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