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21話 強敵


「『百万の重圧 (ミリオンプレス)』!!」


 視界にある全ての魔物がまるでトマトのように潰れていく。

 『百万の重圧 (ミリオンプレス)』。名の通り、100万の魔力を使い創った『触手 (テンタクルス)』を広範囲に拡げて敵をまとめて押し潰す、広範囲殲滅用の技だ。

 俺の横にはフラフラで今にも倒れそうなウルとブラスがいる。


「ご、ご主人様はやっぱり凄いのです………」

「…………かっこいい」

「あー、いいからお前らは座って休んどけって。魔力切れギリギリなんだからよ。無理はするな。何なら眠ってもいいぞ?」


 まあ、周囲の魔物は絶賛圧殺中なので無理をしようにも出来ないだろうが。

 魔物たちを一瞬で潰すことも簡単に出来るのだが、そうするとまた別の魔物たちが大量にやって来る可能性がある。

 よって、魔物たちが死なないように、尚且つ逃げ出さぬように力を調節しているのである。


「では、少し休憩させてもらいますぅ………」

「ウルも………」


 そう言って横になり、すぐさま寝息を立て始める2人。よほど疲れていたのだろう。

 俺達は既に双子平野に到着していた。ブラスが張り切って、その日のうちに双子平野手前の森に到着したのだ。そこで野宿して、次の日、つまり今日の朝から双子平野に入ったのだ。

 ウルとブラスにも戦わせている。まだ魔法は使わせずに身体強化だけさせて、肉弾戦を強要している。魔法も使わせたいが、もっと奥地じゃないとダメだ。下手に誰かに見られたらいかんからな。まあ、見られてたら分かるんだが、分からないような手だれが居る可能性もあるからな。常に最悪のケースを、だ。

 ブラスたちが、身体強化をずっと使っていただけで魔力切れになるのを見るとやはり俺はチートだと思い知らされる。自重せねば。



─────



「……………待っておく間、暇だな。やっちゃおうか、うん」


 そう言って、魔物たちを全て潰す。一瞬で周囲が平らになり、遠くに魔物が見える。地面は真っ赤に染まっている。

 かれこれ一時間ずっと座りっぱなしだ。流石に暇である。


「『完璧なる城 (パーフェクトキャッスル)』!

 うし、こうしとけば大丈夫だろ。この辺にこれぶっ壊せる魔物はいないはずだしな」


 『完璧なる城 (パーフェクトキャッスル)』は、ただ大量の魔力を注ぎ込んだ壁で部屋を創ったものだ。大層な名前の割にはとてもシンプルな技なのである。

 しかし、技名は大切だ。技名は、普通の技とは違う、という事を明確にするためのものだ。集団戦では、技名を言う事で味方への注意にもなるし、敵を警戒させる事も出来る。

 これに技名を付けた理由は、多大な魔力を使用するためだ。最小でもおよそ30万。俺の魔力総量の三分の一にも満たないが、一般人からしたらありえない量だ。最近は魔力を使いまくっているから魔力に関しての感覚が鈍ってきている。気を付けねば。

 さらに、この『完璧なる城 (パーフェクトキャッスル)』は防御のみに重きを置いているため、防御力は同じ量の魔力を使ったテンタクルスなどの比ではない。

 デメリットは、動かせない事とドアみたいな洒落たもん創れないので俺が解除しないと出られない事、テンタクルスなんかと違って魔力が回収出来ない事だ。一応制限時間もあるが、最低レベルの30万のやつでも一時間は何とか持つ。

 ウルたちのために創ったやつには50万ほど魔力を使っている。双子平野のような危険地でもあの中はかなり安全だろう。


「さーて、今日は………そうだな、せっかくだから魔力を使わずに戦おうか」


 指の骨を鳴らしながら一番近い敵がいる場所へと歩を進める。

 双子平野に生息する魔物は全てCランク、またはそれ以上。何故そんな場所になっているかは知られていないが、一番有力な説は、地下に魔力溜まりがあり、その魔力が空気中に漏れ出して魔物たちを強化している、もしくはその魔力を求め集まって来ているのじゃないか、と言うものだ。

 ぶっちゃけると俺は興味無い。


「色々いるな………鉄亀やら黒羊やら………フレイムギャロップまで」


 鉄亀はCランクの魔物だ。名前から分かるように、甲羅が鉄である。しかし、とても鉄甲羅を背負っているとは思えぬほどに素早い。その巨体は2mはあり、体当たりはまさに一撃必殺の威力を持つ。鍋にすると美味い。ハンマーなんかで叩き潰すかレイピアみたいな細身の剣で甲羅の中を刺突して倒す。素手で倒すなど不可能と言われる相手。

 黒羊 (こくよう)もCランク。戦闘能力は皆無のこの羊、黒いその羊毛に凶悪な毒がある。皮膚に触れるとそこから毒が侵食を始めて、約30分で死に至る。侵食された部分には激痛が走り、30分経つ前に狂ったり、自害する者も少なからず居るらしい。『オールヒール』で治療可能。もちろん素手で戦ってはいけない。

 フレイムギャロップは、Bランクの魔物だ。体長は1mほど、かなりの素早さを持ち、その強靭な脚から繰り出される蹴りは鉄板を軽々と貫通する恐ろしい威力を秘めている。まさに、化け物。だがこの魔物がBランク指定されているのは別の理由だ。この魔物は異常に体温が高い、いや、高く出来る。体温は自在に調節可能で、斬りかかった銅の剣が融けたという報告すらある始末。強力な個体は鉄も簡単に融かすらしく、別名『武器融かし』と呼ばれているらしい。まんまだ。もちろん素手で立ち向かう馬鹿はいない……はずだ。

 Bランク以上の魔物は魔法を使ってくる種が多い。このフレイムギャロップも例に漏れず、火魔法を得意としている。常にたてがみや尻尾に火を纏っており、それこそが名前の由縁である。


「しっかしまあ、魔力使わないとかなり手こずりそうな奴らが勢揃いしやがって………めんどくせーなーもう!

 やったらぁ!やってやるよ!今夜は馬刺しじゃああああああああ!!」


 叫びながら突進する俺。それにいち早く気付いたフレイムギャロップ。心なしか俺に怯えた目を向けているのは気のせいだろう。泣きそうに見えるのも気のせいだろう。


「ヒヒィーン!!」

「うおっ、危なっ!!」


 前蹴りを放ってくるフレイムギャロップ。それを危ないとか言いながら、体を捻り余裕で避ける。

 腰のダガーを一瞬で抜き、そのまま目の前で伸びきっている前足に下から上に斬りあげる。

 フレイムギャロップが鉄を融かせるほどに体温を上げられるのはほんの一般人で、普段の体温は普通の馬と変わらない。

 つまり、振り抜かれたダガーは融ける事無く、フレイムギャロップの左前足を切り落とした。左前に倒れるフレイムギャロップ。


「ヒヒィーン!!!?」

「左前足取った。もう立てないだろ?いたぶる趣味は無いし、次で首を刈り取ってやるよ」


 もちろん言葉が通じる訳もないので、抵抗しようとするフレイムギャロップ。

 フレイムギャロップの目の前に赤い魔法陣が浮き上がり、そこから幾つかの火の玉が飛び出して俺に襲いかかる。


「なるほど、魔物が魔法を使う時は魔法陣を空中に構築してから発動するのか。どうやって空中構築しているか知りたいが、今は無理だな。いつかサーシに聞こう」


 火の玉をよけながら無駄口をたたく。火の玉は5つ、そのままどこか地面にでもに当たるかと思いきや、空中で反転してまた俺に向かって来た。


「『追跡炎弾 (ホーミングフレア)』か………めんどくさい魔法使いやがって!!」


 『追跡炎弾 (ホーミングフレア)』は中級の魔法だ。初級の『炎弾 (ファイヤーボール)』に追跡機能を付けただけのものだが、中々に使える魔法である。水魔法が使える奴なんかにはほとんど相殺されたりして効かないが、俺のような魔法が使えない奴なんかに対しては絶大な効果を得る。


「ギュィィィィィィィイ!!」

「クソが!鉄亀まで追加されたら面倒この上ないぞ!!

 いや、そうだな………やってみるか!!」


 向きを変えて鉄亀に向かい全力で走る。もちろんホーミングフレアもついて来る。俺の1m後ろくらいだ。

 鉄亀は俺の突然の突進に虚を突かれたのか硬直している様子である。俺はそまま鉄亀に突っ込み、甲羅に飛び乗った。

 鉄亀は首を出しており、その横を俺は飛んだ。結果、ついて来ていたホーミングフレアは、5つの内3つが鉄亀の顔面を焦がす事になった。


「ギュアアアアアアア!?」

「とりあえずテメェは死んどけ!!」


 甲羅の上で反転し、ホーミングフレアをジャンプして避ける。そしてそのまま落下先の鉄亀の首にダガーを突き立てた。

 鉄亀は2、3回痙攣してから動かなくなった。俺はすぐさまその場から飛び退く。後ろから迫っていたホーミングフレアはギリギリで避けれた。炎弾はそのまま鉄亀の頭に直撃した。哀れ鉄亀。


「さて、またこんな魔法使われたら厄介だからな、さっさと潰させてもらおう」


 フレイムギャロップは倒れた状態から動いていなかった。

 すぐに接近し、次は魔法を使わせる間も無く首元にダガーの刃を滑らせて絶命させた。

 黒羊はこちらを見てはいたが、遠巻きに警戒するだけで接近しようとはしていなかった。


「さあどうすっかな…………」


 黒羊も素手で戦ってはいけない相手。ダガーを使い殺すのが一番いいのだが、下手に斬りかかって毒のある羊毛に触れてしまったら死亡である。


「ちょっと反則気味だが、許してくれよ。俺も死ぬ訳にはいかないんでな」


 ガントレットをポケットから取り出して装着する。もちろん魔力を使う気は無いのでただの防具としての使用だ。

 黒羊に向かい走る。黒羊も俺を体当たりで迎撃しようとするが、無駄だ。

 右にステップして体当たりをかわし、前に進みながら黒羊の目を切り裂く。これで黒羊は目が見えなくなった。

 黒羊が悶えている間に正面を取り、眉間にダガーの柄を思いっきり叩き込み、最後に首にダガーを突き刺して離れる。黒羊はその場に崩れ落ちた。


「とりあえずは終了っと………ん?」


 そこで異変に気付く。地面がぼんやりと黒く光っているのだ。死体もうっすらと光っている。

 光っているのは一部だけではなく、見渡す限り全体が光っている。


「何だ………?ふん、エリアボスでも出るってのか?それとも、死神が何かしたのか?」


 その答えが分かるはずも無く、周囲はただ光っているだけだ。しかし、よく見るとそれが間違いだと言う事に気付く。


「………これは、アレか。巨大な魔法陣だ。このサイズの魔法陣………何か嫌な予感がするぜ」


 その場から離脱し、ウルとブラスの元に走る。光は強さを増していく。

 ウルとブラスの元にたどり着いた俺はすぐさまパーフェクトキャッスルを解除して2人を起こす。


「おい、お前ら起きろ!緊急事態だ!」

「な、な、何ですか!?」

「……………びっくりした」

「そんな場合じゃねえ!これを飲んで、すぐに身体強化を発動しろ!吐くんじゃねえぞ!!」


 まだぼんやりしているウルと慌てているブラスに瓶入りの魔力生成促進薬を2つずつ渡す。


「ま、マズイです………」

「…………気持ち悪い…」


 文句言うなと叫びたいが、その時間すらも今は惜しい。

 魔法陣は光を増している。恐らく一分以内に発動するだろう。黒い光から察するに、闇属性の魔法なのだろう。魔法陣の機構についてはよく分からないので何が来るかは一切予測できない。もしサーシが居ればあるいは分かったのかもしれないが、それを今言っても意味が無い。

 とりあえず、地面にパーフェクトキャッスルを一面だけ創る。これならば使用魔力を10万くらいにまで抑えられる。


「お前ら、この上に乗れ!!」

「え!?は、はい、分かりました!!」

「…………乗ってる」


 ウルは俺が言う前に乗っていた。ブラスも乗り、俺も乗ってから魔力生成促進薬を2つ飲む。


「さて、どうなる事やら。魔力が無駄にならないならいいンだがな」


 次の瞬間、黒い光が強くなり、何か来ると思ったが、光は一瞬で一箇所に収束した。


「チッ、無駄になっちまったな」


 光は球状になった。その後、光が消えてその場には黒い球状のものが残り、ごとん、と地面に落ちた。その衝撃かどうかは分からないが、ぴしりとヒビが入って球状のものがまっぷたつに割れた。中から出てきたのは、真っ黒な骸骨だった。

 骸骨は一振りの黒い剣を持っている。それ以外には何も装備していない。動く気配は無く、立ったままだ。

 割れた球状のものはじわじわと靄状になり、骸骨の足元へと向かっている。


「…………ウル、ブラス、すぐにこの場から逃げろ。振り向くなよ」

「ど、どういう事ですか?」

「そのままの意味だ。時間が無い、さっさと行け。森で隠れとけ」

「……ご主人様はどうするんですか!?」

「アイツを消す」


 骸骨は不気味なほどに何もしない。ただ、沈黙を保っている。


「………私も、戦う!」

「ウル、ワガママを言うな」

「でも…………」

「ハッキリ言わないと分からないのか?お前らのレベルじゃ足手まといになる。あれはかなりヤバい。少なくとも俺が余裕で勝つなんて言えないくらいにな」

「…………………」


 2人は押し黙り、俯いた。俺は2人の頭を撫でてから後ろを向かせる。


「ほら、行け。振り向かずに走り抜けろよ」

「ご主人様………絶対に勝ってくださいね!!絶対にですよ!!」

「………頑張って」


 2人はそう言うとアニマルモードになり駆けていった。

 その後ろ姿を少しだけ見つめてから、俺は後ろを振り向いた。

 骸骨は黒い靄に完全に纏われており、靄はだんだんと人の形になっているようだった。


「さて………『ショット』」


 放たれたショットは骸骨の頭部に正確に向かったが、靄に当たる瞬間に弾かれてしまった。


「待っとけってか?………さっさとしてくれよ」


 追加の魔力生成促進薬を3つ取り出して飲み込む。

 それが終わった時、骸骨が一瞬光を発し、視界を一瞬失った。視界を取り戻した俺の目に映ったのは、一人の人間らしきものの姿だった。

 褐色の肌に黒い髪、赤い瞳を持ち、非常に整った顔を持つ女性だった。黒い鎧を身に着けている。背は170cmはあるだろう。髪は腰あたりまである。出るところは出ている体だ。


「やあ、我が名はバアル、上位悪魔 (ハイデーモン)だ。懐かしいな、こちらの世界は何十年ぶりだろうか…………」

「ハイデーモン?そんな奴がなんで……」


 上位悪魔 (ハイデーモン)は、その名の通り強い力を持つ悪魔である。悪魔は3つの分類があり、普通の悪魔 (デーモン)、特殊な力を持つ長く生きる悪魔が上位悪魔 (ハイデーモン)、そして悪魔を統べる存在である悪魔王 (デーモンキング)となっている。

 デーモンの強さはピンキリで、一定以上の強さのものがハイデーモンとなるので、デーモンのランクはDからBとなる。ハイデーモンのランクはAからS、デーモンキングは全てSSとなる。

 悪魔は別次元に生息しており、儀式や召喚魔法で呼び出すか、悪魔が力を使い自らこちらの世界に来るようにする。それ以外に悪魔がこちらの世界に来る方法は無く、自分からこちらに来る悪魔も、来るには多大な力が必要となるためにあまり来ない。

 つまり、悪魔はなかなかに珍しい存在である。ましてやハイデーモンなど、呼び出すには大量の生贄などが必要となるし、それで相手、つまり悪魔が呼び出しに応じてくれればやっと呼び出せるのである。


「さて、召喚主の意向に従い、私はお前を殺そう。まだ若いお前を殺すのはしのびないが、悪魔は契約に忠実でなければならない。ま、しょうがないとでも思ってくれ」

「………召喚主は見当たらないし、契約なんかもしてないと思うんだが?」


 悪魔召喚に必要なのは、魔法陣と生贄、そして契約である。

 召喚主は自分の目的と、その為に必要な代価である生贄を用意し、目的と代価が釣り合っていれば悪魔が承諾して出てきてくれる。

 契約は悪魔が承諾し、顕現された後に行う。やり方は悪魔によって違い、互いの血を飲んだり、文書を書いたりする。それによって、契約し、決められた事項に背けないようになる。

 ちなみに、それらはハイデーモンなどに適用されるのであり、弱いただのデーモンなどなら、魔法陣だけで呼び出す事も可能である。しかしその場合、呼び出せる悪魔は自我を持っておらず、ただ暴れるだけなので注意が必要である。


「んー、そうだな、正しくは契約というよりも強制的に従事させられているようなものだからな。召喚主もここにはいない。通常よりはかなり特殊だな。

 それでも充分な生贄は貰っているし、強制契約を除けば手順は正規の儀式だ、文句は言えない」

「つまり、交渉の余地や、何かの手違いって事は?」

「無い。何を言われようが私はお前を殺すし、そうしないと自由になれないしな。結局答えは1つなんだよ」


 そう言って黒い剣を構えるバアル。その立ち振る舞いには隙が無く、かなりの使い手だと認識できる。片手に剣を持ち、半身でこちらを向いている。

 俺も身体強化を全身に施して構える。ボクシングと空手の構えを混ぜたような感じだ。得物はダガーがあるが、確実に剣術で劣るので、俺は武術で対抗するしかないだろう。嵌めているのは、光と闇のガントレット。先程着けたものだ。


「ほう、武術の使い手とは沢山戦ってきたが、そのような構えは見た事が無いぞ?うむ………護神刺拳流の構えに近いな。そこから派生した流派か?」

「いいや、これは我流だ。その護神なんちゃら流なんてのは知らねえな」

「ほう!その歳で我流とな!?

 ふむふむ、実はお前のような幼子を処分するのに何故わざわざ私のようなものを呼んだのかと思ったが、その隙の無い構えといい、我流の武術といい、納得がいった。

 まあ、最初から薄々分かってはいたがな。そのありえない保有魔力量から……な」


 身体はピクリとも動かさず、表情と声音だけを変えながら話すバアル。

 今の俺の保有魔力は40万くらいだ。それでもやはり普通からしてみたら遥かに多いのだろう。

 バアルは最初こそ楽しそうに話していたが、最後の方は、とても冷たい声だった。


「流石ハイデーモンサマ、魔力保有量が分かるなんてな。魔に寄り添って生きる者なだけあるな」

「………ハイデーモンを前にして、冷静沈着、軽口をたたいたりもする。それに、魔力保有量は40万ほどだが、総量は違うな?50、いや、60万か?」


 残念だがどちらもハズレだ。もちろんそれを馬鹿正直に言う必要は無い。戦闘において一番重要なのは情報だ。その情報を無駄にばらすなど自殺願望があるとしか思えない。


「…………そこまで分かるのか」

「いや、ただの予測だ、合っているかどうかなど分かりはしない。

 さて、おしゃべりはここまでにしておこうじゃないか。そろそろ私も体を動かしたいのでな」

「どうぞお好きな時に攻めてもらって結構だぞ?」

「……………余裕だな、だがその態度はすぐに崩れるだろうさ」


 ブンッ、とバアルの腕と剣がブレる。飛んでくる衝撃波を、俺は右手の拳で吹き飛ばす。衝撃波のすぐ後ろをバアルが追随しており、俺の左胸目掛けて刺突が放たれる。それを体を捻ってよけて、その動きを利用し捻りながらも右拳をバアルの顔面に叩き込む。バアルはそのままよけずに右拳に頭突きをかました。

 右足の蹴りをバアルの脇腹目掛け放つが、バアルは右側に倒れ込み、回転しながら離れていった。俺の蹴りは空を切る。

 対峙したバアルの顔、首、みぞおち、腹の4箇所にほぼ同時にショットを撃つが、振り下ろされた剣で全て両断される。


「…………妙な魔法を使うな。ただの魔力弾にしては威力と速度が段違いだ」

「こいつも俺のオリジナルだ。羨ましいのか?」

「お前は、危険だな」

「…………んなこと重々承知してるさ。でもこうでもしないとこの厳しい世界では生きてけないもんでね」


 口だけを動かして言葉を交わす。目はどちらも相手の一挙手一投足すらも逃さぬように、最大限に集中している。

 先に動いたのは、俺だ。大地を蹴り、一瞬で間合いを詰め、バアルの腹へと容赦無く拳を叩き込む。しかしそれは剣の腹で受け止められていた。

 顔の右側から迫る蹴りを、しゃがんで避ける。すぐに右側に跳び、奴の右足にショットを放つが、黒い鎧の脚部に弾かれる。

 上から振り下ろされる剣。回避は不可能と見て、タイミングを合わせ側面を殴り剣をずらす。剣は音と共に俺の横の地面に半分以上が埋まっていた。すぐに剣を持っているバアルの左手の指を狙って拳を向かわせる。ゴギリッ!と鈍い音がして、バアルの指の3本があらぬ方向を向いて、血を噴き出していた。しかし、奴は残った小指と親指だけで剣を地面から抜き、空中に投げた。そしてそれを右手で受け取り、再度俺へと振りおろした。俺はそこから前に跳び、バアルの横を通って脱出した。おまけに顔にショットを撃ってやったが、首を振ってよけられた。また離れて対峙する。


「指3本………中々の出来だと言いたいとこなんだが…………」

「ああ、もう完治してしまったな」


 さらっと告げるバアル。言った通り、ほんの数秒前までひしゃげていた指は傷跡すら残さず治ってしまっていた。


「超速再生能力…………厄介だが、限界はあるんだろ?」

「まあ、そうだな。無かったら私は首を落とすか体の半分以上を一瞬で消滅させない限り物理的に死ぬ事は無い化物になってしまう」

「今のままでも充分化物だとは思うがな。全く………その剣も厄介そうだし、本当にめんどくさいなお前は」


 先程剣を殴った右手に着けている光のガントレットが真っ黒に侵食されている。地面を軽く殴ると、ヒビが入り、ガラガラと崩れてしまった。

 火のガントレットを取り出して装着する。だが、これもあの剣に触れれば光のガントレットのようになるだろう。


「これは魔剣シレヴィラと言ってな、『崩壊』の性質を持つ。刀身に触れた物に崩壊の粒子を流し込み、侵食が完了すれば侵食された物は崩れ落ちる。属性によって侵食速度は変わるが、侵食出来ない物は無い。生物には使用不可だがな」

「厄介なんてもんじゃないな、なんてモン持って来て顕現してんだよお前。悪い事は言わねぇからその魔剣だけでも送り返しとけ」

「ふざけるんじゃない!行くぞ!!」


 剣を掲げ突撃してくるバアル。

 これは、持久戦に持ち込まれたら負ける。片や武器や防具を壊され続け、片や防具や武器を壊し続ける。どちらが有利かなどガキでもわかる。

 残存魔力の半分を肉体に流し込む。何度やっても妙な感覚だ。

 本気で踏み込み、バアルに接近する。バアルは、俺の動きは目では追えているようだが、体がついて来ていない。俺の拳がバアルの顔面を捉え、そのまま思いっきり振り抜く。バアルは地面に後頭部から叩き付けられ、何回かバウンドしながら止まった。

 もちろんバアルが起き上がるまで黙って見てる訳もなく、瞬時に倒れているバアルのマウントを取って、腕に脚を絡めて動けなくし、顔面を殴る。殴る。殴る。

 10発くらい殴ったところでゴキンと音がした。バアルの首がぐんにゃりと曲がっている。首の骨が折れたのだ。


「……………まだ、だよな」

「…………ちっ」


 拳を振り上げると、既に首の骨が治っているバアルが忌々しそうに舌打ちをした。その美しい顔は血で汚れている。

 拳を叩き込む。その一発で、バアルの頭は地面に半分ほどめり込んだ。顔も、原型が分かりにくいぐらいだが、潰れている。


「こんだけやりゃいいだろ………」


 ゆっくりと立ち上がり、振り返る。歩き出そうとした次の瞬間、後ろで何かが立ち上がるような音がした。


「嘘だろ────」


 振り返ると、剣を構えたバアルが立っていた。最初と変わらず、隙の無い構えで。違うのは、血に塗れた顔くらいだろうか。


「油断大敵、だ。覚えておけ」

「……ぐっ!?く、畜生、が………」


 振り下ろされた剣は、俺の左肩に入り、沈み込み、俺の肩骨を断ち切った。血が噴出し、ドサッ、と音が聞こえる。音がした方を見ると────










 ────俺の左腕が、落ちていた。

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