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十二の異色が願い込めた裏切り携帯視界  作者: 北条 南豆木
第1章 五十嵐就活編
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二十二話 (気分屋)

  ガコン。未開封の缶ジュース落ちる独特な音を聞き、選んだ物出たのを確認し拾い上げる少年の作業は、思わぬ人物の姿を視界に入れてしまった為中断される。


「げっ」


「久しぶりやな特攻隊長はん」


  皇真がチシャ猫と出会っている頃、とある二人が表向き探偵の看板掲げる事務所から少し離れた自販機前にて邂逅果たしていた。


  平成36年 4月21日 15時03分


「なんでアンタがこんなとこにいるんだよ」


(おぉー、おぉー。警戒心剥き出し、相も変わらず番犬やなぁ)


「散歩や散歩。いつも同じとこばっか居ると気が滅入ってまうからな」


  睨み利かす少年は、暴走族副リーダー務める男の胡散臭さたっぷり含むへらへらした笑みに表情を歪める。少年こと息吹の手が腰につけているシザーバックへ伸びた。


「やめとき。ワイが護衛もつけずに来る思てんの」


  すかさずさした言葉に息吹の動きは止まるが、何時でも携帯を使えるよう臨戦態勢は崩れることなく辺りと己へ気を配っている。雑草の如く人ひしめく中混ざる、幾つかの視線強まるのを感じていよう。


「ワイは散歩しに来ただけや。せやけど特攻隊長はんがなんかしたら、ここ歩いとる何人か『可哀想な目ぇ』にあうかもしれへんな」


  後半主張してゆっくり述べれば、息吹も往来する場で暴れる気はないのだと察し僅かだが空気は和らぐ。道路を走る車の音・行き交う人々の話し声をBGMに見つめ合う。


「……なんのようだ」


「さっきから言うてるやん。ただの散歩」


「……」


「そない邪険せんといてや。ちゅうか飲み物ええんか」


  ほっとくのは次使う人への迷惑になる。注意すると、息吹はぶつかっていた視線を自販機の取り出し口へ一瞥くれただけで、じぃっと目細めまた己に注ぐ。その一連の流れに副リーダーの作っていた表情は崩れ、ブフォと噴き出し笑い声があがった。


「どんだっブフッ、け、神経尖らしとんの自分、アヒャヒャ、飲み物取るだけやん。いくらワイかてそこまで節操なしちゃうで」


  終いには指差し笑われた息吹の顔はみるみる真っ赤に染まる。


「スマンスマンっふふ、詫びに手貸そか⁇ えらいぎょうさんある、な。ヒャヒャヒャ」


「いらねぇ‼︎」


  乱暴な動作で掴まれた飲み物はぶつけるように落され、手に持つビニール袋の中で窮屈そうに収まるのを副リーダーは内心ほくそ笑みながら眺めた。


(これは師匠の読み大当たりなんやないの)


  下げているビニール袋はカラフルな色が透けており、中身は甘いジュース等であると窺い知れる。今の状況や時間・場所を視野に入れ推察したのが仮に正解であったなら。根城から隣の地区とはいえ、わざわざ敵地へ赴いた甲斐があるものだ。


  収穫得た喜びを悟られぬようしてたつもりだが、己を見て息吹が怪訝な表情を向けた。


(これ以上はアカンな)


  鋭い勘が告げたのか。詮索されぬ前に退散すべく、故意に彼が冷静さ欠くであろう言葉を吐く。


「そう言えば「ユウ」とは仲良ぉしとるの⁇」


「はぁっ⁉︎」


  案の定驚愕と不愉快示す息吹へ更に言葉紡ぐ。


「駄目やろ。ちゃぁ〜んとコミニケーションはからな『大事な相棒』なんやから」


「テメェ‼︎」


「いぶきっ‼︎」


  副リーダーの煽りによって押し寄せる大波のごとく血が上り、殴り掛からんとする息吹と副リーダーの合間へ突如小さな体に少女特有の甘く高い声が滑り込んだ。


希愛来(きあら)⁉︎ バカお前っ」


「馬鹿はアンタでしょ⁉︎ 周りをよく見なさいよ」


  少女の指摘に息吹はハッとし首を回せば、辺りは自分達を輪に野次馬がざわざわ騒ぎ出していた。漸く人の注目を集めていた事実気づき息吹から舌打ちが漏れる。

  落ち着かない様子の息吹達とは違い副リーダーは平然と舌を振るう。「下世話な話し声」や「不躾な視線」も娯楽の一つとして愉しんでるかの素振りで。


「観衆ちゅうのは得てして自分にないモン持っとる奴に焦がれ(たか)るんや、そのくせ自分等はなんもせぇへんくせしてな。ん〜、人気者はツライわ。な、嬢ちゃん、初めましてやね。ワイは──」


  希愛来(きあら)と呼ばれた少女へ差を詰めた途端、息吹が有らん限りに叫んだ。


「黙れこの『裏切り者』‼︎」


  場を打った怒鳴り声は、野次馬達の口を閉じさせる。シンとする空気に歯を食いしばり、息吹が軽蔑と嫌悪滲ませ吐き捨てた。


「いつか、絶対、アンタのそのムカつくにやけ(づら)剥がしてやる」


  言うだけ言って少女の手を引き雑踏紛れる後ろ姿見届け、くるり己も逆側向けば、自己防衛だけは長けている野次馬共は既にバラけ知らんぷりだ。

 

(わっかりやすいやっちゃなぁ)


  対峙していた息吹を思い返しクックックッと口の中で笑いを転がす。


(アレから一年近い時が経つのに、そんなに恐いか。元上司、この(みなみ) 稀翔(きしょう)が)


  己の一挙一動に過剰な反応していたのが良い証拠だ。

  今頃あの少女へ己とは関わるな的の忠告しているであろう。目的を探るより、小学生にして幹部の地位につく異例な戦力を己から遠ざけるのを優先したのは極めて正しい判断と云える。


(あの嬢ちゃんと宮下(へいぼん)君とは調度入れ替わりやったからね)


  話ぐらいは聴いてたかもしれないが、ケイサツを抜けると同時に容姿変えた南を裏切り者と一致させるのは難しかったのだろう。でなければ、息吹と南が一緒にいるのを目撃した時点で長官(じくや)に応援要請あり彼が飛んで来ていた筈。


  (懐かしいわぁ)


  昔まだ己があの場にいた頃が蘇る。当時は内部構成も整っておらず毎日慌ただしく、けれども「ケイサツ」「学校」「暴走族」の関係は今程険悪なものではなかった。ケイサツ本部には「校長」がしょっちゅうLEP(ちょうのりょく)の在り方話しに訪れ、軸屋の幼なじみである「白ウサギ」も気軽に遊び来て、セクシーな秘書が茶菓子を用意し騒がしくも楽しい日々過ごしていたんだ。

 

  あの日長官(じくや)の本性を目の当たりにするまでは。


「ご主人様。御電話ですわよ」


「だぁれぇ〜⁇」


  思い出に浸っていたところを掬い上げられ、おざなりに聞き返す。


「お師匠様」


「……マジ師匠愛しとる」


  常人離れした手腕、優れた頭脳がはじき出す予知に近い先見、いつも絶妙なタイミングで連絡寄越す師匠を周りは不気味だと囁くも、南は純粋に尊敬している。

  核兵器凌ぐ脅威なりうる超能力者達の中心部立つ人物の癖して、血を恐れ平和願う顔と、底知れぬ畏怖抱かせるアンバランスな一面併せ持つ彼は、それぞれの派閥の長とは違ったカリスマ性、否、異なる何か惹かれるものを感じさせるのだ。


(よっしゃ名誉挽回といこか)


  期待の新人と接触を図る最初の目的はよりによって部下の不始末で潰されたが、これで少しは失敗拭えよう。


「ヘイほい、南です。師匠読み大当た……んん⁇ え、何どしたん、落ち着いて下さいな」


  やけに焦っているらしく、朗報伝える前に要領を得ない言葉の羅列が鼓膜を震わせた。電話口の遠くからも物音や幾人かの声が重なってごたついてる雰囲気帯びている。緊急事態と察し師匠を宥め聞き出した話しは、ただでさえ多忙なスケジュールを大いに狂わせる事となった。

 

「はぃい⁈ 逃げたってどういう、ほぇ!! 保護しろ言われても、え、えちょ、し、師匠ぉお〜‼︎」


  現状把握しきれぬまま、碌な情報も与えられず切られた携帯をしまい頭を搔きむしった。


(wonderlandから駅までの最短裏道ルート……ふぬぬ、次から次へと番狂わせしよる)


  昨日の晩「五十嵐皇真を迅速かつ内密に暴走族へ勧誘して欲しい」と御達し受け、栄養ドリンク飲みいざ行かんしてたらターゲットは部下が起こした騒動巻きこまれ「ケイサツ」の手に渡り。

  期待の新人勧誘失敗、期待裏切りすいません。なんて寒いギャグかまし狼狽する南の元へメールが来て。


「私が接触を試みます。しょうもない事考えてる暇あるのでしたら、ケイサツ本部の視察して下さい。想像ですが五十嵐様の歓迎会準備してると思うので」


  歓迎会⁉︎ 数十分の合間に何があったと調べ崩れ落ちる。西園寺相手に対抗しうる戦力、軸屋が放す訳がない。まさか部下だけでは飽き足らず幹部が仕出かすとは。

  五十嵐と共に行動している宮下の報らせ聞き、網張り巡らせてる姿が目に浮かぶ。


「君は西園寺を敵に回し危険な状況だ。保険として仮の形でいいからケイサツに身を置くべき」


  とか何とか語り、了承したらご丁寧に茶菓子振る舞いどんちゃん騒ぎ。考え直す時間奪い、どんどん唆し都合のいい人材へ育てる算段といったところか。


  皮肉な話し軸屋の行動・思考は秘書程でないにしても予測がつく。祭行事の際カンパイ用に飲み物は缶を使うのはケイサツ内部であれば周知で、息吹が大量の缶ジュース持っていたのが予測当たっている証になる。


(やっぱりおんもはキツいわ)


  カツカツ音を鳴らし駆ける南は思いとは逆に、さながら子供が宝物を見つけた瞳だ。


(師匠から逃げ果せるなんてどないな奴や。ますます興味湧いたで期待の新人君)


  賑わっている大通りぬけ横道逸れれば、ガラリ空気転じ埃っぽい風に騒音が遠のく。


(いつぶりやろなぁ)

 

  只の道を冒険している無垢で幼かった頃じみた、ワクワク感じる興奮は。


 ***


「めぇ〜けた」


  十数分後狭い路地裏で発見した白金頭。


  この出会いが五十嵐皇真のターニングポイントとなる。

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