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15話 アドリガ到着

「あ、そう言えばスウィンドさんが居ましたね。商人の護衛をしていたみたいでしたよ」


 どうやらフェイスはスウィンドとリテラが一緒に居た所も見ていたらしい。つまり、結構前からリテラを観察していたという事だ。


「スウィンドぉ?何やってんだ、アイツ?」


 それに答えるのはカイゼル髭の男。どうやらスウィンドを知っているらしい。


「前に会った時はえーと……リグドに行くとか言ってましたね、確か」

「どうせついでに依頼もこなしてランクを上げようとでも思ってんだろ」

「……む?スウィンドのランクはAでは?今更護衛くらいでは上がらんだろう」


 そう言うのはアルハンドラ。彼は訝しげな表情をしている。


「それがあの馬鹿さあ、この前勝手に勘違いしてどっかの冒険者ギルドの支部長ぶん殴って再起不能にしたらしくてさぁ!ランクDまで落とされてやんの!!アハハハハハ!!」


 そう楽しそうに告げるのは『死神』グレイブ・サーバー。


「何をやってるんだアイツは……」


 呆れながら項垂れるアルハンドラ。


「やっぱ師匠がしっかり躾しとかねぇからじゃないのか?ガッハッハ!!」

「言わないでくれ、ガーダッド……」


 酒を飲みながらガーダッドと呼ばれたカイゼル髭の男はそう言って笑い飛ばす。


「ま、偶然みたいだし問題無いでしょー。試練って言ったら彼も分かるでしょうし」

「だなー。

 えっと……試練、最初行くのは誰だったっけ?」

「儂だ!覚えとけ馬鹿もん!」

「酒馬鹿に馬鹿って言われたくないねー!酒馬鹿ドワーフめ!!

 酒なら何でもいいんだろ?どんな粗悪品でも飲めるんだろ!!」

「儂を馬鹿にするんじゃない!」

「あーもー、2人とも見苦しいなぁ」

「全くだ」


 死神とガーダッドが言い合いを始め、フェイスとアルハンドラはそれを呆れたように眺める。雰囲気からしていつもこんな感じのようだ。


「ま、2人はほっといて飲みましょうよ、アルハンドラさん」

「そうだな。

 すまない、注文を頼む!この酒を瓶で20ほど持ってきてくれ!!」

「おっほぉ、大分いきますねぇ!」

「久しぶりの試練だからな、結構楽しみなのさ」


 ニヤリと笑うアルハンドラ。その瞳に邪気は見られない。


「お金、あるんですか?」

「ん?経費から出してもらえるんじゃないのか?」

「これ、ボスが飲みたいっていうから飲んでるだけで、経費は出ませんよ?話聴いてなかったんですか?

 だからガーダッドさんもいつもと違って樽で頼んでないし」

「………ぬ」

「ぬ?」


「ぬぁぁぁぁぁあああああ!!!」


 その叫び声は町中に響いたという。



─────




「商人!急げ急げ急げぇ!!」

「これ以上スピードを上げたら馬が潰れますよ!!」

「何ぃ!?どうすんだよ!!」

「倒せないんですかぃ!?」

「あの大群に突っ込んだら致命傷は免れません!!」

「なんてツイて無いんだ、『特急猪』の大移動に出会うなんてぇ!!」


 物凄いスピードで走る馬車と、その上に立つ2人。

 そう、俺ことリテラとスウィンドである。

 俺らが焦っている理由は、100mほど後ろから迫ってくる、『特急猪』の群れである。

 特急猪はAランクの魔物だ。体高2m、体長3mはある巨体に、体全体に纏っている鋼並みの硬度を持つ毛。だが、この猪がAランクとなっている理由はそのような事ではない。

 特急猪は常に群れで移動する。その大移動に鉢合わせると、今のように追いかけられるハメになる。群れは必ず100体以上居り、生半可な腕では簡単に踏み潰されてしまうだけ。これが特急猪がAランク魔物たる由縁だ。

 今は馬車もあるし、逃げるしか手はない。俺とスウィンド2人で相手するなら倒せなくは無いが、馬車にも被害が及ぶだろうし、下手したら商人たちが死んでしまうかもしれない。それは避けたいので、こうやって全力で逃げている訳だ。


「ど、どうするリテラ!?」

「どうするとか言われてもどうも出来ません!!スウィンドこそ強いんだからどうにかしてください!!」

「俺は各個撃破型だ!多対一は無理!」

「使えねー!!」

「テメー後からぶっ殺す!!」


 さあ、どうしようか。手立てはあるが成功するかどうか………。


「やってみるしかないか……」

「なんか言ったか!?」

「もしかしたら、なんとかなるかもしれません!」

「マジか!」

「ただ、時間がかかるかもしれないのでそれまでとにかく逃げてください!!」

「それは商人たちに言え!!」

「いきます!!『アクアハンド』!!」


 右手から巨大な水の腕が出現する。いや、正しくはガントレットから、だが。


「まさか、水で押し返そうってか!?」

「無理に決まってんだろそんなん!!いいから黙ってろや!!」

「お前口だいぶ悪くなってないか!?」

「集中しろ……イメージするんだ……」


 水の腕の色がジワジワと変わっていく。徐々に根元から薄い茶色に変わり、30秒ほどで全て茶色になった。


「よっしゃ、成功!!

 次は圧縮!!」


 どんどんその腕は縮んでいき、遂には元の腕に纏っているくらいになってしまった。


「それをどうするんだ?」

「こうするんですよ!!『アクア・リベレイション(水流解放)』!!」


 圧縮された腕が一気に、いや、爆発的にその体積を増やし、まるで津波の様な巨大な壁になり、かなりの広範囲に渡り茶色の液体が広がった。


「いや、水じゃないからアクアじゃないかな?」

「い、一体何をやったんだ!?説明してくれ!!」

「見てれば分かります!!」


 そのまま追いかけてくる特急猪たちは、その茶色い液体が散布されている地面に足を踏み入れた瞬間──物凄い勢いで足を滑らせ地面に身体を叩きつけた。

 後続も次々と潰れていっているようで、軽く地響きがする。


「うおおぉぉぉ……な、何したんだ!?」

「だから見てれば分かりますって!『ヒートショット』!!」


 真っ赤な『ショット』が放たれ、地面に着弾した瞬間に特急猪たちが倒れている辺りが燃え盛る。


「ま、まさかさっきのは油か!?」

「ビンゴ!!さあ、今の内に急いで逃げましょう!!」

「言われなくとも、ですよ!!」



─────



「いやー、ヤバかったな」

「ヤバかったですね」

「間一髪でしたね」


 口々に告げる。皆なんか軽いが、実際マジでヤバかった。


「いやー、しかしあんな事出来るんだな、水魔法って」

「いや、俺のは少し違いますよ?」


 俺のガントレット自体が魔石で出来てるから、あれは純粋な水魔法とは言い難い。油を出す水魔法とか聞いた事無いし。それに普通に『アクアハンド』を使うよりも魔力を使用したし。

 ちなみに、『エレメンタルハンド』は違う属性の『マジックハンド』を同時に使用する時のもので、1つの属性だけならばそれぞれの名前になる。

 あれに技名付けるなら何がいいだろうか?『オイルハンド 』?却下だ。そんなヌルついてそうな手は嫌だ。

 適当に『アクアハンド亜種』。よし、もうこれでいいや。よくないけど。


「あ?じゃあ何だって言うんだ?

 あの火を付けた魔法も『ファイヤーボール』じゃ無かったしな」

「あ、あれはそのー、えっとー」

「お前色々と変な魔法使ってるよなぁ?おかしくないか?」


 マズい!スウィンドを馬鹿だと見くびり過ぎていた!!いや実際馬鹿だが!

 流石にあれだけやればそりゃ疑問を持つわな!!スウィンドだから大丈夫、とか思ってる場合じゃなかった!!


「じ、実はですね……」


 簡単にサーシの事を説明して、この魔道具のお陰であの魔法が使えた、といった感じに捻じ曲げる。

 制作手伝ったし、元々のアイディアや構想は全て俺だった気もするが、確かサーシだった。多分。恐らく。………と言う事にしておけばスウィンドは単純だから『さすが魔道具王!!』とかなるだろう。


「……ということです。分かりましたか?」

「ううむ……すげえな!さすが魔道具王!!」


 チョロッ。チョロ過ぎる。


「さ、もうこんな事が起きないようにしっかり見張りましょう」

「そうだな、もうあんな思いするのは勘弁だぜ……」


 そのまま2人でずっと周囲の警戒をした。

 『テンタクルス』でスウィンドを上空にぶん投げて周囲確認をさせたのはとても楽しかった。



─────



 結局、その後アドリガに着くまで大した事は起きなかった。魔物に関する事はもちろん、あの黒ローブも出て来なかった。

 一番奇妙に思ったのは、アドリガの兵士を一切見かけなかった事だ。アドリガから来る商人なんかは居たが、兵士が巡回していたりなどは一切無かった。



 ………あ、途中見つけた川で水浴びをする事になって、スウィンドの全裸を見てしまったのはかなりの大事件だったと言えるだろう。あの後3時間ほど酷い吐き気に苛まれたのは言うまでもない。



 まあ、そんなこんなで着きました、アドリガ。


「トロハよりはまあ、小さいな。当たり前だが」


 目の前の城壁を見ながら呟く。

 トロハの城壁よりも低いし、ギリギリで城壁の端も見えない。本当にギリギリだが。少し走れば見える。ちなみに、トロハは全く見えない。

 アドリガはこの世界では珍しく、城壁の形 が、上から見ると真四角の国だ。他の国は大半が丸い城壁だ。


「言っておくが、これが普通の国の城壁のサイズだからな?」


 スウィンドに独り言を聴かれていたらしく、そう言われる。


「いや、他の国に行った事無かったんで」

「ああ、そう言う事か」

「ほら、お二人とも、入国審査を受けに行きますよ?」


 そう言って商人が馬を進ませる。

 この入国審査が最大の山場だ。もし身分証明する物を何か提示しろなどと言われてトロハの貴族だとバレたらどうなるだろうか………。


 プラン1。即逃走。

 プラン2。家出してきたと伝え、ヤバそうになったら嘘泣き。それでも無理なら逃走。

 まあ、逃げた後で不法入国するからどうなろうと国内に入れるのに変わりはない。

 プラン3。賄賂。コレが一番現実的かもしれない。





「……………」


 結果、身分証明する物を提示しなくても良かった。

 チェックされたのは積み荷だけって何なの?それアリなの?無駄に緊張した俺が馬鹿みたいじゃねーか!!


「はぁ………」

「おうリテラ、商人は宿取って明日出発するらしいが、どうする?」

「どうするって、宿をですか?それとも出発をですか?」

「まあ、どっちも?それに前も言っただろ?一緒に双子平野を越えてくれないかって」

「宿は別に取らせて頂きますし、俺は少なくとも3日はこの国に滞在します。一緒には行けません。ここまでありがとうございました」


 スウィンドだけじゃなく、近くに居た商人たちにも聞こえるように言う。

 ここからは道中みたいなおふざけは要らない。アリスを救ける為だけに動く。


「そうか………寂しいが、またいつか会おう」

「ええ、縁があればまた会えるでしょう」


 スウィンドと離れ、商人と向かい合う。思えばこの5日間、商人本人や商人の部下たちにはお世話になった。


「リテラ君、ありがとう。君が居てくれたお陰で我々は命が助かった。今我々が無事なのは君のお陰だ」

「そんな、大げさですよ。むしろ助かったのはこっちの方ですし。

 俺は大した事はしてませんよ」

「いや、そんな事は無い。実際、特急猪から逃げる事が出来たのは君のお陰じゃないか!

 俺は君に感謝してるんだ。本当にね」

「……そこまで言われては、認めない訳にはいきませんね」

「感謝の印だ、受け取ってくれ」


 そう言って商人は俺の首に綺麗なネックレスをかけてくれた。

 銀の翼が象られた綺麗なネックレスだった。


「あ、ありがとうございます」

「いいんだよ、いつかまた会おう」

「……あっ!」

「どうしたんだい?」

「名前聞いてませんでした」

「ああ、そういや名乗って無かったかな?

 俺は大陸を駆ける商人、カルトラ・シルベストリだ!!」

「ハッハハ、カルトラさんですね。

 また会いましょう、カルトラさん」

「ああ、じゃあね」


 最後にまた俺は全員に頭を下げて、人混みに入った。



 彼らと過ごした時間は5日と短かったが、俺は彼らの事をもう『仲間』だと思っている。

 またいつか、そのいつかを楽しみに、俺はこれから過ごして行けそうだ。

 ネックレスを弄りながら、そんな事を考える。




「よし、切り替えよう。昼は情報収集、夜に行動、がベタだがベストだ。

 いや、先に宿探すか。出来れば酒場近くが良いな」


 フラフラと街中を歩き、ちょうど良く1階が酒場、2階が宿になっている所を発見。


「すみません、部屋空いてますか?」

「あぁ?ここはガキの来るトコじゃねぇぞ?」


 俺を出迎えてくれたのはコワモテのお兄さんだ。きっとモテないんだろうな……。


「…………」

「おい、その同情するような表情と目は何だ。やめろ」


 おっと、顔に出てたか。


「すみません、ちょっと貴方が可哀想になりまして。

 部屋は空いてますかね?きちんと金は払います。立派な客ですよ?」

「前半の言葉が気になるが……金があるなら客だな。ついて来い」


 客に対してそんな態度で良いのかと思ったが、それを言ったところでどうかなりそうにも無かったので呑み込む。

 酒場の奥の階段を上り、目の前のカウンターとその奥に座る女性が目に入る。


「ん、ジルバ、どうした?」


 獣人の女性だった。金色の髪、切れ長の目がくっきりしていて可愛い、ではなく美しい女性だった。

 ただ、絶壁と言えるほど洗濯板だった。男の娘と言えるくらい。


「客だ。一部屋空いていただろう?」

「そのガキが客かい?」

「ああ、金はあるそうだ。きちんと金を払うなら歳は関係ない。お前がよく言う言葉だろう」

「ああ、そうさね。お客さん、代筆は必要かい?」

「いえ、文字は書けます」

「そうかい、じゃあここに名前を頼むよ」


 差し出された帳簿に名前を書いていく。一応偽名で『リドイラ・ストゥルフト』にしておいた。たいして変えちゃいないが。


「リドイラだね、部屋は一番奥の右が空いてる。料金は一泊で中銀貨2枚、飯付きなら3枚だ」

「じゃあ3日分お願いします」


 ポケットから小銭袋を出して大銀貨を1枚渡す。


「お釣りが中銀貨1枚……はいよ」

「ありがとうございます」

「ジルバ、案内してやんな」

「こっちだ」


 お釣りを受け取って、歩き出したジルバさんについて行く。

 ジルバさんはムキムキの人族だ。体がデカい。髪は綺麗な青で、ポニーテールのように纏められている。


「ここがお前の部屋だ。鍵とかは無いから気を付けろ。窓は寝るときなんかは閉めた方がいい。夜出掛ける時にはカンテラを貸してやる。一晩で小銀貨1枚だ」

「分かりました、ありがとうございます」


 説明を終わらせたジルバさんはさっさと部屋を出て行く。

 酒場に居た時もウェイターのような事をしていたし、まだ仕事中だったのだろう。それに、彼は俺だから無愛想にしている訳ではなく、恐らく元からあんな感じだ。受付の女性との会話からそう感じた。


 部屋は4畳くらいの、ベッドだけが置いてあるシンプルな部屋だった。別に気にしないが。


「さて、置くような荷物も無いし、早速情報収集に繰り出そうか 」


 そう1人呟き、俺は部屋を出た。




─────




「ここ……だよな?」


 それから一時間後、俺は城壁の外、アドリガから3kmほど離れた森の中にひっそりと佇む屋敷の前に立っていた。

 街で情報収集を行った結果、それらしいモノは幾つかあったが、アリスがアドリガに居ると断定出来るほどの情報を得る事は出来なかった。

 しかしその途中、この屋敷に凄腕の情報屋が居るという情報を入手。こうして向かった、という訳だ。


 屋敷の見た目は、ホラー映画なんかに出て来そうな感じだ。そう、かなり見栄えが悪い。

 壁にはツタがびっしりと張り付き、庭には良く分からない花が沢山咲いている。窓が割れたりはしていないが、屋根に大穴が空いている。


「本当にこんなトコに人が住んでいるのか?明らかに廃墟じゃないか」


 ブツブツと言いながらも草をかき分けて屋敷に向かう。

 玄関の前まで何とか来る事が出来た。まだ屋敷に入ってすらいないのに、かなり疲れた気がする。


「すみませーん」


 ………………。

 誰も来な「はいはいはいはいはぁーいっ!!」


 人族の女性が出て来た。物凄い勢いでドアを吹き飛ばしながら。


「どちら様でしょうかっ!?」


 キラキラと目を輝かせる俺の目の前の女性。しかし俺は彼女を直視出来ない。何故なら───


「あ、あの、服着てください」

「ふぇ?……ふぇぇ!!ひゃぁああああーー!!」


 彼女の姿が、下着だけを着用した姿だったからだ。



─────



「た、大変見苦しいトコロをお見せしました………」

「いや、見てないので気にしないで下さい」


 すると彼女は真っ赤に顔を染め上げ「絶対に見てるよ〜…」「優しいからそう言ってくれてるだけだよ〜…」「もうお嫁に行けないよ〜…」などと言っている。

 俺に聴こえているんじゃないかなどと考えないのだろうか。丸聞こえだ。


 あの後、物凄いスピードで中に戻り白いブラウスを着てきた彼女に案内されて屋敷の中に入り、応接室のような場所に通された。

 先程の服装については追求はしていない。一応礼儀は弁えているつもりだ。

 外から見える屋敷とは別の屋敷なんじゃないか、と思うくらい中は綺麗で生活感が漂っていた。


「あ、あのー……?」

「は、はひっ!?」

「落ち着いて!……俺はリドイラ・ストゥルフトと申します。貴方が『情報屋』で間違い無いですか?」

「は、はい、私が情報屋のリミナリア・ルクフレールです!間違い有りません!!」


 ルクフレールさんはその双丘を突き出してきた。本人は胸を張っただけなのだろうが……いかんせん威力が強過ぎる。天然とはここまで恐ろしいのか。


「まあ、分かってるでしょうが、ここに来たのは情報を売ってもらう為です」

「まあ、それ以外にありませんよね……あはは…」

「え?他にも来てそうですがね。こう……ルクフレールさんを見初めた方とか、惚れた方とかが」

「ふえぇ!!そ、そんな、惚れるとか……ふえぇ……。

 あ、有り得ないですよ、私みたいなのに惚れるなんて……」

「いやいやいや……」


 この人は自分の魅力に気付いていないのだろうか?

 おっとりした雰囲気とあまり大きくない体が非常に庇護欲を掻き立ててくる。護ってあげたくなるのだ。


 おっと、話がズレてしまった。今はとにかくアリスの情報を……。


「ん、まあ今はそれ置いといて、真面目な話をしましょう」

「は、はいっ」


 彼女も空気を読んで真面目な顔をしてくれる。


「トロハの攫われた第三王女についての情報を得たいのです」

「トロハの第三王女の情報ですね?有りますよ!」

「ではそれを頂けないでしょうか?少々高くても大丈夫ですので」


 するとルクフレールさんはかなり変にニヤリと笑った。演技……なんだろうがかなり下手くそだ。


「ふっふっふ……そ、その情報はお高いですぜ?旦那!」

「………なんか、無理してません?」

「ししし、してません!

 えっと……確か次のセリフは……」

「…………」


 下手くそだなー!大根役者ってレベルじゃないぞこれ。

 でも………なんで演技?


「あっ!そうだ!だ、大金貨50枚になります!」

「50!?無理無理!!そんなん払えませんよ!!」


 どんだけぼったくるんだよ!?高すぎるだろう!


「じ、じゃあ体で払って貰おうか!!」

「えっ」

「うう〜……」


 え………?なんて言った?今。


「ちょ、もっかい言って貰えます?」

「なっ!?

 ………か、体で……払って…下さい……」


 うわあ、すげえ。顔真っ赤になってるじゃねぇか。

 いやいやいや………何を言ってるんだこの人は………あっ。


「………ショタコン?」

「ショ!?ち、違いますぅ!!私はノーマルです!!」


 え、じゃあどうやって体で払えと?


「あのー、具体的にどうやるんですか?」

「あ、えっと、私の部下と戦って貰います!!地下にスタンバイしてますから行きましょう!!」

「え、戦うんですか?」

「はい! 」


 参ったな、なんでこんな事になるんだ?

 というか………


「俺は戦えませんよ?」

「フフフ、しらばっくれちゃいけません!!この凄腕情報屋の私に隠せると思ってるんですか?リテラくん!!」


 ありゃー、全部バレてるんだ……。

 てか自分で凄腕とか言うな。


「分かりましたよ……」

「さっ、じゃあ行きましょうか」


 ルクフレールさんが立ち上がり部屋を出て行くので、それについて行く。

 階段の下に隠し扉が!?……とかは無く、廊下の一番奥に地下への階段があった。

 階段の横の壁にはランプが置いてあり、暗い階段を照らしている。

 階段の一番下には扉があり、それを開けると広い場所があった。


「広いですね」

「でしょ?私が作ったのよ!」


 中はかなり広かった。対面の壁まで恐らく100mくらいはあるだろう。横も同じくらいだ。


「で、そのルクフレールさんの部下というのはどなたですか?」

「え?ああ、あの人だよ?」


 ルクフレールさんが指差した先には、散乱している大量の酒瓶と酔い潰れて眠っていると思わしき小柄な金髪の男が倒れていた。


「ゴメンね、彼ドワーフだからお酒大好きなの」

「ああ、にしても飲み過ぎだと思いますがね………」


 散乱している酒瓶の量は多分3桁を超えるだろう。


「そ、そうね。じゃあ起こしましょうか。

 ガーダッドさん、起きて下さい!!彼、来ましたよ!!」

「……………」


 ガーダッドと呼ばれたドワーフの男は、起きるどころかピクリともしない。


「起きませんね」

「ガーダッドさん!!起きて下さい!!」

「フガッ!?………ング……プハァーッ!!

 なんだ、ルクフレール!何故起こす!?」


 やっと起きたガーダッドは起きるやいなや手元にあった酒瓶を掴み一気飲みした。


「だから彼が来ましたって!そろそろ私も怒りますよ!!」


 ルクフレールさんが頬をぷくーっと膨らませる。

 彼女には悪いが、全く怖くない。めちゃくちゃ可愛い。


「おお、そりゃあコワイ。じゃあそろそろ起きるか!!」


 そう言ってガーダッドは飛び起きた。

 金髪のオールバック、立派なカイゼル髭がとても印象的な男だ。身長は俺より少し高いくらいだろうか、150cmは超えているとは思われる。


「貴様が相手だな?」

「はい、よろしくおねがいします」

「おう、礼儀正しくていいな!ガッハッハ!!」

「じゃあ戦いましょうか」


 さっさと情報を手に入れてアリスを助けに行きたいんだ。こんな所でグタグダやってる暇は無い!


「おいおいせっかちだな」

「こちらにも事情ってものがありましてね」

「しょーがないか……」

「本気で行きますからね」


 距離をとって身体能力を強化し、ガントレットを取り替える。

 その間にガーダッドは彼の武器であろう戦斧を拾っていた。


「はあっ!」


 間合いを詰め、振りかぶった右腕を思いっ切りガーダッドの顔面目掛け振り抜く。

 ガーダッドは右に避けて俺の胴に戦斧を振り下ろしてくる。

 それを右に飛んでかわしながら『ショット』でガーダッドの脇腹を狙う。

 ガーダッドはギリギリでかわそうとするが避けきれず、脇腹をショットが掠める。

 それを見て一旦距離を取る。


「ほう、なかなか出来るじゃねーか」

「まだ序の口です」

「ガッハッハ!言うじゃねーか!なら俺も少し本気を出すか!!『衝爆豪炎斧』!!」


 ガーダッドが戦斧を掲げると戦斧の刃の部分の色が変わりだし、真っ赤になっていく。


「コイツは俺が造った傑作、最高級の武器だ!行くぜガキんちょ!!」


 ガーダッドが戦斧を掲げたまま突進して来る。対応する為に構えるが、ガーダッドは俺の手前でいきなり戦斧を地面に叩きつけた。

 次の瞬間、地面が爆発し、砕けた床が俺に向かって飛んでくる。


「ぐっ!?『アーマー』!!」


 何とかアーマーを出現させ礫を防ぐが、体勢が崩れる。

 そのせいで煙から飛び出して来たガーダッドの戦斧に対応出来ず、腹にまともに一撃貰ってしまい、爆発した戦斧に吹き飛ばされる。


「ぐあぁぁぁあっ!?」

「手応えあり、だ」

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