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落ちこぼれ魔法師と異端の力  作者: 高巻 柚宇
3章 ダクリア2区編
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第88話 魔王の館

 ダクリア二区にいたセイヤたちの姿は、現在、山の中にあった。


 この山はダクリア二区の近くに位置する山で、標高はそれほど高くないが、道が凸凹していて険しい。セイヤたちは単独でモカを救出するため、この山の向こうにある魔王の館を目指していた。


 時刻は現在午前十時ごろ、セイヤたちが街を出発してから一時間が経とうとしている。魔装馬を飛ばしているため、かなりの距離を進んだが、いまだ魔王の館は見えない。


 周りにあるものは無機質な岩肌ばかりだ。


 セレナたち生徒会は魔装馬を飛ばしながら、あることを考えていた。


 それは先ほど、グリスフォンが使っていた『闇波』という魔法についてだ。『闇波』などという魔法を、セレナたちは知らなかったが、同じようなものを見たことがある。


それはセイヤがギルドで魔法を発動しようとしていた冒険者たちに使った正体不明の技だ。


 あの時、セイヤが指を鳴らしただけで、一瞬にして冒険者たちが発動しようとした魔法が、跡形もなく消えた。その光景は、セレナの魔力弾がグリスフォンによって消された光景と酷似している。


 セレナはこの時、もう一つの出来事を思い出していた。それはモカの情報を集めるために、セイヤと二人で行動した際、セイヤが怪しい男の左耳を消し去った事だ。


 あの時も、セイヤが指を鳴らしただけで、男の左耳は消し飛び、しかもその消し飛んだ男の左耳を修復させていた。


 男の左耳を消し飛ばした時の行動も、セイヤが冒険者たちの魔法を消し去った光景と似ている。セレナの中である仮説が生まれる。


 それは、『闇波』という魔法は、対象を消滅させることができる魔法ではないのか、と。


そう思ったら最後、セレナは聞けずにはいられなかった。


 先頭を走るセイヤの横に、自分の魔装馬をつけ、セイヤに聞く。セイヤは急に自分の隣に来たセレナにどうしたのかと聞いた。


 「どうした?」

 「ねぇ、『闇波』って何?」


 セイヤの表情が一瞬だけ固まる。しかし次の瞬間には、何かを決めたような顔になり、魔装馬を減速し始めた。


 魔装馬を減速させたセイヤに続き、全員が魔装馬を減速させて止まる。セイヤは休憩にしようと言いながら、魔装馬から飛び降りた。


 セイヤを見て、ユアやリリィたちも魔装馬から降りる。


 セイヤはそのまま近くの開けたところに座り、全員に座るように促す。セイヤは一瞬、躊躇うような表情をするが、これから行く魔王の館のことを考えると、話さないわけにもいかない。


 セイヤは覚悟を決めて、話し始めた。


 「これから行く目的地のことを考えると、話さなければいけないことがある。けれども、今から言うことは絶対に他言無用だ。もしレイリアでそのことを言えば、聖教会に拘束されるのがオチだ。そのことを覚悟しておいてくれ」


 セイヤはそう言うと、静かに闇属性魔法について話し出す。


 「レイリア王国の常識では、複合魔法や派生魔法はあるが、基本的には火、水、風、光の四属性からなる。しかし、この国には光属性と言う魔法がない代わりにある属性が存在する。それこそが、お前らがさっき見た『闇波』とかの闇属性だ」


 闇属性という言葉に、セレナたちは黙り込んでしまう。もしかしたら、と考えてはいたけれども、実際に言われると自分の常識が理解することを邪魔する。


 そのことを察したセイヤは、百聞は一見に如かずという事で実演して見せる。


 近くにあった大きな岩に向かって、指を鳴らすセイヤ。


 次の瞬間、大きな岩は、そこに存在があったことを感じさせないくらいに、跡形もなく消えた。


 セレナたちは何が起きたのかを理解はできなかったが、本能的に恐怖を覚えた。まったく性質も効果もわからないこの魔法を知らぬ間に使われたら……セレナはそう考えるだけで鳥肌が立った。


 そんなセレナたちにセイヤは説明を続ける。


 「今のが、闇属性初級魔法『闇波』だ」


 セレナたちは『闇波』が初級魔法だという事に驚く。これほどの魔法、レイリア王国では上級魔法でもおかしくはない。だというのに、初級魔法といわれ、セレナたちは戦慄する。


 「この魔法の最大の特徴は詠唱を破棄できることだ」

 「詠唱を破棄?」

 「そうだ。正確には詠唱という存在を消滅するんだ。闇属性の魔法にも、他の魔法と同じように特殊効果というものが存在する」

 「それが消滅と言うのですか?」


 そう聞いたのはモーナ。そんなモーナに対し、セイヤは説明を続ける。


 「そうだ。そして『闇波』は詠唱を消滅することができる。もし仮に、詠唱を消滅させられる魔法師に出会ったら、すぐに逃げろ。おそらく勝ち目はない」

 「でも逃げられるのですか?」

 「まあ、厳しいだろうな。でも『闇波』を無詠唱で使える魔法師はそうそういないようだから、安心していい」


 セイヤはグリスフォンのことを考えながら言った。


 グリスフォンは魔晶石こそ使っていたが、『闇波』を無詠唱で発動することが可能だった。そして、周囲の客はグリスフォンに対して、一歩引いて傍観し、グリスフォンのことをAランク冒険者と言っていた。


 このことから、『闇波』を無詠唱で使えればAランク冒険者となることができ、Aランク冒険者は珍しいという事がわかる。だからセイヤはそれほど危惧していなかった。


 「もし相手が闇属性を使って来たら、対処法はあるの?」


 そう聞いたのはセレナだ。セレナは他の二人以上に闇属性魔法の恐ろしさを知っている。だからこそ対処法が気になったのだ。


 「ああ、もちろん存在する。手っ取り早いのが光属性だ。レイリアでは光属性に対抗できる属性はないと言われているが、この闇属性は光属性に対抗することができる。

  それはつまり逆も可能で、光属性なら闇属性に対抗が可能だ。と言っても、お前らの場合それができないから、避けるしかないな」

 「避けるって……」


 セイヤの雑な説明にあきれるセレナ。しかし、避ける以外の対処法をセイヤは知らなかった。


 「基本的に闇属性でも詠唱は必要だ。だからそんなに怖がる必要はない。もし無詠唱で使うやつが出たら、俺に任せるか逃げるかにしろ。一応、ユアも対抗はできるしな」

 「うん……」


 何となく納得できないような表情をしながらも、セイヤたちは再び移動を開始する。そして最後まで、誰も、「なぜセイヤが闇属性を使えるのか」とは聞こうとしなかった。






 再び魔装馬を走らせること二時間、セイヤたちはついに魔王の館を視界に捉えた。


 魔王の館は、館というよりも、大きな塔になっていて、その高さはセイヤたちが泊まっていた八階建ての宿を悠々超えている。石を組み立ててできたような塔は、見るからに頑丈そうで、威圧感を放っていた。


 「さて、行くか」

 「えっ?」


 セイヤがあまりにも普通に魔王の館へと向かうため、セレナが驚く。


 セイヤは敵の本拠地だというのに、まるでその辺のコンビニにでも行くかのような感じで、歩き出したのだ。ちなみに、魔装馬は近くの岩に括り付けている。


 そんな堂々と歩いて行くセイヤに、ユアとリリィもついていくので、セレナたちは渋々着いていく。


 魔王の館にも当然ながら門番などがおり、セイヤたちが塔の中へと入ろうとすると、止められた。


 「待て、何者だ?」


 門番には四人の男がいた。四人とも武装していて、かなりの手慣れだと見受けられる。しかしセイヤには関係なかった。


 「ちょっとここの主に用があるんだ。通してくれ」


 すごい友達感覚で魔王のことを呼ぶセイヤに、一瞬、門番たちの目が点になるが、すぐに嘘だと確信して威嚇を始めた。


 そもそもセイヤぐらいの少年が、魔王と友達なわけがないので、ただの不審者でしかない。門番たちは腰にさしていた剣を抜き、セイヤたちに向かって構える。


 「一度だけ忠告する。素直に通せば、殺しはしない」


 セイヤの余裕な態度に、門番たちは怒りだし、セイヤに剣で斬りかかる。


 「ふざけるな!」

 「殺されるのはお前だ」

 「覚悟しろ」

 「死ね!」


 パチン


 セイヤが門番たちに向けて指を鳴らした瞬間、門番たちの存在はこの世から消えた。


 正確には、セイヤによって肉体ごと消滅させられた。


 セイヤがあまりにも簡単に人を殺すので、セレナたちは最初何が起きたのか理解できない。しかし次第にセイヤが門番たちを殺したことを理解すると、セイヤのことを問いただす。


 「なんで殺したのよ?」

 「やりすぎではないでしょうか?」

 「ひどい」


 初めて人が目の前で殺された。三人はその事実を受け入れることができなかった。もし、セイヤが苦戦しながらも、殺したのなら、こんなには責めないだろう。


 しかし、セイヤはいとも簡単に人を殺した。


 だがもちろんセイヤにも言い分がある。


 「何を言っている? これは戦いだ。もしこっちが手を抜いたら、敵に殺されるかもしれない。これは学園の実践とは違う。相手もこっちを殺す気できている。こっちも殺す覚悟をもって戦うべきだ」


 セイヤの言い分は正しい。


 ユアやリリィは暗黒領で死闘を経験したため、セイヤの言っていることが理解できる。


 しかし、セレナたちはそんな経験はない。暗黒領に来てからは、セイヤがほとんど問題を解決してくれたため、生きるか死ぬかの瀬戸際を味わってはいないのだ。


 だからセイヤの言っていることを、簡単には認められなかった。


 実は、このことをセイヤは出発してからずっと危惧していた。


 人を殺すことは魔獣を殺すこととはわけが違う。本質的には同じことだが、相手が人間であるか、そうでないかによって、躊躇いの有無が生まれる。そしてその一瞬の躊躇いが、生死を分けることだってある。


 だからセイヤはここで改めて言う。


 「これは一種の戦争だ。全員が生き延びることなど不可能で、自分の守りたいものを守るためには、相手の何かを奪うという覚悟が必要だ。それがたとえ命であろうとも」


 セイヤの言葉に何も返せない三人。


 「今ならまだ間に合う。殺す覚悟のないやつは帰れ。危険が増えるだけだ」


 そう言い残し、セイヤは塔の中へと向かう。そしてすぐにユアとリリィが着いて行く。


 セレナたちはお互いの顔を見るが、答えは決まっていた。自分たちはモカを助けるためにここまで来た。覚悟なら存在する。


 三人はセイヤの後へと続き、塔の中へと入るのだった。


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