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3話 戦王と呼ばれる男

「あー……まだこんなに書類あるのか……」


 男は執務室の椅子に座り、机の上の大量の書類と戦っていた。

 男の見た目は20歳後半といったところだろうか、若いが身体は大きく筋肉質なのが服の上からでも分かった。顔は、女性受けする顔、平たく言えばイケメンだ。


「めんどくせー……リザルトもなかなか戻って来ないし……ちょっと遊びに行こうかな」


 執事長であるリザルトがこの部屋から出て行ったのはわずか3分前の事である。この男は飽きやすかった。


「仕事は帰って来てからやろう!大丈夫、間に合うだろう!んじゃいってきまーす」


 男は自分に言い聞かせるように口に出してから開いている窓に向かい、ひらりと外に出ていった。


「いやー、いつ来ても城下町は賑やかでいいな!これも我が国が上手く繁栄している証拠だ!それも全て俺のお陰だけどね!あ、おばちゃんそのリィくれ」

「まいど!小銀貨1枚だよ!」

「ほい。お釣りはいらねーぜ」


 男は大金貨を1枚差し出しリィと呼ばれる林檎に似た果物を1つ掴んだ。


「えぇ!?あんた待ちなよ……あ!!もしかして国王様!?」

「あれ?バレた?てかずっと歩いてきたけどバレないからなんか悲しかったんだよね…やっと気付いてくれたからお礼がわりに貰っといて!」

「いやいやいや!それでも大金貨なんて貰えませんよ!」

「いいから!じゃーね」


 男──国王、バルドゥーク・アヴァラムはひらひらと手を振りながらその場を後にした。彼はこうするのがカッコイイと思ったのだ。しかし人混みに紛れる寸前、果物屋の女が叫ぶ。


「待ってください!国王様!」

「なに!?国王様!?ああ!!ホントに国王様が居るぞ!!」

「え?バレてる?これ」

「本当だー!国王様だー!!」

「俺たちの誇る素晴らしい国王様が居るぞー!!」


 たちまち大通りには人が集まりギュウギュウになった。 その中心には、とても嬉しそうな顔をしている国王の姿があった。

 国王は滅亡寸前の小国、トロハをたった10年で世界屈指の大国に育て上げた素晴らしい手腕の王なのだ。

 そんな王が国民に慕われないハズもなく、この光景は当然と言えば当然であった。


「国王様!俺の店で飯食べてってよ!」

「いや、国王様あいつの店は不味いぞ!家に食べに来な!」

「まあまあ、すまないが今日はもう昼飯食べてしまったんだ」

「そいつは残念だ……」

「まあ代わりにデモンストレーションでも……」


「動くなぁ!国王!!」

「なんだ!?」


 いつの間にか大通りはガラの悪い男たちに囲まれており、リーダーらしい身長は小さいがかなり筋肉質で人間とは違う種族──ドワーフの男が女の子を捕まえ首に剣を当てていた。


「俺たちは盗賊団『大地の闇』だ!国王様よぉ、今日はお前を殺しに来たんだ」

「その名前カッコイイと思っているのか?今からでも間に合うから変えなよ」

「うるせぇ!状況を理解してるのか!?下手に動いたらこの女の首から血が吹き出すからな!」


 女の子はひどく怯えた様子で、泣くなと脅されたのか、今こそ泣いては居ないが目の周りには泣いていた跡があった。

 それを見て、へらへらと笑っていた国王からは笑みが消え、ドワーフの男を睨みつけていた。


「その子を離せ。さもないとお前らひどい目に合うぞ?」

「離せと言われて離すバカが何処にいる!?国王、あんたを殺したらきちんと解放するから安心して死にな!!」

「はぁ……片手じゃこれからの人生さぞかし生きにくいだろうね……」

「てめぇは死ぬんだからもう生きられないんだよバカ!なにが片手だ!」

「あ、いや俺じゃなくて君の人生、だよ?」


 そう国王が口に出した瞬間、どこからか飛んできた槍がドワーフの男の右肩に突き刺さり、ドワーフの男の右腕が完全に切断された。


「あーあ、だから言ったじゃん?片手じゃご飯も食べにくいよね」

「あっ…ああああああああ!!右腕っ……いでぇぇえぇ!!」

「人の忠告は素直に聞いた方がいいよ?大体俺を殺したいならこの10倍は連れてこなきゃ」


 国王は、ドワーフの男の横で女の子を抱えていた。

 囲んでいた盗賊団の男たちは全員気絶させられまとめて縛られており、すぐ横に騎士が2人立っていた。


「その出血じゃあ死んじゃうんじゃない?痛いでしょ?寒くなってきたんじゃない?」

「い、いだい…いでぇよぉ…助けてくれ…」


 国王は顔にまた笑みを戻してドワーフの男の前に立った。


「盗賊なんかやめてこの国で人の為に一生懸命働きますって誓ったら助けてあげる」

「分かりました!なんでも誓いますから助けてくれ!!」

「OK♪おーい、見てるんだろ、エリー!治療してあげてよ!」

「ったく……こっちの身にもなれっての……」


 国王が叫ぶと野次馬を押しのけ1人の女が出てきた。

 金髪に翠色の瞳、尖った耳。彼女は人間ではなく、エルフと呼ばれる種族だった。

 エリーと呼ばれた彼女の名前はエリス・ミッドガルド、国王の古き友人である。


「腕くっつけられる?」

「無理。止血だけだね。傷口に呪術かけられてっから。あの槍が腕落としたんでしょ?あれアイツの槍じゃん。ホントタチ悪い呪い使うよねアイツは……」

「しょうがないな……じゃあとりあえず止血して死なないように──」

「もう終わってるよ。私を誰だと思ってるの?」


 ドワーフの男の傷口からドプドプと溢れ出していた血は止まり、傷が顕になっていた。骨が少し出ており、ドワーフの男はそれを見て顔をゆがめていた。


「流石は大陸最古の医者だな。後は性格さえどうにかなればな……」

「アンタに言われたくない!コイツもうちょい治療が必要だから連れてくよ」

「よろしくねー」

「大金貨3枚な」

「……ぼったくりのヤブ医者め」

「あんたのキズは2度と治してやらないからな!」


 そう言い捨てるとエリスはドワーフの男を片手でひょいと持ち上げ、肩に担いで群がっていた人間を押しのけ城に向かっていった。


「皆さん!俺が居る限り皆さんの安全は保証します!これからもこの国で幸せな暮らしを営んで下さい!その為に俺も頑張ります!全ては国民の為に!!」

「いいぞ国王ー!!」

「流石は戦王様だー!!」

「覚悟はいいですか国王様?」

「頑張れよ国王様ー!!」


「……あれ?なんか歓声に紛れてものすごー怒ってるような声が聞こえた気がしたなぁ……」


 見る間に国王の顔から血の気が引いていく。歓声はいつの間にか止まっていた。

 国民は皆国王の後ろに居る誰かを見ている。

 国王は恐る恐る後ろを振り向く。

 そこには──


「バル、何やってんだお前……」


 その人は、見た目こそ笑ってはいるが、眉間にはシワが寄っており、こめかみには青筋が浮いている。

 国王、バルドゥークをバルと呼ぶのは、本気で怒った時のリザルト以外にはいない。

 リザルトは、王国に数少ない国王が心底恐れる者の1人であった。


「リザルト……これには訳が…」

「今日こそは書類処理し終わらせないとヤバいって言ってたよな?

 あと、昨日お前が頼まれてたラディウス殿のご子息も来てるんだぜ?今は城で待ってもらってる。俺が迎えに行ってからお前を少しでも良く思ってもらうためにお前が俺を案内させたって言ったんだ。お前は忘れてたがな……

 それらを全部放り出して城下町で遊んでいいご身分だなぁ?あぁ?」

「……返す言葉も御座いません」

「城に帰るぞ。今日は寝させないからな。いや、永眠はするかもしれないがな」

「…………短い人生だったぐぁっ!?」


 国王──バルドゥークは何かを悟ったように全身の力を抜き、次の瞬間にはリザルトの手がバルドゥークの顔面にめり込んでいた。

 そのままピクリともせず城に連れて行かれる情けない国王の姿を見送りながら、1人の男が呟いた。


「変わらないなぁ、国王様」


 住民たちは何事も無かったように自分の元いた場所に戻っていった。

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