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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
3章 ダクリア2区編
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第98話 館の主

 複数の小型無人飛行機が、神速で移動する何かを追っていた。しかしその何かが一言発しただけで、小型無人飛行機は音もたてずにその姿を消す。


 「無駄に多いな」


 神速で移動する何かは、無残に消えていく小型無人飛行機を見ながら、そう言った。すでに百機以上の小型無人飛行機を消滅させていたのは、もちろんセイヤの『闇波』だ。


 セイヤはセレナたちと別れてから、『纏光』を最大にして移動していた。


 ザッドマンの広間以降、敵兵は一人も見あたらなかったのだが、代わりにたくさんの小型偵察機がセイヤのことを追尾している。


 最初は犬のような形をした無人偵察機、次は鳥のような形をした無人偵察機、そして現在は飛行機の形をした無人偵察機だ。


 といっても、レイリア王国には飛行機というものは存在しないため、セイヤはただ飛ぶことに特化したものと認識していたが。


 無人偵察機たちは、決してセイヤに攻撃を仕掛けてくることはなく、ただ追尾するだけだった。しかし無人偵察機から感じる視線が不快だったセイヤは、そのすべてを消滅させてきた。


 「ここか……」


 セイヤは目の前には階段が続いているのにもかかわらず、不意に階段を神速で駆け上がることを止めた。


 そして壁を軽く拳で砕き、小さな石を拾うと、セイヤはその石を階段の先に軽く頬り投げる。すると階段にぶつかると思われた石が、階段をそのまますり抜け、どこかへと消えてしまった。


 「幻覚か」


 セイヤがそういった直後、視線の先に広がっていた階段が歪み出して、消える。そして現れたのは、外の風景、きれいな青空の眼下に広がる森に、目の前にそびえたつ山などだ。


 階段はセイヤの三歩先で急に無くなっており、もしセイヤがあのまま神速で駆け上っていたら、そのまま森へと落下していたであろう。


 「こっちか……」


 セイヤは先ほど軽く砕いた壁の方から、微量ながらも空気の流れを感じ、今度は力を入れてその拳で殴る。


 案の定、壁はとても脆く(もろく)、すぐに砕けていまい、中から大きな広間が姿を現す。


 「フォッフォッフォッ、久しぶりじゃよ。その幻覚に気づいたものが来るのは」


 広間の中心にいたのは腰の曲がった老人だった。


 髪は色が抜けて白く、口には長く白いひげを生やし、手には大きな杖を持っている、今にも倒れそう老人であるが、その眼には確かな意志の強さが宿っている。


 老人はセイヤのことを面白そうに見ていた。


 「お前がブロード=マモンか?」

 「フォッフォッ、いかにもワシがこの館の主、ブロード=マモンじゃよ」


 老人はどこか楽しそうな口調で、自分の名前を言う。しかしセイヤはそんな老人に警戒を怠ることはない。


 「噂は本当らしいな」

 「噂じゃと?」

 「ああ、あんたがすでに二百歳を超えているということだ」

 「フォッフォッフォッ、お主のような小童にも知られているとは嬉しいのう。確かにワシは今、二百十五歳じゃよ」


 ブロードは笑いながら、自分が二百歳を超えていることを認める。その姿を見たセイヤは、自分の中にある記憶が確かなものだと確信した。


 ブロードが二百歳を超えているという話は、セイヤのある記憶から推察されたことである。


 それは幼少期に父親から教えられた、ダクリアには長寿の老人がいるという記憶だ。なぜそんなことを覚えていたのかは知らないが、情報収集の際、マモンという名を聞いて、その記憶を思い出した。


 そしてその記憶が正しければ、マモンはすでに二百歳近い年齢だということになる。


 だが、マモンが二百歳を超えているとなると、『フェニックスの焔』を狙う理由がわからない。二百歳まで生きる術を得たマモンが、なぜ今更になって『フェニックスの焔』を欲するのか。


 たとえどんな怪我でも治す『フェニックスの焔』よりも、長寿の術のほうが貴重なはずだ。


 「そんなあんたが、なぜ今回『フェニックスの焔』なんかを狙った? あんたにはすでに、『フェニックスの焔』を超える治療技術があってもおかしくないはずだが?」


 ここまで来るのに見た数々の機械たち。そのどれもが、レイリアなど及ばないほどの技術力を必要とする。特に無人偵察機などを作れるマモンであれば、考えられないような医療機器があっても、おかしくはない。


 「フォッフォッフォッ、確かにワシにはあの力を上回る医療機器や薬がある。だが、それらではワシの肉体こそ保てても、精神は保つことはできん」

 「精神だと?」


 マモンの言葉に首をかしげるセイヤ。


 「そうじゃ。人間には誰しも魂というものが宿っている。魂には寿命がないと考えられているが、その考え方は間違っておる。魂にも寿命は存在するのじゃ。

  ただ、人間の肉体が魂の寿命を迎えるはるか前に滅びてしまうため、知られていないだけじゃ」

 「なんだと……」


 セイヤには、マモンの言っていることが正しいのか、間違っているのかなどはわからない。そもそも普通の人間には考え付かないことである。


 「魂の寿命のために『フェニックスの焔』が必要だと?」

 「そうじゃ。いくらワシが機械や薬を作ろうとも、魂に使うことはできん。魂に影響を加えるには、やはり魔法しかなかったのじゃよ。

  だが、この国のどんな回復魔法を使おうとも、魂には影響がなかった。この国にないのなら、ほかの国を探せばいい。わしはそう思い、ザッドマンを秘密裏に送った。

  そしたらすぐに、あやつは『フェニックスの焔』の存在を知らせてくれた。だが、警備が厳重でなかなか連れ出すことができず、連れ出すのに十年掛かったわい」


 ブロードがどこか嬉しそうに語っている。


 「それで成功したのか?」

 「まだじゃよ。まだ研究が終わっていないからのう。これから『フェニックスの焔』の遺伝子を培養していく。幸い、この館には母体と成り得る者が二人もおるから、培養も早く終わる。

  三十年もあれば、研究を始められるじゃろう。だが、そのころには母体となった二人はどうなっているか知らんがな。フォッフォッフォッ」


 自分の壮大な計画を語るブロードの目は狂気に満ちており、セイヤは知らず知らずのうちに怒りを覚えた。


 「それにしても、お主も面白い存在だのう。レイリアの光とダクリアの闇を持つ魔法師。どうじゃ? ワシの物にならんか? 今ならお主の遺伝子を残すために様々な母体を準備するぞ。

  お前の望む女を準備してやろう。なんなら、フェニックスの娘を最初に抱いてもよいぞ?」

 「だまれ……」


 セイヤ自分の心の中で湧き上がる感情を必死に抑える。しかしブロードはセイヤのそんな言葉が聞こえているような様子もなく、自分の野望を語り続ける。


 「それにあの聖属性を使う奴と、水の妖精もお前の傍においてやろう。じゃが、遺伝子提供のため他の者にも抱いてもらうかもしれないが、『黙れ』まあ、許せ『黙れって、言っているだろうが!』……」


 セイヤの怒りが絶頂に達する。セレナだけではなく、ユアとリリィまでもを道具として扱おうとするブロードに、怒りを収めることができなかったセイヤ。


 一方、ブロードはというと、ニヤリとうれしそうな笑みを浮かべてセイヤのことを見つめる。


 「お主はもっと警戒した方がよいぞ。戦いは戦闘が始まる前から始まっておる」

 「何が言いたい?」


 不機嫌オーラを丸出しのセイヤに対して、ブロードはとても愉快そうに言う。


 「ワシがどんな魔法を使うか知っておるか?」

 「さあな」

 「じゃろうな。何せこの国の者でさえ、ワシは機械しか使えぬ老いぼれだと言っておるからのう」

 「だからどうした?」


 ブロードの思わせぶりな態度に、セイヤは少しずつ冷静になっていく。しかしブロードは、今更冷静になっても遅いと確信していた。


 「ワシの使う魔法はのう、火属性と闇属性の複合魔法である腐属性じゃよ。効果はもちろん、その名のとおり、腐敗させる魔法じゃ」

 「まさか……」


 セイヤは慌てて周りを確認する。そこには小さな粒子となった腐属性の魔力が蔓延していた。そしてそれは同時に、セイヤの中にはたくさん腐属性の魔力が入っていることになる。


 「そうじゃ。お主は先ほど怒り狂い呼吸の回数も増えていた。そろそろ体内から腐りだすわい。まずは肺が腐りはじめ、次に心臓や脳を腐らせていく。お主の命はもうワシの手の中じゃよ。素直にワシの物になれ、なーに悪いようにはせん」


 ブロードはすでに自分の勝利を確信していた。最初に対話を行い、相手のことを苛立たせ、呼吸の回数が多くさせる。そして事前に巻いておいた腐属性の魔力の粒子で、相手の体を体内から腐らせていく。


 これがブロードの戦い方であり、ほとんどの魔法師は戦う前から負けているのだ。


 「うっ……」


 胸を抑え倒れこみ苦しみだすセイヤ。その姿を見たブロードは喜々としながら言う。


 「さあ、ワシの物になるのじゃ。そうすればその痛みは消える。さあ、楽になるのじゃ」

 「うっ……この……」

 「はやくしないと手遅れになるぞ。さあ、早く、楽になりたいじゃろ?」

 「わっ、わかった……」


 セイヤは苦しみながら、ブロードに向かって手を持ち上げる。


 「そうじゃ。それで『なんていうと思ったか?』……なんじゃと?」


 だが次の瞬間、先ほどまでの苦しみが嘘だったかのように、セイヤが立ち上がった。


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