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十二の異色が願い込めた裏切り携帯視界  作者: 北条 南豆木
第1章 五十嵐就活編
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六話

 多くの生徒が集い賑わう昼過ぎの学校。皇真達がいるそこだけ切り取ったように静寂が包む。両者共ピクリともしない。

 皇真は背後をとられ、肩からしっかりと右手を掴まれており動けず。

 また有利なはずの少年も動けずにいた。


 抑え込んでいる方とは逆の手が『煙草』が喉元に突きつけられている為に。


 この時点で勝負の優劣は決まったも同じだ。人体の急所に高熱を接触される方が、確実に危険であるのだから。


 しかし、立場が逆転した今も皇真の顔色は優れない。


(なんかリアクション返せよっ)


 背後の人物は固まったまま微動だにしないからだ。自分を押しとばすなり、下がるなりすれば良いのにもかかわらずに。


(煙草大活躍だな‼︎ とか余裕ぶっこいてらんねーよ。おい、退けよ。速くしてくれ。ケムいし当たってねぇーけど相当熱いだろ⁇)


 なにせ持ってる俺の指が火傷しそうなんだからな‼︎


 見事に足払いを受けた際、バランスを崩し左肘が後ろ側へ傾いた先に、偶然少年の首であっただけで、本気で火傷させる気などいないのだ。

 別に人を傷つけるのが怖いとか、喧嘩に武器は卑怯など善人的な理由ではない。



 よく若気の至りで『根性焼き』をする奴がいる。はっきり言おう。馬鹿だろ。俺……馬鹿だろう。


 ちょっとした好奇心だったのだ。

 ふとした拍子に漫画で見た度胸試しをすれば、自分も憧れの不良っぽくなれるんじゃないかと。

 幼い皇真は深く考えず実行した。そして深く後悔した。


 火傷の跡は何年経とうが、中々消えないのだ。あれをテンションに任せてやった過去の自分をしばき倒したいと今も皇真は思う。

 体育の時間着替えるのに大変だし、就職でも苦労するはめになるのではと不安になる。


(どうしてよりにもよって、手首にしちまったんだ俺)


 後に知った事だが、煙草は線香花火より高温らしい。



 それを現在後ろにいる少年にしてもみよう。小さく丸い焦げ跡はクッキリ残る。

 ましてや首など、制服では隠しにくく目立つ箇所に焼け跡なんてついたら。

 もし、もしもだ。こいつが学校の誰かに聞かれ、正直に喋ったら……。


 自身の評価以前に、皮膚が薄く呼吸器官である喉に煙草なんて当てれば、最悪ショック死もありうるがのだが。彼の頭にそんな事は微塵も浮かばない。


 自分は何故か教師達の信用はある。万が一教師の耳に入ってもシラをきれば平気なはず。


 問題はその先だ。良くも悪くも自分はこの学校内では有名人。こいつが俺を知っている可能性はある。あきらかにガラの悪い奴から俺の名前がでたらどうなる?

【不良に恨み買うような何かした】 【不良と何らかしらの繋がりがある】

 そう認識されたら?


 例え真実でないとしても、一人が話し始めれば、有る事無い事含まれ、どんどん広まっていくのは想像に容易い。



(ふざけんな)


 昔なら喜んで歓迎した。でも今は事情が異なるのだ。

 成長するにつれ、自分にとって強さのシンボルである不良は、思った以上に社会で冷たい眼差しを向けられる存在だと知った。


 怖じ気づいたのではない。

 だが自分は人一倍、世間体に注意しなくてはいけなくなった。だからこそ……。


(学校で問題起こすワケにはいかねっっ‼︎)



「…ちっ‼︎」


 指が痛い‼︎ 熱っ‼︎


 火をつけて数分。思案してる内に、ついに煙草はフィルターまで燃え始め皇真の指に限界がきた。


 あっ、と思った時には遅く高熱を伴う凶器は指から滑り落ちる。



「あっつーー‼︎ あちっ〜〜」


 直後、至近距離で届く叫び声に頭がぐらついたが一瞬の隙を逃さなかった。

 緩んだ拘束を振りほどき、すぐさま少年から離れる。振り返ると、焦げた襟をパタパタ扇ぐように掴み服の中に入った煙草を必死に出そうとしている。


 真っ赤に充血し涙が滲む目と合う。


(うわぁー やっちまった)


 まず確認したのは少年の怪我の有無。

 心配してではない。


(……いや、セーフか? 幸い落ちたのは胸らへんっぽい。けど襟焦げてっし目立つよな アウト?)


 皇真には人を火傷させた事や悲惨な目に対する罪悪感など微塵もない。


(さて……どうすっかな)



 考えるのは己の保身のみだ。



【キーンコーン カーコーン】



 思考を遮るかのように、突如鳴り響いた鐘の音に、ハッとする。思っていたより時間は経っていたようだ。


(げっ‼︎ 戻らないと、誰か保健室に様子見にくっかもしんねー)


 名残惜しく感じれど、事態は急を要する。慌てて給水タンク置き場から去ろうとした皇真の背中に静止が掛かるが、



「……わりぃ」


(勝負はお預けだ)


 それだけ言い返して、扉がある方へ皇真は飛び降りた。

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