6話 初めて見る奴隷
「よし、今日のノルマやるか」
修行を始めてから一週間、既にここは俺の魔法の実験場と化していた。
俺に属性適性は無く、使えるのは無属性魔法だけ。
無属性の初級魔法は3つしかない。
魔力を身体に流し込み強化する『ボディブースト』。
魔力を体に纏い鎧のようにする『アーマー』。
ただ魔力の塊を凝縮し、実体化させて放つ『ショット』。
この3つしかない、というか本にこれらしか載ってなかった。
ちなみにこの世界では詠唱とかそういう中二臭いのは無いみたいだ。
父上が使っていたような空間魔法は無属性魔法の上級だった。
無属性魔法だと分かった時はとても嬉しかった。
俺はこの一週間で、3つとも完璧に使えるようになっていた。
「よし、ノルマおしまい。早速魔法の練習だ!」
この一週間で俺は魔法を使うコツに気付いた。
魔法はイメージが大切だ。使う魔法のイメージが正確であればそれだけ魔力消費量も減るし威力は上がる。
これは魔法の練習を何度も繰り返していて分かった事だ。
ショットを撃って、銃みたいなもんだ、と銃を意識して撃ったら威力が段違いになった。
それだけじゃなく性質まで変わるのだ。
例えば、ショットは最初、ただ魔力の塊を撃つだけだったがショットガンを意識してやってみると塊が散弾のように飛んだ。他の弾のイメージも試してみたが、大体出来た。
どうやらイメージが正確な方がそのイメージになりやすいという事もその時に気付いた。
ボディブーストはなかなかに使える。全体的に身体能力が向上するし、肉体の強度も上がるみたいだ。このガキの体ではかなり嬉しい魔法だ。
アーマーは、魔力の量を増やす事で強度を増す事が出来た。
見た目はなんか薄い膜みたいなのが張られてる感じだが、魔力を注ぎ込むとかなり強靭になる。
魔力を3万くらい突っ込んで作ってみたら魔力が多過ぎるのか身体に纏わせるのがかなり難しかった。だが分その纏えれば強度はかなり強くなった。
ゼロ距離のショットを撃っても少しヒビが入ったくらいだ。
さらに無属性魔法は上級にさっき言ったように、空間魔法と回復魔法がある。
何故こんなに有用なのに無属性は蔑まれるのか?
無属性魔法は基本の魔法で、ほぼ全ての人間が使えるらしい。
だが大半の人は下級の無属性魔法は習得だけして、上級の無属性魔法を使える様に修行したり、他の属性を極めようとする。
下級の無属性魔法はほとんど使われない。ボディブーストは使う人は居るみたいだが、アーマーとショットを使う人はほぼ居ない。
アーマーが使われない理由は、魔力消費量の多さだ。アーマーを鎧並の強度に作るには、大量の魔力を身体に纏わせなければならない。
普通の人はそんなに大量の魔力を使えないので、余り強いアーマーが作れない。
作れる魔力があってもそれなら防具を着けた方が良いから、アーマーは使われない。
ショットは唯単に威力が弱いから。この世界の人は銃知らないからイメージ出来ないんだろう。
だがそんなこと俺には関係ない。
魔力はめちゃくちゃあるし、威力や消費量はイメージを正確にすれば格段に良くなる。
それに極めればかなり強い魔法ばかりだ。
まあ確かに火とか出してみたかったが、強いんだからいいか!
………でも火とか出したかったなぁ……。
「『マシンガン』」
ショットは今や普通の銃器となんら変わらない威力を持っている。色々増やしたしな。
マシンガンはその名前の通りマシンガンのように小さいショットを連射する。
リロードや重量などの面を考えると実物よりこちらの方がだいぶ上だな。連射性能は少し悪いが。
新しい魔法も作った。
アーマーを使える様になって、ふと思った事がある。魔力は形になるのだから、魔力で武器や物を作れないか?、と。
んで実際にやってみた。
剣や槍を作る事が出来、自由にに刃の部分が動かす事が可能だった。
しかし、切ることが出来ない。プラスチックで出来たおもちゃの様な感じだった。
いくらイメージしてもだ。やはり魔力の塊だからか?
がっかりはしたが、それで諦める俺ではない。
触手の様な形で魔力を固め、それを動かしてゴブリンを捕獲してみようとした。
最初のうちは動きが遅くてゴブリンすら捕まえられなかったが、今では素早く動かせるので、スモールウルフさえ捕まえられる。
これが新しい魔法だ。
この魔法は『テンタクルス』と名付けた。
この魔法、かなり使い勝手がいい。今は沢山練習した甲斐あって意のままに操れるし、魔力量を増やせばその分強度も力の強さも長さも自由自在だ。
ちなみにスモールウルフとは、小さな狼の魔物だ。動きが素早く、臆病ですぐに逃げてしまう。
今日から練習する魔法は、空間魔法だ。
もう少ししたらグリードさんが来て教えてもらえる事になっている。
「それまでまたショットの練習でも……」
「おや、遅れましたかね?」
「グリードさん!?」
びっくりした!いきなり後ろにグリードさんがいるんだもん……。
心臓に悪いな、この人。
「驚かせてしまいましたかね?」
「驚きましたよ!気配も無くいきなり後ろから声かけられたら普通驚きます!」
「リテラ様はいつでも冷静ですからね、驚く姿は新鮮でした」
「どうやって気配を消したんですか?」
「闇魔法の『ロスト』です。極めれば気配以外も色々消せます」
そんな魔法があるのか!
本当になんで俺には属性適性無いの!?
「はぁ………なんかもういいや。早速教えてくれる?空間魔法」
「あ、はい。
空間魔法は魔力で新しい空間を作り出す、又は空間を繋げたり、空間を移動する魔法です。
初級の『ボックス』、『テレポート』、中級の『ワープゲート』、『アナザーディメンション』、上級の『オールワープ』、神級の『アナザーワールド』などがあります。
他にも色々ありますが、大体規模が違うだけです」
「神級って上級の上ですか?」
「はい。魔法は初級、中級、上級、神級の3つがあります」
「初級、中級が使えれば充分です。上級は職業によっては使う方も居ますが日常では必要ありませんね。 神級に至ってはまず無理です。
膨大な魔力を使いますから使おうとするだけで魔力を吸い取られ、魔力が枯渇して死にます」
恐ろしいな神級。
なんでそんなもんがあるんだ?
「じゃあ初級と中級、上級も教えて下さい」
「上級もですか?」
「少なくとも損にはならないでしょう?」
「……確かにそうですね。いつか使うかもしれません。
では初級から行きましょうか。初級は『ボックス』、『テレポート』の2つです」
「『ボックス』とはどんな魔法ですか?」
「箱などの入れ物の中の空間を作った大きな空間と変えます」
「……要するに、小さな箱にも大量の物が入ったりするのですか?」
「そうですね。作る空間の大きさは変えられますのでとても便利です」
ふむ、なかなか実用的でいい魔法じゃないか。
「早速教えて下さい」
「分かりました。
練習用にいくつか持ってきましたので出しますね」
グリードさんはポケットから次々と木箱を出していく。
なにこれすげぇ!四次元ポケットは本当にあったんだ!
グリードさんは10個の木箱を出した。
一体あのポケットの中はどうなっているのだろうか。
「私が一つ作りますので見ていて下さい」
そう言ってグリードさんが木箱のフタを開ける。
そしてその上に手をかざして集中し始める。
「むう…………はい、出来ました。
私は空間魔法は余り得意じゃないので作るのに時間がかかってしまいます」
見ていたが凄かったな……。
木箱の中がぐにゃぐにゃと歪みはじめ、いきなり真っ白な空間になった。
外から見たら普通の木箱なのに、中見たら木箱じゃなくなってる!
こりゃすごいわ。魔法凄い。
はっきり言ってちょろいと思ってた、簡単だと。すぐに出来るだろうと。
これアーマーやショットの比じゃ無さそうだ。難易度。
「空間魔法のコツは『空間を認識』することです。普段そこにあって当たり前の物ですから、これがとても難しいのです。
木箱の中の空間を認識してそれを押し広げる様な感じです」
「出来た」
「頑張って……出来た!?早くないですか!?」
グリードさんが俺の側に駆け寄って木箱の中を確認する。
「……確かに出来てますね。
す………」
「す?」
「凄い!普通習得するのに1ヶ月、早くて2週間はかかるんですよ!?
やはりリテラ様は天才だ!!
神の子なのかもしれない!!
流石はリテラ様!天才少年だ!そんな方にお仕えするどころか魔法の教授を出来るなんてなんたる至福!!!」
あー、始まっちゃった……。
この人自分が認めた人が少し人より凄い事したらめちゃくちゃ騒ぐんだよなぁ……。
ゴブリン達が騒ぎ聞きつけて来ちゃうからやめてくれよ……。
だが、ちなみに何故これほど早く『ボックス』を習得出来たかというと、別にそんなに難しい話じゃない。
戦場というや殺気、怒号、実弾の飛び交う中戦い続けて来たんだ。
見えない場所に居る敵や流れ弾なんかにも気を配らないと死ぬんだ、それらを避ける為に嫌でも空気や気流などから戦場全ての空間を把握しないといけなかったからな。
まあ俺は全部感覚でやってたけど。今のは師匠の受け売りだ。
その要領で木箱の中の空気を感じ取り魔力を流して言われた様に空間を押し広げる感じでやってみたら一発で出来た。 それだけの話だ。
さて、自分の世界に行っているグリードさんを現実に引き戻して『テレポート』を習おう。
「戻って来て下さーい!グリードさん!」
「はっ!……お見苦しいところをお見せしました」
見苦しいと分かっているのなら少しは抑えようとするべきだと思う。
「次は『テレポート』ですね。『テレポート』は、自身を中心とした半径1kmの球の中なら何処にでも移動出来る魔法です。遠くなるほど魔力が必要になります」
「大体どのくらいですか?
あ、ボックスのも聞いてなかったのでそちらもお願いします」
使った感じでは多分1万くらいかな?
「ボックスは大きさにもよりますが、大体500から3000くらいですかね」
「え?俺がさっき使った時の感じでは1万くらいに感じたんですが?」
「それだとかなり大きくなってますね。私のポケットには2000ほど魔力を使ってありますが、その木箱が30個くらいは入ります」
「俺のは魔力の使い過ぎだったのか………」
「『テレポート』の練習が終わったらそっちもやりましょうか。
ちなみに、『テレポート』の魔力消費量は、距離により細かく変わりますね。
移動に使った分だけ消費されるので過剰に使う事がありませんから安心してください……と、言うところですがリテラ様は魔力がとても多いんですよね。
魔力切れの心配は必要ありませんね」
グリードさんが苦笑しながら話す。
だが実は1度なった事がある。魔力切れ。
どのくらい魔法を使ったら魔力切れになるのか知っておいた方がいいと思って試してみたのだ。
結果、やはり100万もの魔力はヤバい。
マシンガンを撃ちまくり、木が一本まるごと粉々になるまで撃ち続けても魔力切れにならない。
大体の感覚で自分の魔力量が分かるのだが、マシンガン一発が50くらいしかない。
大体連射速度は毎分1000発くらいか?
1分撃ち続けても5万。20分撃ち続けてやっと魔力切れだ。
一体何本木を粉々にしたか分からない。
魔力切れ間近になると疲労感が体を襲う。
限界が近付けば近付くほど疲労感は強くなり、ギリギリで辞めた。
ちなみに、小さな魔法を使い続けても、無意識にブレーキがかかり、魔力を使い尽くして死ぬことは無い。気絶するだけだ。
あの感覚はかなり辛い……。大量出血で死にかけた時を思い出した。
「『テレポート』は簡単です。自分が移動したい場所に居るイメージを強く思い浮かべて魔力を込めれば勝手に移動──」
「あれ?いきなりグリードさんの声がしなくなった。成功か?」
振り返るとグリードさんがこちらに手を振っていた。
俺は広場の端に居て、無事にテレポートに成功したのだ!
グリードさんの元に戻る。
「素晴らしいですリテラ様。
テレポートはあれで大丈夫なのでボックスの練習をしましょうか」
「分かりました」
その後俺は何とかボックスを少ない魔力で使える事が可能になった。
この魔法は便利なので嬉しい。
まだ魔力は余裕があるので次の魔法を教えてもらえる事になった。
「中級魔法の『ワープ』はテレポートの距離が広くなっただけです。半径50kmまでの範囲で、行った事のある場所にだけ転移出来ます。
『ワープ』はテレポートを使い続けていれば使えるようになります。
今すぐの習得は無理なので、『アナザーディメンション』をお教えしましょう」
「よろしくおねがいします」
「『アナザーディメンション』は、別次元に空間を作るだけです。
ボックスに似ていますが、規模が違います。
やはりこれも魔力の量で多少の差はありますが、1番小さい物で私達が住んでいる屋敷が丸々1つ入りますね」
そんなデカい空間を作るのか!?
一体どれだけの魔力を消費するんだ……?
「大体1万から3万ですね。
1回空間を作ったら、ずっとその空間を使いますから使い勝手は良い魔法ですよ」
「どのように使うんですか?」
「これもイメージするしかありません。空間を作り出して、そこに入る為の入り口を作り出すのです」
「出来た」
全部ぽんぽんと出来てしまう。
俺は無属性魔法と相性が良いのかな?
ちょっとやり過ぎな気もするから次からはもっと頑張ってみよう。
まあ、一発で出来てしまうから頑張れないんだがな。
「出来た!?早すぎますよ!
……でも確かに成功してますね。感じる魔力も3万ぐらいです。
……もしかして、こんなに習得が早いのは、他の属性が使えないので、その分魔力が他の属性に乱れる事が無いからじゃないでしょうか?」
「そうかもしれませんね。本当にイメージするだけで作れました」
「では早速中に入りましょう」
グリードさんが黒い円形の出入り口の中に入っていく。
俺も後ろからついていく。
一瞬視界が真っ暗になったと思うと、パッと明るくなり、周りが全て白くて、かなり広い場所に立っていた。
前にはグリードさんが立っていて、後ろを向くと出入り口だけがそこにあった。
「完璧な『アナザーディメンション』ですね。習得おめでとうございます。
私は空間魔法はあまり得意では無いのでもうこれ以上は教えられません。申し訳ありません」
「ここまで教えてもらっただけで充分です。有難うございました」
グリードさんはそのままワープで屋敷に帰って行った。
扉の事教えるの忘れてた。
俺はもう少しここで魔法の練習をする事にした。
「うん、上出来だな。そろそろ魔力切れだ……。
この疲労感久しぶりだな……」
広場の地面はかなり荒れてしまった。抉れた場所も多い。
「そろそろ帰ろう……。疲れたし、日も暮れてきたからな」
俺は広場の真ん中にある扉を開けて通り、広場を後にした。
─────
翌日
「さて、……ん?今日は魔物の数が少なくないか?」
今までなら少なくても10匹くらいは魔物が広場に居た。
だが今日は2、3匹しかいないし、ひどく怯えている。一体何があったんだ?
近くの山が噴火でもするのかね?
「……まあいいか、とりあえずノルマを済ませよう。森の中になら結構居るだろ」
広場に居たスライムを3匹仕留めて俺は森の中に入った。
しかし進んでも余り魔物は出て来ない。
それどころか小鳥すら見当たらない。
「………なんだ?今微かに何か音が……。
あ、まただ。なんだ?
音がするのはこの先だな。行ってみるか」
ボディブーストで脚力を強化し通常の数倍早いスピードで走る。
かなり音が大きくなってきた。音は一定ではなく1回だけだったり、数回連続で響いたりしてる。
「!……なんだよコレ……」
俺が見つけたのは潰れた馬車とへし折られた木々。
馬車の周りにはボロ布を身にまとって首輪と手錠の様な物、足まで拘束されている人間が大量に横たわっていた。
いや、人間かどうかは分からない。
何故なら、全て死体であり、頭や腕が潰されているからだ。
酷いものは肉塊になっていて人間だったかどうかも怪しかった。
馬車は幾つかあり、馬は逃げたのか既にそこには居なかった。
死体の中の何人かは多少派手な商人が着るような服を着ているのもあった。
「血の臭いが凄いな……。
多分、いやこれは確実に奴隷、いい服を着てる奴は奴隷商人だろうな……。
なんでこんな事になってるんだ?」
この世界には奴隷制度が存在する。
リテラも初めてそれを知った時は憤りを覚えたが、この世界では常識だ。
しょうがない、と自分を諌めた。
多少その場を捜索する。
何人かの奴隷が魔法で殺されていたから奴隷が暴れだしたのかとも思ったが、それは有り得ないはずだ。
奴隷には首輪が付いている。
本で見たが、この首輪は『隷属の首輪』と呼ばれ、奴隷が暴れたりしない様に着ける物らしい。
この首輪には、魔力を少しづつ、無理矢理放出させる術式が組み込まれていて、魔力を奪い弱らせる。そうして逆らえないようにする。
さらに、無理矢理腕力で外したとしても、外れた瞬間爆発するように術式が組まれている。
厄介な代物だ。
まだ音は続いている。
そして音がする方向の木々が折られて道のようになっている。
おそらくこの先にこうなった原因が居るに違いないのだろう。
リテラはその道を、全速力で走り出した。
──────
「ヴヴァーーーー!!!」
「ゼェ……ハァ……くそ、化物め、何故こちらに来る!ゼェ……何処かへ消えろ!」
森の中では、豪華な服を着た男が額に小さな角の生えた少女を抱えて走っていた。
少女はとても可愛い顔立ちだったが、今は泣いて目が腫れており、顔を歪めていた。首には、首輪が着けられていた。
その後ろからは、3mはありそうな一つ目で体が青く、岩で出来た棍棒を力任せに振り回し、木をへし折りながら男を追いかける魔物の姿があった。
「ううぅ………おどぉさーん!……おがぁざーん!………」
「ええい、うるさいぞ!
……ハァ、ハァ……ゼェ…もういい、貴様をエサにして私は逃げる!」
そう言った瞬間男は少女を後ろに投げ出し、一目散に走り出した。
少女は地面に投げ出され、立ち上がって逃げようとしたが木の根に足を取られてコケてしまう。
しかし一つ目の魔物は少女に気付いてない様に、男に狙いを定め棍棒を振りかぶり投げた。
「うわぁぁぁあぁ!し、死にたくな──」
男は棍棒に潰され、赤い液体を飛び散らせた。
一つ目の魔物はそのまま少女に目を向けると、にたりと笑って拳を振り上げ、大声で泣く少女に向かい振り下ろした。
だが、その拳が少女を潰す事は無く、地面を殴っただけだった。
少し離れた場所に少女を抱えたリテラが立っており、少女を木に寄りかかるように座らせ、一つ目の化物を見据えた。
「あれをやったのもお前か……。
本で見た事あるぞ、お前。
確か、サイクロプス。Cランクの魔物だよな、確か。
この体でだけだったらキツかったかもしれんが……今は魔法が使えるんだから、お前なんぞに負けるか」
一つ目の魔物──もとい、サイクロプスは既にリテラに殴りかかっていた。
しかし彼は避けようとしない。
次の瞬間、巨大な拳がリテラに直撃する。
だが、リテラは無傷だった。拳は直撃したのではなく、10cmほど前で止まっている。
アーマーが、その拳を止めたのだ。
「……次は俺の番だな。『テンタクルス』」
リテラが指を鳴らすと太さが木の幹程もある触手がリテラの足元から8本飛び出す。
それぞれの触手がサイクロプスの手足に2本ずつ絡みつき、動きを止める。
サイクロプスは必死に力を入れるが触手が外れる事はない。
それもそのはず、リテラは触手一本につき1万の魔力を使っていた。
基本1本に1000程度しか使わないのに、その10倍の魔力量。
サイクロプスの怪力を持ってしても簡単に引きちぎられる物じゃない。
だが、触手は徐々にミチミチとはち切れそうな音を発し始めた。
「馬鹿力が……。だがもう終わりだ」
リテラが手で銃の形を作り、一つ目の化物の目玉を狙う。
「『ショット』」
リテラの指先から少し大きなショットの弾が飛び出し、サイクロプスの目玉目掛けて飛んでいく。
スピードは全くない、秒速5m程ののろい弾だ。
だが手足を封じられているサイクロプスはよけられない。
「ガァァァアアアアア!!!!」
「お前に恨みは無いが、この子を助ける為だ。
あと…………まあいいや、死ね」
一つ目の化物はまるで負け惜しみを言うかの様に叫ぶ。
弾はサイクロプスの目玉に当たった瞬間──
バァァァァァン!!
頭を巻き込み炸裂した。
サイクロプスはその一撃で即死、体から力が抜ける。
リテラはテンタクルスを消して、サイクロプスの死体を地面に倒した。
リテラはサイクロプスに近付き、完全に死んでいるのを確認してから、気絶してしまった少女をおぶってその場を去った。
───────
「やってしまった………………。」
俺は広場に戻って来て落ち込んでいた。少女は近くに寝かせてある。
最悪だ。本当に最悪だ。
ヤってしまった。殺ってしまった。
俺は女の子を助けたかっただけなんだから殺さなくてもよかったのに……。
サイクロプスは、ボディブースト使えば絶対に撒けるから逃げてよかったのに………冷静じゃなかった…。
「奴隷商人はどうでもいいが、罪の無い奴隷達があんな酷い殺され方してるの見て黙ってらんないだろ………。
それに女の子が殺されそうだったし……いや、それは関係ないな。
でも駄目なもんは駄目だよな……。
大体女の子を助けるだけで良かったんだからあのまま逃げるだけでよかったんだよ……俺は馬鹿だ……。
この歳でCランクの魔物、しかもサイクロプスを一方的に殺したなんて絶対ヤバい事になる………」
魔物のランクは、S、A、B、C、D、E、Fの7つに分けられる。
Fランクの魔物は、子供でもなんとか倒せるくらい、らしい。
Cランクの魔物は、数年間共に戦い続けたような実力のあるパーティーが討伐できるレベルだ。
そんな魔物を6歳の子供が1人で殺した。しかも傷一つも負わずに。
それが知られたら、騒ぎにならない訳が無い。
「きちんと全部父上に説明しないとこの子をどうにもできないだろうし………。
多分鬼族だよな?この子。
いやそんなこと今はどうでもいいんだよなぁ……………。
もしかしたら、元々色々とチートなんだから大丈夫かもしれん……。
いや、でもなぁ…………」
物凄い葛藤の後、俺は一つの結論にたどり着く。
「うん、いずれ俺のチートっぷりはバレる、てかバレてるし、正直に話そう。その方が後々面倒にはならなそうだしな。
化物、とか言われたりしたら悲しいけどそんときゃそん時だ。
確かに化物じみてるしな、俺。
屋敷に帰って父上に報告しねーと。
この子はどうするか……………」
そのまま俺はブツブツと独り言を呟きながら、扉を使い屋敷に帰った。
詰め込みすぎました。
作者、ちょっぴり反省。テヘ?
……気持ち悪いですね。俺だったら即座に殴ります。
いや、本当に詰め込みすぎたと反省しております。すみませんでした。
それでもいい、と見続けて下さる方、感謝します。なんなら作者のキスをあげましょう。いらない?でしょうね。俺も絶対にいりません。されたら泣きわめきます。
次は3日後か4日後には更新する予定です。