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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
3章 ダクリア2区編
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第102話 『フェニックスの焔』

 「アイシィ! アイシィ!」


 横たわる水色の髪の少女のことを、必死に揺すりながら呼びかける赤髪の少女セレナ。その顔には涙や鼻水が垂れており、かわいい顔が台無しだった。


 しかしそんなことはお構いなしに、セレナはアイシィのことを呼び続ける。


 セレナが意識を取り戻してからもう何回呼んだかわからない。


 何度呼んでも、アイシィは呼びかけに答えず、体は徐々に熱を失っていく。それは彼女が氷属性を使う魔法師だからではないだろう。


 『絶対零度(アブソリュート・ゼロ)』————術者の命と引き換えに繰り出される絶対解けることのない氷。たとえどんな炎であろうと、その氷を解かすことはできない最強の氷だ。


 アイシィは『絶対零度(アブソリュート・ゼロ)』を使ったことにより、その命を失った。彼女は大好きな先輩であるセレナを助けるために、この魔法を使ったことに後悔はない。


 しかし自分のために魔法を使われた側からしてみれば、自分のことを責めるしかない。


 セレナは知っている。『絶対零度(アブソリュート・ゼロ)』を使ったアイシィは、もう目を覚まさないことを。


 だけどそんなことを認められるほど、セレナは大人ではない。これからの人生、セレナはひたすら自分のことを責め続けるだろう。


 そんな時セレナはふと思った。


 「『フェニックスの焔』なら……」


 それは彼女に一族に伝わる固有魔法であり、どんな傷でもいやすことのできる最強の魔法。


 「お母さんなら、アイシィを助けられる」


 自分の母親なら『フェニックスの焔』を扱える。


 そうすれば、アイシィのことを助けられるかもしれない。セレナは広間の先を見る。


 もしかしたらセイヤがモカをすでに救出して、戻ってきてくれるかもしれない。そんな淡い期待をしている、セレナの視界にセイヤが現れた。


 「ロリコン!」


 セイヤの制服こそ傷ついているが、彼の体自体は怪我がなさそうで、一安心するセレナ。


 そしてすぐに、セイヤが自分の母親を連れて来ているかもしれないと期待する。しかし一向に、セレナの母親は姿を現さない。しびれを切らしたセレナがセイヤに聞く。


 「お母さんは……」

 「この先にはいなかった」

 「そんな……」


 セレナは絶望した。


 母親が、『フェニックスの焔』がないということに。セレナの様子がおかしいことをすぐに悟ったセイヤは、事情を聞いた。


 セレナは話したくなさそうにしていたが、セイヤはそれでも無理やり聞く。


 すると、セレナが辛そうにセイヤに事の顛末を離し始めた。


 「それで……アイシィが……アイシィが……」

 「鳥女……」


 事情を説明したセレナが、再び泣き出してしまう。


 友人の死。その気持ちは、セイヤにも痛いほど分かった。かつてダリス大峡谷でユアを失った時の悲しみを思い出すセイヤ。同時にあることを思い出した。


 「まだ救えるかも……」

 「えっ?」


 セイヤの言葉に、耳を疑うセレナ。『フェニックスの焔』がないこの現状では、アイシィを救う方法など存在するはずがない。セレナはそう思っていた。


 セイヤもアイシィを絶対に救えると確証があるわけではない。だが、かつて自分がユアを死の淵から救った方法なら、助けられる可能性がある。


 しかしそれには問題があった。セイヤがかつてユアを生き返らせた時は、禁術を使い、ユアの肉体(・・)だけの時間を戻して生き返らせた。


 その時は死んで間もなかったため、死の概念が肉体に定着していなかったが、今はどうだろう。


 セレナの話を聞く限り、アイシィは死んでからかなり時間が経っている。たとえ肉体だけの時間を戻しても、魂が消えてしまっていれば生き返る可能性は少ない。


 魂を生き返せる魔法をセイヤは使えなし、そもそもそんな魔法が存在するかも怪しい。可能性があるとしたら、ブロードの言っていた『フェニックスの焔』だけだろう。


 ブロードだって、確証があってモカを攫ったのではなく、あくまで研究のためにモカを攫った。本当に『フェニックスの焔』に魂を生き返らせる力があるのかは、誰にもわからない。


 けれども、やってみる価値はある。しかしそのためにはセレナが『フェニックスの焔』を使えなければならない。


 「鳥女、『フェニックスの焔』は使えるか?」

 「えっ? 私?」

 「そうだ。お前の母親がいない以上、お前がやるしかない」

 「そんなの、できるわけない! 理論と詠唱しか習ってないもん。使えたとしても微量だけ」

 「ああ、それでいい。少しでも出たら後は俺が上昇させてやる」


 セイヤにとって、知らないものを作り出すことは聖属性であっても難しい。しかし、そのもの自体があれば、光属性で上昇させることはできる。


 二人はさっそく、アイシィを生き返らせる準備に入った。


 セイヤは再び魔王モードへと姿を変える。二回目とはいえ、禁術を使うとなれば少しでも一回目と条件を合わせた方がいい。


 魔王モードになったことであいつの再び声が聞こえるかと思ったが、どうやら今は休んでいるらしく大丈夫だ。


 「なに、その姿……」


 急に豹変したセイヤの姿を見て、セレナは言葉を失う。しかし今はそんなことをしている暇はない。


 「気にするな。今はアイシィを助けることに集中しろ」

 「う、うん」


 どこか不満げな表情をするセレナだったが、アイシィを助けるためと言われては仕方がない。


 「やるぞ」

 「うん……」


 魔王モードになったセイヤが、アイシィに向かって禁術を行使する。


 「『聖絶結界』、『聖典の呪縛』、『聖刻』、事象返還開始」


 次の瞬間、アイシィの体は白い結界に包み込まれた。その結界はとても暖かく、どこかやさしい感じがすると、セレナは感じた。


 アイシィの体中に白い文字が浮かび上がり、左に向かって回転を始める。白い文字は回り続けると、あるところで止まり、ユアイシィの体内に吸い込まれた。


 アイシィの体が一瞬だけ光ったように見えると、再びアイシィの体に白い文字が浮かび上がり左回転を始める。


 同じ動きを何回も繰り返した後、文字はアイシィの体からきれいに消えて、結界も同時に消滅した。これでアイシィの肉体は、『絶対零度(アブソリュート・ゼロ)』を使う前の肉体へと戻ったことになる。


 次は魂の再生だ。


 「鳥女!」

 「わかった! 空前の灯の前に遣わし、焔の方々、我が呼びかけに答えて汝の力を我が手に、不死鳥の剣となって我が心に、顕現せよ不死鳥の魂。『フェニックスの焔』」


 セレナの手に、一つの小さな金色の焔が現れる。その焔は小さいにもかかわらず、この空間で一番目立つほどの存在感を出しており、特別なものだということがわかった。


 「それをアイシィの胸の上に」

 「わかった」


 セレナは手の上に出現した『フェニックスの焔』を、まるで心臓マッサージするかのようにアイシィの胸へと押し付ける。しかし焔が弱いためか、アイシィは一向に目を覚まさない。


 「だめ、足りない……」

 「安心しろ。俺がいる。『聖光業』」


 白く輝く光がセイヤの手を包み込み、セイヤは自分の手をセレナの手の上へと置いた。すると次の瞬間、セレナの手で小さく燃えていた『フェニックスの焔』が、ものすごい勢いで大きくなり、アイシィの体全体を包み込む。


 神々しい。今の三人を表現するなら、この言葉が一番合っているだろう。金色の焔がアイシィを包み込む中で、セレナは願った。


 「お願い。お願い。お願い。戻ってきてアイシィ」


 泣きじゃくる少女の一途な願い。


 「お願い。お願い」

 「泣かないで……セレナ先輩……」

 「えっ?」


 セレナの願いに誰かが答えた。弱弱しい声だったが、セレナはその声をよく知っていた。


 「アイシィ!」

 「はい」


 アイシィは笑顔でセレナに返事をすると、また気を失ってしまう。


 「アイシィ?」


 セレナは一瞬、また死んでしまったのではと思ったが、違う。静かに寝息をたてるアイシィは、ただ疲れて眠っているだけだった。


 「どうやら魔力切れで寝ているらしいな」

 「よかった」


 アイシィは生き返ったといっても、『絶対零度(アブソリュート・ゼロ)』で魔力をほとんど使った。本当なら、セイヤが『聖華』で魔力も回復させてあげたいところだが、セイヤにもそんな余裕はなかった。


 いい感じで終わったように見えるが、ここはまだ暗黒領。それも敵の本拠地だ。ぐずぐずしている暇はない。


 「さて、俺はユアたちを探しに行く。鳥女はアイシィを連れて先にレイリアに戻れ。バジルに連絡しておく」

 「でも……」

 「安心しろ。お前の母親も見つけていく。だから鳥女はアイシィを休ませてやれ。普通に眠っているが一度は死んでいる。疲労もかなりあるはずだ」

 「わかった」


 セレナはそういうと魔法で火の鳥を作り出す。


 この鳥は移動用の鳥で、長距離は飛べないが、魔装馬がいるところまでは移動できる。


 魔装馬のところまで飛べば、あとはレイリアに戻るだけでいい。本当ならダクリア二区の街で待っているほうが安全なのかもしれない。しかし今は一刻も早くアイシィをレイリアの医者に見せたほうがいいので、仕方がない。


 「じゃあ鳥女、レイリアで会おう」

 「わかった。そ・れ・と、セレナ」

 「はっ?」


 顔を赤らめながら、セイヤに名前で呼ぶようにと求めるセレナ。


 そんなに顔を赤らめるぐらいなら、言わなければいいのに、と思うセイヤは困ったような表情をする。しかし魔装銃を向けながら、「アトゥー……」と言われては、どうしようもすることはできない。


 セイヤにはもう戦うほどの魔力は残っていないため、素直に従うしかない。


 「はあ、じゃあまたあとでな、セレナ」

 「うん! ありがとうセイヤ。またあとで」


 セレナはそういうと火の鳥を出して飛び去って行く。セイヤも残る仲間を探すために、再び階段を下っていくのだった。


 いつも読んでいただきありがとうございます。その後シリーズ一段目はセレナたちになりました。それにしても何とか生き返ったアイシィ(内心すごい安心しています)ですが、当初はただセレナが『フェニックスの焔』で回復! だったのです。ところが、ブロード戦で魂がどうこうという設定が追加されてしまったため、あのような形になりました。

 なにはともあれ生き返ったからいいかということでお願いします(笑)

 さて、次もその後シリーズ第二弾を投稿したいと思うので、次もよろしくお願いします。おそらく明日には更新できるはずです……(多分)


 次はもっと短いと思います!

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