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十二の異色が願い込めた裏切り携帯視界  作者: 北条 南豆木
第1章 五十嵐就活編
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五話

 叫びだしたい欲求を内に抑え、相手に集中し、


(やべぇ。めっちゃ嬉しい。ちゃんと伝わった上に)


 何度目かの攻撃を避ければ、耳元で風を切る音がする。


(応えて貰えちゃてるよぉーー‼ やべえ、マジやっべぇーテンション上がる‼ 俺‼︎︎)


 抑えきれない喜びが表情から滲みでている。まるでただ純粋に遊んでいるかのように、皇真はイキイキと現在進行形で喧嘩の最中である。


(そうだよな。やっぱりこれだよ、これ‼︎)


平成36年 4月20日 14時15分


 突然現れた外見不良に「何者だ??」と聞かれた。だから「あなたみたいな人に憧れてる者です。よかったら友達になって下さい」そう訴えた。キラキラ輝かせた目で。


 言葉ではなく態度・行動で意思疎通を図るのが、通常である皇真の精一杯なアプローチ。

 当然初対面の人物に上手く伝わるはずがない。


 相手に全く違う意味で捉われているのは明確だ。何故ならそれに対する答えが鋭い蹴りであったのだから。


 ならば今どうして皇真が喜んでいるのか。


 返ってきた返事が鋭い蹴り。要は同じ行動だったからだ。

 見事にこれを『拳で語る』不良の挨拶と勘違いした故だ。


 寝ている人間を戸惑いなく蹴っ飛ばそうとする辺り、相手は相当苛ついている上に短気であると窺えるだろう。現に今表情は怒りに満ちている。

 それさえも自分と真剣に向き合ってくれてるんだ、なんて感激している皇真は一層瞳に輝きを灯す。


 先手を取られはしたが簡単に負ける気はない。

ない、のだが不良少年は接近型の速戦タイプなのか。続けざまに迫り来る猛攻に反撃するタイミングが掴めず防戦一方になる。


(うぉ‼︎ あっぶね‼︎)


 横振りに回された踵が、己の右肘をかすった。

 僅かにでも気を抜けば一瞬で勝敗がつくだろう。


 屋上給水タンク置き場という、戦うには少々狭い足場での攻防が始まり数分立つ。

 常人ならば、呼吸を荒らげ動きは鈍くなるはず。しかし双方息一つ乱れていない。皇真に限って言えば、避けているだけなので当然だが、相手は隙のない攻撃をし続けているのだ。かなり鍛えられてるのがわかる。


 より高ぶる気分に強まる興味。


(こうなったら強行突破するか)


 いい加減自分も応えねば。そう思い反撃にでようと手に力を入れた。

 瞬間違和感と共に、速度を増した拳が下から襲う。


(的確な顎狙いだなっ‼︎)


 すぐに上半身を後ろに逸らし避けるも、皇真の頬は引きつっていた。

 さらに動きを予想されていたのか、追い打ちの如くもう片方の左拳が、無防備な腹めがけくり出される。


 地面を咄嗟に蹴りギリギリで避け、距離を空ける。だが、足場が狭いここでは大した長さは稼げず、着地と同時に目前には拳を振り上げる相手がいた。


(マジかよ!! やばい!!)


 これは受けとめるしかない。すかさず、腕を盾に前へと出せば、


 視界に広がる、白い色


 そして響く、



「っ!? いってぇ〜〜!!」


 叫び声と屈んで目を押える姿が見えた。


 緊迫していた空気がたちまち緩む。

 いきなりな出来事について行けず、呆然すること数秒。

 皇真は潔く納得した。ああ、なるほど。原因はこれかと。手元に視線をやる。



(……ラッキー! 風向きがあっち側でよかった。運悪けりゃ、俺がああなってたわ)


 喧嘩に集中していたのと、あまりに手に馴染み過ぎていた為忘れていた。

 先程の違和感に広がった白い色の正体。


『携帯』と『煙草』の存在を。


 休む暇なく与えられていた攻撃が止み、ホッと息を吐く。

 腕を振り上げた時に、皇真のすぐ前にいた、外見不良の少年は煙と灰が目に直撃したのだろう。元凶たる煙草はかなり短くなっている。


 うん、痛そうだ。呑気に皇真は思った。


(今のうちに携帯しまって、煙草捨てっか。手ぇふさがったままはキツい)


 本当はそこらへんに捨てたいが、吸い殻を教師にでも発見されたら面倒なことになる。


(灰皿、灰皿ぁ〜)


 この時、皇真は致命的ミスを 犯してしまった。相手の視力が回復するにはまだ間があるだろうと。

 ズボンのポケットに視線を移す。戦いの最中に「敵から意識を外す」もっともしてはいけない「油断」と言う名のミスを。



 突然足に掛かる重い衝突。ガクンと下がる景色。身体が宙に浮く感覚。


(へっ⁉︎)


 気がつけば前には誰もいなく、自分の右肩から自分のではない腕が映った。

 本能的に倒れないよう、無理やり体制を整え、地に足を踏ん張るのと同時に、 携帯を持つ右手ごと掴まれる。


 息がつまる声が聞こえた。

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