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A.G.S  作者: 綴嘉哉
Ⅰ.刀剣の甲虫
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Ⅰ.刀剣の甲虫Ⅰ

Ⅰ.刀剣の甲虫

 電気の付いていない更衣室に赤色のパイロットスーツに身を包んだ男が一人立っていた。

「くそっ…」

 額には汗が滲み、目には疲労と怒りの色が写っていた。ハヤト・イリミネはついさっき終えたばかりの訓練で苦汁を舐めさせられたばかりであった。



 ハヤトは「グリーンバブ」のA.G.Sパイロットで軍の士官学校を首席で卒業した。

 その後、彼は軍の通信妨害部隊に配属され、そこでも「A.G.S」機体の中で最も操縦が困難だと言われる「アイギス・パーン」で戦場を駆け、入隊一年でその名を軍の中に轟かせた。

 そして先日、ハヤトはその腕を見込まれ、軍のテストパイロットに任命された。任された機体は「 六四-甲型」。二足歩行の白兵機体で、ベースは甲虫。一番の特徴は機体の身の丈はあろう超重量の大剣だ。開発に成功すればグリーンバブ随一の馬力を誇る前線のエース機になる。

 ハヤトは胸を躍らせていた。テストパイロットに任命されたこともそうだが、この甲型を乗りこなせたならば前線への配属も夢ではないからだ。彼は本当は通信妨害部隊などの支援部隊ではなく、敵と直に対峙する本隊に配属されたかった。

 気合十二分なハヤトは四日目のテストで模擬戦をすることになった。正直ハヤトにとっては馬鹿馬鹿しいとも思える対戦だった。

 その相手は先の大戦末期に配備された「MG-一号機」(通称モグ)だった。当時A.G.Sのコア運用試作一号機として配備され今ではすっかり引退した時代遅れの機体である。武装も砲塔を持たないデカイだけの固定砲しかなく、そのうえ発砲時に砲の反動に耐えるために機体の後ろ足あたりの補助足で地面と固定して、標準も手動で全て行わなければいけない。パイロットもその頃からモグに乗り続けているという還暦過ぎた老体だし、完全に舐めきっていた。オンボロペア対新型エースペア。結果は見るまでもない。

 しかし、実際はハヤトのボロ負けだった。

 闘技場で行われた模擬戦。先手を取ったのはハヤトだった。甲型で小手調べにとモグに足蹴りを食らわせた。モグはその攻撃に耐え切れず数メートルは後ろに後退した。やはり、楽勝だと思った次の瞬間、衝撃に襲われた。何事かとあたりを見るとモグの砲から煙が出ていた。衝撃の正体はモグの固定砲の砲弾だった。甲型の蹴りが当たる寸前に発砲し、後退しながら攻撃を仕掛けていたのだ。よく見てみるとモグのダメージは最小限にとどめられていた。

 正直ハヤトは驚いた。モグにこんな動きができるとは思わなかったからだ。砲撃の精度を高めるはずの補助足を降ろさずに砲撃を行うなんて普通ありえない。機体にはもちろんパイロットにも相当の衝撃が来ているはずだ。

 そして、いち早く次の行動に出たのはモグだった。

 モグは小柄な機体を活かして甲型の足元に潜り込もうとした。

「させるかっ」

 甲型は背中の大剣に手を伸ばし刀身で防御を試みた。

 しかし、モグはそのまま走りすぎ甲型の後方でターンして砲撃を喰らわせた。

「がぁっ……」

 後方からの強い衝撃に襲われる。とっさに体勢を立て直そうとするも剣の重量の分、動きが重い。

 その隙にモグは今度こそ甲型の足元に潜り込み足元に体当たりした。

 先ほどの衝撃と今の体当たりで完全にバランスを崩し、甲型は前のめりに倒れた。

 

 

 完敗だった。その事実がハヤトのプライド傷つけた。実力を見込まれてテストパイロットに任命されたのに旧型のオンボロに負けるなんて許されない。

 モグからパイロットが降りてきた。そして、ハヤトの方に歩いてきた。

「モルト・シーベンス少尉だ。今は技術部の戦術顧問をやっている。君みたいな前途有望な青年と手合わせできて光栄だ」

 とても現役を退いたとは思えない精悍な顔つきで背筋もきちんと伸びている。理想的な老人だと彼は思った。

 おそらく、相手の賛美も建前とかではなく本当にそう思ってくれているのだろう。しかし、

「ハヤト・イリミネ上等兵です。こちらこそ、お相手頂き光栄でした。しかし、今回の模擬戦、自分の完敗です。正直そのお言葉は素直に受け取れません」

 モルトはしばしの間、キョトンとしていたがそのうち笑顔になった。

「なにかおかしなことでも」

「はっはっはっ。いやぁ、はっはっはっ。」

 なんだか余裕を見せつけられているようで不愉快だった。

「そうだね、君みたいな若者には正直なところも言わなきゃいけないようだね」

 そう言うとモルトは先ほどとは打って変わって厳格な面持ちでこう切り出した。

「正直、君はまだまだだ。目先のことしか見れていない。ごく一部の狭い部分しかね。それではこの先前線はおろか、支援部隊でもやっていくのは難しくなっていくだろう」

「なっ…」

「しかも、自分の機体のことをなんにもわかってはいない。これでは宝の持ち腐れだ。」

 確かに甲型に乗ってから日は浅いが、マニュアルも機体のスペックも全て頭に入っている。なんにもわかってないなんてとんでもない。

「それなら、貴方ならもっとうまく甲型を乗りこなせるとでも?」

「少なくとも今の君よりはね。イリミネ上等兵」

 その目には一切の奢りも傲慢もなく、ただ鋭くハヤトの目を通して心の奥底まで貫いた。



「自分の機体のことをなんにもわかってはいない」

 シャワーを浴びるハヤトの頭で先ほどの言葉が何度も反復する。

 一体どういうことだ。

 実際、俺は機体性能の勝る甲型でモグに圧倒された。モルト少尉と自分の違いとはなんだ?経験か?戦術か?

「くそっ…何なんだよ」

 ハヤトは壁に拳を打ち付けた。


2015 8/21 改訂しました。

2015 12/8 改訂しまいた。

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