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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
3章 ダクリア2区編
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第99話 もう一人のセイヤ

 「まさかワシの腐属性が効かなかったじゃと?」

 「さあな」


 まったくダメージを受けていないセイヤの姿を見て、驚愕の表情をするブロード。


 「なぜじゃ?」

 「単純なことさ。この広間に入った瞬間に、『闇波』を使ってお前の腐属性の魔力の粒子をすべて消滅させただけに過ぎない」

 「なんじゃと!? だが魔力の粒子は確かにこの空間に……」

 「それは俺が作り出したただの無害な魔力の粒子だ」

 「まさか……」


 セイヤの説明に、言葉を失うブロード。


 セイヤはこの広間に入った瞬間、広間中に蔓延する魔力の粒子を感じたため、すぐに『闇波』で消滅させた。そして消滅させたことがわからないように、聖属性を使って、同じような魔力を生成したのだ。


 セイヤが生成した魔力には、当然、腐敗させる効果などがない。


 「フォッフォッフォッ、まさかこの技が破られるとはのう」


 自分の技が破られたことに対して、どこか嬉しそうな表情をするブロード。その表情からは、まだ余裕が感じられる。


 「お主が三人目じゃよ。この技を破ったのは。これでワシも久しぶりに全力で戦えるわい」

 「それは怖いな。その言葉が本当だったらな」

 「試してみるか?」


 ブロードはそういうと、杖を持ち上げ、地面に一回だけ軽くたたきつけた。


 すると次の瞬間、ブロードの後方にある壁の一部が開き始めて、中から十発のミサイルが発射される。発射されたミサイルは一直線でセイヤをめがけて飛んでいく。


 「機械仕掛けか」


 セイヤは自分の方へと飛んでくるミサイルに対して、『闇波』を行使して、十発のミサイルをすべて消滅させる。


 「まだまだじゃよ」


 ブロードは再び杖で地面を軽くたたく。今度は二回だ。


 すると次の瞬間、他の壁が開き始めて中から大量の無人偵察機が飛び出し、セイヤに向かって飛び始める。ドローンのような形をした無人偵察機が、次々と発射され、セイヤの周りをぐるぐると旋回し始めた。


 「邪魔だ。『闇波』」

 「まだまだじゃ」


 セイヤが飛んでいる無人偵察機に対して再び『闇波』を行使しようとした直前、ブロードが再び杖で地面のことを叩いた。


 すると今度は、セイヤの後方の壁が開きはじめ、中から大量の機関銃が姿を現す。そして機関銃の銃口はすべてセイヤの方向を向いていた。


 タッタッタッタッタ タッタッタ


 そんな射撃音とともに、無数の銃弾がセイヤに向かって撃ちだされる。


 「ちっ……」


 セイヤは『闇波』を行使することをやめて、代わりに『纏光』を最大限に発動する。セイヤの視界から色が消えモノクロになり、飛んでくる銃弾がまるで止まっているかのように遅くなった。


 時が止まったような世界でセイヤは銃弾を撃ち続けている機関銃に近寄り、手の中に生成したホリンズで機関銃を破壊していく。


 すべての機関銃を破壊し終えると、セイヤは飛んでいる無人偵察機もホリンズで破壊していき、そこで『纏光』を解いた。


 そのままブロードに攻撃をしてもよかったのだが、モカの居場所を聞く必要があるため、一度距離をとる。


 ブロードは一瞬にして破壊された機関銃と無人偵察機を見て、セイヤが超高速で移動したことを理解した。


 「その技は厄介だのう。大方、光属性で身体能力を上昇させているようじゃが……」

 「これを使えば、あんたを一瞬で葬れる。それが嫌だったら、モカ=フェニックスの場所を教えろ」

 「フォッフォッ、ワシも随分なめられたものじゃのう。これくらいで調子に乗ってもらっては困るわい」


 ブロードはポケットからリモコンのようなものを取り出して操作を始める。セイヤはすぐに『纏光』でリモコンを破壊しようとしたが、なぜか『纏光』がうまく発動せずできなかった。


 「魔封石か……」

 「正解じゃ」


 セイヤの言う通り、ブロードは魔封石を使った装置を起動させた。セイヤはかつて一度だけ見たことがある。魔法を封じる効果のある高価な鉱石。


 「だが俺には闇属性がある。そんなものは通じない」

 「それはどうじゃろうな?」

 「なに……」


 セイヤはかつて自分が魔封石を『闇波』で消滅させた経験から、今回も消滅できると踏んでいた。しかし実際に『闇波』を行使してみたところ、魔法が発動できなかった。


 「フォッフォッ、ワシが普通の魔封石を使うとでも思ったのか? これでもワシは二百年生きている天才じゃよ。魔封石の強化ぐらいできて当然じゃ」

 「強化だと……」


 魔封石は人工的に作ることはできず、研究も難しいとされてきた鉱石である。そのため、ほとんどの魔封石は闇属性には通用しなかったのだが、セイヤの目の前にいる天才は、対闇属性用の魔封石を作り出していた。


 対闇属性用の魔封石は、結果として闇属性以外の魔法を封じる力を失ってしまったのだが、通常の魔封石とセットで使えば問題はない。


 つまり今、この瞬間、セイヤたちがいる広間は完全に魔法が使えない空間になっているのだ。


 「だが、あんたも魔法は使えないはずだぜ」

 「確かにのう、じゃが、機械は使える」

 「ちっ……」


 セイヤの纏っていた光属性の魔力は魔封石によってかき消されており、唯一、セイヤの手にはホリンズがあるだけ。一方、ブロードは腐属性の魔力こそ使えないものの、彼にはさまざま武器と仕掛けがある。


 セイヤがいる広間は、言ってしまえばすべてがブロードの武器であり、広間の様々な仕掛けは、ボタン一つで操作可能になっていた。


 いくらセイヤといえども、魔法が使えない状態ではただの少年でしかない。


 「あきらめるんじゃのう、お主の負けじゃ」


 ブロードの言う通り、セイヤの負けだ。もうセイヤには打つ手がない。魔封石さえ壊せれば状況は変わるが、セイヤにはホリンズしかないため、魔封石を壊すのは不可能だ。


 絶望的な状況に陥ったセイヤだが、決してブロードのいうことだけは聞かないと、心に決めていた。


 ブロードはセイヤのとても大事なユアとリリィを、道具扱いすると言った。そんなことを、セイヤは許すわけがない。たとえ死んだとしても、絶対にブロードの研究材料になる気はなかった。


 「悪いがあきらめる気はない」


 ブロードのことを睨みながら強い決意のもとにいうセイヤ。その眼はまだあきらめておらず、どうにか突破口を探している眼だ。


 セイヤの眼を見て、まだあきらめていないことを悟ったブロードは、まずセイヤの心を折ることから始める。


 「そうか。なら耐えてみるがよい」


 ブロードが手に持つリモコンを操作すると、今度は天井が開き、たくさんの機関銃が姿を現す。先ほどの壁から出てきた機関銃よりも大きく、数も多い。


 天井から出たアームが機関銃の狙いをセイヤに定め、いつでも打てる準備をする。


 「さて、耐えられるかのう。先ほどよりも殺傷性は低いが、その分、痛みは大きいぞ」

 「そうかよ。さっさっとやれよ、おいぼれが」

 「フォッフォッフォッ、あまり調子に乗らない方がいいぞ」


 そういいながら、ブロードがリモコンのスイッチを押すと、天井から出ている機関銃たちが一斉にセイヤに向かって連射を始める。


 タタタタッタタタッタタッタタッタ


 そんな音とともに撃ちだされる弾が、セイヤの足や腕など体のあちこちに被弾する。だが弾の先が丸まっており、セイヤの体を貫通することはない。


 といっても、鉄の塊がものすごい速さでぶつかることは変わりなく、激しい鈍痛がセイヤのことを襲う。


 「うわぁぁぁぁぁぁぁ」


 止まずに襲ってくる激しい鈍痛に、苦しみの声をあげるセイヤ。機関銃たちはしっかりとコントロールされているらしく、決してセイヤの頭などには弾がいかないようになっていたが、体を襲う激しい鈍痛の中では、何も考えられない。


 一発、一発、また一発。一発浴びるごとに、自分の体を襲う痛み。同時にその箇所が骨折していくことがわかる。しかしセイヤにはどうしようもできない。


 しっかりと握られていたホリンズはセイヤの手から落ち、地面に転がる。そして片方は機関銃の弾で砕けていた。


 (やっぱりお前はよえーな)


 決して終わることのない鈍痛の中、セイヤの脳内にそんな声が響いた。その感覚はかつて自分の窮地に体験したものと似ているが、今回の声は、あの時ほど友好的な声ではない。


 どちらかというと非友好的な声だ。


 (雑魚は引っ込んで、俺と代われ)

 (なんだお前は……)


 セイヤは非友好的な声に聞いた。


 (俺はお前だ。だが俺の方が強い。だから代われ)

 (嫌だね……誰がお前なんかと……)


 本能的にこの声の言うことは聞いてはいけないと感じたセイヤは、拒絶の意思を示したが、声は笑いながら言う。


 (ハッハッハ、その結果がこれだ。こっちはあの女がいない今しかないんだよ。だから無理やりにも変わるぜ)

 (待て……)


 セイヤは次の瞬間、自分の肉体の支配権を失った。意識はしっかりしているのだが、体が動かずまるで金縛りにあったようだ。


 ふと気づくと、セイヤは水の中にいた。まるで体が水の底に引っ張られていくかのように沈んでいき、水面が遠のいていく。


 (なんなんだ……これは……)

 (そこで見てろ。本当の力の使い方を見せてやる)


 そこでセイヤは気づく。水面の先に広がる景色が、先ほど自分が見ていた風景と同じということに。リモコンを持ったブロードと複数の機関銃。


 そしてなぜかセイヤの姿もあった。


 しかしその姿はいつもの金髪碧眼の少年であるセイヤではなく、白と銀が混じったような色の髪に、狂気の色を感じる紅い瞳、全身から放たれる威圧感は、魔王そのものであった。


 (魔王モード……)

 (ああ、この力を使えば、雑魚の道具など蹴散らせる。俺がお手本というのを見せて……チッ、起きやがったか……)


 その時、セイヤは水の底に沈んでいこうとしていた自分の背中を、誰かが押すのを感じる。セイヤが振り向くと、そこにはセイヤの背中を押すリリィ(大人バージョン)の姿があり、セイヤに向かって微笑みかけていた。


 (残念だが今回はお前に返す。次またチャンスがあったら、絶対に逃さないから覚悟しておけ)

 (お前はいったい……)


 一気に意識が戻るのを感じたセイヤは、いつの間にか自分の体を取り戻していた。体を襲う激しい鈍痛が、肉体の支配権を取り戻したことを嫌でも教えてくれる。


 「デスエンド」


 セイヤがそういうと、大剣が姿を現す。魔王モードになっているセイヤは、大剣デスエンドを握りしめると魔力を流し込み、魔法を発動する。


「デスディメンション」


 セイヤがそういった直後、大剣デスエンドの文字が紫色に光だし、魔力の波動が生まれ、隠すように設置してあった魔封石を消滅させる。


 同時に、セイヤの体にできた骨折や痣なども消えていき、セイヤの体はすっかり治ってしまう。


 そんなセイヤの姿を見たブロードは、ありえないといった眼差しで魔王モードになったセイヤのことを睨む。


 「お主……なぜお主がその姿を…それにその大剣……」


 広間には、セイヤの姿に驚愕の表情を浮かべるブロードの声が響いた。


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