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14話 1日目

 今回の話は空腹時に読むのはオススメ出来ません。作者は我慢出来なくなりました。

 心してお読みください。

 あ、その描写は中盤辺りに出ます。

 もう一つ、ちょっと残酷な描写も出ますので苦手な方はお気を付け下さい。

「リテラ、お前強いんだな」


 盗賊たちの死体を集めて燃やしていたらすぐに馬車が追いついたので乗ったらそんなことを言われた。


「いえ、そんなことありませんよ」

「その歳であれだけの数の盗賊を瞬時に消すなんて、めちゃくちゃ強いから。謙遜はいらねえよ」

「スウィンドの方が強いでしょ?」

「接近戦だけならお前にも勝てるだろうが、遠距離、中距離なんかは確実に勝てないだろうな」


 その通りだろう。遠距離なんかこの男に負けるのは有り得ないだろう。その代わり、接近戦では負けると思う。エレメンタルハンドの圧縮無しで、だ。

 多分スウィンドはかなり腕が立つだろう。立ち振る舞いや纏う空気、雰囲気からわかる。


「まあ強さもだが、それよりもその歳で人を殺す事にためらいが無いことも気になるな。さらに貴族ときたもんだ。

 なあ、お前一体何者なんだ?」

「俺は俺ですよ。ただそれだけです」

「そのポーカーフェイスもすげぇよなぁ。アイツはすぐ顔に出るから分かり易いぜー?」

「例のパーティーメンバーさんですか?」

「ああ、今頃アドリガだろうな」

「へえ!今日トロハを出発してもうアドリガなら、かなり速いですね」

「あんな馬鹿に世辞なんぞ勿体無いぞ。ひたすら速いだけだからな、あいつは」


 いや、世辞ではなく本当に感心しているのだ。

 トロハからアドリガまで馬車で丸5日はかかる。この馬車は途中の集落や村にも止まるらしいから実質6日だろう。

 その道のりを数時間。並ではない速さだ。


「そういや、お前はアドリガで降りるんだよな?」

「はい、調べる事がありまして」

「ふーん。ま、深くは聞かねえがよ。

 それが早く終わりそうだったら俺と一緒にマリリに、いや、旅に出ないか?」

「何でですか?」


 予想外の発言に速攻で返事を返してしまう。

 スウィンドはへっへっと笑いながら答えた。


「まあ、一つはお前強いから、仲間になってくれたら頼もしいな、と。

 あと一つは単純に面白そうだからだ」

「面白そう?」

「興味があるってことだよ。

 6歳で人を殺す事にためらいが無く、Aランク並みの力を持っている。さらに見たこともねぇ魔法を使って、1人で20人を瞬殺し、とどめに貴族サマときたもんだ!これで興味を持たねえってほうがおかしいぜ!!」

「…………」


 確かにそんな奴おかしい。次から自重しよう。


「それが理由だ。どうだ?少なくとも退屈ではねえぜ。天性のトラブルメーカーが居るからな」


 そう言ってクックッ、と笑う。


「もちろん強要はしねえよ。嫌なら嫌だってはっきりと断ってくれ」

「……そうですね、俺は将来的には冒険者になって放浪の旅に出たいとは思ってますが、今は無理ですね。

 それに、アドリガの次はイリスに向かう予定ですから」

「そうか………まっ、しゃーねーな。お前の人生だしな。放浪するんならまたいつか会うだろうしな。その時にまた誘おう」

「その時は二つ返事ではいって言いますよ」

「そりゃあなんとしてでも会わないとな!ハッハッハ!!」


 スウィンドはいい男だ。顔じゃなく。いや、顔もいいんだが、性格が、だ。

 こんなに清々しい男はあまりいない。まあ、こんな世界なら多いのかもしれないが、少なくとも冒険者の中ではかなりいい奴だろう。


「あっ、イリスまで行くんだろ?」

「ええ」

「なら一緒に行って『双子平野』を越えてくれよ!」

「スウィンドさんなら1人でも大丈夫でしょ?」

「1人だけならな。だが、今回は馬車の護衛もある。完璧に対処しきる自信が無いんだよ。お前が居るなら安心だ、だから、なっ?」

「いや、アドリガに何日居るか分かりませんし、もしかしたらイリスにも行かないかもしれませんよ?」


 俺の目的はアリスの奪還だ。十中八九イリスに居るだろうが、もしかしたらアドリガに居るかもしれない。その時はアリスを奪還してすぐさまトロハに帰還する。イリスに行かない可能性もあるのだ。


「なら、行けるようならば教えてくれ」

「分かりました。行けるなら、ですがね」

「つれねーなぁ」

「今日会ったばかりの他人ですよ?」

「んなもんどーでもいい!俺がお前を気に入った、それだけだ!」

「あーそうですね」

「………お前の俺への対応なんか酷くないか?」

「こまけぇこと気にすんなよハゲるぞおっさん」

「俺はお前を貴族と認めないからな」


 その後2時間ほどは、少し魔物が出て来た程度だったので、スウィンドと話しながらのんびりしていると、最初の村が見えて来た。

 中々広い村で、正面には木で門や柵も作られている。


「村を見るのは初めてです。どんな人が居るんでしょうか?」

「通過するだけだからな?ここに用は無いみたいだしな」

「あ、そうなんですか」


 門に近づくと槍を持った若者が近付いてきた。


「そこで止まって下さい!」


 馬車が止まる。商人が馬車から降りて若者の元に向かう。


「交渉はあの商人の仕事だ。俺たちは待っとくだけ、と」

「んー………なんか、不穏な空気を感じません?」

「不穏?」

「こう、ピリピリした感じが」

「………言われてみりゃ、確かに」


 村全体からそんな雰囲気がする。外に警戒しているような感じだ。

 ちょっとしてから商人が戻ってくる。


「商人さんよ、なんかあったのか?」

「いえ、近頃ここいらに盗賊が住み着いたらしく、街道に待ち伏せて王都へ持っていく荷物なんかを奪われてるらしいんですよ。既に3人殺されたそうで!

 だから泊まるなら気を付けて、とでしたが私達は泊まりませんから、大丈夫です!」


 そこまで言ってから、商人は神妙な顔で近づいてきて、小さな声で言った。


「盗賊は20人ほど居たらしいんですよ。それで思ったんですが……」

「あ、それもしかして」

「俺が始末した奴らですかね?」

「ええ、恐らく」

「ハッハッハ、いい事したじゃねえか、リテラ!」

「村人たちを助けるためじゃなくて自分が助かるためにやったんですよ。別にいい事だとは思いません」

「ま、いいじゃねえか!結果的に助けた事になるんだからよ!」

「………そうですね」

「じゃあ私、このことを村人に伝えてきますね!」

「あ、ちょっと待って下さい!」

「なんでしょうか?」

「助けたわけでもないのに感謝されるのは性に合わないので俺がやったとは言わないで下さい」

「いいのですか?」

「はい」

「分かりました。では、盗賊たちの始末に我々は関与してないと言っておきます」

「ありがとうございます」


 商人はそのまま走って行き、若者と話し始めた。


「………やっぱ変わった奴だな、お前」

「ま、否定はしません」

「変わった奴にも色々居るよな。大半がダメな方向に変わってるが……お前は例外だな」

「それ、褒めてるんですか?」

「ああ、褒めてる」

「………バカにしてるように聞こえましたけど?」

「気のせいだ、気にするな!」


 すぐ商人は戻って来て、馬車を村の中に入れていいと許可を貰った、と言い馬車を中に入れさせた。

 村では子供たちが走り回って遊んでいた。何人かの大人には怪しげな目で見られたが、何も言ってきたりはしなかった。


 村を抜けてまた街道を走り続ける。街道の景色はあまり変わらない。正直暇になってきた。

 何故俺はこんな事をしているのだろうか。もう敵にバレてもいいから全力でアドリガに向かいアリスを助けるために動いた方がいいのではないだろうか。そんなことが頭の中をグルグルと回っている。

 だが、バレたらアリスの身に何が起きるか分からない。でも、救けるのが遅れてもいけない。

 イライラしながらも周囲を警戒し続けた。


 結局その日の内に次の村につく事は無く、野宿することになった。


「では、俺とスウィンドさんが周囲の警戒がてら薪を拾ってきますから、その間に商人さしたんたちは食事の準備などをする。それでよろしいですか?」

「私達は構いません」

「俺もそれでいいぜ」

「じゃあ決まりです。スウィンドはあっち側を、俺はこっちに行きます」


 そう言って俺は振り返り、街道から外れ森に入っていった。

 魔物はゴブリンが2匹ほど出て来ただけで、ショットで倒した。

 薪も両腕に抱えるほど集まったので商人さんたちの元に戻った。スウィンドさんはまだ戻って来ていなかった。


「どうぞ、薪です」

「お、ありがとうボウズ」


 商人の部下が薪を受け取り持って行った。どんな料理が出来るのだろうか、楽しみに待つ事にした。

 少しして、返り血まみれのスウィンドさんが戻って来た。

 右腕で薪をかかえ、左手で見た目が熊の魔物『ブラックベア』を引きずってきた。ブラックベアは毛が黒くて体が普通の熊の倍近くある魔物だ。ランクはD。体がデカいだけで後は熊と変わりない。が、一つだけ違う所がある。

 肉が熊よりも美味い。それもかなり。繁殖力が強く、個体数も中々多いので庶民のご馳走としてよく食べられている。庶民の味方のような魔物だ。

 俺も一度食べたがなかなかのものだった。その時の料理は、鍋のような器にいろんな物がまとめてどかっと入れられ、出汁で煮ただけのものだった。


「いやー、いきなり出てきたからよ、ちょうどいいと思って仕留めてきた。血抜きは終わってるぜ?」

「おお!これは素晴らしいブラックベアですな!そうですね、ステーキがいいですかな?」

「そうしようじゃないか。あ、だが解体は出来るのか?俺も出来ん事は無いが、毛皮はダメになっちまうな」

「ああ、私の部下に解体出来るのがおります。おーい、ベイキール、こっちに来てくれ!!」


 ベイキールと呼ばれたムキムキスキンヘッドの男は、やっていた火の調節をやめてこちらに来た。


「お呼びしましたか?」

「ああ。お前、ブラックベアの解体は出来たよな?」

「はい。………こいつはかなりの上物ですね。こりゃ腕が鳴ります!」

「おう!めちゃくちゃ美味く作ってくれよ!頼むぜ!」

「分かりました!では早速!!」


 そう言うとベイキールはブラックベアを持ち上げ右肩に担いで持って行った。

 ベイキールは身長が170cmくらいなので、4mを超えているブラックベアを担いでいる様はなんとも不思議だった。


「あいつに任せておけば大丈夫でしょう。ベイキールは見た目からも分かるようになかなかの冒険者だったんですがね、仲間が魔物に殺されたのを機に足を洗ったらしいんですよ」

「そりゃ辛かったろうな」

「ああ、でも仇討ちは済ませたから、もうあまり酷くは背負ってないみたいですがね」

「そうか。そりゃ良かった」

「さ、料理が出来るまでまだ30分はかかるでしょう。2人とも、どうしますか?」


 この世界の時間の単位は前の世界と一緒だ。

 1分は60秒で、一時間は60分。1日は24時間だ。

 だが、月と年は違う。1年は4ヶ月で、1ヶ月は100日。つまりこの世界の1年は400日だ。

 月の名前も一月、二月ではなく、『白月』『翠月』『紅月』『蒼月』の4つ。ちなみに今は紅月だ。


 閑話休題


「そうだな……どうする?リテラ」

「見回りでもしましょうか。用心し過ぎ、ということはありませんからね。それに、ブラックベアの血に寄ってきている魔物がいるかもしれませんから」

「そうだな。確かこのあたりで一番強いのはブラックベアだから大丈夫だとは思うが、一応気を付けろよ」

「了解」


 その場から離れ周囲の魔物の確認をする。



 結局何も居なかったので、戻ろうとした瞬間、森の奥から何者かの気配を感じた。相手もに俺に気付いているだろう。

 そっちに向かうと、相手もこっちに向かっていたらしく、バキバキと木を折りながらブラックベアが登場した。


「ブラックベア……なのか?」


 そのブラックベアは普通とはかけ離れていた。6mはありそうな巨体にギラつく赤い目、極め付きに灰色の毛が全身を覆っている。


「グルアァァァァァァァ!!」

「突然変異……ってとこか?」


 ブラックベアはすぐさま俺に突進して来た。それを左に軽くステップして避ける。ブラックベアは前のめりになっているので脇腹にショットを撃ち込む。


「ガァァァアァァァ!!」

「皮が厚いな。ただのブラックベアだったらこれで脇腹を貫通しただろうが……」

「ウガァァァァァァ!!」

「遅いっ!」


 上からのしかかるように襲って来たブラックベアの懐に入り込み、強化した脚でみぞおちに的確に蹴りを叩き込む。みぞおちにつま先がめり込む感覚が伝わってくる。


「ゴブッ……ガァァァァァ!!」

「 まともに入ったな。

 今楽にしてやるよ、『ショット』」

「グガッ!?……ガ……」


 倒れてもがくブラックベアの眼球に狙いをつけ、パンッ、と軽い音が響いて魔力の弾が眼球から入りブラックベアの頭の中を通って後頭部を貫いた。

 何度か体が痙攣して、ブラックベアは絶滅した。ブラックベアの死体の前で合掌して目を閉じる。

 目を開き、腰元のダガーを抜いて首筋を切り裂き血抜きをする。


「うーむ……とりあえず持っていくか『マジックハンド』」


 左手から巨大な魔力で作られた手が出現し、その手でブラックベアを掴み持ち上げる。


「やっぱ便利だな、この魔法」


 そのまま走って商人たちの待つ元に向かった。



「おい、なんだそいつ?そんな魔物このあたりじゃ見たことねぇぞ」


 今度は俺より先に戻っていたスウィンドに予想していた通りの疑問を投げかけられる。


「いや、俺も分かりませんよ。多分ブラックベアの突然変異かなんかじゃないでしょうか?」

「そ、そうか?」

「どうせどうこうしても俺らじゃ何も分かんないでしょ?」

「そうだな。それは確かだ」

「だからもうこいつは『ブラックベアの突然変異 』。それでいいでしょう」

「うむ、簡単なのが一番だしな。

 しかしこんなに食えねーよなぁ」


 スウィンドが狩ってきたブラックベアだけでも軽く10人前以上ある。さらに俺の狩ってきた巨大ブラックベア。俺達は全員で7人居るが、確実に食べ切れはしないだろう。


「な、何ですかこれは!?」

「ブラックベアです」


 そんなことを考えてたら商人がこちらにやって来た。


「さっきのブラックベアだけでも持て余してるのに………というか本当にこれはブラックベアですか?」

「ええ、そうですよ?多分突然変異です」

「そ、そうですか。

 しかし、どうしますか?」

「明日食べるというのは?」

「腐る心配は無さそうですが……運べませんよ?」

「俺が運ぶので大丈夫です」


 『マジックハンド』を使えばこのくらいは軽く持ち運べる。

 魔物が出て来てもブラックベアごとぶん殴れば問題は無い。


「な、ならば大丈夫ですかな?」

「………『ボックス』を使える奴は居ないのか?」

「あ、俺使えますよ」

「解体してもらってからボックスに入れたらどうだ」


「「そ、その手があったか!!」」


 そうだ!ボックスという超便利な魔法があったじゃないか!

 ついつい魔法があることを考えずに行動しようとしてしまう。しょうがないとはいえ、自分の視野の狭さに少し落ち込んでしまうな。


「それがよろしいですね、そうしていただけますか?」

「はい、そうします」

「お、陽が落ちてきたか、灯りをつけようか『ファイヤライト』」


 スウィンドが手を出して魔法を使う、

手のひらの上にバスケットボールくらいの大きさの火の玉が現れて周りを照らしている。


「ほれ、お前にもやるよ」

「あ、ありがとうございます」


 スウィンドはもう一つ火の玉を創り出して俺の方に向かわせた。

 面白い事に火の玉はスーッと音も無く俺の方に移動し、俺の頭の上でピタッと止まった。

 俺が移動してもずっと付いてくる。なるほど、これは便利だ。


「これ、どのくらい魔力を使うんですか?」

「一つ創るのに大体50くらいだな。追尾機能をつけると70ってとこだ」

「ご、50…だと……?」

「俺の魔力が7000くらいだから、このくらいなら屁でもねーよ」


 やはり俺の魔力事情はいい意味でも悪い意味でも他人とかけ離れているようだ。

 

「それより、料理はまだ出来ねーのか?」

「もう少しでブラックベアのステーキが焼きあがるでしょうから、お待ち下さい」

「いやー、楽しみだ!」


 それから10分ほどで商人に呼ばれた。


「本来ならば黒パンとスープだけだったのですが、護衛のお二方のおかげでブラックベアのステーキが食べられることになりました!

 ほら、お前ら礼をしないか!」


 商人の部下たちがこちらに頭を下げてくる。

 襲って来たから撃退しただけなんだが、まあここで水を差してもいい事はないし、言いはしないが。


「では、頂きましょうか」


 そう商人が言うと全員一斉にステーキにかぶりついた。俺もそうしたいが、なんとか抑えて肉と対面する。

 ステーキは500グラムはありそうだ。湯気が立っていて、肉汁が染み出て、俺の鼻腔を香りがくすぐってくる。断面は赤く、レアに焼かれているのが分かる。


 木の皿に載せられたステーキをほかの奴らは剣で刺して食ったり、手でつまんで持ち上げたりしているが、俺はそんなことはしない。

 『ボックス』を施しているポケットから鉄のフォークを出してステーキに突き刺す。突き刺した部分から体力の肉汁が溢れ出すが、それを見た瞬間に我慢出来なくなり、思いっきりかぶりついた。


「!?ふぁんはほへば!!」


 思わずそのまま叫んでしまった。抵抗無く噛みちぎる事のできたその肉は、予想とは裏腹に、口の中で噛んだら、噛みちぎった時とは違いかなりの弾力があった。そのまま力を入れると簡単に噛む事が出来、次の瞬間口の中から肉汁が溢れそうになるほど肉汁が噴き出した。


「………う、美味すぎる……」


 カリカリした外側の食感も素晴らしかったし、何より塩だけの味付けも肉を引き立てていた。塩の量がひとつまみだけでも違っていたらこの味は無かっただろう。


 その後は、一心不乱に肉を食べ続けた。全員が2回ほどおかわりしたのを覚えている。

 俺は3回おかわりした。かなり食べたのにしつこさはなく、苦しくもなく程よい満腹感だけが残っていた。


「いやー、美味かった……正直、ブラックベアを舐めてました。しかし、ここまでとは………。

 以前食べた物はここまで素晴らしい味では無かったのですが、何か特殊な調理法でもあるのですか?」

「血抜きなどが良かったから、ここまでの上質な肉になりました。普通ならあと2ランクは肉質が落ちます。

 特殊な調理法などは存在しませんよ。上質な肉を適切な焼き方で焼いただけです」


 そう説明してくれたのは解体をしてくれたベイキールだ。彼も満足そうな表情をしている。調理法の事も教えてくれたということは、恐らく彼がこの肉を焼いたのだろう。


「さあ、明日に備えて寝ることにしましょう。いや、まだ早いですかな?」

「無理に寝る事は無いでしょう。眠たくなったら寝ればいいんです」

「そうですね。魔物は……」

「俺とリテラが交代で夜警をするからあんたたちは安心して寝てな」

「ええ、任せてください。その為の護衛ですからね。

 美味しい食事もいただきましたし」

「そうか……キミ達の実力はよく知ってますからね。よろしく頼みます」

「はいっ!」「ああ」


 威勢良く返事をして、スウィンドの元に向かう。


「で、スウィンドさん、分担はどうします?」

「そうだな……」


 夜警の分担をするためだ。たとえ2人だけでもこのような事はきちんと決めておいた方が余計なトラブルを生まない。


「今、大体7時くらいか」

「そんなとこでしょう」

「んー………起床を明日の朝7時と過程して、今から12時間だろ?

 まだあいつらが起きてる時間帯のが楽だろ。先の6時間はお前、後は俺がやる」

「いや、3時間刻みがいいのでは?」

「む……お前の負担が増えるぞ?良いのか?」

「ガキ扱いは心外ですね。楽勝ですよ」

「いや、ガキじゃねぇか!……ま、お前がそう言うならそれでいいか。

 3時間で交代。先にお前だ。それでいいな?」

「はい。それで構いません」

「ほれ、これ持っとけ」


 スウィンドはバッグから何かを取り出して俺に投げた。

 キャッチしたそれは、赤い砂が入っている砂時計だった。


「3時間刻みの砂時計だ。丁度持ってたんだよ」

「便利な人ですね、あなたは」

「褒めてんのかそれ?」

「ありがたく受け取っておきますよ」

「あ、あとそれも消えかかってんな。またつけてやるよ」


 そう言ってスウィンドは、最初の五分の一くらいになっていたファイヤライトを一旦消し、また新しいファイヤライトをつけてくれた。


「お、これまたどうも」

「なーに、いいとこ見せとかねーとお前には舐められそうだからな」

「もうとっくの昔から舐めてますが」

「お前は歳上への敬意ってのが存在しないのか?」


 ホントは俺の方が遥かに歳上なんだがな。俺を敬えるのかお前?


「ハッハッハ、敬意ってのは敬う気持ちですよ?」

「おまっ、俺には敬う気持ちが存在しないのか!」

「いや、さっき自分で言ってたじゃないですか。

 ま、してない訳じゃ無いですけどね」

「そ、そうなのか!やっぱそうだよな!」


 途端に嬉しそうな顔をするスウィンド。馬鹿丸出しである。

 実力はあるし、気が利くし、ついでに顔もいい。後は性格さえどうにかなれば……といったような男だ。

 簡単に言えば使える馬鹿だ。


「とりあえず、俺は周囲を確認してきますね」

「おう、無茶すんなよ」


 そのまま俺は森の中に向かった。スウィンドは空を見つめていた。




「しかし、不思議だよな……こっちじゃこれが普通なのかもしれんが……」


 フワフワと浮かぶ火の玉をつつく。が、火の玉はひょいひょいと器用に指をよけて俺には当たらない。


「やっぱこう、一人になってみるとこの世界の常識と俺の常識がかなりズレてるのが分かるよなぁ。

 ま、最近はだいぶ慣れてきたけど…まだ違和感がある事が多いよな。あれとか………」


 そう言って空を見上げる。その空には、蒼い月が浮かんでいた。いや、蒼というよりは水色に近い色だ。


「………なんで青いんだよ……」


 そんなことを呟きながらトボトボと森の中を歩く。

 特に危険なものや生物は見当たらない。ゴブリンやミニウルフが居たが、こちらに気付く前に瞬殺した。


「はぁ…………ん?………………」


 立ち止まって右を見る。何か音がしたように聴こえたし、微かに気配がある。


「誰か居るのか………?出て来い!」


 だが、誰も出てこない。しかし、返答は帰って来た。


「っ!?『ショット』!」


 いきなり火の矢が顔面を目掛け飛んできたのだ。それをすぐさまショットで打ち消す。

 ガサガサと音がして、そちらに目を向けると月の明かりに照らされた人物が居た。

 黒いローブを纏いフードも深く被っており、背丈も高くも低くもない、といった感じだ。


「おいっ、待てコラ!!『ショット』!!」


 すぐさま追いかけショットを放つが、黒ローブは紙一重で避け、チラッとこっちを一瞥したら、シュンッとその場から消えてしまった。


「空間魔法……ショットもよけやがったし、何者だ…………?」


 その疑問に答えてくれる者は誰も居ない。

 月明かりが、辺りを照らしていた。




──────


「うへーっ、怖い怖い!!もう少しで当たるところだったよ!」


 ある酒場のテーブルのすぐ側に黒いローブを纏った男がいきなり現れる。周りの男たちは驚いているが、そのテーブルで酒を飲んでいる3人の男たちが驚いた様子は無い。


「うるさいぞ!今酒を味わっているのが分からんのか!?」


 そう言うのはカイゼル髭を生やした男だ。顔には細かいシワが見られる。40代くらいだろう。髪は綺麗な金だ。


「いやー、ごめんごめん。ちょっと興奮しちゃってさ!あ、おねーさんこっちにエール一杯頂戴!!」

「相変わらず騒々しい男だ……」

「お、居たのか!久しぶりだね、アルハンドラ!!」

「ああ、出来れば会いたく無かったんだがな」


 アルハンドラと呼ばれた男は苦々しい表情を作り言い放つ。

 男は鎧を纏っている。かなりの巨体だ。歳は30前後といったところだろうか。髪はなくスキンヘッドだ。


「酒場ではフードくらい取ったらどうだ、フェイス?」

「ああ、そうだね」


 そう言ってフェイスと呼ばれた男はフードを外した。

 20代前半と思われる若者だった。髪は美しい蒼色をしており、頭の上の犬耳から獣人だということが分かる。


「しかしボス、あいつに本当に『試練』を受けさせるのか?まだガキじゃないか!!」

「言ってただろ?ガキだって。

 それにあいつはガキだが……めちゃくちゃ強いぞ?」


 ボスと呼ばれた男がそう言い放ちニヤッと笑う。

 そいつは、全身を黒い装備で纏った『九神 第三位《死神》』と呼ばれている男──────グレイブ・サーバーだった。

 美味しそうですよね、ブラックベア………。


 ようやく10万字を突破しました!構想は出来てるんですが作者の執筆スピードが遅くて……。

 次の目標は100万字です!!

 まだまだ遠いですねww。

 長くなると思いますが、これからもよろしくお願いします!!


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