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16話 下準備

「ぐふっ………いってーな……」


 腹部に激痛。首を動かして見てみると、服が焼けて穴が出来ており、その中には黒焦げの皮膚が見えていた。

 壁に激突する際の衝撃はアーマーで何とかなったが、腹部に纏っていたアーマーは、爆発の威力には耐えられるほどの強度ではなかった。


「『ヒール』」


 何とか回復しようとするが、やはり初級魔法では治りが遅い。

 3回『ヒール』をかけてやっとまともに動けるようになった。


「ぐっ……あのオッサンめ……」


 立ち上がり前を見ると、ちょうど煙が晴れたようで、ガーダッドがこちらを見ていた。


「どうした、もう終わりか?」

「ふふふ、そんな訳無いでしょう。ボッコボコにしてやりますよ。『テンタクルス』!」


 3本の触手を出現させる。いつもの触手とは違い特殊な形状になっているものだ。

 1つは先端1mが丸太のように膨れている。他2つは薄っぺらい板状だ。薄っぺらいと言っても、鉄並みの硬度はあるが。


「む?」

「挟め!」


 2本の板状の触手がガーダッドの左右から襲いかかる。長さもあるので後ろに下がっても避ける事は出来ない。


「フン、こんな物!!」


 ガーダッドは攻撃が当たる寸前に素早く上に飛ぶ。


「予想通り!!ホーーームランッ!!」

「なっ!?ぐおおぉぉぉおッ!?」


 ガーダッドはもう一本の丸太の様な形状の触手に打たれて吹っ飛び、壁に激突した。

 俺はこうするためにわざわざガーダッドを挟むように攻撃し、上に逃がさせたのだ。

 例えガーダッドが飛び上がらずにその場で対応しようとも上から叩き潰されるかショットで撃ち抜かれるかのどっちかだ。

 あの爆発する戦斧に対応するにはこのようにして攻め手を増やせばよいと判断したのだ。

 まあ、それは建前で、事実は俺だけ吹き飛ばされるのも気に食わないので吹き飛ばし返してやろうと考えた結果あの作戦が一番効果的だっただけだ。


「どうだ!ガキを馬鹿にすんなよオッサン!!」


 俺は単に負けず嫌いなだけだ。なんか文句あっか!


「ガハハハハハハハッ!!楽しいぞぉぉぉお!!」


 そう叫びながらガーダッドが飛び起きた。頭からダラダラ血を流しているところを見ると、多分そのまま壁に突っ込んだのだろう。やはり馬鹿なオッサンだ。


「バトルジャンキーめ!!」

「行くぞ!『爆斧豪投(ばくふごうとう)』!!」


 赤熱した戦斧をガーダッドが力いっぱい俺に向かって投げ付ける。

 防いだら爆発する、避けてもすぐ近くの地面に落ちるように投げられているので爆発に巻き込まれる。もちろん受けたら体が切断される。

 なかなかに対処するのが難しい技だ。しかし、俺には通用しない!


「『ショット』!」


 ショットで衝撃を与えて俺まで爆発が及ばない場所で爆発させる。

 他の魔法、ファイヤーボールなんかではスピード的に出来ない芸当だ。


「なかなかやるではないか!!ぬううううぅぅぅぅ!!」

「うおおおおぉぉぉぉぉッ!!」


 突っ込んで来るガーダッド。それに俺も突っ込み、超至近距離で肉弾戦を開始する。

 ガーダッドの迫り来る左腕を首を振って避け、掌底で跳ね上げさせてがら空きの脇腹に右足で蹴りを叩き込む。しかし次の瞬間俺の左肩に衝撃。ガーダッドの右拳が当たっていた。


「はあああぁぁぁぁあ!!」

「むあああああぁぁぁ!!」


 全力で殴り合う。顔面、腹部、肩、様々な場所に拳が突き刺さる。

 本当は距離をとって攻撃した方が簡単に倒せるのだが……そんなのは面白くないし、何より殴り合いが始まった時点で引いたら負けと同意味である!よって、今引くわけにはいかない。それに、引いて勝っても、いわゆる『試合に勝って勝負に負けた』状態になってしまう。それは男として屈辱だ!

 そのまま殴り合いが続く。引かずに足を踏ん張りひたすら相手に拳や蹴りを見舞う。

 しかし、それにも終わりが来る。

 2人とも殴り合う前に吹き飛ばされ、体力を消耗している。

 片方はその傷をそのままに、もう片方は治療を施している。

 もちろん、崩れ落ちるのは治療していない方────ガーダッドだ。

 ガーダッドの全力を込めた一撃に、クロスカウンターを叩き込み、ガーダッドは膝から崩れ落ちた。


「ああっ、勝ったぞコノヤロー!!」


 途中からは血が滾り、作戦も何も無い意地のぶつかり合いになっていたが、勝ちは勝ちだ。


「す、凄い!お見事です!!ガーダッドさんはBランクの冒険者なんですよ!?」

「いや、まだまだ余裕はありますけどね」


 ずっと壁際で見ていたルクフレールさんが近寄ってくる。

 身体強化も、エレメンタルハンドも使ってはいない。今回の戦いは全力の4割といったところだろうか。


「さあ、情報を下さい!」

「わ、分かりました。ついて来て下さい」


 そのまま階段を登ろうとするルクフレールさん。


「あのー、ガーダッドさんはあのままでいいんですか?」

「大丈夫です。しつこさと生命力だけが取り柄の人ですから」


 ガーダッドはあのまま放置するようだ。扉の外側から鍵をかけていたのが気になるが、言わない事にした。その方が面白そうだし。




「では、私の情報をお教え致しましょう!」

「はい、よろしくお願いします」


 再び応接室に戻って来る。やはりお茶などのもてなしは頂けないようだ。


「まず先に言っておきますが、この情報は3日前のモノです」

「3日前?何故……ですか?」

「単純に、3日前から警備が厳しくなってしまったからです」

「………分かりました。今は少しでも情報が欲しい」


 例え3日前でも、情報に代わりはない。それに警備が厳しくなったということは、アリスが居るという可能性を高める要因でもある。アリスがアドリガに居る可能性は高い。


「アリス王女は3日前、アドリガに運ばれてきました。そして、アドリガ城に運ばれ、客室に軟禁されていました。

 それからどうなったかは分かりませんが、警備を見ると、恐らくまだアドリガ城内に居るでしょう」

「……アリス王女を攫ったのは誰か分かりますか?」

「ええ、貴方も知っている方ですよ」

「俺も知っている?誰なんですか?」

「『死神』です」

「…………………は?」


 口が開いたまま塞がらなかった。まさかここで、このタイミングでその名前が出て来るなど想像も出来なかった。


「………………本当に、ですか?」

「ええ。まあ、その真意までは私には分かりかねますけど」


 何故。それだけしか思い浮かばない。幾つかの希望的観測は頭の中に浮かんだが、どれも現実的ではない。

 イリスかアドリガに金で雇われたのならばまだ現実味があるし、一途に死神が悪いと断定する事は出来ないので、これならば一番である。

 しかし、もし死神本人が何らかの理由でアリスを攫い、2国をカモフラージュに使ったのだとしたら………


「ブチ殺してやる………」

「へ?何か言いましたか?」

「あ、いえ、なんでも」


 聞かれるところだったか……あぶないあぶない。


「あー、アドリガ城の内部の見取り図とかあります?」

「今はありませんが、1日あれば作れますよ!明日来ていただければお渡しします。あ、お値段は小金貨2枚です」

「これでお願いします」


 ポケットから小金貨を3枚差し出して立ち上がり部屋の出口に向かう。


「ふぇ?1枚多いですよ?」

「いいんです、取っといて下さい」

「な、ならば遠慮なく……」


 1枚多いのは一応手を抜いたりしないように、って事なんだがこの人なら心配無さそうだな。


「ではまた明日、午後にでも来ます」

「はい、また明日です!」


 部屋から出て、玄関に向かい扉を開ける。ギギギィッと音がして扉が開いていく。

 外の日は朱く、夕暮れになっていた。

 早く帰らねば森の中で夜を迎えてしまうかもしれない。夜の森は危険だ。

 俺は、またぼうぼうに伸びた雑草を掻き分けるのも面倒だと思い、ガントレットを付け変えて『ウィンドハンド』で雑草の中に道を作りながら帰った。




─────




「ぬうあああああ!なんで扉を封鎖しとるんじゃあ!!ルクフレール!聞いとるのか!?」

「もうー、負けたクセにガーダッドさんうるさいです!少しくらい静かにしていて下さい!!」


 屋敷の2階、大量の棚とそこに並べられている書類がある中で2人は話していた。


「大体負けた負けたって、儂の本職は鍛冶屋じゃぞ!?そりゃあ負けてもしょうがなかろう!

 大体そう簡単に負ける奴をグレイブが試す訳無かろうが!」

「そ、それはそうですけどぉ!!でも、せめて彼に全力を出させるくらいしたらどうなんですか!?」

「老骨に無茶を言うんじゃない!」


 2人とも顔を真っ赤にして言い合っている。まるで子供のようである。

 そこに黒いローブを纏いフードを深く被った人物がいきなり現れる。


「まーたケンカしてるんですか?まったく、ガキじゃないんだから……」

「ええい、うるさい!」

「そうです、フェイスさんは黙っていて下さい!私とガーダッドさんの問題なんですから!!」


 2人は黒いローブを纏った人物───フェイスの方を見向きもせずに睨み合いを続ける。


「はぁ………いいから、結果報告をお願いしますよ。その為に来たんだから」


 フェイスはフードを外し、その綺麗な蒼髪と犬耳、端正な顔立ちを露にする。


「儂が負けた!!それだけで構わんだろう!文句あるのか!?」

「いや、文句も何も、もっと詳しく説明してもらわないと困ります。きちんと報告書作ったり、記録したり書類作ったりしないといけないんですから。

 大体なんで全部僕がやらなきゃいけないんですかね………もううんざりですよ……」


 犬耳をぺたんと垂れさせ悲しげな表情を見せるフェイス。肩も落としているし、全身からどんよりした雰囲気を発し始めている。

 それをマズいと思ったのか、睨み合っていた2人がすぐさまフェイスに駆け寄り慰めに入る。


「ふ、フェイス君みたいな天才じゃないと出来ないからよ!私達だったらぜーったいにフェイス君と同じ事は出来ないわ!」

「お、おう!儂らみたいな馬鹿には書類やなんやみたいな細かい事は不可能だからな!」

「フェイス君のお陰でみんなすっごく助かってるのよ!

 グレイブさんだってそう言ってたわ!」


 その言葉にピクリと反応するフェイス。顔を上げてルクフレールに問いかける。


「ボ、ボスが?僕のお陰で助かっていると言ったんですか?本当に?」


 フェイスの目がまるで子鹿のような純真無垢なキラキラした瞳になっている。

 もちろんそんな希望に満ちた瞳に対して嘘をつく事など出来るはずも無く、2人は嘘を塗り重ねていく。


「う、うむ!フェイスは俺の右腕として認めてもいいんじゃないか、とも言っていたぞ!」

「恋愛対象にもしてもいい、なんてふざけた事も言ってたわ!」


 遂にはある事ない事なんでも言い出して楽しくなってきた2人。どんどんヒートアップしていく。


「そ、そうだな、顔も可愛いし髪もつややかで素晴らしいし、身体もいいと奴の目が語っていたからな!」

「ぼ、ボスがそんなことを…………。

 嬉しいですけど、そういうのは僕にはまだ早いっていうか、なんというか、その…………」


 まんざらでも無さそうなフェイスにバレないように、原因の2人はこそこそと話し合う。


「おい、どーする。グレイブが男色になっちまったぞ………」

「しょ、しょうがないでしょう!!大体止めを差したのはあなたですよ!?」

「だってそうした方が面白いではないか」

「それは同感ですけどぉ…………」


 全く反省の色の見えない2人と哀しき美少年はその後もカオスを繰り広げていたという───




──────




「真っ暗になっちまったな……」


 すっかり日が落ちた頃、俺はアドリガ城内の通りを歩いていた。

 チラチラとチンピラがこっちを見ているが、そいつらごときに俺が殺れるわけも無いし、無駄に突っかかって来られても困るので適当に魔力を出して牽制する。

 出すと言ってもほんの少しの弱いショットを当てるだけだ。まあ、逆ギレも怖いので、ちょっと気絶してしまうくらいの『弱い』ショットを撃ってるだけだ。

 まあなんかされても逃げればいいのだが、正直今かなりイラついてるので絡んできた奴ら相手に何をしてしまうか分からん。なので憂さ晴らしも兼ねてこうやって散らす。

 今はお前らに構っている暇は無いのだ。


「明日………必ず、助けます。それまで、少々お待ち下さい」


 暗闇の中でポツポツといくつかの場所に明かりの灯る城を眺めてそう呟く。


「ふぅー……………さて、明日に備えて飯でも食うか」


 顔を両手でパシッと叩き気合いを入れる。少し痛かったが、気にはならなかった。


 そのままゆっくりと歩いて、俺がとっている宿の1階、酒場部分に入り適当に料理を頼む。


「………店内でのケンカはよしてくれよ?」

「………分かってますよ、立場は弁えてるつもりですから。客の身分で店に迷惑はかけません」

「分かってるなら、いい」


 ジルバが俺に注意してくる。

 やはり接客業をこなしているからだろうか、俺がイラついていることを見抜いたみたいだ。

 …………いや、顔に出ていたのだろう。周りの客が怪訝な顔でこちらを見ている。

 いかんな、少し頭を冷やそう。


「……………」

「あれ?ジルバさん、そんなの頼んでませんよ?」

「サービスだ。飲んでみろ」


 ジルバが何やら虹色の液体が入ったグラスを持って俺の目の前に置く。

 匂いからすると、危険な毒物や酒の類では無さそうだ。

 軽く口に含み、安全だと分かったのでグラスの半分ほどを口に流し込む。

 液体はどうやら何かの果汁だったようで、爽やかな香りが鼻に抜けていく。味は甘酸っぱく、ももとグレープフルーツを混ぜたような味わいだ。もちろん不味くはない。というかかなり美味い。飲み込んだ後も口の中に清涼感が残る。夏に冷やしてこれを飲むとまさに極楽を味わう事が出来るだろう。

 残りを飲み干した時に、ずっと横にいたジルバが話しかけてきた。


「………どうだ、少しは落ち着いたか」

「…………はい、ありがとうございます。やっぱり旨いは正義ですね」

「………初めて聞く言葉だが、なかなか面白いな。その通りだしな」


 俺は自分でも驚くほど落ち着いていた。旨いは正義、こんな軽口をたたけるくらいに。

 ジルバはそれが気に入ったのか、その鉄仮面を少し緩ませていた。


「……なんでこれを?」

「………何だかお前が危なく見えた。まるで目的の為なら何でもするような、そんな危険な雰囲気が出ていた。だから、落ち着かせた、それだけだ」

「………ありがとうございます」

「礼はさっき貰った」


 俺はジルバを甘く見ていたようだ。ただ、マニュアル通りに動くような無愛想な店員だと。

 しかし、彼は『プロ』だった。俺のほうが精神的には上なんだが、どっちがどっちか分かんねえな。


「一杯小銀貨1枚だからな」

「金取るんですか!?サービスって言ってましたよね!?」

「クックッ、冗談だ。

 もうじき料理が出来るだろう」


 ジルバはそう言って厨房に向かって行った。途中何度か面白そうに笑いながら。そんなに面白かったか?


 俺はその後、別のウェイターに頼んでもう一杯それを貰おうとしたのだが、あれはジルバが気まぐれに出すもので、メニューとしては無いらしい。

 しょうがなく諦めたが、そのウェイターが気をきかせてくれたのか、ジルバが料理と一緒に持ってきてくれた。

 ジルバに無理を言って済まない、と言うと彼は「気にするな、旨いは正義なんだろう?」と一言、別のテーブルの給仕に行った。

 きっと彼がイケメンだったら今頃俺は彼に惚れていた事だろう。



 料理は全て旨かったが、あのジュースの印象が強烈だったので感動するまではいかなかった。

 飯を食べた後は1度部屋に戻り、ガントレットを外した。鎧も外してポケットから茶色のローブをだして着た。

 城近くの道や裏路地の下見をしようと思っていたので、カンテラを借りにカウンターの女性のところまで行って女性に話しかける。


「すみません、カンテラを借りたいんですが」

「ん?ああ、リドイラ、だったね?ほらよ。持っていきな」


 女性は俺の名前を覚えていた。いちいち後から帳簿を見直したりするわけもないので、あの帳簿に名前を書いていた時に覚えたのだろう。やはり接客業をしているだけはある。

 ジルバといいこの女性といい、ここ普通の宿ではない気がする。

 女性がカウンターの下から出したカンテラを見てからポケットから銭入れを出す。


「えーっと、いくらでしたっけ?」

「1晩で小銀貨1枚だよ。ほらとっとと出しな。ビタ一文まけやしないからね!」

「もちろん払いますよ」


 この女性は明らかにアネゴ気質だ。昔盗賊団の団長でもやってたんではないだろうか?やっていても多分、『やはりそうか』って言う人かなり居ると思うんだが。ジルバは部下だな。あれ?そう思うとマジでそんな気がしてきた。

 いかんいかん。いや、それはそれで面白そうではあるが、今はいかん。

 小銀貨を1枚出してカンテラを手に取る。


「はい、まいどありがとね」

「あのー、お姉さんお名前なんでしたっけ?」

「ナンパかい?ハッ、10年早いよ」

「いや、普通に名前を聞いてるだけなんですが………」


 ガキ相手にこの人は何を言っているのだろうか。


「なんだい、つまんないねぇ」


 さっき10年早いって言ってただろ!?なんだよつまんないって!?


「アクリ。アタシの名前はアクリだよ」

「アクリさんですか。分かりました、ありがとうございます。覚えときますね」

「ふん。

 そういや、カンテラ持って行くって事は、散歩でもするのかい?」

「ええ、ちょっと用事がありましてね」


 城に侵入するための下準備なんて死んでも言えない。


「気をつけなよ、夜の裏道には怖いお兄さんたちがいっぱいいるからね。アハハハ!!」


 アクリさんが面白そうに笑う。確かにチンピラが居るだろうな。俺には関係ないが。


「大丈夫ですよ、襲いかかってきても返り討ちにしますから」

「そうかい!アハハハ!ま、気をつけなよ!」

「はい。では、行ってきます」


 階段を降りて酒場を通り外に出る。酒場では数人の男たちが楽しそうに酒を飲んでいた。俺も飲みたい……いや、いかんいかん。


 外は真っ暗で、カンテラの横に箱ごと付けてあるマッチを使い火を灯した。初めて知ったが、この世界にもあるんだ、マッチ。


 通りには人がちらほらと見えるが、あまり多くはない。幾つかの酒場からは光が漏れている。

 俺はそれらを横目で眺めながら、だんだんと光が減っていく城への道を進んでいく。




─────




「あそこが門で、城壁がぐるっと囲んでいるのか。門番が2人、城壁の周りを循環している兵士が4人、上にそれぞれの方角に2人ずつ、か…………多いな。やはりここに居るのか?」


 裏道からこっそりと覗き警備を把握する。カンテラはバレないように消しており、目を強化して見ている。やはり強化は便利だ。


「明かりのついている部屋は幾つかあるがここからじゃ流石に分からんしな………明日を待つしか無いか。

 よし、次は周りの裏道を探索するか。逃げる時に無駄に何か特徴のあることをして身バレするのは避けたいしな」


 そして後ろを向いて来た道を戻り、通った道と逆の別れ道に入って行く。


 ちょくちょく周りを把握しながら歩く事30分。

 怖いお兄さんA,B,C,Dとエンカウントした。


「おうガキ、てめぇこんなとこで何してんだ?」


 怖いお兄さんAが話しかけてきた。


「しかもこんな夜更けによお!!ぎゃはははは!!」


 怖いお兄さんBはラリってるのか?何が楽しいんだ?


「いいからとっととやっちまうぞ」


 怖いお兄さんDの発言。どうやらコイツが一番偉い。

 しかしコイツら冒険者か何かか?全員が鉄の鎧を身につけて帯剣している。さらに前後左右に一人ずつの位置取り。駆け出しの冒険者パーティーかな?恐らくランクDくらいの。


「いいのかな?」

「何がだ、ガキ」


 答えずに問答無用で襲えよ………まあ、別にどっちでもいいけどさ。


「俺を襲うつもりだったら五体満足では帰さないからね?」

「ふん。やっちまえ!」


 左右と後ろの奴らが同時に襲いかかって来る。前の奴は2テンポほど遅れている。なるほど、時間差攻撃か。

 さて、ガントレットは今は外してるし、受け止めは出来ないから、瞬殺でいこう。


「『ショットガン』」


 左右それぞれに両手の指を向けてショットガンを放つ。

 ショット系統の魔法は指一本につき一発ずつなので、ショットガンを5発ずつだ。お兄さんBとお兄さんDは吹っ飛んだ。少しオーバーキルな気もするがまあいいか。

 散弾はゴム弾をイメージしてあるのでもちろん2人は死んではいない。


 そのまま紙一重で後ろからの剣を横にずれて避け、後ろに飛んでからお兄さんCの脇腹に強化した拳でパンチをお見舞いする。

 多分死んではいない……だろう。まともに入ったので少し不安だ。


 残るは目の前のお兄さんAだけだ。振り上げた剣の行き場を無くして呆然とこちらを見つめている。

 俺はニコニコと笑みを浮かべながらゆっくりお兄さんAに近づく。きっと彼には俺が悪魔に見えていることだろう。


「君には選択肢が3つあります」

「……………」

「1、持ってるもん全部出して俺に見逃してもらう。

 2、俺に挑んで倒れてる3人と同じようになって俺に身ぐるみ剥がれる。

 3、逃げる。

 さあ、どうする?君に選ばせてあげよう」

「是非………1でお願いします………」


 顔面蒼白で声が震えている。そんな怖かったのか?


「よろしい。んじゃあね、鎧とか剣は要らないから、なんか便利な物とか持ってたらくれないかな?」

「そそそそれならこちらのランタンなんかいかがでしょうか?」


 彼は横に置いていたランタンを俺に差し出してきた。


「なにそれ?便利なの?」

「魔力を通すだけで明かりがつきます。ずっと使える優れものですよ!」

「いいね!じゃあそれちょうだい!」

「どうぞどうぞ!!」


 俺はランタンを受け取る。魔力を流して無いのに明かりはついている。


「なんで魔力流してないのに明かりがついたままなの?」

「それ、魔力を貯めれるらしくて、貯めた魔力を今は使ってますね」

「へぇー」


 サーシなんかに聞いたらもっと詳しい事を教えてくれそうだ。


「よし、持ち物全部って言ったけどこれが中々良いものだからこれだけで許してあげよう」

「あ、ありがとうございます!!」


 彼はまるで生き延びれた時のような表情で俺に頭を下げてきた。

 そんな怖かったのか?俺の事が。


「あ、あと1つ、いや、2つ頼みたい事があるんだけどさぁ……」

「な、なんでしょうか?」


 彼は表情を一転させ、絶望への崖の淵に立っているような顔になった。


「いや、簡単だよ。この辺の裏道を案内して欲しいんだ」

「ああ、そのくらいならお安い御用です」

「あともう1つはね…………」


 周りに人がいないか確認する。

 どうやら居ないようだ。大丈夫そうだ。


「どうしました?」

「ん?いや、なんでもない。耳を貸してくれ」

「は、はぁ………」


 彼にやって欲しいことを話すと、難しい顔をしていた。


「うーん………出来ない事は無いですね。下っ端の奴らを使えば」

「君、結構上の方でしょ?」

「あー、はい。一応この国の裏を仕切らせて貰ってます」


 やはりか。普通のチンピラだったらさっきので襲って来てただろうしな。でも、まさか裏のトップとは思わなかったが………。

 強い者には無駄に逆らわない。コイツはいい上司だな。


「うん、大丈夫でしょ?よろしく頼むよ」

「わ、分かりました!旦那の頼みですしね!」

「だ、旦那はやめてくれないかな……」

「では、兄貴」

「旦那でいい」


 大の大人に兄貴と言われるなんて恥ずかしいわ!

 一応、念のためにポケットから銭入れを出して大金貨を1枚彼に渡す。


「ええ!?い、いいんですか!?」

「うん、取っといて。そのかわりに、今回だけじゃなく、これからもよろしくね?

 あ、一応聞いておくよ、名前は?」

「ツバトです!」

「ツバトね、覚えとくよ」

「あの、旦那の名前は……?一体旦那は何者なんですか?」


「俺の名前は……リテラ。

 ただのガキだ」

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