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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
3章 ダクリア2区編
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第91話 思わぬ敵(上)

 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 ザッドマンはセイヤたちを見て少し意外そうな表情を浮かべた。


 「まさか敵襲があなたたちだったとは……てっきり十三使徒あたりかと思いましたよ」


 世間話でもするかのような口調で話すザッドマン。そこから感じる余裕は、セイヤたちのことを見下していることがわかる。


 「教頭……いったいなぜ、あなたがこのようなところにいるのですか?」


 セレナが恐る恐る、ザッドマンに聞くと、ザッドマンは笑いながら答えた。


 「なぜって、そんなの決まっているじゃないですか。私がこの街出身の人間で、マモン様の命でレイリアに潜入していたからですよ」


 ザッドマンはから受ける印象は、かつての教頭ではなく、根っからの悪人といった感じだ。セイヤは目を細めながら、ザッドマンの隙を伺うが、ザッドマンには隙が全くなかった。


 「おっと、無駄な抵抗はよした方がいいですよ、転校生。あなたのことは調べさせてもらいました。セナビアの落ちこぼれさん」


 ニタニタといった笑みを浮かべながら、セイヤのことを見るザッドマン。その顔からは、あなたのことは何でも知っていますよと言いたげなのがわかる。


 一方、セナビアの落ちこぼれと言う単語に、一体どういうことなのかといった顔をするセレナとアイシィ。


 そんな二人を見たザッドマンは、喜々とした表情でセレナたちに、セイヤのことを教える。


 「そこの男はかつてセナビア魔法学園にいた落ちこぼれ魔法師ですよ。魔法もろくに使えず、ちょっと得意な剣術で何とかしがみついていた落ちこぼれが、暗黒領に拉致されて、ちょっと強くなったからって調子に乗っているんですよ。

  暗黒領から帰ってくるために、クラスメイトを殺したのによくもまあ、のうのうと生きてられますよ」


 セイヤはザッドマンの言葉を無心で聞いていた。感情的になるよりも、少しでも情報を集めようという根端だ。


 それによりセイヤが得た情報は二つ。


 一つはザッドマンは何かしらの手段で、聖教会から情報を得ていること。そしてもう一つは、セイヤがあの施設で何をしたのかは、知らないという事だ。


 もし知っていたのなら、クラスメイトのことを殺したのではなく、消したというはずだ。ザッドマンがダクリアの人間なら、なおさら。


 「仲間を殺して自分だけ生きようとするその姿は、もはや滑稽で『黙れ』……はい?」


 ザッドマンが喜々として語っている最中、セレナが急に怒鳴った。その姿には、普段から一緒にいるアイシィも驚いている。


 「そこのロリコンが何をしてきたのかなんてどうでもいいわ。私には関係ない。確かにロリコンの性格は悪いけど、ちゃんとここまで一緒に来てくれたし、お母さんを助けようともしてくれている。

  だからそいつが今まで何をしてきたかなんて、私には関係ない」

 「鳥女……」


 まさかの言葉に驚くセイヤ。それはザッドマンも同じだった。


 ザッドマンはセイヤとセレナの仲があまりよろしくないと知っていて、セイヤの過去を暴露することで、仲間内での信頼を消し去ろうとした。


 しかしセレナの思わぬ発言で、失敗してしまう。


 「ハハハ、面白い仲間意識ですね。でもそんな甘い考えで、どうにかなるとでも思っているのですか? ここはレイリアのように、甘くはないですよ」

 「さあ、私の知った事ではないわ。ところで教頭。私のお母さんを攫ったのはあなたですか?」


 セレナがザッドマンのことを睨みながら聞く。


 「なぜそう思うのですか?」

 「だって、お母さんが知らない相手に警戒を怠るわけがない。それも家に来た来客ならなおさら。そうなると、犯人はお母さんがよく知る人物。そんなのあなたしかいないわ」


 セレナの根拠を聞き、ザッドマンは笑みを浮かべる。


 「なるほど。たしかにあなたのお母さまを攫ったのは私です。あなたの成績のことで、と言って家の中に入れさせてもらいました」

 「そう」


 セレナの目がより一層厳しくなる。


 「ロリコン、アイシィ先に行って。こいつは私が倒す」

 「待ってください、セレナ先輩。無茶です。ここは三人で」

 「駄目よ。ここで三人足止めされるわけにはいかないわ。もしかしたらお母さんが今ピンチかもしれない」


 セレナの言葉に、アイシィが不安そうな表情を浮かべる。


 「それならセレナ先輩が先に」

 「いいえ。私はあいつを殴らないと気が済まない。だからお願い。お母さんを頼むわ」

 「セレナ先輩……」


 断固としてセイヤとアイシィを先に行かせようとするセレナ。しかしアイシィは先に行く気などなかった。そんな二人を見かねたセイヤが一言。


 「なら俺が先に行くから、二人はあいつを倒したら合流してくれ」

 「何言っているの?」

 「何って、一番効率的な手段だ。どうせお前は絶対暴走するから、ストッパーがいないとやばいだろ。決勝戦で体験済みだ」

 「あれは!」

 「任せていいか、アイシィ?」

 「はい」

 「ちょっと!」


 とんとん拍子に決まっていく作戦。そしてセレナの意見は、最後まで聞き入れられなかった。


 「作戦は決まりましたかね?」

 「ああ、決まった」

 「ほう」


 ザッドマンの雰囲気がまた変わる。


 今度は先ほどよりも、鋭い視線でセイヤたちを観察している。セイヤは全開の『纏光』を最初から行使して、ザッドマンに突っ込んだ。


 ザッドマンは急に視界から消えたセイヤを探そうと、顔だけを動かすが、その前にセイヤがザッドマンの横をすり抜け奥へと移動してしまう。


 セイヤがザッドマンの横をすり抜ける途中、「遅いな」と言ったのがザッドマンに聞こえたが、聞こえたときには、すでにセイヤは奥に消えていた。


 セイヤの動きに全く反応できなかったザッドマンは、舌打ちをするが、すぐにセレナたちを見て言う。


 「これがあの男の本性ですよ。ピンチになったら仲間を見捨て、自分だけ逃げる。最低な男だ」


 ザッドマンは効果がないことはわかりつつも、揺さぶってみる。


 少しでもセレナたちの心が乱れれば、セレナの生け捕りが簡単になるからだ。実はザッドマン、最初からセイヤたちを殺す気はなく、生け捕りにして、研究材料にするつもりだった。


 『フェニックスの焔』の資質を持つセレナに、天才魔法師と言われているアイシィ、そして暗黒領で謎の進化を遂げたセイヤ。


 三人とも、研究材料にはもってこいの人材であり、特にセイヤは弱い魔法師を最強兵士にするためのヒントを持っていると、ザッドマンは考えていた。


 しかし、そんな格好の研究材料であるセイヤはさらに上へと進んでしまい、ザッドマンはセイヤを生け捕りにするチャンスを逃してしまった。


 けれども、ザッドマンに焦りはない。なぜなら、ザッドマンは知っていたから。この先にいる魔王ブロード=マモンは、初見では絶対に倒せない男であることを。


 もし初見で倒すには、対面する前から対策が必要である。すでにセイヤの運命は決まっている。ザッドマンはそう確信していた。


 「さてどうしますか? 素直に降参するというなら、無傷でとらえてあげますよ?」


 投降しろと言うザッドマンに対し、セレナは腰から魔装銃を抜き、ザッドマンに向け、静かに引き金を引いた。


 バンッ


 セレナの魔装銃から撃ち出された魔力弾が、一直線にザッドマンに向かって飛んでいく。しかしザッドマンに傷を負わせることはできなかった。


 魔力弾はザッドマンに当たる直前、ザッドマンの手によって弾かれたのだ。


 「素手で魔力弾を……」


 魔力弾を素手で弾かれたことに驚愕するセレナ。セレナは魔力弾を様子見とし、防がれる前提で撃ったのだが、まさか素手で弾かれるとは思っていなかった。


 何かしらの武器か魔法で防がれると考えていたのだ。セレナの驚愕する姿を見て、ザッドマンは再び投降するようにと勧めてくる。


 「これでわかりましたか? 私とあなたたちとでは格が違う。素直に投降するべきだと思いますが」


 ザッドマンがなぜここまで投降するようにと勧めてくるのか、疑問に思うセレナ。


 もしかしたらザッドマンは味方ではないのか、という考えがセレナの頭をよぎったが、すぐにそんなことはないと思う。そもそも、ザッドマンが味方なら、モカのことを誘拐などをしない。


 「セレナ先輩。あいつは強いです。だからここは二人で倒しましょう」

 「そうね」


 アイシィにそう言われ、セレナはゆっくりと深呼吸をし、冷静になる。そして落ち着くと、アイシィに作戦を伝えた。


 セレナから作戦を聞いたアイシィは、一瞬だけ驚いた顔をするが、すぐに頷き、準備に取り掛かる。


 「どうしました? 投降する気になりましたか?」


 ザッドマンがあまりにもふざけすぎていると思った二人は、大きな声で否定した。


 「生憎、あなたのことは信頼できないので、お断りするわ」

 「いい加減、黙ってください」


 二人はそういうと同時にザッドマンに向けて攻撃を始めた。セレナは腰からもう一丁の魔装銃を抜き、二丁の魔装銃でザッドマンに向けてひたすら魔力弾を連射する。


 アイシィは氷の礫を無数に作り出し、ザッドマンに向けて撃ち出す。次々連射される魔力弾と無数の氷の礫がザッドマンのことを襲う。


 ザッドマンは自分に飛んでくる魔力弾と氷の礫を次々と薙ぎ払っていくが、次第にすべての魔力弾と氷の礫をさばけなくなってくる。


 セレナたちの狙いはこれだった。いくらザッドマンが強くても、武器や魔法を使わず素手で戦う限り、使えるのは二本の腕だけだ。


 それならその二本の腕でも対応しきれないほどの攻撃を仕掛ければ、必然的にザッドマンにダメージを与えることができる。


 「こざかしい真似を」

 「こざかしくても、勝てばいいのよ」

 「そうです」


 二人は魔力弾と氷の礫の嵐の中に、他の攻撃も混ぜ始める。セレナは魔力弾だけでなくレーザーを、アイシィは氷の礫だけでなく、氷のナイフや野球ボールほどの大きさの氷の塊を飛ばす。


 「ちっ、邪魔くさい」


 ザッドマンは何とか二人の攻撃をしのいでいたが、ついに防ぎきれなくなった。そしてアイシィの作った野球ボールほどの氷の塊が、ザッドマンの顔に直撃する。


 「くっ……」


 氷の塊を顔面に受けたザッドマンは、かけていた黒縁眼鏡を飛ばされ、左目の上からは出血した。セレナとアイシィはそこで攻撃の嵐をやめ、接近戦に持ち込もうとしたが、ザッドマンは後方に大きく飛び二人と距離をとる。


 「なかなか、やりますね。生徒たちが成長するのは教頭として、うれしいことです」


 ザッドマンはそういいながら、自分の前髪掻き上げて左目の上に血を指でふく。ザッドマンの左目の上は、すでに傷口がふさがっており、出血も止まっていた。


 セレナとアイシィは気づく。ザッドマンが前髪を掻き上げた直後、彼の纏う雰囲気が、先ほどよりもまた一段と濃くなったことを。


 それは普段、学園で会っている時と比べたら、まるで別人のようだった。ザッドマンは静かに口を開き言う。


 「どうやら投降を勧めても、無駄なようですね。なら致し方ない。力ずくでとらえさせてもらいます」


 ザッドマンの纏う雰囲気がまた一段と濃くなり、二人のことを謎の重力が押し付ける。セレナはその謎の重力が何かを知っていた。


 それはセイヤと同じ、濃密な殺気によるものだと。


 いつも読んでいただきありがとうございます。そして新年あけましておめでとうございます。

 さて、物語もいよいよ三章クライマックスに入ってきました。作者としてはやっとここまで来たかという思いです。(本当なら去年内に三章を終えているはずが…)


 再登場のザッドマン教頭、いまだ出てこないマモンさん。まだまだ三章は続くのでよかったらこれからもよろしくお願いします。

 それでは今年も『異端魔法師のキリスナ』共々よろしくお願いします。

 ツイッターの方はおかげさまでフォロワー100人超えました。まだフォローしてないという方でフォローしてもいいよと言う優しいお方がいたらぜひよろしくお願いします。

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