8話 鬼姫と危機
予定が変わったので、1日早く更新しました
「これは君の物かい?」
ポケットから刀と髪飾りを出す。ポケットにはボックスを使っている。
女の子は、驚いた顔でこちらを見てきた。
「どうなんだ?」
「………私の」
「やっぱりか。なんでこんなものを持ってるんだ?」
「こんなものなんかじゃない!!
これは私の大切な物なの!大事なものなの!!」
「………そんなに大切なのか」
「………私達、鬼族には、大切な相手と長い時間離れる時にはいつも身につけてる物を渡す風習があるの。
………私達の集落が、場所を移動してる途中に沢山の強い魔物が出て来たの。……みんな頑張って戦ったけど魔物はたくさんいて……なんとか倒したけど、何人も死んだの。私のお父さんとお母さんは死んでなかった。
…………次の日に、また魔物が襲って来た。前の日の倍はいたの。………その魔物は人族が操ってた。
……私達はみんなボロボロで、勝てるとは思えなかった。そしたら、お父さんとお母さんが、これを私にくれて、『これからもずっと愛してる』って言って、魔物達に向かって行って………死んだの。
私は頑張って逃げた。もう他には誰もいなかった。
…………逃げた先には別の人族がいた。そこで私は捕まって、奴隷にされた。鬼族は珍しいから高く売れるって……。でも、大人は危ないから殺してよかったって………。
そして首輪をかけられた。首輪はひんやりしてて、私はもう一生奴隷なんだなぁ、って思った………
馬車で運ばれる途中でも、たくさん殴られて……死にそうにまでなった…」
「…………」
「ねぇ、なんで!?なんでなの!?なんで私達が殺されたり、奴隷にされなきゃいけなかったの!?私達が何か悪い事した!?人族に悪い事したの!?してないよ!そんなことしてない!むしろ人族が好きだった!色んな事を知ってて、色んなこと教えてくれた!
でも、裏切られた!なんで!?珍しかったら売るの!?危ない!?私達魔物は殺すけど人族は殺したりしない!なんで危ないの!?危なかったらすぐに殺すの!?
わかんないよ!人族なんてみんな悪いやつなんでしょ!?優しいフリして近付いてくるくせに、危ないって勝手に思って裏切る最低なヤツらなのに!私には無理だよ!人族なんて大嫌いだ!人族のせいでみんな死んだんだ!
なんでお父さんとお母さんが死なないといけなかったの!?愛してるなら死なないでよ!私をひとりぼっちにしないでよ!怖いの!怖い……一人はやだよぉ………」
「…………」
女の子は声を荒らげてたけど、途中からボロボロと涙をこぼし、最後には膝に頭を埋めて丸くなった。
まだ、6歳だ。精神は不安定だ。
人族はやさしい。そう思ってたのに裏切られた。今回の事件で彼女の色んな常識がひっくり返ってしまったのだろう。その事実と、家族が居なくなった悲しみが爆発したのだ。
「……確かにさ、人族は平気で他人を裏切る。簡単に決めつけてしまう。
でも、それは1部の人族だ。君たちを襲った奴らに君が好きだった人族はいたか?」
「………居なかった」
「裏切ってないじゃないか、その人達は。な?」
「…………うん」
「なんでお父さんとお母さんが君だけを逃がして、自分たちは逃げずに戦ったんだと思う?」
「………………」
「君の事を愛してるからだよ。一緒に逃げるよりも、自分たちが魔物を足止めして、その間に君を逃がした方がいいって考えたんだ。君だけでも生きて欲しいって。もう会えないのは分かってたから普段身につけてた物を渡して、ずっと愛してるって言ったんだ」
「お父さん……お母さん………」
「命を投げ出してでも生きて欲しい。それだけ君は愛されてるんだ。
悲しいのは分かる。でも、それを受け止めて前に進まないといけない。その愛に応えないといけない」
「うん……うん……」
「今日は好きなだけ泣くといい。悲しい時は泣くんだ。思いっきり泣いて泣いて、泣いて。そしてゆっくり立ち上がって、前に進むんだ。
ひとりぼっちなんかじゃないさ。これからは俺がそばにいよう。君がひとりにならないように」
「う…うわぁぁぁあああ!!」
彼女はその場で泣き始めた。大声で、たくさんの涙を流して。
俺はそっと抱きしめてあげた。何も言わずに、泣き止むまでずっと。
一体どのくらいこうしていたんだろう。女の子は泣き疲れて眠ってしまった。顔を拭いて、ベッドに寝かせてあげた。
俺の服は彼女の涙と鼻水でぐちゃぐちゃだったけど、気にならなかった。
これでよかったんだろうか。俺はあんまりこんなのが得意な方じゃない。
俺は静かに部屋を出た。そこには、リリー、グリード、父、母、死神の全員が揃っていた。
「凄いわぁ、リテラ。私には口すら聞いてくれなかったのに……」
「素晴らしかったですよ、リテラ様」
「ええ、あの子も気が楽になったでしょう」
「お前は将来女ったらしになるな」
「あの刀と髪飾り、譲ってくれってのはこういう事だったか………」
「盗み聞きは良くないですよ」
「偶然聞こえてきただけです」
『同じく』
こいつら………。まあいいか。
母上に口すら聞いてなかった。つまり、かなりギリギリまで来てたんだと思う。でもなんとかする事が出来たし、それだけで満足だ。
──────
翌日
朝、彼女の部屋に向かうと、彼女は既に起きていて、ベッドの上に座っていた。服も着替えていた。うん、似合ってる。
彼女は綺麗な顔立ちをしている。流石にまだ幼すぎるが、将来はかなりの美人になるだろう。キリッとした目元に紅い瞳、綺麗な鼻。肌は白くてすべすべしてる。髪は赤黒い。と言っても、汚い色ではなく、情熱を感じさせるような美しい赤黒さだ。
お姫様と言ってもバレないだろうってくらい可愛い。
昨日とは違い、スッキリとした顔をしていた。
俺は彼女の横に座った。
「そういや、君、君って言って、名前聞いてなかったな」
「……スズ・タチバナ」
「スズか。よろしくな」
「……あ、貴方は?」
「リテラ・ストロフトだ」
「……よろしく、リテラ」
「ああ………なんで顔が赤いんだ?」
「………なんでもないわ」
「なんで腕を組んでくるんだ?」
「なんでもないって言ってるでしょ!」
怒鳴られた。怖い。
「そろそろ朝食が出来上がるから食べに行くぞ」
「……一緒に食べていいの?」
「当たり前だ。お前は今日からここに住むんだからな」
「………奴隷として、なの?」
「違うよ。そんなわけないだろ?
さあ、行こう」
俺は彼女の手を引いて食堂に向かった。
食堂には生野菜のサラダ、豆と野菜のスープ、出来立ての、丸いパンが籠に積み重ねて置かれていた。
母上と父上は既に席についていた。食堂の入口から見て右手の奥だ。兄上は魔法学校の寮に住んでるからいない。メイドのリリーと執事のグリードさんも席についている。我が家には食事は全員一緒に、と言う鉄の掟があるのだ。
料理を作ったのは、人族の料理長メイズさんだ。かなり無口で、俺はこの人が喋ってるのを3回くらいしか見たことが無い。でも、とてもいい人だ。料理も上手い。
料理長とは言っているが、家には使用人はリリーさん、グリードさん、メイズさんの3人しかいない。彼1人でストロフト家全員の食事を作る。毎日ご苦労様です。
死神はいない。まだ起きていないのだろうか?席につきながら尋ねる。
「死神さんはまだ寝ているのですか?」
「いえ、朝早くに『流石に飯まで貰うわけにはいかねぇ』と、街に行かれました」
あの金の亡者にしては珍しいな。まあ、全く常識が無いって訳じゃないんだろう。好感度3アップだ。
「リテラ、朝食を取る前にその子を紹介してくださらない?」
「ああ、この子は──」
「私は鬼族のスズ・タチバナと申します。歳は6、性別は女です。宜しくお願いします」
「礼儀正しいな。私はストロフト家当主、ラディウス・ストロフトだ。
何かあったら言いなさい。今日から君は家族だ」
「私は妻、リルラム・ストロフトよ。よろしくね、スズちゃん」
「執事のグリード・コードだ」
「メイドのリリー・ティキです」
「…………メイズだ。料理を作ってる」
「じゃあ食べましょうか。スズちゃん、遠慮なく食べていいからね」
「ッ!………はい!」
嬉しそうだ。パンも幸せそうに頬張ってるし。俺も食べるか。
「美味しかったぁ………」
「スズちゃんが気に入ってくれてよかったわ。ね?メイズ」
「………はい」
「で、スズはこれからどうするんだ?」
「?どうする、とは………?」
「将来どうしたいか聞いてるんだ。なりたいものとかがあったら言うといい。
例えば、冒険者になりたいなら私が鍛えてあげよう。
………あ、もしリテラの従者になりたかったらリリーから従者になるために色々教えてもらうといい」
「………まだ、わかりません」
「…うん、ゆっくりでいい。考えておきなさい。
リテラ、お前もどうするか決めてるのか?」
「え?自分は騎士学校に行くのでは?」
「そう思ってたんだが……お前は騎士学校に行く必要がない。サイクロプスを1人で倒せるなら充分な実力がある。
それに、無理矢理騎士にするのもどうかと思い始めてな。お前程の才能がこの国に閉じ込められるのはもったいないとな」
「……それなら、冒険者になって世界を旅したいです」
この世界には俺の知らない事がたくさんある。それらが、俺の好奇心を掻き立てるんだ。
「ふむ、お前がそうしたいならそうしなさい。家はシュタラにでも継がせればいいしな」
「あ、でも学校には行くつもりです」
「?行く必要が無いのにか?」
「あ、騎士学校ではなく、北の国バルディゴにある、バルディゴ大学校です」
トロハ王国は、アスティアルの真ん中あたりにあるルコムス大陸の南側に存在する。
大陸は他に、ルコムス大陸を中心として、北側にあるリグド大陸、南側にあるバルドル大陸、東側にある魔大陸、西側にあるランデル大陸、空を飛ぶ天大陸がある。
バルディゴはリグド大陸に存在する国で、そこには世界最大の学校、バルディゴ大学校があるのだ。
「バルディゴか!うーむ………まあいいだろう。ただし、家を出るのは10歳になってからだ。いいな?」
「分かりました」
「わっ、私も行きたいです!」
名乗りを上げたのは、スズだった。
「スズもか?まあ、別に構わんぞ」
「ありがとうございます!」
スズが深々と頭を下げる。まあ、別にいいけどね、ついて来ても。言い出すだろうと思ってたし。
「確かあそこは6年で卒業だったな。行くのに1年はかかるから………卒業するときには18歳か。その時には一回帰ってきてくれよ。
成人のお祝いが出来ないのは少々残念だがな……」
この世界の成人は15歳だ。誕生日とかのお祝いは、部族によって多少違ったりする。例えば、人族はいちいち誕生日を祝ったりしないが、鬼族や1部の魔族は祝うらしい。成人も、人族は15歳だが、竜人族は30歳、などとまちまちだ。
「まあ、まだ3年と半年あります。だいぶ先のことですよ」
「そうね。……あら?」
「おう、なんの話だ?」
いつの間にか入口に死神が居た。帰って来たのか。
「いえ、将来の事をちょっと」
「ふーん……ま、いいや。
お茶でも貰えねぇかな?」
「………只今」
メイズさんは手際がいいな。お茶を入れるついでに簡単なお菓子まで作り始めた。今度プリンとか、前世のお菓子を作ってもらおう。
「じゃあ俺は訓練に行ってきますね」
「あ……私も行く!何するの?」
「1kmほど走ってから広場のような場所で低ランク魔物を倒すだけです」
「じゃあ大丈夫!行きたい!」
「……まあいいですよ」
「やった!ちょっと待ってて!」
スズは部屋に走って行った。多分刀をとってくるのだろう。
案の定、髪飾りを付けて、刀を持って部屋から出てきた。おいおい、こけたら危ないぞ。
しかし、なんでついて来るなんて言い出したんだ?………ま、いいや。
「よろしくお願いします!」
「うん、じゃあ行こうか」
「はい!」
スズが居るので今日は広場まで軽く走って行った。途中ゴブリンが出たがショットで瞬殺したので問題は無かった。
「はい、到着」
「この近くに居る魔物を倒せばいいの?」
「うん、そうだよ。絶対に無理はするなよ?」
「分かってるよ!」
俺は知ってる。あれは分かってない子供が言う『分かってる』だ。
ゴブリンは、全身緑色の人型の魔物だ。三頭身で、知能は低い。森の中などに好んで棲んでいる。力も強くない。
人間の男は殺して食べて、女は犯して子供を産ませる。
強くはない。が、群れるため、一度に5体を同時に相手にしなければならなかったりする、厄介な魔物だ。
このあたりには大体ゴブリンかスライムしかいない。危険ではないが、危ないとも言えない。
スズにはしっかり気を配っておかねば。
「じゃあいってくる!」
「気を付けろよ」
スズはスライムに向かって行った。スライムなら大丈夫だろう。
スズはさやに入った刀を紐で背中にくくりつけてある。それを右手で抜きながら走る。スライムが間合いに入った瞬間に刀を左下に振り下ろし、スライムの核をまっぷたつに斬った。
ふむ、あれなら大丈夫だろう。
一応警戒しつつ逆側のゴブリンを倒しに向かう。
「『ショット』」
「ギャガッ!?」
ゴブリンの額を撃ち抜く。何だ?やけにゴブリンの数が多いな今日は。
さて、スズは………。
「こ、来ないでっ!」
4体のゴブリンに囲まれていた。地面には、まっぷたつになったゴブリンの死体が4つほど落ちている。
しょうがない、助けてやりますか。
「『ショット』」
炸裂弾をイメージしたショットを俺とゴブリンのちょうど真ん中あたりに着弾して炸裂する。
それに気付いてゴブリンはこっちを向く。
よし、俺に気付いたな。後は頭を狙って撃つだけだ。
「ギィィィイァィァァ!!」
「うるせぇよ。『ショット』『ショット』『ショット』『ショット』」
「ギャガッ!?」
「ギャアアァ!?」
「ゲギャッ!」
「グギィィィ!?」
ゴブリン4体駆除終了。そろそろもっと強い魔物と………いや、いかん。慢心はダメだ。もっと体術と掛け合わせて使えるようにしたりするか。
「ケガないか?スズ」
「え、あ、うん……」
「?どうした、顔赤いぞ」
「な、なんでもない!」
なんなんだ?変な奴だ。
「無理するなって言ったろ?」
「だって……」
「言い訳しない。こういう時には?」
「…………ごめんなさい」
「よし………ッ!?これはッ……!?………まさか……」
「?どうしたの?」
何だこの気配は!?異常な数だ!万近いかもしれん……まさか、『ゴブリン大進軍』が起きてるのか!?いや、にしても数が……。くそっ、いきなり過ぎるぞ!!
「スズ、来い、屋敷に帰るぞ」
「な、何いきなり?」
「急いでくれ、多分、『ゴブリン大進軍』が起きてる」
「えっ………わ、分かった…」
スズの手を掴む。黒い扉に入り、白い扉から出る。
本当はゴブリンの死体を、原型無くすまでつぶしてから埋めないとゴブリンゾンビになるんだが、今はそんなことは言ってられない。
「な、なにこれどうなったの………?」
「スズ、すぐに屋敷に戻って『ゴブリン大進軍』が起きてるって伝えて来い」
「う、うん!」
スズが屋敷へと走る。
よし、後はこの扉を壊さないと。ゴブリンに使われたら困る。
「『ショット』……よし、急ごう」
炸裂弾のショットで扉を粉々にする。
街に行って早く報告しないと……。
『ゴブリン大進軍』──それは、名前の通り、大量のゴブリンが一気に攻めてきて、街を襲う現象の事を指す。
ゴブリンは知能が低く、普通ならこの様な事は有り得ないが、稀にゴブリンが一定の年月を生きた場合、上位種の『キングゴブリン』に変異する事がある。その上位種が指揮を取り、街を襲い、食料などを強奪していく。
ゴブリンは単体では遥かに弱いが、上位種が存在している場合、何故か知能が格段に向上し、凄まじい連携攻撃をしてくる。つまり、『ゴブリン大進軍』のゴブリンは、普段とは全くの別物なのだ。それゆえに、ゴブリンの村は見つけられると優先駆除対象になったりするのだ。
屋敷に着く。玄関には既に父上、母上、リリー、グリード、メイズ、スズが居た。死神はいない。何処に行ったんだろうか。………まあ、大丈夫だろう。世界3位の奴だ。心配する必要は無いな。
「リテラ!よし、みんな揃ったな。大切な物以外は仕方無いが、諦めろ。
グリード!馬車の用意は!?」
「準備出来ております!」
街へと続く道には2台の馬車が用意されていた。街までは約3km、間に合うかどうかはギリギリだ。
「急いで乗れ!すぐに出るぞ!」
「旦那様!私はここでゴブリンを食い止めます!」
「駄目だ!そうした場合お前は確実に死ぬ!そんなことは許さん!」
「しかし、そうしないと!」
「グリード!!」
「……分かりました」
グリードさん、流石に無茶だ。だが、気持ちは分かる。確かに間に合うかどうかは分からんからな。
……………よし。
「全員乗ったな!行くぞ!揺れは我慢しろよ!」
片方には俺、父上、母上、スズが。もう片方にはグリードさん、メイズさん、リリーさんと荷物を載せている。
「急げ!街に急ぐんだ!」
馬車が動き出す。スピードはぐんぐんと上がっていき、だんだん揺れが激しくなってくる。
「父上」
「なんだ?リテラ」
「俺がゴブリンの足止めをして参ります」
「!?ダメだ、許さん!」
「誰かが足止めをしないと街に情報を届けるのが手遅れになる可能性があります」
「それでもだ!確かにお前は強い。もしかするとこの中で一番強いかもしれん。だが、まだ子供だ。
足止めは、私がやる」
「…………装備はあるのですか?」
「無い。だが、やる。俺……いや、私はストロフト家当主。そしてお前の父だ。
父親は、体を呈してでも子供を守る者だ」
「……俺は、父上に死んでもらいたくない。だから俺が行きます」
「分からん奴だな………なっ!?」
「ごめん、父上」
俺はテレポートで馬車の300mほど後ろに転移した。ついでにアーマーと同じ要領で馬車を覆ってきた。テレポートは、他人の魔力がある場所は通過出来ないので、父上はテレポート出来ない。
「こっちの世界でまで、家族を失う辛さを味わいたくはないもんでね」
地響きが聞こえ始めた。遠くから叫び声のような音も聞こえる。
『ォォ…ォ………ォォオ…………』
「『テンタクルス』『アーマー』」
太さが木の幹並で、長さが10mはある触手を自分の横の地面に2本ずつ出す。
アーマーは、アローゴブリンへの対処だ。アローゴブリンは、弓を使うゴブリンだ。それ以外に特筆する点は無い。
道幅は約5m。周りには木が立ち並ぶ。
「薙ぎ払え」
テンタクルスで周りの木をへし折って行く。1本の1振りで10本近くの木が折れていく。
2分もすれば、見晴らしが良くなり、地面には大量の木が倒れていた。
地響きは近付く。
『オォオォォォォオ!』
遠くには、黄緑色の波が迫っていた。
「うわぁ………すげぇ量……俺、死んだかも」
そう言うリテラの顔は無邪気な笑みを浮かべていた。
「『テンタクルス』」
左右に3本ずつ、等間隔に触手が追加される。1本に2万の魔力が使われているので、合計10本、20万の魔力を使っている。アーマーにも、矢の10本や20本では壊れないよう、5万の魔力を注いでいる。
残りの魔力は75万。まだまだ余裕があるようにも思えるが、敵は1万かそれ以上。とても勝てるとは思えない。
「『テンタクルス』を維持するのに、このサイズだと10分に10万………それに『ショット』も結構魔力使うし、同時に『テンタクルス』も操らないといかんし………20分か30分あれば街から応援が来るだろうな………よっし、頑張るか」
『オオオォオオォォオ!!』
大量のゴブリンが迫る。次々と倒れている木を乗り越えて向かって来る。
「ずっとそうやってくれるとありがたいんだけどなぁ………」
次の瞬間、最前列のゴブリン達は、テンタクルスによって弾き飛ばされた。木をへし折っていたときと同じよう、鉄並みの強度を持つテンタクルスで薙ぎ払ったのだ。
それで吹き飛んだゴブリンは400と言ったところだろうか。かなりの数が様々な方向に飛んで行ったり、上半身がちぎれたりした。
「うわぁ、まだまだいる………!?」
しかし、半分近くの吹き飛ばされたゴブリンは、緑色の体液を吐き出したりしながら立ち上がった。
「なんでだよ………まさか、『ボディブースト』も使えるようになってんのか!?
そんなもん勝てるわけ無いだろうが!!くそっ!!」
ゴブリン達はまた、突撃してくる。次は、後ろから矢が飛ぶ。アローゴブリンだ。
矢はテンタクルスに当たるが、小さなキズすらつく事は無い。
「よし、矢については大丈夫だ。問題無いな」
ゴブリンが突っ込んで、テンタクルスが弾き飛ばして。それを10回は続けただろうか、しかしゴブリン達は、目に見える減少はしていない。
そして、12回目。遠くに、少し大きな影が見える。
15回目。影は近づいてくる。
22回目、その影は、『キングゴブリン』だった。普通のゴブリンの2倍ほどの大きさで、肌が深い緑色。何処で手に入れたのか、鉄の鎧を身にまとい、2本の剣を手に持っていた。
「キングゴブリン………Dランク魔物………やるしかないな」
戦いが始まって10分が経過、残り魔力は65万。
キングゴブリンが何かを叫ぶとゴブリン達の突撃がピタッと止まった。キングゴブリン1体だけがこちらに近づいてくる。
どんどん近付き、遂にキングゴブリンは木のへし折られた場所まで出て来た。
「『ショット』」
「ギィィイッ!!」
ショットはキングゴブリンの目の前で、見えない何かに弾かれて霧散してしまった。
「まさか、結界を使ってるのか!?
おかしい、このゴブリン大進軍はおかしい!『ボディブースト』を使うゴブリンなんて聞いたこと無いし、例えキングゴブリンといえど結界を使うなんて!」
「ギィギャっギギャッ!」
キングゴブリンがにたりと笑う。
「『テンタクルス』!」
1本の触手がキングゴブリンに襲い掛かるが、止まる。
ゴブリン達は不気味なくらい、微動だにもしない。
「ギャギギギギァァァァア!!」
キングゴブリンが突っ込んで来る。触手がキングゴブリンを襲う。
「ギギィィィァァア!!」
キングゴブリンは、それを2本の剣で受け止めていた。
「………信じられん………特異体か?コイツは……こんなキングゴブリンは今までに一度も居なかったはずだ!
『マシンガン』!」
魔力の弾がキングゴブリンに降り注ぐが、全て結界に止められる。
しかし、すぐに結界にヒビが入り始める。
キングゴブリンは、それを見て慌てて後退する。
「成程、結界はあまり硬くはないみたいだな。それならなんとかなりそうだ」
安堵の表情を見せるリテラ。しかし次の瞬間に、その余裕を叩き潰す鳴き声が鳴り響く。
『ギゴァァァァアアァァァーー!!』
「……ま、さか………」
その鳴き声は、キングゴブリンの更に上位種、『マスターゴブリン』のものだった。
リテラの顔が絶望に歪んだ。
作者、感動系の描写が苦手です………。
サブタイトルは鬼姫と危機でかけてみました。分かりにくかったですかね?