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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
3章 ダクリア2区編
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第95話 暗黒騎士(上)

 先ほどまで温厚だった雰囲気が、今では修羅場を潜り抜けてきた歴戦の戦士のものへと変わった暗黒騎士。そのことを察知した三人は、攻撃に備え身構える。


 「意外とできるのね。なら、まずはあなたからかしら」


 三人の対応を見た暗黒騎士がそう言い、狙いを絞ったのはユアだった。ユアに向かって『倶利伽羅剣』で斬りかかる暗黒騎士。それに対し、ユアはユリエルで攻撃を防ぐ。


 「ユアちゃん! 『ウォーターキャノン』」

 「こわい、こわい。黄昏の風よ。『風壁塵砂(ふうへきじんさ)』」


 ユアと鍔迫り合いを繰り広げている暗黒騎士に対し、リリィが『ウォーターキャノン』を行使するが、暗黒騎士の魔法によって散ってしまった。


 「今のは風属性最上級防御魔法の一つ……」


 暗黒騎士が風属性最上級防御魔法の一つである『風壁塵砂(ふうへきじんさ)』を、ほとんど無詠唱で行使したことに、同じ風属性使いであるモーナが驚愕する。


 『風壁塵砂(ふうへきじんさ)』は風属性最強の防御魔法ともいわれており、あらゆる対象と自身との間に風を生じさせ、すべての攻撃を塵や砂ほどの大きさになるまで、かまいたちで切り刻む魔法である。


 モーナは『風壁塵砂(ふうへきじんさ)』の存在こそ知っていたが、実物で見るのは初めてだった。


 「まだよ」


 『風壁塵砂(ふうへきじんさ)』によって塵や砂くらいの大きさに切り刻まれてしまった『ウォーターキャノン』だったが、水に変わりはない。水をいくら切り刻もうとも、水は水のままであり、水が水である以上、リリィが操れない水はない。


 「『水針(ニードル・アクア)』」


 『風壁塵砂(ふうへきじんさ)』に切り刻まれた水が、まるで針のように形を変え、一斉に暗黒騎士に向かって撃ち出される。一本一本がとても細く鋭いため、かなりの貫通力がありそうだ。


 「意外とやるわね。でもまだ甘いわ。業火の深淵をここに。『灼地』」


 突如、暗黒騎士の周囲一メートルが灼熱地獄とかし、ユアは急いで退避する。そして灼熱地獄は、暗黒騎士に迫っていた無数の『水針(ニードル・アクア)』をすべて蒸発させていく。


 「風と火……」


 ユアが何かを思い立ったようにつぶやいたが、その声を聞いているものはいなかった。


 「いやな攻撃ね」

 「それはどうも」


 言葉とは裏腹に、暗黒騎士には余裕を感じるが、リリィからは全く余裕を感じない。無理もないことだ。暗黒騎士が先ほどから使っている魔法は、かなりレベルが高く、そのうえ長い詠唱を必要としないのだ。


 更に暗黒騎士が手にしている『倶利伽羅剣』も、まだ本領を発揮していないように思える。一方、リリィたちは暗黒騎士に対して有効な攻撃手段を持っていない。


 そんな時、ユアがリリィに近寄っていく。


 「リリィ……援護をお願い……」

 「ユアちゃんまさか?」

 「そう……」

 「はあ、わかったわ」


 暗黒騎士相手に魔法は聞かないと判断したユアが、リリィに援護を求める。リリィとしては得体のしれぬ『倶利伽羅剣』にユアを近づけるのはどうかと思ったが、魔法が効かない以上、物理攻撃しかないため援護することを決めた。


 「まだあきらめないのね」

 「負ける気はない……」


 ユアは自分の足に光属性の魔力を流していき脚力を上昇させる魔法『単光』を行使し、暗黒騎士へと足を踏み出し、ユリエルで斬りかかる。


 「速いわね」


 ユアの速さを見た暗黒騎士は、ユアを褒めつつも、『倶利伽羅剣』で自分にユリエルを弾き、ユアの腹部へと蹴りを入れる。


 「ぐっ……」


 ユアが苦悶の表情を浮かべ、動きが一瞬だけ止まる。暗黒騎士はその隙を逃さんとばかりに、『倶利伽羅剣』でユアのことを貫こうとする。だが水の壁が出現して、『倶利伽羅剣』の攻撃を防ぐ。


 「あら」


 さらに『倶利伽羅剣』を防いだ水の壁から、多数の水の蛇が生え始め、『倶利伽羅剣』をもつ暗黒騎士へと襲い掛かる。


 「業火の深淵をここに。『灼地』」


 暗黒騎士は自分の周囲一メートルを灼熱地獄に変えることで、水の蛇と水の壁を一瞬で蒸発させて攻撃を防ぐ。水の壁を蒸発させた暗黒騎士は、すぐさま『倶利伽羅剣』でユアの命を奪おうとしたが、ユアの姿はすでになかった。


 右、左、後ろを確認しユアの姿がないことを確認すると、暗黒騎士はすぐに手に持っていた『倶利伽羅剣』を地面に突き刺し詠唱を始める。


 「倶利伽羅倶利伽羅、我の呼びかけに応えよ。『業火の舞』」


 次の瞬間、暗黒騎士の周りを『倶利伽羅剣』から発生した炎が、まるで暴れまわるかのように渦巻き始めた。


 それにより、上空へ跳び、上から暗黒騎士に攻撃を仕掛けようとしたユアは回避せざるしかなく、暗黒騎士と距離をとったところへと着地した。


 暗黒騎士が地面に刺さっていた『倶利伽羅剣』を抜きながら言う。


 「その程度の連携だと、すぐに死ぬわよ」

 「強い……」

 「化け物ね」


 魔法の技術もさるとこながら、暗黒騎士の一番厄介な点、は豊富な強力魔法を惜しみなく使い、かつ魔力切れを起こす気配がないということだ。


 ユアの場合、聖属性で魔力を回復することは可能だが、それでも回復には時間がかかるため、暗黒騎士のように強力な魔法を次々には使えない。


 リリィは自分が暗黒騎士との相性が最悪であるということを理解していた。本来のリリィは、水であったら何でも操ることができるため、たとえ蒸発させられた水であろうとも水蒸気である限り水として利用できるはずなのだ。


 しかしリリィにはそれができなかった。理由は暗黒騎士の魔法が強力すぎるため、水蒸気になった水をコントロールしようにも、できなかったから。


 「どうしたのかしら?」


 まだまだ余裕ですよ、と言いたげな仕草で二人のことを挑発する暗黒騎士。ユアとリリィが攻撃しようにも、暗黒騎士の実力がケタ違いなため、そう簡単に攻撃など仕掛けられない。


 だからと言って、ユアたちが戦いから逃げるという選択肢がないのも事実。


 ユアは再びユリエルで暗黒騎士へと攻撃を仕掛ける。今回は先ほどとは違い、足だけではなく、脳や目にも光属性の魔力を送り上昇させる魔法『局光』を使い、高速の連続攻撃だ。


 「あら、さっきよりは速くなったみたいね。でも、まだ遅いわ」


 ユアの高速の攻撃がすべて暗黒騎士の『倶利伽羅剣』で防がれてしまう。しかしユアは、いくらユリエルでの攻撃が弾かれようとも、構わず斬撃を加えていく。


 高速の斬撃が暗黒騎士のことを襲うが、暗黒騎士はそのすべての斬撃を『倶利伽羅剣』で防ぐ。


 (何を考えているのかしら……)


 ただの物理攻撃では自分に傷をつけるどころか、触れることさえもできない。それはユリエルで何度も斬りかかってくるユアもわかっているはずだ。


 だというのに、ユアは次々とユリエルで攻撃をしてくる。ユアが何を考えているのか、暗黒騎士にはわからなかった。


 「無駄だとわからないの?」

 「…………」

 「無視するのね」


 ユアは無言のまま、ユリエルでの攻撃を繰り返す。そんな時、自分の背後から何かが迫ってくる気配を、暗黒騎士は感じた。


 だが後ろを向こうにも、ユアがそれを許さない。だから暗黒騎士はユアのことを、『倶利伽羅剣』で強引に吹き飛ばした。


 暗黒騎士の背後から迫ってきたのは水でできたトラたちだ。もちろんこれはリリィの攻撃である。水でできたトラが水である限り、暗黒騎士にとっては脅威になることはない。水を高温で蒸発させてしまえばいいのだから。


 「業火の深淵を……はっ」


 自分に迫りくる水でできたトラに対し『灼地』を行使し、その体を蒸発させようとした暗黒騎士。だが今度は背後に悪寒を感じたため、すぐに振り向いた。


 すると暗黒騎士の背後三メートルぐらいところに、水でできたドラゴン、ゲドちゃんが今にもブレスを撃とうとしていた。


 暗黒騎士はすぐに『灼地』を行使する選択をやめ、『倶利伽羅剣』を地面に突き刺しながら、詠唱を唱える。


 「倶利伽羅倶利伽羅、我の呼びかけに応えよ。『業火の舞』」


 ゲドちゃんが暗黒騎士の周囲一メートル以内にいない限り、『灼地』ではゲドちゃんを蒸発させることはできない。そのため、ゲドちゃんともども蒸発させるには攻撃範囲が広い『業火の舞』の選択するほうがよかった。


 しかしこのとき暗黒騎士は一つのミスを犯してしまう。それはあまりの速さで繰り広げられる攻防に、呼吸することを忘れていたことだ。


 そのため、暗黒騎士は周囲の空気が薄くなっていることに気づくのが一瞬だけ遅れてしまった。戦いではたとえ一瞬であろうとも、勝敗を分ける原因になる。


 「しまった……」


 気づいた時にはもう遅い。地面に刺さった『倶利伽羅剣』から炎が出た瞬間、『倶利伽羅剣』を中心に大爆発が発生する。暗黒騎士は、一瞬にして爆風と高温の爆発の中へと飲まれてしまう。


 暗黒騎士の動きが強制的に止められた瞬間を逃すものかと、リリィが先ほどから何かを設置していたモーナのこと呼ぶ。


 「今よ、小娘」

 「わかってるわよ、オバサン。いざないざな、かの地より顕現し諸悪の根源を絶て。『五風殺結界』」


 いつの間にか、暗黒騎士のことを星形で囲むように地面に刺さっていた五本のナイフ。そのナイフが光だし、暗黒騎士のことを爆風ともども、強力な結界が包み込む。


 モーナの使った魔法は、設置型結界魔法『五風殺結界』といい、地面に星形を描くことで星形の中心にある五角形に強力な結界を発生させるという魔法である。


 この魔法は星形の構築と対象を星形の中心にある五角形内に誘導することが難しい魔法だ。だがその分、成功した時には強力な結界を生み出すことができる。


 実はユアたち三人は、事前にある程度作戦を立てておいた。そしてこの作戦が、そのうちの一つであり、格の違う相手が出てきたときようのものだった。


 まずは戦闘を行いつつ、モーナが『風道』でナイフを所定の位置に設置し、リリィが相手を五角形の中に上手く誘導し、足止め、そしてモーナが結界を発生させる。


 しかし作戦はこれで終わりではなく、最後の工程があった。


 「ユアちゃん」

 「お願いします」

 「任せて……」


 リリィとモーナの視線の先には、白を基調とした弓であるユリアルを構え、同じく白を基調とした矢であるユリアルを撃ち出そうとしているユアの姿があった。


 その姿からは、ユアの必殺技である『ホーリー・ロー』を撃とうしているのがわかる。


 「これでおわり……」


 ユアはそういうと、ユリアルの結弦から手を放しユリエルを撃ちだす。


 撃ち出されたユリエルは白い光を纏いながら回転していき、吸い込まれるかのように結界へと進み、再び結界内で大爆発を起こす。


 強力な結界である『五風殺結界』を貫くほどの貫通力を持った『ホーリー・ロー』だ。さすがに暗黒騎士も無傷ではいられないだろう。


 しかし直後、大爆発を起こしている結界内から声がする。


 「まさか人生で『五風殺結界』を受けることになるとは……」


 そういいながら、結界を『倶利伽羅剣』で破壊して出てきたのは、傷一つ追っていない暗黒騎士の姿だった。無傷の暗黒騎士の姿を見て、驚愕する三人に暗黒騎士が言う。


 「まさか空気中に水素を集めて、水素爆発を引き起こすとはね。さすがに驚いたけど、あのぐらいの威力じゃあ、私のことは倒せないわよ」


 彼女の黒い鎧はバチバチと雷を帯びていた。


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