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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
3章 ダクリア2区編
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第92話 思わぬ敵(中)

 謎の重力がセレナとアイシィを押さえつけ、苦悶を上げる二人。どうにかして動こうにも体がいう事を聞いてくれず、ただ無防備に立つだけしかなかった。


 「これで終わりですよ」


 ザッドマンは勝利を確信したのか、笑みを浮かべながら、二人の方へと迫ってくる。セレナとアイシィはザッドマンの濃密な殺気をどうにかしようとしたが、今まで踏んできた場数が違いすぎて、どうしようもできない。


 このままではやられる。そう考えたセレナは、一か八か自分の右手が握っている魔装銃の引き金を、どうにか引いた。


 引き金を引いた魔装銃からは当然、赤い魔力弾が打ち出されるが、魔装銃の銃口である赤い魔晶石はザッドマンではなく、セレナの足に向いていた。撃ち出された魔力弾は、そのまま直進してセレナの右足へと被弾する。


 「くっ……」


 バジルが用意してくれた十三使徒の部隊専用の制服のおかげで、魔力弾はセレナの足に傷は与えないものの、それ相応の衝撃が、セレナのことを襲った。


 「まさか、負けを認めて自決でもしようと思ったのですか? それならやめていただきたい。研究材料が傷つくのは、僕としても心が傷つくので」


 ザッドマンはそう言いながら、セレナの方へと迫る。


 「誰が負けるですって?」


 セレナはそういうと、二丁の魔装銃をザッドマンに向け、詠唱を始める。行使する魔法は、セレナの中で最強の攻撃魔法。


 「火の巫女の深淵、ここに出よ。『アトゥートス』」


 二丁の魔装銃から放たれた赤いレーザーは、撃ち出された直後に一気に枝分かれして、ジグザグに広がり始める。


 枝分れしながら広がっていくレーザーは急に屈折して、そのすべてがザッドマンへと直進していく。その数はざっと二万。二万ものレーザーがザッドマンに向かって、一気に、しかも枝分かれしながら降り注ぐ。


 「なにっ!?」


 不意を突かれたザッドマンはどうすることもできず、二万以上の赤いレーザーをすべて受けてしまう。


 セレナの中の最強の攻撃魔法『アトゥートス』の威力をもってすれば、人一人の命を奪うことなどたやすい。セレナはそのことを理解して、なお魔法を行使したのだ。


 ザッドマンが『アトゥートス』を受けたことにより、アイシィのことを縛っていた謎の重力は消える。自由に動けるようになったアイシィは、セレナのもとへと駆け寄る。


 「セレナ先輩。足は大丈夫ですか?」

 「ええ、なんとかね」


 セレナの足が無事と聞き、安心するアイシィ。セレナもザッドマンを倒したと確信していたため、ザッドマンのことを見ていなかった。だから次の瞬間、ザッドマンの声を聞き、二人は驚愕する。


 「いやはやさすがの威力ですね。それにまさか、私の威圧からあんな方法で抜け出すとは」

 「嘘……」

 「なにあれ……」


 セレナとアイシィはザッドマンのことを見て、言葉を失う。セレナの『アトゥートス』が効かなかったのかと、二人は考えたが、ザッドマンの体には無数の傷があるので違う。


 それよりも二人が言葉を失ったのは、ザッドマンの傷口のことだ。


 ザッドマンの体には、『アトゥートス』でできた無数の傷があったのだが、その傷口から、炎が出て、まるで傷口を舐めまわすかのように燃え上がる。そして次の瞬間には、傷口はふさがり、炎も消えた。


 そんな炎が体に出ては傷を治し、消えていく。


 目の前に広がる非現実的な光景に、セレナとアイシィは言葉を失う。炎が出たという事から、ザッドマンが火属性の魔法で体内を活性化していることはわかるが、あれほどまでの回復能力を持った火属性など、存在できるはずがない。


 それは『フェニックスの焔』を使う一族であるセレナが一番知っていた。もし仮に火属性魔法で回復を図った場合、肉体は回復を通り越して、破壊されてしまう。


 「何をそんなに驚いているのですか? もしかしてこの再生能力のことですか? まあ、無理もないでしょう。ただの魔法師では、こんなことはできませんからね」


 ザッドマンは喜々として、自分の肉体について語りだす。


 「これはマモン様が私のためにくれたプレゼントですよ。マモン様はずっと不老不死について研究していましてね、その過程で生まれた再生能力に関する成果を、私の体に植え付けてくれたのです。

  これこそ完全無欠の超再生能力。どんな傷でも一瞬で治してしまう完全なる力です」


 完全無欠の再生能力を見せられ、どうやって倒せばいいのか想像できなくなる二人。


 「もし素直に従うというなら、あなたたちにもこの力を貰えるように、私からマモン様に進言してあげますよ。

  特にセレナさん。あなたの持つ『フェニックスの焔』も、マモン様の研究材料ですから、マモン様もさぞ喜ばれるでしょう」

 「もしかして、お母さんが攫われた理由が、その訳がわからない不老不死の研究のためだというの?」


 明確に怒りをあらわにするセレナ。自分の母親が不老不死の研究のために攫われたと聞かされたのだ。無理もない。


 「そんな顔をしたって、あなたたちに私を傷つけることはできません。いい加減諦めてください」

 「負けるものですか。再生するなら、その再生が追いつかない速さで攻撃すればいい」


 セレナはそういうと、次々と魔法を行使する。


 「あまねく炎をわが手に。『炎龍』」


 セレナの魔装銃からは二つの炎龍が生み出され、ザッドマンに襲い掛かる。セレナは続けざまに『炎龍』を三回行使し、計八頭の炎龍がザッドマンに襲い掛かる。


 ザッドマンは無数の攻撃により、傷を負うが、やはり次の瞬間には傷口から炎が出て、その傷を再生させていく。


 しかしセレナは再生すると同時に、新たな攻撃を加える。けれどもまた、傷口から炎が出て、傷を治していく。そんなことを何回も繰り返していくうちに、ザッドマンが吠えた。


 「邪魔だ!」


 ザッドマンの声と一緒に周囲に炎が広がり、セレナの行使した魔法が跡形もなく消えていく。


 残ったザッドマンの体には、たくさんの傷ができていたが、例のように傷口から炎が出て、再生していく。


 グサッ


 だが二人の攻撃は終わらなかった。そんな音とともに、ザッドマンは苦悶の表情を浮かべる。


 ザッドマンは振り向き、自分の背後を見る。するとそこには、ザッドマンの背中を氷でできた剣で刺すアイシィの姿があった。


 「これで終わり。『氷雪』」


 アイシィは事前に詠唱を唱えていた魔法を行使する。ザッドマンの背中に刺さった氷の剣から、氷が侵食していき、ザッドマンのことを氷漬けにする。


「甘いですね~」


 だがザッドマンはにやりと笑い、背後にいるアイシィの顔面を肘でなぐった。不意を突かれたアイシィはものすごい勢いで引き飛ばされ、広間の壁へと激突する。


 「アイシィ!」


 セレナが慌ててアイシィに駆け寄る。


 しかしアイシィは意識が朦朧としていて、動ける様子ではない。セレナは急いでアイシィに回復系の火属性魔法を行使するが、もともと戦闘タイプであるセレナの回復魔法など、高が知れている。


 「ふふふ……まだまだ弱いですね」


 自らを覆っていく氷をすべて溶かし、アイシィに刺された傷もいつの間にか治っていたザッドマンが、二人のことを嘲笑う。


 「そろそろ終わりにしましょうか」


 ザッドマンはそういうと、右手を自分の胸に持っていき、まるでドアノブを回すかのように九十度回した。


 直後、ザッドマンの体に変化が訪れる。体中から魔力があふれ出し細身の体は中から押し出されるように隆起していき、あっという間にザッドマンは、細身の男から筋肉質の大男へと姿を変えた。


 「なによ……それ……」


 ザッドマンの豹変に、言葉が出ないセレナ。


 「ふははははははは。これは私だけにしか使えない超再生魔法『オーバーワーキング』だ。自分の肉体に限界以上の負荷をかけ、細胞を傷つけていき、傷ついた細胞を活性化させることにより、限界を超えていく魔法。

  この魔法を使えるのはマモン様の部下の中でも私だけだ」


 先ほどまでは感じられなかった荒々しさが、ザッドマンから感じられ、セレナは息をのむ。


 「まさかそんなことを考える馬鹿がいたとはね」

 「皮肉にも聞こえないな。そういうのは私より強くなって初めて言うものだ」


 ザッドマンはその巨体に見合わない速さでセレナに迫る。セレナはアイシィを抱えて回避しようとしたが、間に合わない。


 アイシィだけを投げ、セレナはザッドマンの攻撃を受けてしまう。


 「くっ」


 ザッドマンに吹き飛ばされたセレナは、背中から壁にのめりこむ。そんなセレナに容赦なく、ザッドマンの拳が何発も降りかかる。


 「フハハハハ」


 だが何発も殴ったところで、不意にザッドマンが殴るのをやめ、後ろに飛んだ。


 一瞬を置き、セレナがいた壁を中心に、爆発が起こる。もしザッドマンが後ろに回避していなかったら、巻き込まれていたであろう。


 「いつの間に分身と入れ替わったのか……さすがに生徒会を名乗るだけのことはある。だが、あの程度の爆発で、私に傷をつけられるとでも?」

 「それは困ったわね」


 広間の端で倒れていたアイシィの傍にセレナはいた。


 実は一発目を殴られた直後、分身を作り退避していたのだ。そしてアイシィのことを回復させながら、爆発のタイミングを伺っていた。


 「まあ、準備運動はこの辺で終わりにしましょうか」


 ザッドマンが首をゴキゴキと鳴らしながら、セレナたちの方を見る。セレナはアイシィに何かを言い残し、戦闘に巻き込まないようにと、前へ出た。


 「この化け物……」

 「ふん、私が化け物なら、マモン様は神だ。あの少年もかわいそうに」

 「残念だけど、あのロリコンは強いわよ」

 「たとえあの少年がどれほど強くても、マモン様には勝てんよ。マモン様を倒すには、特級魔法師か十三使徒ぐらいが出てこないと」


 ザッドマンがマモンという男に絶対的な信頼を置いていること理解したセレナ。けれども、セレナはセイヤの実力を知っているため、不安ではなかった。


 セイヤならやってくれる。そう心の底で思っているセレナは、自分の目の前にいる化け物を倒すことに専念する。



 「あまねく炎をわが手に。『炎龍』」


 セレナの魔装銃から炎の龍が撃ち出されザッドマンに襲い掛かる。ザッドマンは『炎龍』に対し、拳を一振り、拳が生み出した風圧だけで『炎龍』は消し去る。


 

 「あまねく炎をわが手に。『炎龍』」


 再びセレナは『炎龍』を行使するが、ザッドマンの拳で生み出された風圧によって、その存在を消されてしまう。


 「無駄だ。この『オーバーワーキング』の拳は音速を超える。音速で生まれた風圧の前では、そんな魔法通じない」

 「音速ですって……そんなの肉体が持たないわ」


 音速で腕を振れば、一瞬で腕が吹き飛んでしまう。しかしザッドマンは笑いながら答える。


 「たしかに肉体は耐えられずダメージを受ける。だが超再生で回復すればいい話だ」

 「本当に化け物ね……」


 セレナはザッドマンのダメージを与えるどころか、触れることさえもできないことを理解したが、同時にザッドマン攻略の糸口を見つける。


 二丁の魔装銃を構えることをやめ、セレナは体内で魔力の練成を始める。


 参考にするのはセイヤ。魔法理論は全く違っているが、根本的な理論は同じだ。それに目の前にも、同じような参考もある。


 だからセレナはぶっつけ本番でもできると確信していた。


 練成した火属性の魔力をゆっくりと自分の両足へと流し込んでいく。


 燃えるような痛みが両足からしたが、セレナは魔力を流しこみ続ける。足に魔力がなじんで来たら、流し込む魔力の量を上げていく。


 耐えられないほどの痛みがセレナのことを襲うが、どうにか気力で踏ん張るセレナ。


 その光景にザッドマンは興味深そうにしていた。


 「行くわよ。『覚醒(ブレイズ)


 次の瞬間セレナの姿がザッドマンの視界から消えた


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