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3 逅

「どこの誰? 余計な動きしても答えなくても吹き飛ばすわよ」


 声からすると女か。

 どうやって立っていたのかは知らないが頭上から俺の後ろへと降り立つ。

 銃口……ではないと思うが、おそらく俺を「吹き飛ばす」事のできる何かが建物から落ちそうなくらい背中に押し当てられた。

 いやむしろ落とされた方が逃げやすいな。


「おーい、何かあったかー?」


 下の奴らに気付かれたお。


「なんかよくわかんない奴が戦うのを見てた。少なくとも顔を隠してて気味は悪い」

「へぇ?」


 下の5人はしばらく顔を見合わせると、アイダ(仮)と華奢な男が上ってきた。アイダ(仮)は例の影のような触手か何かを使って、華奢な男の方は魔術かなんかを使ったらしくで空中を走って。

 あー、どうやって逃げるかなぁ?


「んー、見覚えはないな。誰だお前? 流れてきたのか?」

「あの、あまり押すと落ちちゃいますよ」


 最速で動けばこの状況からでも逃げられると思うが、あまりふらふら手の内をさらすのも避けたい。ならば……ひとまずはしゃべらないとどうにもならないか。いやしかし声を聞かれるのも同じく避けたい。さてどうする、あ、まて。そういや確か、


「喋らないな」

「というか先ほどから直立不動ですね。結構つらいはずですが」

「何もしないならもう打つ。5、4……」


 声をごまかす技があったな。おー、流石、こういう時に使うんだな。えーと、歯のあたりに集中しつつ、


「いや、ちょっと待て。流石にそれは早計だと思うんだが」

「3、2、……」


 ゆっくりゆっくり。は、じ、め、ま、し、て……。


『はじめまして、で、いいのかな』


 俺の口から普段の声とは程遠い、奇妙に高い声が発せられた。


「うお、何だこの声?」

「……機械か何かでいじってるのでしょうか?」

『すまない。驚くと固まる性質でな、少し混乱していた』


 後ろの女も少し戸惑ったようだが、すぐに気を取り直して話始める。


「ここで何をしていたの? あなたは誰?」

『君たちが何をしているのか見ていた。割とさっぱりだったがね。というかお前らこそ何してたの?』

「聞いてるのはこっちよ。……何その声。どうにかならないの?」

『それは難しいね』


 まぁウソなんだが。


 なぜこんな声になるのか、タネを教えよう。声は空気の振動だ。その振動を、いったん口の出口で遅くする。そうするとのどの奥から出てきた次の声が口からすぐの場所で前の声に、妙に加工された声になる、というわけだ。

 気を付けないといけないのは、声の周波数が詰まる分、声が高くなるのでゆっくり低くしゃべる必要がある事。まぁ今それでも高くなってるけど。


『話をかわすってことは、名乗れない理由でもあんのか?』

「その台詞そのまま返すわ」

『はっは、確かにその通りだ』


 さて、そろそろどうにかしようか。


『ところで、この状態も疲れるのでふり返ってもいいかしら?』

「私は困らないから、良いと言う理由がないわね」

『顔を見せたとしてもこのままだと見えないと思うのだが』

「じゃあ先に取ってからよ」


 わざとらしく肩をすくめると腰に手を持っていく。


『よかろう』


 顔を覆う布を取る、ふりをした。本当は軽く解いて布をたらしただけ。いや後ろ向けてるんだから本当に取ったかどうかも確認できないじゃん?


『そっちを向いてもいいかな?』

「良いわ、ゆっくりよ」


 気持ち顔を見せないように、肘を突き出したまま振り向く。同時に身体を縮こませながら後ろにいる女の方に身体を寄せる。肘に先ほどまで背中に突き付けられていたものが当たった――のでごく自然に弾き飛ばした。


 振り向く動きの中で、顔に興味を向けている状態、さらには夜にこの真っ黒な服だ。警戒していても慣れがないと見えない。


 そのまま懐に入るとようやく反応しかけている女の顔が目の前にあった。

 左手で首をとりつつ背後に回り、ちょっと加速。屋上の反対側まで駆け抜ける。はい逆転。


「っ!? しまっ」

『動くな』


 一番先に反応したのはひょろい男だった。腰に手を回して何かを取り出そうとしていたのを制する。ついでに女の首を少ししめてみる。


「ぐぅ……」


 というかこいつ女の子だな。新田郡と同じくらいだ。


『一応聞いておこうか。君たちは何者だ?』


 とは言ったものの、さっさと逃げたいな。向こうの手が全くわからん。実は背中に密着してる相手を刺すくらい楽勝かもしれないし、さらに俺の後ろにもう一人潜んでたりするかもしれない。

 反応を見る限りなさそうだけど、さっさと逃げたい。


「俺たちは魔術結社、フォッシルスターだ。一応そいつ返してもらえねーか」

『そうか、覚えておこう。問答無用で撃たなかった事だけ感謝する』


 右手で女の子をひょろい方に投げると、俺はビルから飛び降りた。見えない間に加速して着地、さっさと退散する。

 アイダ(仮)が屋上から覗いたであろう時には、俺はもうそこにいない。


 しかし背後を取られるとは不覚以外の何物でもないな。相手はまだよくわからない魔法使い。空中に足をかけたり、光をさえぎったりはわけもないのかもしれない。流石になんでもできる万能能力じゃないと思うが……。

 これからは要注意、いや、早めに魔法についての情報が欲しいな。


 いつも以上に警戒しながら家に帰ると、その日は布団に入った。

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