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17話 第二の試練


 翌日の朝、俺は部屋の中で座禅を組んで精神統一をし、奪還作戦を頭の中で何度もシミュレートした。

 ただ、集中し過ぎたせいで洗顔用の水を持って来てくれたアクリさんに奇異なモノを見る目で見られた。

 上半身裸なのがいけなかった…………。


 その後しっかりと服を着て顔を洗い、朝食を食べてから宿を出る。

 結局、3日と経たずに出る事になってしまったな。


「では、またいつか来ます」

「うむ、また来い」


 酒場の外でジルバさんが見送ってくれた。アクリさんは居ない。まあ、当然っちゃ当然だが。たった1日しか泊まってないガキだからな。

 少し名残惜しくもあるが、そのまま振り向かず俺は城壁の外に出るために歩き出す。




────




「よーし、やるか」


 それから1時間、アドリガから15kmほど離れた場所に俺は立っていた。

 周りには何も無い。だだっ広い平原だ。

 ここまでは準備運動も兼ねて身体を強化して走って来た。


 ここに来た目的は、自分の技の最大威力を見るためだ。

 技と言っても魔道具であるガントレットは使わない。これは道具の力を使っているだけだからだ。それにこれには使用回数に制限がある。一つにつき3回なので、水のガントレットの片方はあと一回しか使えない。気を付けねば。

 最大威力を放つ。つまり、全魔力を使って放つのだ。100万の魔力は膨大な破壊を及ぼす事が簡単に予想出来たために今までは使わなかったが、死神との戦闘も予想している今回の作戦においてはもしかしたら必要になる場面が来るかもしれない。

 それならぶっつけ本番でかますよりはここで試した方がいいと思ったのだ。ここは周りには何も無い。試すにはうってつけ………ではないだろう。壊す物すら存在しないのだから。

 しかし、周りに甚大な被害を及ぼすと分かっているモノをそう簡単に何かを壊して試してもいいものか?答えは否だ。

 下手したら俺のせいで自然界の均衡すらも破壊してしまうかもしれない。そう予想して生物すら見当たらないこの草原をチョイスしたのだ。

 予想や想定とは常に最悪のケースが起こると前提するものだ。


「うっし、じゃまずは…………『テンタクルス』」


 俺を中心に魔力で出来た透明な触手が出来上がっていく。

 触手はどんどん巨大化し、魔力を90万つぎ込んだ時には直径が20m近く、長さも100mを超えていた。


「………………これ一つで戦争なんか勝てるんじゃないか?」


 そう思えるほどの圧倒的な大きさ。さらに、威力もかなりのものだった。


「おぉぉおぉらあっ!!」


 触手を思い切り地面に叩きつける。

 触手はその巨体からは決して想像出来ないような速度で地面に迫り、轟音と土煙を巻き起こした。さながら大爆発のようである。

 風が土煙を吹き流し、露になった地面には一本の草も見当たらず、直径30m、深さ1mほどのクレーターが出来上がっていた。


「おいおい…………これを何回もやれるのか………この魔法恐ろしいな…………」


 まあ、創ったのは俺なんだが、と無駄な事を呟きながらテンタクルスを吸収して、魔力に戻す。これが出来るから、テンタクルスは便利なのだ。


「よーし、次だ。『ショット』」


 集中し、魔力を一点に留めて押し固めて弾丸の形にする。

 結果、99万の魔力を持つ、手のひらサイズの弾丸が出来上がった。

 弾丸の背後から禍々しいオーラが見えるのは、気のせいだろう、そう思い込む事にした。

 久々に魔力枯渇の疲労感が襲いかかる。ああ、体が重くなってきた。この感覚は嫌いだ。あと一万は魔力が残っているので、そこまで酷くは無いが、気持ち悪いものは気持ち悪いのだ。


 出来上がった『ショット』を10mほど離れた地面目掛けて撃つ。すると、


 ズドゴオォォォォォ!!


 という一撃で出てはいけないような轟音を轟かせながら俺の目の前の草原は土煙に覆われた。

 また、風が土煙を晴らすのを待ち、土煙が晴れた後には剥き出しの土が広範囲に渡ってその姿を無惨に晒していた。


「………これも使っちゃいけないな」


 そう俺は決めて、草が生き残っている場所まで移動して座り込んだ。

 ポケットから液体の入った瓶を取り出し一気に飲み干す。マズイ。形容するならば、青汁を濃縮したものにシュールストレミング(世界で一番臭いニシンの塩漬けを発酵させたもの)をぶち込んだような味がする。何が言いたいかというと、要するにこれは人が飲む物ではないと言う事だ。

 吐き気を抑えながら口直しに水筒を取り出し水を煽る。


「あー、生き返る…………しっかしホントにマズイな、コレ」


 俺が飲んだクソマズイ液体は薬だ。良薬口に苦し、なんて言うが、あれをそっくりそのまま体現した俺はスゴイと思う。……冗談は止めておこう。


 あの薬は『魔力生成促進薬』といって、効能はその名の通りだ。

 体内で生成される魔力の量を2倍に増加させる、至ってシンプルなものだ。少々値は張るが、副作用も無く魔力の生成量を増やせるので人気らしい。

 ただ、クソマズイ。なので戦闘時に間違えて飲んだりしたら即、死んでしまうだろう。中々危険だ。副作用ではなく『味』で死ぬというのがかなり恐ろしい。

 念の為アドリガで15本買っていた。一本大銀貨10枚とかなり値が張った。まあ、小金貨に換算すると一枚だ。小金貨を50枚貰っているのでなんら問題は無かった。


 俺の魔力生成速度は常人の数倍速い。

 魔力はどんな時でも常に生成されている。寝ている時が一番魔力生成量が多く、起きている時の1.5倍だ。

 起きている時の魔力生成量は、満杯の時の魔力量の1割である。つまり、10時間で魔力は全快する。


 俺はその5倍だ。

 1時間で魔力が全体の半分回復する。2時間で全快だ。我ながらチートだと思う。これで属性適性さえあればな!

 魔力生成促進薬は更にその速度を2倍にしてくれる。

 つまり後1時間待ってれば俺の魔力は全快するのだ。


「よし、寝よう」


 俺はここで1時間眠る事を決意。周りに脅威は存在しないし、安眠できる。

 その場に寝転がり、体内時計のタイマーを1時間後に設定し目をつぶった。




─────




「ん………よし、全快してるな」


 目覚めた俺は立ち上がり、次に何を試すか決める。


「『アーマー』は強度を確かめる術が無いし………『ブースト』は試したしな………」


 そう、ブーストの最大出力はアドリガに来る途中に一度試したのだ。

 その出力は想像を遥かに超えていたが、副作用や身体への負担が非常に厳しいので基本的に使わない。

 俺の技は封印だらけだ。

 まあ、いざとなったら他のは使うが、ブーストだけはマジで使いたくない。副作用が酷過ぎるのだ…………あんな恥ずかしい思いはもうしたくない。


「あ、そうだ、あれを試してみよう」


 俺の考えていた新しい魔法を試す事にした。

 身体に薄く魔力を覆わせて、特殊な性質を持たせる。


「…………成功してるかわかんねえや」


 一旦解除し、地面を掘って山を作る。テンタクルスを使ったので、高さ1mくらいの土山をすぐに作れた。

 それに魔力を覆わせて先程と同じように特殊性を持たせる。すると………土山が消えた。


「おお、成功した!『マジックミラー』」


 名前のまま、これはマジックミラーを再現しただけだ。何でも出来るな魔法。いや、俺が特殊なだけか。

 これを使えば簡単に城に侵入出来る………訳では無い。

 基本的にどんな城にも結界が張られており、たいていは侵入者を感知、または魔力を感知して警報を鳴らす。サーシが創ったのはそれに更に攻撃性を追加したものだ。

 よってマジックミラーを身体に纏わせる、『インビジブル』を使ってもすぐに感知されてしまうだろう。

 結界を解除出来ればいいのだが、それは出来ない。

 空には結界が存在しないので今回は空から侵入する。その際にインビジブルを使用して監視の目を誤魔化す。

 問題はそこからだ。まあ、後はルクフレールさんから見取り図を受け取ってから考える事にする。


「もういいか。よし、行こう」


 俺はその場を離れ、屋敷のある森へと走り出す。




─────




 森の中で俺は立っている。目の前には小さな綺麗な池がある。

 座り込み、水面を眺める。

 水面には、切れ長の目、青い瞳、あまり高くないキリッとした鼻に薄いくちびる。それに肩まで伸びた美しいの金髪が映っている。

 俺がこの姿を見るのは何時ぶりだろうか。初めて見たのは確か4歳の時の、近くの川の水面で、だったか?

 俺の姿はまるで人形だ。これで顔が悪いなどは言えない。はっきり言って、もっと普通の顔が良かった。

 しかし、これは遺伝なのだ、しょうがない。父であるラディウスの瞳の色に切れ長の目、母であるリルラムの薄いくちびるに美しい金髪。鼻は多分、あまり遺伝していない。個性とでも言うべきだろうか?

 俺はこの姿を見る度に罪悪感に苛まれた。


 この身体の本当の持ち主だったであろう人物に対して、だ。


 俺は転生者という極めて異常な人物だ。しかしこの転生、とはどういう事だろうか?

 俺は前世で死んだ。これは確実だ。しかし、記憶を伴い異世界に生まれた。魂が器に入ったとでも言えばいいのだろう。そう、空の器に記憶を伴った魂が入る。転生を簡単に言うとそうなるだろう。

 しかし、空の器だけがぽーんとその場にいきなり出現する訳が無い。器を人間とするならば、器の中には必ず『中身』があるはずだ。

 転生は、その『中身』がまったく別のものになっているという事だ。

 元々俺が入る為の器があったとは考え難い。記憶がある、ということは俺の魂は前世のままだからだ。俺の為の器だったら、俺の記憶は消えてからそこに入るだろう。


 もしかしたら、俺はその『中身』を無理矢理押し出してしまったんじゃないか?

 そう考えると、自分が酷い悪人に思えてくるのだ。

 勿論、死産であり、そこに俺が介入したと言うのなら俺は悪では無いのかもしれないが、そんなことは関係ないと思ってしまう。勝手に肉体を使っていいのか、と。

 

「本当の持ち主は何処に行ったんだろうな…………」


 池が答えてくれる筈も無く、俺が黙り込んだ事で、周囲には静寂が訪れる。

 何故こんな事を考えているか。簡単だ。今回の作戦で死ぬ確率が高いからだ。

 相手は多分、死神。奥の手を使えばアリスを助け出すことは可能だろう。

 しかし、自分は死ぬ。それは何回シミュレーションしても変わらなかった。アドリガにアリスが居ても居なくても、だ。居たらその場にも死神は居るだろう。居なかったらイリスだ。結局イリスで戦い、俺は死ぬ。


 だが、行くしかない。助けを求めている人が居るのだ。頼られているのだ。だったら、死んでもその期待に応えるべきだろう。

 ただ、1つ気がかりなのは、勝手にこの肉体を使い死んでもいいのか、と言う事だ。 それが先程の悩みへと繋がっていた。


「…………許してくれ。いつかそっちに行った時、必ず償う」


 これで許してくれるかは分からないが、こうするしか無いのだ。

 立ち上がり、振り返る。森の中に紛れるように入っていく。

 背中に、人の気配を感じながら───




─────




「お、来ましたね。バッチリ出来てますよ!」


 ちゃんと服を着て出てきたルクフレールさんは開口一番、そう言った。

 中に入りながら話しかける。


「ありがとうございます。では早速、見せてもらえますか?」

「もちろんです!じゃあ取ってきますんで少々お待ちください!」


 応接間に通され、1人残る。さて、どんな感じだろうか。より正確であれば正確なほど救出成功率は高まる。

 ドタドタと大きな音を立てながら応接間に入ってくる。相変わらずうるさいな。


「そういえば、ガーダッドさんはどうしたんですか?」

「えーっと………実家に帰りました」

「………そうですか。グレイブさんは何か言ってました?」

「はい。地下牢の部分を不自然にならない程度に書き換えとけって。難しかったで…………え?」

「協力者、だったんですね?」

「あ…………」


 ルクフレールさんの顔が見る間に青ざめていく。この人は情報屋に向いていない………いや、そもそも情報屋じゃないのか?


「申し訳ありませんが、無力化させてもらいます。抵抗しないなら、アドリガに帰る際に解放すると約束しましょう。

 抵抗するなら………残念ですが、しかるべき処置を取らせて貰います」

「……………わ、分かりました。抵抗はしません」

「よろしい。縄はありますか?」

「物置になら………」

「案内してください」


 ルクフレールさんの頭に指先を押し付ける。ルクフレールさんから小さな悲鳴が漏れるが、対して気にはならなかった。

 救出が成功するまでは非情になると決めた。抵抗するようであれば、その場に死体が1つ転がるだろう。


 ルクフレールさんの一歩後ろを歩きついて行く。指先は頭に向けたままだ。


「ここです」


 2階の一番右端の部屋の前にたどり着いた。


「ドアをゆっくりと開けて中に入れ。ドアは閉めるなよ」

「……はい」


 ルクフレールさんだけを中に入れて、俺は入り口で待機。

 紐はすぐ近くにあり、ルクフレールさんが何か行動をする事も無く、応接間に戻って来た。

 両足と両手を結び、身体も縛る。そのあと適当にタオルを持って来て目隠しと猿ぐつわをした。

 男なら殴っていたが、レディーにそんなことはしない。


「では、俺は行きますね」

「…………」


 もちろん返事は無い。

 一応念のために応接間にあったテーブルなどの頭を打ちそうなものは外に出した。大丈夫だろう。

 部屋から出て玄関に向かう。その時、外から殺気を感じた。


「………誰か居るな」


 廊下を駆け、玄関のドアを蹴破る。少し離れた場所に目を閉じた1人の男が立っていた。

 2mはあるその巨体を銀色の鎧で包み、身の丈程ある大剣が傍の地面に突き刺さっている。髪は無く、スキンヘッドだ。歳は30を越えたあたりだろうか?

 男は目を開きこちらを見る。


「………予定は変更された。只今より第二の試練を始める」

「………何の話だ?お前も死神の仲間か?」

「肯定する。受練者よ、見事試練を乗り越えてイリスへと向かえ。そこに探しモノは居る。最後の試練と共にな」

「………そうか、なら急がなくちゃな。本気でいくぞ」


 男に向かい全力で直進する。男は大剣を引き抜きそのまま構え、動かない。

 懐に入り込める所まで来た瞬間、ごうと音を立てて分厚い鉄の塊が振り下ろされる。

 それを右に体をずらしてかわす。大剣は地面に叩き付けられる。無防備な脇腹を強化した拳で殴り付けるが、鎧に阻まれる。そこで大剣が横薙ぎにされてきたのでしゃがみこんで避け、後ろに下がる。

 この間、僅か1秒。凡人ならば何をしているかすらわからなかっただろう。


「………」

「堅いな、その鎧。特注品か?材料は何なんだ?」

「オリハルコンだ。外側は鉄でコーティングしてある」

「それ全部?高かっただろう」

「俺はSランクの冒険者だ。1ヶ月全力で働けば何とかなるくらいだった。貯蓄は中々にある方でな」


 ランクS。決して運や金では到達出来ない本当の実力である証。

 現在、世界にSランク冒険者は100人しかいない。その上、SSランクはたったの10人だ。100人と聞くと多いかも知れないが、そうではない。その下の、Aランク冒険者は1000人以上存在する。AランクとSランクの間にある壁は遥かに高いのだ。

 ちなみに、『九神』達は全員がSSランクの上、Zランク指定されている。全員が冒険者ギルドに登録しているが、あらゆる義務が一切免除されているし、立場としてはギルドの支部長たちより上。まさに格が違うのだ。


「そりゃあさぞかし強いんだろうな………」

「お前も中々に強いだろう。

 さあ、無駄話はここまでだ。行くぞ!」


 男が軽々と2mはある大剣を片手で持ち、突進してくる。その装備からは考えられない程の速度で。

 左上から振り下ろされる大剣を左下にしゃがみながら避け、男の右側に横っ飛びしながら右膝に狙いをつけ、関節部をショットで撃ち抜く。

 男の膝が落ちるが、流石はSランク、その動きを生かして右後ろに倒れ込みながら俺の着地地点目掛け大剣を振り下ろしてくる。

 まっぷたつにされるよりマシだと思い、自分の両肩に指先を向けてショットを撃ち、自分を後ろに吹き飛ばす。ゴム弾をイメージしているので貫通はしていないが、かなり痛い。

 受け身をとって跳ね上がる。向こうも膝を回復魔法で治し、既に大剣を構えていた。


「………やはりお前のその魔法は脅威だな。射程距離、威力、速度。全てが素晴らしい。話で聞いていたよりもな」

「褒めてくれるのか?ありがとよ」

「しかし、まだお前は力を出していない。今までで3割…………どうだ?」

「……んー………」

「沈黙は肯定と見なす」


 まあ、実際そうだ。3割程度、いや、2割と言ってもいい。もちろん真面目にやってない訳では無い。出来るだけ技を使いたく無いのだ。

 恐らく、近くにひどく腕の立つ諜報員が居る。俺が気配すら掴めない相手だ。何かが居るのは分かるが、それだけだ。何処にいるか、何人かすら分からない。

 先程、奴は予定変更などと抜かしていた。つまり、ルクフレールさんが喋った事で死神のプランが崩れ、この男がここに来たのだ。恐らくは、城に配置されていたであろうこの男が。

 そして、俺がルクフレールさんに喋らせてから外に出るまでおよそ5分。たった5分で状況を把握し、死神に伝えた、またはプランを変更して、この男をここまで連れて来た人物が居るのだ。

 恐らく、あの夜の黒ローブだ。あいつの気配の消し方はかなり上手かったし、転移も使いこなしていた。多分、アイツが近くにいる。

 使った技はそいつを通して死神に伝えられる。不利になってしまう。元々が俺より強いのだ、それだけは避けねば。今の状況のまま、死神と戦わねばいけないのだ。それが本気を出していない理由だ。


「アンタは結構本気を出してないか?」

「………7割程度だ。お前の強さがおかしいのだ。本当に人は見た目ではわからんものだな」


 ん?それって、俺の歳が見た目の歳よりも上って事か?


「いや、俺はピチピチの新鮮な6歳児だ」

「ピチ………?…………本当に人間か?」

「あーもー面倒だ、いいからかかってこいよ」

「そうだな、私も会話は得意ではない。いくぞ、ここから本気だ」


 男がそう言うと左手を突き出した。何をするかと思えば、左手に輝く粒子が集まりだし、大剣が形成された。形は元々持っていた大剣と同じで、片刃のシンプルな大剣だ。包丁を巨大化して少し大剣仕様にしたような形だ。

 その後、頭にも粒子が集まり出して銀色の兜が現れた。あれはフルプレートメイルだったようだ。

 男は先程と同じように突っ込んで来て、両側から挟む様に大剣を振ってくる。それを後ろに下がってかわす。

 金属音がして大剣がぶつかり合う。大剣の片方を蹴り上げて下に潜り込み男の元まで走る。

 男は上げられた大剣を筋肉の力で叩き付けてくるが、俺は既に十分な距離に移動している。右側によける。すぐそばに大剣が落ちる。

 脇腹目掛け拳を振りかぶるが男は動かない。先程の拳の威力から、効かないと思っているのだろう。

 悪いが、実験台になってもらおう。

 先程の拳は『普通の』強化した拳だ。普通の人が使うような。しかし、俺は違う。

 拳に魔力を溜める。男が気付き回避しようとするがもう遅い。

 3万の魔力を込めた拳2発が男の脇腹にぶつかり、男は吹き飛ばされ木を一本へし折り止まった。大剣を手放さなかったのは流石と言うべきだろう。


「ぐう………中々に効いたぞ………。

 しかし、なぜ……鎧を貫通したのだ……?一発目の拳は特別な魔法を使ったのか………?」


 男は多少よろめきながらも立ち上がる。多分強がっている。膝が笑っているのが何よりの証拠だ。

 声は小さいし兜を被りこもっているので聞こえづらいが、多分そう言っている。

 鎧は少し凹んだかどうか、くらいだった。目測では分からないレベルだ。鎧が目的の攻撃ではなかったのでいいが、あれほど頑丈だとは思わなかった。

 相手の鎧の頑丈さは分からない。なので、発勁のような、衝撃を通すやり方をやってみた。

 一発はそれ、2発目で吹き飛ばした。2発殴ったと分かるとは。かなりの早さで殴ったんだが………やはり、流石はSランク、だな。


「さあな」

「ぐ………こんなに早くなるとはな………第二の試練『2段階』に入る」


 そう男が言うと、森の中から一本の矢が俺の脚目掛けて飛んできた。それをジャンプして避けると、目の前から2本の大剣が並行に横並びした状態で襲いかかってくる。

 瞬時に右手を前に出してマジックハンドを発動して受け止める。ちなみに、今着けているガントレットの属性は闇と風だ。他の火、光、水、土はポケットの中だ。無属性のマジックハンドはどのガントレットをつけていても使用出来る。

 着地し、即座に距離を取る。次の矢が飛んできたが、マジックハンドで止めた。


「2対1、か」

「卑怯とは思わないでくれ。これが試練なのだ。

 遠距離と近距離、同時に対処してもらう。

 もし、お前が求めるのなら謝罪でもしよう。私も本当はこのような戦いは遺憾なのだ」

「そうか、じゃあ謝れ」


 躊躇い無く謝罪を要求する。まあ、別に本当に謝罪を求めているわけじゃない。


「うむ、すまない……がっ!?」


 頭を下げる男。瞬時に近付きその下がった頭を蹴り上げて腹を殴り、吹き飛ばす。


「卑怯ってのはこういう事を言うんだバカヤロー」

「な、なっ………お前、戦士としての誇りは無いのか!?」

「無い。そんなもん犬のエサにもなりゃしねーよ。

 勝てば官軍、どんなに卑怯だろうと、周りが何と言おうと目的さえ達成出来ればそれで良し、確かに過程は大事だが、過程が纏めて出るのが結果だ。つまり、一番大事なのは結果。誇りは結果に何か影響を及ぼすのか?」

「ぬ、ぬう………」


 俺は勝つ。流石に非道徳的な事を進んではやらないが、卑怯程度の事ならいくらでもするだろう。

 目的が自分の周りの者や、人助けの為ならば。自分の目的を果たす為にはそんなことはしないがな。その場合は正々堂々、だ。

 今回はアリスの為。何をしてでもアリスを助けてトロハに送り届けるのだ。


「まあ、2対1を仕掛けているのはこっち、文句も言えぬな。

 行くぞ!」


 また回復魔法を自身にかけて俺に突進する男。

 そろそろ俺は飽きていた。最初はSランクと聞いて興味を持ち、どのくらいか試していたが飽きた。この程度か、といった感想だ。

 強いのは認めるが、俺からしたら弱い。

 だが、それはコイツだけなら、の話だ。遠距離から正確に矢で俺を狙う奴、そいつのせいで俺の行動が多少制限されてしまう。

 負ける事は無いが多少手こずりそうだな、そう思った。

 男は大剣を2本とも俺に投げつけた。マジックハンドで薙ぎ払う。するとその影から飛び出してくる矢。体を捻って避けると、いつの間にか太刀を持った男がすぐそこまで来ていた。

 振り下ろされる太刀を避けるが、マジックハンドが切り落とされた。オーラのような黒い光がまとわりついている。魔法武器かなんかだろう、厄介だ。

 一旦下がり距離を取る。こいつらかなり連携を取るのが上手い。油断したら怪我くらいはしそうだ。

 男が太刀を横に薙ぎ払う。すると黒い光が斬撃となって飛んでくる。 ジャンプして避けると後ろから矢が飛んで来たのが音で分かったのでアーマーを展開し振り向く。

 屋敷の屋根に青年が立っていた。黒いローブを纏った蒼髪を持つ獣人。手には弓。見られた彼はあちゃー、といったような表情をして消えた。空間魔法だろう。


「あいつがさっきから矢を放ってたやつか」

「その通りだ。隠密に非常に長けている」


 そりゃあそうだろう、自分が気配を僅かに感じ取れるだけなのだ、相当な使い手じゃないと納得出来ない。

 青年と男、どっちを先に始末した方がいいかを考えて出た結論は青年。だが、それは現実的ではない。空間魔法の相当な使い手を捕まえるのは難しい。しかも、格下と言えどSランクを相手にして、だ。

 しかし先に男を倒しても青年はすぐさま逃げるだろう。

 考えた結果、ギリギリ死神にバレても問題無い範囲で技を使い男を倒す事にした。


「まずは男、お前からだ」


 目の前の男に向けてショットを放った。

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