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7話 笑う死神(金の亡者)



「おかえりなさ……どうしたのですか!?」


 メイドのリリーが女の子を、いや、俺を見て驚いている。

  なんでだ?………あ、分かった。そういや俺、サイクロプスの返り血浴びちまったんだ。思い出した。

  血みどろじゃねえか。こりゃビビるわ。

  てか父上だけに話す作戦が台無しじゃないか。まあ元々無理だとは分かってたがな。


「ごめんリリー、色々あったんだ。この子に綺麗な服を着せてあったかいスープでも飲ませてくれないか?

 あと、父上は何処に居るかわかる?」

「鬼族の子ですか?わ、分かりました……。

  旦那様は執務室に居らっしゃると思います」

「ありがとう」


  よし、リリーはまだ21だが優秀なメイドだから任せて大丈夫だ。

  父上に説明せねば……。

  あの人昼間は執務室にしか居ない気がする。


  ノックする。すると気の抜けた返事が返ってくる。


「入っていいぞ」

「失礼します」

「リテ…うお!血だらけじゃねぇか!どうしたんだそれ!なんだ、怪我したのか!大丈夫なのか!?」

「父上、落ち着いて下さい。口調が変わっています。怪我はしてないので大丈夫です」

「おっといけね、つい……。貴族ってめんどくせーよな。

 で、何故血だらけなのだ?説明してくれ」

「はい。実はですね……」


  そして俺は全て隠さずに話した。

  奴隷と奴隷商人が馬車ごと壊されて殺されていた事、サイクロプスを殺した事、女の子を助けた事、女の子を連れてきた事。


「……」

「と、父様?どうなされました?」


  やはりいきなり過ぎたか?

  難しい顔でこっちをずっと見てる……。

  でも怒ってる訳じゃ無さそうだ。分からん。



───ラディウス───


  訳が分からない。

  俺は執務室でいつものように仕事をしていた。するとそこに我が息子、リテラ・ストロフトがやってきた。血だらけで。

  正直ビビッた。いや、あれは心臓に悪い。しかもリテラの人形の様な顔立ち、だから尚更怖い。

  で、話を聞いてみると信じられない事だった。

  奴隷と奴隷商人が全滅していた。それは別に気にならなかった。

  この森にサイクロプスが住んでいるのは知っていた。Cランクの危ない魔物だ。まあ俺なら1人で倒せるが。

  サイクロプスは森の奥に住んでるから、滅多に合わん。

  多分その奴隷商人達は、サイクロプスの事を知らなかったか、会わないと思っていたんだろう。だから護衛とかも雇って無かった。

 それか、奴隷商人の中に何人か魔法使いでも混じってたのかな?


 サイクロプスはそんなに甘い相手じゃない。硬い皮膚科に巨体、なによりあの怪力だ。多少魔法を使える奴が何人か集まっても勝てる訳無いだろう。

 だから、全滅した。単純な話だ。

  だが、その後の話は信じられなかった。

  サイクロプスを、リテラが倒した?1人でCランクの魔物を?しかも瞬殺した?

 

…………にわかには信じ難い。

  さっきサイクロプスは1人で倒せるとは言ったが、なんとか、1人で倒せる、ぐらいだ。

  それくらいサイクロプスは強い。知能が低く、群れる事を嫌うので、基本単体でしか行動しない。だからCランク。強さだけならBランクでもおかしくない。


  そんな奴を6歳のガキが殺した。有り得ない。有り得るわけが無いだろう。

  だが実際にリテラは傷を負っていないし、返り血まみれだ。話も、嘘は言っていないようだった。もし、これが本当ならば……リテラは化物だ。


  リテラには魔力が100万ある。別に俺はそれをどうとも思っていなかった。魔法を使わなくても強い奴は強いからだ。魔力が多くても魔法を使えないと意味が無いからだ。

  現にリテラには、魔法の属性適性が無い。だから魔法は使えない。宝の持ち腐れだ。

 だが、違った。

 使えないと。弱いと。無駄な魔法だと言われていた無属性魔法を使って。しかも新しい魔法を創り出していて。サイクロプスをいとも簡単に殺したと。


  まるでおとぎ話だ。

  リテラは確かに化物だ。恐ろしい力を持っている。だが、俺はそれに対してどうも思わなかった。

  怖いとか、恐ろしいとか、そんなのどうでもよかった。大体、とてつもなく強いだけだ。何故、おそらく自分より強い息子に怯えるというのか。


  リテラは将来大物になる。それも、世界を揺るがす程の。

 そう、直感した。


「フフ………ハハハハハハハ!」

「何故笑うのですか父上!?」

「フフ、何故だろうな。笑いたくなったんだ。

 ……リテラ、お前は間違いなく天才だ。

強大な力を持ってる。使い方を間違うなよ」


 そう言うと、リテラはキョトンとしていた。

 ん?なんか変な事言ったか?俺は。


「どうした?」

「いえ、まさかそう言われるとは思っていませんでした。

  化物、怪物……そう言って怯えられ、気味悪がれたりして、家を追い出されたりしないかと思っていました。

  サイクロプスを1人で6歳の子供が殺すなど、有り得ない事でしょう?」


  今度は俺がキョトンとしてしまった。

  コイツは本当に6歳か?

  俺が6歳の頃は確か、村中の女の子のスカートをめくって回っていた。

 本当に俺の子供か?


「自分の息子に怯える親が何処にいるよ………。

  そんなことする訳無いだろう。

  大体、グリードが天才と言うくらいだ。化物並みでもおかしくない。アイツは厳しいからな」


  そう言うと、リテラはほっとしているようだった。

  そう、あのグリードが天才と言うくらい才能があるのだ、リテラは。

  グリードはめちゃくちゃ厳しい。

  バルドゥークの奴がたった10年でトロハをここまでデカくしたのに、奴はバルドゥークに

『遅い。貴方なら8年でここまでいけたでしょう。手を抜いてはいけません』

と言い放った。


  グリードは厳し過ぎる。

 そんな辛口男に天才と言わせるのだ。

  そりゃあ化物じみていてもおかしくないだろう。

  それより………


「リテラ、お前俺の子供だよな?」

「いきなり何を仰るのですか、当たり前でしょう」


  いや、俺はこんなに礼儀正しくない。

  第一貴族だから、身分が身分だからなんとか礼儀正しくしてるが、窮屈で仕方ない。

 敬語なんて絶対使いたくない。リテラもそうであるハズなのだ。

 まさか、本当に俺の子供じゃないのか?


「リテラ、お前女は好きか?」

「大好……なんでもありません」


  コイツは確実に俺の子供だ。

  俺は大の女好きだ。

  よかった。ちゃんと俺の子供だった。



───リテラ───


  いきなり何を言うのだろうかこの人は。女は大好きに決まっているだろう。俺は前世からずっと女好きだ。


 しかし、良かったー………。

  この人が父で良かったよ、ホント。

  あ、そうだ、あの子どうするか言ってなかった。


「あと父上、あの鬼族であろう女の子は……」

「ああ、分かっている。

  1人くらい増えても家計は大丈夫だ。娘も欲しかったしな。

  もし、あの子に帰る場所が無いのなら、家で養ってあげよう。

  あくまでも帰る場所が無いなら、だからな。

だが……鬼族だからな……十中八九無理だろう」

「……分かりました。有難うございます」


  うん、父上はやはり話が分かる。

  帰る場所があって、そこにきちんと返せるならそれが一番いいのだが、あの子は鬼族だ。父上が危惧しているように、そうなる可能性は低い。

  鬼族は決まった場所に住まず、世界各地を旅しているのだ。

  希に気に入った町や村に定住する家族なんかもいるらしいが、本当に希にだ。

  あの子がそうである可能性は低い。だから俺は、それならいっそ引き取って此処で養えないかと考えたのだ。

  それに、ずっと奴隷だったかもしれないのだ。心のケアが必要かもしれないし、孤児院なんかに預けるくらいなら、俺が助けたんだから、俺がなんとかしたい。


  そんな俺のワガママを分かってくれた。いい親父だ。


「とりあえずその現場に案内してくれないか?リテラ。やはり俺は話を聞くより現場を見た方が状況を理解出来ると思う」

「あ、確かにそうですね」

「よし、じゃあ行くぞ」


 父上が立ち上がり部屋から出る。

 俺はその後ろから付いていく。

 父上はそのまま外に出ていこうとしている。


「父上、そのままでよろしいのですか?」

「森に俺が苦戦するような魔物はおらん。それに、もしサイクロプスが出てきても助けてくれるだろ?」


 父上がニタリと笑う。

 この人は笑顔が下手くそだ。エロい奴やあくどい奴がするような笑顔しかできない。正直、気持ち悪い。


「分かりました。じゃあ行きましょうか」

「あ、俺がテレポートを使ってやろう」

「いいのですか?」

「ああ、別に構わん。

 たまには息子に良いところ見せたいしな」

「それは言わない方がいいと思います」

「うるさい。

 よし、じゃあ行くぞ」


 父上が俺の腕を掴む。その瞬間、まわりの景色がぐにゃりと歪んだ。

 次の瞬間には俺は広場に立っていた。


「なんか気持ち悪いな、あの感じ……」

「ここまではテレポートの範囲ギリギリだからな、しょうがない」

「ギリギリだとああなるんですか……?」

「うむ。それよりさっさと現場に行くぞ」

「分かりました。こっちです」


 あの場所までは歩いて10分程度だ。すぐに着いた。


「ここです」

「確かに酷いな……」

「俺もびっくりしたぜ……なんてな」

「……え?」


 後ろから声が響いた。

 そこには、男が立っていた。

 黒いブーツに黒いレザーパンツ、黒いポーチに黒い服。肩に真っ黒で巨大な鎌を乗せていた。髪型はオールバックで、真っ白だ。顔は平凡、と表現するのがいいだろう。特徴のあまりない顔だ。ニヤニヤと笑みを浮かべていた。ぞっとするような恐ろしい笑みだ。

 コイツには勝てない。俺は瞬間的に悟った。

 何者か、なんて考える事すら出来なかった。

 父上をちらりと見ると、汗をだらだらと流し震えていた。今にも膝から崩れ落ちそうだ。しかし、目線はその男から離してはいなかった。


 男は3mくらい離れた場所にいた。いつから居たのか、気付く事も出来なかった。


「なんでそんなに怯えてんのさ?俺は何にもしてないぜ?ガチガチ震えて滝みてぇに汗流してさ……笑えちまうぜ、カカッ」


 この男の言うとおりだ。男は俺たちに危害を加えようともしていないし、殺気すら出していない。

 なのに、俺たちは男に怯えている。コイツを恐れている。身体が逃げろと叫んでいる。


「あ、貴方は何者、です、か?」

「それは後から説明してやる。

 それより、今どんな感じだ?怯えてんのは良く分かる。他に、俺に対してどう思う?」


 男は鎌を置き、手帳と羽ペンをポーチから取り出した。

 何をしたいのだろうか。


「恐怖…と、…あ、貴方には勝てない、と思いま、す……逆らいたく無い、さ、逆らったら、殺され、る、そう思いま、す……」


 なんとか言えた。しかし、言った瞬間後悔した。

 こんな事を言って機嫌を損ねないか。損ねてしまっていて、殺されるのではないか。そんな不安が俺を支配した。

 相手は殺気も出してないのに。なぜか。


「おう、ありがとよ!

 ……よし、『恐怖よ、我から離れよ』」


 男がそう言った瞬間、男に対しての恐怖が一切消えた。

 なぜ怯えていたのか、一切分からなくなった。


「今のは何だ!?お前は誰だ!」


 父上も同じように恐怖が消えたらしい。


「いきなり悪かったよ。さっき買った魔道具がどのくらいか知りたかったんだ。なんでもどんな奴にでも恐れられるようになる魔道具らしくてな、勘弁してくれ。

 俺の名前はグレイブ・サーバー。

 聞いたこと無いか?」

「無い!」

「だろうな、カカッ。

 じゃあ『死神』って知ってるか?」

「無論だ!」

「俺の事だ」

 

 『死神』だって?

 この世界には、『九神』と呼ばれる9人が存在する。世界最強の九人だ。

 その中でも順位が決まっており、1位『破壊神』、2位『武神』、3位『死神』、4位『魔神』、5位『鬼神』、6位『獣神』、7位『偽神』、8位『龍神』、9位『狂神』となっている。他にも神の名を持っている者は居る。あくまでこの順位は強さのみの順位だ。

 この、目の前に居る男。こいつの言う事が正しければ、こいつは『九神』3位の『死神』だ。世界で3番目に強い男だ。正しければ、だが。

 あの異様な恐怖が彼本人に対して起こるものならすぐに認めたが、魔道具らしいからな。良く分からない。

 ちなみに魔道具とは、魔力を通す事で特殊な能力を使う事が出来る道具だ。細かく分類されていたりする。


「……証拠は?」

「そうだな、ちょっと見てろ」


 死神が木の前に立つ。そして鎌を持ち上げて───気付いたら振り下されてあった。見えなかった。

 死神の目の前にあった木が、真ん中でズレて尖った先が地面に突き刺さった。


「こんなんでどうだ?」

「その実力……本当に死神様ですか?」

「だからさっきから言ってんだろうが。

 あと、様は要らねぇ。『死神さん』か『グレイブさん』って呼べ。呼び捨てでも構わんぜ?敬語もやめろ。堅苦しいのは嫌いだ」

「で、その死神が何でこんなとこに居るんです?」

「リ、リテラお前無礼だぞ!」

「いーいんだって、俺が言ってんだからよ、カカッ」


 父上はビビり過ぎだ。こういうタイプの奴は話がわかる奴だ。多少無礼でも構わんだろう。てか本人が言ってんだし。


「俺はな、ある貴族サマに頼まれてよ、ある奴隷商人がこの森を通るから奴隷ごと皆殺しにしろってな。

 だからもうちょい先に居たんだがよ、待てど暮らせど来ねえんだ。だからしょうがなく俺様直々に迎えに来たらこの有様だよ。

 これやったらしきサイクロプスもあっちで死んでた。一体誰がやったんだろうなぁ?」


 俺を見てニヤニヤしてやがる。気付いてるのか?。俺は確かに全身血だらけだがガキだ。普通有り得ないと思うだろうが………ま、いい。バレてもいいし。


「俺が殺しました」

「やっぱりか!お前名前は?」

「リテラ・ストロフトです」

「知らねぇな。まあいいや。

 お前ガキのくせに強いな。俺と戦ってみないか?」

「遠慮します」


 コイツには、勝てない。さっきは何か魔道具が使われてたらしいが、使われてなくてもわかる。俺はコイツには勝てないな。

 てかこんなガキといきなり戦おうとするな。中身はおっさんだけどよ。


「そうか……残念だ。

 あ、そういやそこの、名前は?」

「ら、ラディウス・ストロフトと申します!死神様!」

「堅いって……リテラみたいのがよっぽどいいね。

 ストロフトって事は親子かな?顔立ちもなんとなく似てるしな。家はこの近くか?」

「は、はい。そうです」

「泊めてくれんかね?期間は……そうだな、2ヶ月くらいこの国に滞在する予定だから2ヶ月だな」

「も、もちろんです!」


 え?死神家に泊まるの?世界3位が?なんかすげー自由な人だな……。なんでこんな明るい人が『死神』なんだろう?

 「今死ぬと洗剤に洗濯板が付くからお得だよ!あの世で好きなだけ洗濯しようぜ!」とか言ってそう。要するに死神とか合わない。

 父上即答したし……ビビり過ぎだって。

 俺からしたら嬉しいな。色々教えてもらおう。色々とな。

 あ、それより鬼族の女の子が先だな。いやー、忙しい忙しい。


「で、おめーらは何しに来たんだ?」

「あ、リテラにこうなっている事を聞きまして、とりあえず直に見てから国の衛兵にでも通報しようかと」

「駄目だ!俺がこいつらの身につけてる物や金になりそうな物を奪えないだろう!」

「金が欲しいのですか?」

「俺は貧乏だからな!金が出来ても、酒場に居る連中全員に奢ったりしてすぐなくなる!」


 どうやら死神はダメ人間のようだ。何が死神だ。


「だから今無一文だ!おかねが無くて宿にも泊まれないから泊めて下さい!

 あと衛兵も呼ばないで下さい!」


 どんだけ金が欲しいんだ。

 おいやめろ。土下座し出すな。お前世界3位だろうが。


「さっきも言ったように泊めますから顔をお上げ下さい!衛兵も呼びませんから!」

「ほんとか!?やったー!

 じゃ、さっそく」


 ワオ、もう馬車を探り始めやがった。仕事が早い事で。

 俺の中で、『九神』への興味が薄れていく。


「リテラ、俺たちは死体を集めて燃やそう」

「あ、はい。分かりました。『テンタクルス』」


 少し太めの触手を地面から3本出して死体を回収する。

 すると、死神グレイブが食いついた。


「なんだぁ?その魔法。見た事無いぜ」

「『テンタクルス』、無属性の魔法です。魔力を触手状に固めて自由に動かせるだけですよ。俺が創ったから見た事無いのも当たり前でしょう」

「ほう!お前が創ったのか!

 お前凄いな!俺も出来るかな?」

「よければ教えましょうか?」

「んー……いいや、めんどくせ」


 言うと思った。


「死体集め終わりました」

「よし………『フレイム』」


 父上が、火属性魔法で焼いていく。

 属性魔法は使えないから調べてない。だから一切知らない。

 う、羨ましくなんかないんだからねッ!

 ツンデレ。前世で俺が……じゃなくてニホンオタクのサムが好きだったやつだ。決して俺が好きだった訳じゃある。間違えた。ない。


 死体はすぐに燃え尽きてしまった。それを父上が土属性魔法を使って埋めた。

 父上は土属性、火属性が使えるらしい。絞め殺してやろうかと思った。


「おっ!これは……」


 いきなり死神が声を上げた。何か見つけたのだろう。


「どうしました?」

「鬼族の髪飾りと、鬼族が使う剣、刀があった。鬼族の奴隷とセットででも売るつもりだったのか?」


 あ、もしかして………。


「すみません、それ俺にくれませんか?」

「コレを?なんでだ?」

「色々ありまして」

「別に構わんぜ。他の収穫だけで充分な金になりそうだからな。

 あ、でも高く売れるかもなぁ……どうしよ」


 コイツ『金神』に名前変えた方がいいんじゃないだろうか。


「まあいいや。やるよ」

「ありがとうございます」

「もうあらかた終わったな。あっちのサイクロプスも皮とか剥ぎ取りに行くか。金になるしな」


 コイツのどこに死神の要素があるというのだろうか。

 コイツを死神と言い出したヤツに言いたい。コイツは死神じゃない。『金の亡者』と言うんだ。


「いいんじゃないですか?俺はもう帰りたいです」

「急いで行ってくるからちょっと待っててくれ」


 そう言ってサイクロプスの死体がある方に走って行った。おお、足早いな。


「リテラ、俺は先に屋敷に戻って死神さま……じゃなくて死神さんの部屋の準備をしてくる。案内頼むぞ」

「分かりました」

「よし」


 父上はテレポートで帰った。

 ほんの10分で死神は帰ってきた。

 

 サイクロプスの死体を鎌に突き刺して。


「なんで死体持ってきてるんですか!?」

「剥ぎ取るのめんどくさくなった」

「ダメですよ、屋敷に入りませんよ!」

「じゃあ街に直接持っていく」

「それならいいです」

「簡単だな」


 と言う訳で先に街に来ていた。


「久しぶりに来たな、トロハには」

「何年前に来たんですか?」

「70年くらい前かな?」

「…あなた何歳なんですか?」

「1000からは数えてない」

「嘘はいけませんよ」

「嘘じゃねーよ。俺は天使族と人族のハーフだからな。いわゆる『亜人』だ。人族の方……オヤジは人族と不死魔族のハーフだったし、それもあるな、カカッ」


 天使族……確か空を飛ぶ浮遊大陸に棲む種族…だったな。背中に羽が生えていて、種族全員が必ず『光属性』の魔法を使えるらしい。寿命は恐ろしく長く、肉体はとても強靭。

 不死魔族は、沢山いる魔族の1つだ。魔族も、細かくいくつかあってそれを纏めてあるのだ。なんせ沢山いるから。めちゃくちゃ沢山いるから。

 不死魔族の特徴は、死なない。寿命は無いし、体を木っ端微塵にしても再生する。

 流石に肉片も一切全て消しされば再生できずに死ぬらしいが、不死魔族も体がめちゃくちゃ強靭。めんどくさい事この上ない。

 魔大陸に棲んでいる。まあ魔族は大体魔大陸に棲んでるが。

 『亜人』は、人族と別の種族とのハーフの事だ。まあ、特に珍しい訳ではないが、死神のような天使族の亜人はかなり少ない。


「………そりゃ強いわけだ」

「まあな。お、あそこが冒険者ギルドっぽいな。ささっと行ってくるから待っててくれ」

「分かりました」


 死神はそう言って冒険者ギルドとかかれた看板のある建物に入っていった。首なしサイクロプス突き刺してるまま。

 大通りはとても歩きやすかった。みんな道をあけていくからな。その代わり視線が辛かった。たまに「あれ、確かストロフト家の……」とか聞こえてきた。心配だ。

 現に今冒険者ギルドの中からも悲鳴が聞こえている。バカなのだろうか?死神は。


 そんなこんなで死神が戻ってきた。


「なんかすげーギャーギャー騒がれた」

「当たり前でしょ」

「まあ、金は結構貰ったからいいや」

「……思ったんですけどね、なんで俺の殺したサイクロプスで貰う金をあなたが貰ってるんですか」

「………気付いたか」

 

 気付くわバカ野郎。


「……なんか好きなもの買ってやるから黙っててくれ」

「買収ですか?」

「ぐっ……!頼む!」


 嗚呼、何故こんな馬鹿が世界3位なのだろうか。何回そう思ったろうか。


「あ、そうだ、じゃあ──」



───────


「ただいま帰りました」

「お帰りなさいませ…貴方は?」


 リリーが出迎えてくれた。父上から死神の事は聞かされて無いのだろうか。


「『九神』の死神グレイブ・サーバーだ」

「ッ!……死神様でしたか。申し訳ありません」

「俺は謝る様な事されてねぇよ。頭上げな」

「……ありがとうございます」

「リリー、父上は?」

「帰って来てすぐにグリードさんに何か言い付けて街に行かれました。

 私には玄関の掃除をやれと言われたので隅から隅まで掃除していました」


 だからバケツと雑巾が置いてあるのか。丁度終わったところだったんだな。


「お帰りなさいませリテラ様。

 ようこそいらっしゃいました死神様。どうぞ、お部屋に案内します」

「おう」

 

 死神はそのままグリードさんについて行った。

 玄関から見て左手の廊下を奥に進んで行ったから、使われてなかった空き部屋を使うのだろう。

 グリードさんもそっちから来たから、多分掃除してたんだろうな。


「さて……リリーさん、鬼族の女の子は?」

「あちらの奥の部屋におります。もう目が覚めて、奥様が様子を見ております」

「ありがとう」


 鬼族の女の子が居るのは左側の奥、つまり死神の部屋のある方とは逆側だ。

 鬼族の女の子は、もしかしたら目の前で両親を殺されたりして精神が不安定になってるかもしれないし、そうじゃなくても色々と話さないとな。

 一旦死神の事は忘れよう。俺の頭まであのアホに侵食されたら嫌だし。


 しっかりノック。


「どうぞ」

 

 母上の声だ。


「失礼します」


 ベッドに鬼族の女の子は座っていた。カップを持っているから、スープは飲んでくれたのだろう。服は横に綺麗なドレスが置いてあるが、着替えておらず奴隷服のままだ。

 部屋に入った瞬間こちらを睨みつけてきた……わけでもなく、項垂れており、髪から少しだけ角が見えていた。

 母上は反対側の椅子に座って、頬に手を当てて困った顔をしていた。


「あら、リテラだったの」

「母上、なぜここに?」

「この子が気になってね……。なんにも話して貰えなかったけど……」

「そうですか………一旦、席を外していただけませんか?

 死神様が来ているので挨拶でも」

「死神様が!?

 …………わかったわ」


 母上はまた、ちらりと女の子を見て部屋を出て行った。


「さて……俺はリテラ・ストロフト。よろしく」

「……」

「君の名前は?」

「……」


 返事無しか。さて、どうすっかな。

 次は三日後に更新する予定です。

 誤字脱字等有りましたら指摘お願いいたします。

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