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十二の異色が願い込めた裏切り携帯視界  作者: 北条 南豆木
第1章 五十嵐就活編
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二十六話

  (ぼんやりと微かに音が聞こえる)


「なん……で……君が死ぬ……」


「……はな……なが……」


  (いや、声だ。誰かの話し声)

 

「そんな曖昧な方法信じられないよ‼︎」


  (この声は、相棒だ。聞き慣れたおっさんの)


「ですから何度も申してる通り今は時間が限られてるのです。詳しい説明は後ほどしますから、どうか落ち着ついて下さい」


「大体皇真君が死ぬなんて前提が疑わしい‼︎」


  (何をそんなに喚いてんだよ)


「おっさん」


  なんだか長い眠りから覚めたような夢見心地の中、皇真は言った。


「リモコン何処だっけ。この前録画した『不良節学生』観たい」


現実(ここ)は巻き戻しも早送りも出来ないよ‼︎ あぁもう、また停止しないで。ほら再生ボタンポチッて、ね。動いて‼︎」


  (さいせい)しい(ボタン)に前を向けば、変わらずチシャ猫が笑ってこちらを見ている。目を背けたくなる現実にキャパオーバーな皇真はこういう時こそと、液晶・漫画の向こうにいる憧れ慕う彼ら(ふりょう)の行動を呼び起こす。

  昨日の事なのに随分昔に感じる。今にも殴りかかってきそうな、実際殴った伊吹との階段での対面時頼った架空の人物円堂君の「笑顔は万能薬なんだよ」は失敗に終わったから──。


「おや⁇」


  須藤君の名言「いついかなる時だろうが、相手を威圧してみせろ。俺等はなめられたらオシメェなんだ」に習い皇真は元より鋭い三白眼をつり上げ睨みを利かす。その紫色のカラコン割れろと念を込めて。

  しかし現実と架空の世界は違う。今相手しているのは、すごめば怯み逃げ惑う三下モブ達でも都合良い台本に沿って進む物語でもない。


「そんなに真面目に聞いてもらえ光栄ですね。

  ふむ、ならば私も五十嵐様の誠意応え、最後にとっておきの情報をお渡ししましょう」


  実在する人間で言葉にしなければ伝わらない、その他には当然の常識、皇真には辛い世界だ。


(不良むいてないのか、俺)


  敵意を誠意と受け取られ自分なりの精一杯した威嚇が効いてないんだと地味に泣きそうになるも、ここで泣いては男がすたる。早くこのくだらない話しを終わらすべく、些かも怖がっている様子が見受けられないチシャ猫を前に緩みかける涙腺に鞭打ち堪える。


「LEPが携帯媒体にした超能力の名称である事はご存知ですよね」


  西園寺との戦闘で宮下が言っていた内容を思い返しながら頷く。


「Life(生命を) Erode(侵食する) Pledge(契約)だっけか」


「ご名答。平和を望みつつ他人より特別な日常・能力に憧れる人間にとって、お手軽に使える携帯超能力は生涯捧げてもよい価値がある意から来てる、と……一般認識はそうなってます」


「回りくどいの、嫌い」


「LEP、この略称本当の名前はLife(生命を)Erode(腐食させる)Parasite(寄生生物)なんです」


  飛び出した単語が叶空を指してるのだと理解した途端、自身がどんな顔をしていたのか皇真は自覚がなかった。


「そ、そんな怖い顔しないで下さいませ。命名したの私ではありませんよ」


  一生懸命威嚇しても平然としていたチシャ猫の怯えぶりにやっと気付くも、湧き上がる不快感に眉根を寄せてしまうのを止められそうにない。大分怖いらしく怒りの矛先を逸らしたいのか、チシャ猫は叫び気味にある人物の名を出した。


「長官さん‼︎」


「長官って」


「軸屋 匠さんですよ、その名を付けたの。一般認識されてる方を広めたのは彼の秘書さんです」


「……秘書」


「綺麗なおみ足してるセクシーな方です」


「赤淵メガネ似合うお姉様か」


  事務所にてパソコンいじっていた女性の記憶が蘇る。彼女が真実を隠したという事か。


  Life(生命を)Erode(腐食させる)Parasite(寄生生物)


  だなんて聞くだけで虫酸が走る。携帯超能力へ増悪抱いているとしか思えない名とその名付け親が軸屋であるのを。だが、そうなると矛盾が生まれてしまう。昨日の夜と今日の昼頃の光景を回想する。


『世間話のような軽い口調とは裏腹に鋭い眼光を向けられた少年達が反射的に行動するより早く、男の携帯から淡い光と合わせ、やけに可愛らしい女性の声が高らかに広がった。


「男なら拳で語れぇーー‼︎」』


『「んで、……やっぱりか。『元能力者』共の集まり………扉は……」


(ちょ、ちょっと待て⁉︎⁉︎ ヤーさん今……)


  望んでもないのに若く優秀な脳は勝手に昨夜の光景を回想させる。


 モブ共を伸す前に何故か掲げた携帯。


 軸屋が言えば良いものをわざわざ代弁した携帯。


 同時に馴染みある淡い光が広がった携帯


(なんで気付かなかった俺‼︎)』


  軸屋は間違いなく昨日息吹が連れて行かれた廃ビルで超能力を発動していたのだ。つまり嫌っているのだろう超能力を利用している事になる。それ以前に息吹や宮下、LEP使いの集団『ケイサツ』をまとめているのはおかしな話じゃないか。やはりチシャ猫の嘘では。訊ねる前に疑問への答えが返ってくる。


「目には目を歯には歯を、ですよ」


  見透かされていた。皇真が疑惑向けるのを知っていてチシャ猫は話しを進めている、手のひらで転がされてる感覚だ。


「常識から外れた力は常人では太刀打ち出来ません。LEP開発者は厳重なセキュリティによって守られてますし、弱みを握っているのか、はたまた超能力で操ってるのか。政府さえ味方にしています。超能力を明るみにして告白するのはまず不可能。軸屋さんは警察を辞め、今はフリージャーナリストとしてLEPの根元を探ってます」


  すらすら歌でも歌ってるかのように発せられる説明に鳥肌が立つ。皇真はどうして初めて会った時からチシャ猫に戦慄覚えていたのか、なんとなくわかってしまった。


「ここまで言えばお察しつきますよね。軸屋さんがLEP私利私欲に使う暴走族を免罪符に『正義の力』としてLEP使っているのは、特別な力に依存する大勢の人達を敵に回さないよう「私は依存者(あなたたち)の同類ですよー」アピールで、裏では『LEPの滅亡』を企んでらっしゃるのですよ」


「……るで…………だな」


「何か仰りましたか⁇」


「いいや」


  人とは先が見えないから迷い、悩み、そして決断する生き物だ。いつも何かを選択する度に世界は変わる。でも、その中でチシャ猫は振る舞いも喋り方も「与えられた役を演じ」完成している物語(せかい)を歩んでるように感じてならない。


『まるで台本を読んでるみたいだな』


  さも感情豊かに見える作り物の表情が『大事なあの子の時間を奪った忌々しい父親』と被った。流石に皇真とて自分の父とチシャ猫は別人なのを承知している。が、冷静でいられるか問われれば否だ。なるべくチシャ猫を視界に入れたくなくて逸らそうとした視線は、


「叶空様の能力はLEP界を左右する極めて重要な存在。いずれ軸屋さんは叶空様の本当の力に気づき」

 

  ほんの一瞬。そこだけぽっかり穴が空いたのかと思う瞳にとらわれた。瞬きする合間に戻ってたがあまりの迫力に心臓がバクバク脈打つ。


「貴方ごと消すでしょう」


「消すって」


「そのままの意味です」


  (何を言ってるんだ。なんでそんな──)


  『もし今のままでいたら『来年の10月31日』五十嵐様。貴方様は悲惨な死を遂げてしまいます』


  中二病の狂言じゃなかったのか。叶空がLEP界を左右する極めて重要な存在⁇


「ていうか……おっさん……なんで」


「はい⁇」


「なんで、能力。おっさんの知ってる」


「えーと、その先程、私が「札」について告白するのと引き換えに、叶様自身がケイサツに隠してる事含め教えて下さってたではないですか」


  記憶を手繰るも、途中完璧に意識を飛ばしてたせいでそもそも話しを聞いてなかった皇真は首を傾げるよりなかった。


「とにかく、五十嵐様には「ケイサツ」ではなく「暴走族」へ加入して頂きたいのでございます」


  ピタリ。皇真の動きが停止する。


「……ち…………て」


「叶空様は納得されてませんが、少なくともあそこならばケイサツより」


「……ぅい……ど……って」


「五十嵐様⁇」


「もう一度言ってくれ‼︎」


「は、はぃい⁉︎」


「俺何入る⁉︎」


  パイプ椅子が地面にぶつかり、けたたましい音を響かせる。椅子を倒した本人はチシャ猫の肩を加減を知らない幼稚園児の如く鷲掴む。


「や、ですから五十嵐様には「ケイサツ」ではなく「暴走族」へ加入して頂きたいのでございます」


「それ‼︎ いちばん‼︎ だいじ‼︎」


  「わわかりました。わかりましたから肩を離して下さいませぇ‼︎ 痛いです‼︎」


  飄々としていた表情が驚きに染まる。相手の一歩も二歩も先を読み常に笑みを浮かべるチシャ猫といえど、まさか自分の命より大事だと迫られるなんて予想外であったのだろう。


  互いに血が上っている頭へ冷たい風が当たる。


「タイムリミットや、でぇえええ‼︎ 手握り合ってるなんてどんだけ仲良ぉなったん⁉︎」


  真っ暗な外を背景に二人を迎えに来た南の誤解がさらなる悲劇を生んだ。


「痛たたぁ‼︎ 五十嵐様何故力が強まってるのですか⁉︎」


  チシャ猫の肩へ。

円堂君・須藤君 第七話にて初登場した皇真のバイブルにて活躍する不良。

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