23話 揺るぎない殺意
「くそっ、くそっ、くそ!!なんなんだ、一体何者なんだアイツは!?」
豪奢な部屋に響きわたる声。それには大量の怒気が混ざっていた。
声の主は、上位悪魔 (ハイデーモン)バアル。褐色の肌、美しい黒髪と深紅の瞳を持っており、顔は全体的に整っている。黒い甲冑を身にまとっており、腰まであるその長い髪を揺らしながら部屋の中をウロウロと歩き回っていた。
「信じられん、あんな存在は見たことが無い。
幼い身体、それにとても似合わぬあの戦闘術、私の知らない魔法の数々、ありえないほどの魔力保有総量。
………化け物め、あれは本当に人間なのか?この私に、実力を隠したまま勝つとは……………… 」
バアルの言ったことは、自分の実力の過信や自惚れなどではない。そもそも、現実主義者である悪魔たちにはそのような油断などは存在しない。
バアルはハイデーモンの中でも最上級に位置する存在だ。弱い悪魔王 (デーモンキング)ならば、全力でやれば勝利すら可能だろう。それほどバアルは強い。自分の、そしてもちろん相手の力量を測り違えるなど万に一つもありえないだろう。
きらびやかな装飾が施された椅子に乱暴に座る。
敗北など、何年ぶりかも分からないバアルの心中には、悔しさなどといった感情よりも不可解な事、起きた出来事を理解したくないといった否定的なものが大半を占めていた。
「全く……………強制召喚といい、あの化け物といい、何なんだ、今日は厄日か?
……………あいつの魔力保有総量は、デーモンキングを凌いでいたぞ………本当にそんな人間が居るのか?いや、しかしこの目で見たからには…………」
悪魔の等級は、近接戦闘と魔力保有総量の2つがどれほど優れているかで決まる。大半の悪魔は魔法を使いこなし戦うので、後者が重要視されている。
人間は、多少なら魔力保有総量を増やす事は可能だが、悪魔は生まれたその時点で決まっている。
つまり、悪魔が後天的に強くなるには近接戦闘で強くなるしかないのだ。しかし、悪魔の肉体はより強力な魔法を使うためにより効率よく魔力を使えるようになっている。簡単に言えば、筋肉が付きにくく、肉弾戦には向いていないのだ。
バアルは、ギリギリでハイデーモンと言えるぐらいの魔力保有総量だった。その代わりかどうかは分からないが、近接戦闘、特に剣術の才能があった。必死に鍛え数百年、今では最上級のハイデーモンとなった。
近接戦闘最強の悪魔とまで言われている自分を軽く下した男。キングデーモンに勝る魔力保有総量の男。
「そんな存在、私は1人しか知らないぞ…………」
項垂れるバアル。その声からはどこか尊敬しているような気がしないでもない。
刹那、バアルは腰に差した剣を抜いて部屋の隅へと鋒を向けた。隅は影で暗くなっている。
「…………誰だ、出て来い。私に気付かれる事無く侵入するとは、よほどの手練だな?アスタロトあたりの手の者か?」
「お主、数年会わなかっただけで我の顔を忘れたのかのぅ?」
スッと影から現れたのは、とても美しい女性だった。
右眼は緋、左眼は蒼のオッドアイ。セミロングの、サラサラとした美しい深緑の髪。すらっとした鼻に、小さな口。大きすぎない胸。身長は160cmくらいだろう。
その見た目と醸し出される妖艶な雰囲気は、まさに絶世の美女と呼んでも相違ないものだった。
「あ、あなた様は………!?も、申し訳ありません!御無礼を働きました!!」
すぐさま剣を収めて頭を下げるバアル。その額には汗が滲み、彼女がよほど緊張しているのがわかる。
女性は特に気にする様子も見せずにひらひらと手を振りながら椅子に座った。
「あーあー、そういうのは構わん。我はお前が面白そうな事を言っているから来たんじゃよ。我の地獄耳を舐めるでないぞ?」
「き、聴こえてたんですか…………」
「そう言うておろうが。どれ、どんな奴だったか詳しく話してみい」
ワクワクした表情で身を乗り出す女性。まるで新しいおもちゃを前にした子供のような表情である。
バアルは、何かを考えてから、諦めるようにため息をついた。
「 見た目は、キリッとした目つきに深い青い瞳、あまり高くない鼻に薄いくちびる。それに肩まで伸びた金の髪。美少年、と言うに足るものでした。
ただ、実力はそんな華奢な姿とはかけ離れた想像を絶するもので、正直、もう一度戦っても勝てると思えません。肉弾戦でも魔法戦闘でも、です」
バアルがそう告げると女性はフハハハッと笑い、バアルを見た。
「お主にそこまで言わせるとは………そいつは余程の化け物じゃの。
戦闘スタイルや使用する魔法、魔力保有総量などはどの位だったのじゃ?」
「ダガーを差していましたが、あまり使っていませんでした。ガントレットを防御と攻撃の両面に使う拳闘士といった感じでしょうか。
魔法は、属性魔法を一切使ってきませんでした。全て魔力のみを実体化させ、魔力だけで攻撃してきましたね。私がトドメを刺された魔法も、圧縮された魔力の球体が瞬時に膨張し、その中は荒れ狂う大量の魔力で詰まっており、そこに閉じ込められて肉体をぐしゃぐしゃに潰されました。
魔力保有総量は………恐れながら、あなた様と同等か、それ以上のものだった、と私は感じました」
「ク…………」
女性は驚愕の表情を浮かべて俯いてしまった。途端に女性の肩が震え出して、機嫌を損ねたのかとバアルは戦々恐々とした。しかし、すぐにそれは杞憂だと分かる。
「ク、クハハハハハハ!!ハーッハッハッハッハ!!!」
「ど、どうなされたのですか!?」
バアルは困惑し、混乱した。それはそうだろう、怒っていると思っていた相手がとても愉快だと言わんばかりに大声で笑い出したのだから。
「そうかそうか、我と同等以上!それは面白そうじゃ!!それにその魔法は多分『原初の魔法』じゃな。四大元素が存在する以前から漂う、魔法の根元であり根幹。大量の魔力のみで具現させる圧倒的な力そのもの。お主が知らんのもしょーがないことじゃ。
どうやらようやく、我の番のようじゃな。どの位待ったのかのう…………面白い奴じゃないと、許さんぞ?」
虚空に語りかける女性。その瞳には既に目の前にいるバアルは写っておらず、ずっと待っていた『その人物』を見据えていた。
───────
「おらあああぁぁぁぁぁあ!!」
振りかぶられた俺の右拳が死神の顔面を目掛け振り抜かれる。だが、流石は死神とでも言うべきだろうか、軽く身を引くだけで避けようとしている。舐めてもらっちゃ困るな。
「そのぐらいでよけられるかぁぁぁ!!」
「ぐッ!?」
右拳から、同じように拳の形をした魔力弾が撃ちだされる。それは正確に死神の顔面目掛け飛んでいったが、死神は咄嗟に左腕を防御に回し、魔力弾を腕で受け止めた。だが、その魔力弾はスピードと飛距離がかなり少ない代わりに攻撃力は段違いの性能になっている。魔力弾は死神の左腕をはじき飛ばした。よろめきつつも、倒れはしない。俺はそれを見てから追撃は厳しいと判断し、距離を取る。
「…………なかなかやるな」
「世辞はいらねぇ。ウル、ブラス。俺が死神を足止めするからその隙にアリスを助けろ」
「分かりました!」
「ん、了解」
すぐにアニマルモードになるブラス。ウルはアニマルモードのままだ。肝心のアリスは、こちらを見て喜びとも驚きともつかないような表情をしている。だが、すぐに暗い表情にもどり俯いてしまった。
「アリス、すぐに助けるから少し待っていてくれ!!」
「なんで…………なんで、君が来たんだ!!無茶だよ!! なんで………」
「俺はお前の執事だからな」
「え………………」
アリスはその一言で絶句して、固まってしまった。
俺は前を向き、死神を見据える。死神は鎌を俺の方に向けて構えていた。
「そうか、お前の原動力は『守護』か………」
「……………………」
「さて、一つ質問だ、リテラ」
「………なんだ?」
俺は死神が言う問いを予測し、対応策を考えた。もちろん質問せずに死神が攻撃を仕掛けてくる可能性等もすべて考えて、だ。俺は奴の情報を知らないので、予測出来ない事もあるが、それはしょうがないだろう。
しかし、奴の放った質問、いや、"言葉そのもの"は予想外過ぎるものであり、俺を混乱させ動きを封じるには充分すぎる破壊力を持つものだった。
『この言葉を知っているか?』
「なッッ!!?何故それをお前が知っている!?」
奴の口から紡がれたそれは、数年ぶりに聴いた、言語。2度と聴くことはないと完全に確信していた言葉。この世界にあるはずのない言語────
──────日本語、だった。
「ビンゴ!!お前はこれを、『日本語』を知っているんだな!!!」
「ニホンゴって……何ですか?」
「…………知らない」
ブラスやウルたちも知らない。やはり、日本語はこの世界には存在しないはずだ。しかしコイツは、死神は知っているどころか話す事が出来る。そこからわかる事はたった一つだけ。さらに、それが正解である可能性は高い。
死神も、転生者である。
もちろんそうでない可能性だって充分に存在する。しかし、自分が転生している以上、自分と同じ境遇の者が居るという事は他の可能性よりは信じられた。
「まさか、お前は…………いや、お前も…………」
「残念だが、お前が考えている事は少し違う。いや、半分正解と言うべきか?んー、説明するの面倒だな。後から話してやるよ」
「ご、ご主人様、どういう事ですか?」
不安げな顔のブラスが問いかけてくる。その声は震えている。状況の把握が出来ているのだろうか、良く分からない。ウルとアリスも動揺しているようで、疑わしげな目を向けてくる。
「…………全て終わってから、話せるならば話そう」
「…………わかりました、約束ですよ」
ブラスたちから目線を外して、死神を正面に見据える。死神は、姿勢を一切変えずにこちらを見つめている。
「さて、お前が"最後の一人"かどうか、確かめさせてもらうぞ」
「…………拒否権は、あるのか?」
「そりゃもちろん、無い。それにどうせ、お前はコイツを奪還しなきゃいけないんだ。俺と戦う必要がある。拒否する気もないだろ?」
檻を小突きながら死神が言う。何が面白いのかは分からないが、ケタケタと笑っている。それがやけに頭に来る。
「ああ、さっさとお前をぶちのめしてやるよ」
「カカカ、やってみな…………
『死を司る神よ、汝、全てに死を与えよ。死は生であり、生は死である』 」
死神が唐突に言葉を紡ぎ始める。言葉には魔力が混ぜ込まれており、明らかに何かをやろうとしているのは間違い無い。そしてそれはすぐに発現した。
死神の持っている鎌から、禍々しい雰囲気を持った黒い霧が滲み、噴き出し始めたのだ。それは鎌の周囲に留まっている。
俺はそれを本能でヤバイと理解した。明らかに、普通ではないナニカだと。
「やめろ!!………なっ!?」
「『汝は魂を見極め、刈り取り、飲み込む。今、我に力を貸せ。顕現せよ、黒き神よ!』」
すぐさま止めようと走り出すが、黒い霧が伸び、俺へと攻撃してきた。咄嗟に飛び退きよけられたが、死神への距離は縮まってはいない。その間にも死神の詠唱は続く。
「『ショット』!」
「『誘え、死神ハデス』!!」
俺がショットを放つと同時に奴の詠唱は終了した。
ババッ、と鎌から黒い雷のようなものが放たれ、周囲を漆黒の光で呑み込んだ。
光が消えて、見えた光景は目を疑うものだった。
「カカカカ、この姿になるのも久しぶりだな………」
『グレイブ、俺にも話をさせろ。お前との対話は飽きたからな』
「アイツがいいってんなら良いんじゃないか?俺としてはさっさと終わらせてからにして欲しいがな」
『む………ならば、終わらせてからゆっくりと話すとしようか。
奴のは、どの序列なんだ?お前の言う通りさっさと終わらせたい。俺がやってやろう』
グレイブは、骸骨になっていた。ケタケタと笑う、気味の悪い骸骨に。鎌や鎧はそのままなので、骸骨騎士とでも言えばいいだろうか。
変わったのはそこだけではない。周囲には黒い霧がまとわりつき、グレイブの周りを回っている。背後には5つの刃渡りが2m近い巨大な鎌が浮遊している。
さらに、元々持っていた黒い鎌も2mほどになっており、その側面に口が付いている。グレイブはそれと会話をしており、骸骨と鎌についた口の会話という状況はかなりシュールであった。そして、それを遥かに上回って不気味だった。
「………………………」
「覚えてないのか?残りはあと一つ、『魔神』の席だけだ」
絶句していた俺にさらに追い討ちがかけられる。
なぜここで、魔神という名詞が出てくるのかが理解出来なかった。大体、さっきから死神は妙な事を言っている。やれ試すやら、最後の一人やら、日本語を知っているかどうか聞いてきたり。
しかし、俺のそのような葛藤などつゆ知らず、死神は喋り出す。
『魔神、か。アイツは苦手だ。姦しいし、騒がしいし、うるさいしな。しかしアイツが相手とは、可哀想な男だな』
「分かったから、さっさとやってくれ」
『はいはい』
そこでグレイブは鎌から手を離した。鎌はそのまま浮遊し、黒い霧が鎌へとまとわりつき始めた。
数秒でそれは鎌を全て包み込み、さらに数秒経つと、それは人の形になっていた。もちろん顔など無いし、髪も服も無い。名前のまま、人形である。
それは地に降りるとこちらを向いて、ゆっくりと歩み始めた。
周りを確認すると、グレイブは微動だにしていない。ブラスとウルは腰が抜けたのか座り込んでおり、アリスも完全に怯えている。
『君がそうか、頑張れよ』
「…………何を、ですか?」
『まあ色々だが、一番はグレイブをぶん殴ると言っていただろ?あれかな』
「…………そうですか」
俺は警戒態勢を一切解かず、コンマ一秒レベルで反応出来るように準備している。
一方、奴は至って簡単にこちらに歩いて来ている。まるで、友達の近くに行くように、敵意、殺意、悪意などは一切感じられない。信じられなかった。
『まあ、でもそれも、今から始まる試練を耐えれたらなんだがな』
「それはどういう意味だ───グッ!?」
予備動作無しで奴が突っ込んで来る。それを咄嗟に迎撃しようと顔面目掛けて拳を放つが、ぐんにゃりと拳が当たる部分だけが凹み、迎撃し切れずに奴の頭突きが腹に入った。強化はしていたのであまり痛くはないが、懐に入られたのは痛い。
『俺の名前はハデス、本物の死神だ』
「なっ、…………ぐぉっ!?」
腹部をガードした右腕とガードし切れなかった部分に、数発の拳が一瞬のうちに叩き込まれる。強力な力に、俺の体は浮き上がり、飛んできた前蹴りで後ろに数m吹き飛ばされた。
もし左腕があればなんとかなったかもしれないが、ないものねだりをしてもしょうがない。
俺は吹き飛ばされた反動を利用してすぐさま立ち上がり、ハデスに向けてショットを数発放つが、奴の腕がまるで剣のような形状に変化してショットを斬り落とした。
「形状は自由か…………」
『その通りだ。まあ、色々と制限はあるがな』
色々な疑問が頭の中で渦巻いているが、それを考える時間も、考えても出て来はしない答えを探す事も全て放棄してハデスに向かう。
本物の死神という事だけでも聞きただしたい事が大量にあるし、グレイブにも聞きたい事がいくつもある。
しかし、それを許してくれないのが現実だ。
目の前の、決して演技とは思えない、殺意を放つ黒い人形の一挙手一投足を観察する。
「………………」
『どうした、来ないのか?それならば、こっちから行こうか』
瞬時に地を蹴りこちらへと肉迫するハデス。嫌らしいことに、存在しない俺の左腕側から攻めてくる。
だが、それに対してはこの7日間で対策済みだ!
ハデスの腕が俺を切り裂く寸前で、ガキィンと音を立てて止まった。止めたのは、俺の肩から生えている灰色の腕だ。そのままその腕でハデスの腕をつかみボキリとへし折った。痛みを感じているかどうかは分からないが、折れた腕は霧散した。
ハデスはすぐに下がり、なくなった右腕を眺めている。
『…………驚いたな』
「やはり今まであって当然だったものが急に無くなったら不便でな。魔力で腕を作り補ってみたのさ。最初は全く動かせなかったが、色々工夫してみたら元の腕と遜色ない動きが出来るようになった。パワーは数倍以上だがな」
「そ、そう言えばなんで腕が無いのさ!?」
「……………そのあたりの事も、無事にこの戦いが終わったら話そう。後回しですまんな」
アリスはやはり俺に対して何らかの罪悪感のようなものを抱いているのだろうか。一連の出来事彼女のせいではない。俺はそう思っているが、彼女からしたら違うのだろう。俺は頼まれたのもあるが、助けているのは基本俺の意思だ。彼女に責任は無い。
腕は、先程述べた通り、不便なので魔法で作ってしまおうと考え、実際に作ったのだ。最初は全く動かず、形状だけのものだった。しかし、筋肉や関節などの細部も極力再現するようにしたら、殴ったり掴んで折ったりといった程度の動きならば可能となった。小さな物を掴んだり使ったりといった動作は出来ない。元の腕と遜色ないというのは、ブラフだ。
ダガーを抜いて斬りつけたりなどは出来ないのだが、それを警戒させる事ができればその分こちらには余裕が生まれるので、それを狙った。
名は『ライアーハンド (嘘つきの手)』。一度に使用する魔力は5000に抑えた。常人からしたらかなり多いだろうが、俺からしたらかなり少ない。他と比べて燃費がいい。
『……………この姿では、勝てなさそうだ。しかし、善戦する事は可能だろう。俺の目的は君に勝つことではないからな』
「……………俺は、あんたらに勝つつもり……いや、勝たないといけないからな。全身全霊全力を持って挑むよ」
『………こちらも、簡単には負けない。全力だ。手加減はしない。例え、君が死のうともな。俺だけでは不可能だが、グレイブと共にならば可能だ』
ハデスの殺気が膨れ上がる。こころなしか、ハデスを構成している黒い霧も増えているようだ。
グレイブは、相も変わらずにアリスが閉じ込められた檻の横でつっ立っている。表情は無い。無表情でこちらを見ている。
アリスは今にも泣き出しそうで、たまに俯いたりしている。辛いのは良く分かる。早く助けてやりたいが、俺の力ではまだかかりそうだ、不甲斐ない。
ウルとブラスは俺の後ろで、どうしたらよいか分からないようでオロオロしている。しょうがない事ではあるが、2人が出来そうな事は今は無い。
「行くぞ、貴様を倒す」
『…………来い』
即座に距離を詰めて左拳を握る。振りかぶった拳をハデスの顔面目掛けて殴り付ける。ハデスはそれを左腕でガードするが、俺の左拳は寸前で停止し、それと同時に右拳がハデスの脇腹にめり込み、奴の体を浮かせる。もちろんそのまま黙って見ている訳は無く、蹴り上げてからジャンプして、組んだ両腕で地面に叩きつける。
破壊音が響きわたり、土煙が舞う。俺はすぐさま着地し、追撃を行う。炎のガントレットを取り出して右腕に装着、魔力を流し発動する。
「『爆炎の手 (エクスプロージョンハンド)』!!」
巨大な燃え盛る手が土煙を押し退けて地面を叩き、次の瞬間。
大規模な爆発が起こり、爆炎と爆風が土煙を吹き飛ばした。
爆発は周囲への被害を極力抑えるように上に向かうようにしていたので、アリスやウル、ブラスは無事だ。俺は多少火傷をしたが、すぐにヒールで治す。
爆発の後には、浅い穴が出来ていて、周囲の草は燃えきっていた。まだ、数カ所は燃えている。
穴の中心部には、ハデスと思わしきモノがいた。左腕の部分はねじ曲がり、両足は吹き飛んでいた。しかし、何故か胴体と頭部には、それほど酷い損傷は無かった。恐らく、何らかの魔法を使用したのだろう。
『ぐうっ…………まさかこんな簡単にやられるとはな。いくら力が無くて抜け殻の状態でも、もう少しやれると思ったが…』
「抜け殻、だと?」
「その通りだ。ハデスの力の大半は今、俺の力になっている。今のハデスは本当に抜け殻のようなものだ」
ハデスを庇うように、俺との直線上に降り立つグレイブ。その顔からは、一切の感情が読めない。
ハデスは鎌の形状に戻り、それをグレイブが拾い上げた。鎌には幾ばくかの傷がついているが、どこかが壊れたりなどは一切無い。
「全く、何がさっさと終わらせるだ。さっさとやられちまってるじゃねえかよ」
『それは俺が悪いんじゃなくてアイツが想像以上に強かっただけだ。別にいいじゃないか』
「あー、うるせえうるせえ。
てなわけで、今からこの『死神』グレイブがお前の相手をしよう。死ぬ気でこい」
「当たり前だ、お前を殺すつもりだからな」
言い終わった瞬間、グレイブの背後の5つの鎌が襲い来る。恐らく、背後に下がっても前に出ても鎌はついて来る。ならば!
「『百万力の巨大塔 (ミリオンタワー)』!!」
魔力を全て使用して創り出す巨大な塔。それ自体が完璧に攻撃を防ぐ。超高硬度の防壁で囲まれ、さらに壁からは魔力を使い直接ショットを撃つことも可能であり、もはや小さな要塞と言える。塔は高さ20m、直径が5mほどある。
鎌は全て塔に防がれ、止まった。傷すらついていない。
すぐさま壁からショットを放って攻撃する。貫通力よりも速さを重視したショットは、数発は防がれるが、1,2発は被弾させる事が出来た。しかし、被弾したのは鎧にで、小さな視認も難しいキズがついているくらいで、足止めにもなってはいなかった。
「おい、今のは攻撃か?蚊でももう少しはマシだろうぜ。それとも、何だ?まさか俺相手に加減でもしてんのか?ふざけるなよ!!」
一気に殺気を噴き出すグレイブ。その顔は怒りに歪み、こちらを睨み付けている。怒鳴り声は、アリスとウル、ブラスの3人までもを怯えさせて、黙らせた。
「アンタは手加減して無いのか?」
「さっきからずっと言っているだろう。この姿は俺が本気になった時のみ見せる姿だ。手加減など、する気はない」
「……分かったよ、こっちも出し惜しみは無しで行こう」
ポケットから大量の魔力生成促進薬を取り出して全て口に含み飲み込む。重度の緊張か、それともあまりにも味が酷すぎたのか、無味だった。
『ボックス』は便利だな、などと無関係な事を考えながら、上を見上げた瞬間に胸の中心に激痛が走る。ドサリと倒れ、地面に伏す。
「うぐぁっ!!があぁぁァあぁぅああああ!!!」
魔力生成促進薬には副作用は存在しないと言われている。それは半分は正しく、半分は正しくない。
魔力は、胸の中心部にある『魔力心臓』から生成され、血液に溶け込み流れている。それを使用して魔法などを使っている。
魔力生成促進薬は、魔力心臓の働きを加速させる効果を持っている。副作用は無い。すぐさま出るような副作用は、だ。さらに、その副作用も短時間で大量に使用しないと現れる事は無い。
副作用とは、強引に強化される魔力心臓への負担だ。無理矢理普段の数倍へと強化させられる魔力心臓。多少ならば大丈夫だし、時間が経てば回復する。
しかし、短時間の間に数十倍にまで強化させ、更にそれを回復する暇もなく続けたら?答えは簡単、壊れるのだ。
魔力心臓が無くなっても死ぬ事は無いが、今後一切魔力は生成されなくなる。死ぬまでだ。
なんとかポケットから痛み止めの薬を取り出して飲み込む。この薬は副作用として微熱が出るが、今はそんなことは考えていられない。
「てめぇ…………正気か!?」
「ガハッ………あ、あ……いたって……正常だ、よ………」
多少はマシになったが、痛みはまだ持続している。
俺はグレイブを睨み付けながら立ち上がる。
「手加減無しで、お前をぶっ殺してアリスを助ける」
すいません、こないだの募集はやっぱり無しにします。良く考えたらストーリー的に不味かったです。
多分この後書きもすぐに消します。




