表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十二の異色が願い込めた裏切り携帯視界  作者: 北条 南豆木
第1章 五十嵐就活編
3/28

三話

(もう……疲れた)



 彼女を守ると決めてから、数ヶ月が経った。

  あれから直ぐに事態を改善すべく、皇真は行動するも、


 今現在いじめは悪化の一途を辿っている。


 やめてくれと幾ら頼み、頭を下げようがクラスメイト達はますます調子に乗るだけ。

 担任に助けを求めても、


「転校して来たばかりで疑心暗鬼になっているのでは」


 難しい知らない言葉で誤魔化され、めげずに拙いながらも説明をしようが、


「まだ日本の習慣や価値観がない為に勘違いしているんだ」


 やんわり、だがはっきりと否定され。まともに聞いてはもらえず。


 何処からか先生との会話を知ったクラスメイト達から「チクってんじゃねーよ 卑怯者」と余計な怒りを買ってしまった。

 親に伝えようかと思えど、まだ仕事が落ち着かず大変な二人に告げるのはためらわれ。何気なく「学校はどう⁇ 楽しい⁇」そう聞かれても「大丈夫だよ」としか言えず。



 大事なあの子の笑顔は、前に比べ確実に減った。



(もう いやだ)


 誰にも相談出来ず、守ると誓った子が傷ついてゆくのを見ているしか出来ない。

 休日で学校がなかろうと、頭を埋めるのはそればかりだ。食卓の椅子にうずくまる皇真は、育ち盛りの少年とは捉えられぬ程やつれていた。

 段々と擦り切れる精神は限界にきている。


(ああ もう──)



『ふざけるな‼︎』



 ビクッッ‼︎

 突然耳に届いた怒鳴り声に肩が跳ね、思考が止まる。


『俺は俺だ。他人にとやかく言われる筋合いなんざねぇ‼︎』


 熱意籠もる声が再びリビングに響いた。


(…………テレビ つけっぱなしだった)


 スーパーへ出かけた母に消しとくよう言われていたのをすっかり忘れていた。

 母が見ていた特番は既に終わり、違うものになっている。

 教育に厳しい五十嵐家では『テレビは一日一時間まで』とルールがあり、破れば鬼の形相で叱られてしまう。


 にもかかわらず、皇真は椅子から微動だに出来なかった。無機質な光を放つそれにくぎ付けになり、視線の矛先はジッと前にだけ注がれる。


 テレビの中では、ガラの悪い高校生達の乱闘が繰り広げられている。所要不良の学園ドラマだ。


 皇真は見続けた。母が帰宅し怒鳴られようが、視線をテレビから外す事なく彼らを、ただひたすら見つめ続けた。



 お世辞にも良いとは言えぬ格好に口調。


(…………なんて)


 世間から冷たい眼差しを向けられようが、馬鹿にされようが、


(……なんて)


 構わず己を貫き通す。


(なんて)


 言葉で通じなければ、行動で示す。


(かっこいいんだろう)


 大半の人々は野蛮と受け取る態度。しかし皇真の目には勇敢な姿として映り、心に浸透する。



 自分もなれるだろうか。強く まっすぐな彼らみたいに。


 脳裏に一人の少女がよぎった。


(なりたい。ぼく……ううん。 『俺』もなるんだ‼︎ )


 もうそこに、ウジウジと悩み、下ばかり向いていた少年はいない。

 いるのは、八歳の子供には似つかわしくない。獰猛な瞳に笑みを携え、知るのは早すぎる『覚悟』を持った一人の男のみ。



 その翌日。少年は初めて 人を殴った。



 するとおかしいぐらい一変した。周りも。皇真も。

 当然、多勢に無勢。皇真は結果的に負けた。しかし、いじめていたクラスメイト達は暴力を振るえど、己自身がされる側になる『覚悟』などあろうはずもなく。


 ペコペコ頭を下げ、おとなしかった。自分より弱い奴だと決めつけていた相手からの、喰われそうな気迫と反撃に、驚愕し恐怖する。

 騒動を聞きつけた教師と親に「それはいけないのだ」と説教されても、皇真の中には覆せない。信条が創り上がってしまっていた。


【口で言ってもわからぬ馬鹿は打てばいい】


 大人達の言葉は右から左に通り抜けていく。怯え震えるクラスメイト達に対し罪悪感など欠片もない。


 ただ気になったのは、


(ケンカすれば。殴れば仲良くなれるって、思ってたんだけどな……)


 テレビでやっていたのと現実が違った事だ。昨日見た彼らは殴り終えた後、どこか晴々とした表情で手を取り合っていた。


(一対一じゃないのがダメだったのかな??)


 そこまで考えて悟った。こいつらは群れてしか行動が出来ない。自分の望みは叶わない。

 直感で理解した瞬間、大事な少女以外どうでもいい存在に成り果てた。役に立たない教師、己の子の主張を周りへの謝罪で塗りつぶす親を含めて。


 以降少年の日本語を学ぶ教科書は「不良漫画」「不良ドラマ」へと変わり、年頃の子供なら好く、戦隊モノには興味どころか険悪感を露わに示した。


 理由は単純『ヒーローごっこ』

 そこではいつも自分を攻撃するのは『ヒーロー』で、例え本物じゃないとわかっていても好感を抱きようがなく。

 何より、いくら求めても薄い箱から出てこない『ヒーロー』は皇真にとって大人達同様役立たずなのだ。


 このようにして必死に、少年は憧れの不良を目指した。ピアスなどは無理でも、身振り手振りを真似始める。


 途中「皇真君『俺』が口癖みたいだよ」なんて少女に笑われもした。それがより少年を加速させる。

 久々に見せてくれた表情に心が温かくなり、ますます調子に乗った。


 苦難を自らの力で乗り越え、些細な行為に喜ぶ毎日。

 月日は瞬く間に進み、


 少年は今年、中学二年生になる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ